ポニーテールを観察していると、その人がわざと揺らしているのではないかと思うほど、リズミカルに揺れています。その反面、あまり揺れていない人もいることに気づきました。どんな時によく揺れて、どんな風になるとあまり揺れないのでしょうか。そんな秘密を調べたい。 |
ポニーテールは何が原因で、髪の束が生きているように動くのか。動きを自分でコントロールできれば、もっと揺らし、他のものも動かしたい。
いろいろな長さや髪の量のポニーテールの人に集まってもらうことは難しいので、そのモデルとして頭にかぶる「ポニーテール共振器」(50円玉をおもりとして糸でつるしたもの)、振り子のふれ幅を測る「測定ボード」を工作用紙などで作った。
実験1:糸(ポニーテール)の長さはどのくらいが一番よく揺れるのか?
《方法》
糸の長さを変え(15㎝、30㎝、60㎝)、歩く速さを変えて(ゆっくり、普通、早足で)、6m歩いた時の振り子の往復回数をそれぞれ5回ずつ計る。おもりは50円玉1枚(=4g)。
《結果》
振り子の長さと最大ふれ幅・往復回数の関係
①ゆっくり歩いた場合(20歩で約20秒)
〈気づいたこと〉15㎝が小刻みによく揺れた。60㎝が意外と大きく、きれいによく揺れた。
②普通に歩いた場合(20歩で約10秒)
〈気づいたこと〉歩きが速くなると15㎝、30㎝ともふれ幅が大きくなり、よく揺れる。60㎝がまったく揺れないのには驚いた。
③早足で歩いた場合(20歩で約5秒)
〈気づいたこと〉15㎝、30㎝が激しく縦に揺れることもあった。60㎝はまったく揺れなかった。
《考察》
振り子が一番よく揺れるには、長すぎても、短すぎても、歩き方が速くてもダメだ。60㎝の振り子は、ゆっくり歩くリズムが一番合った振動だった。15㎝、30㎝の振り子はともによく揺れ、往復回数では0.6~1回の差があるが、ふれ幅では常に30㎝の方が大きい。どんな長さの振り子でも、そのものに合った振動を与えれば大変よく揺れる。ポニーテールの場合は、人が歩く速さの範囲(「ゆっくり」から「早足」まで)で常によく揺れる、長さ30㎝が一番よい。
実験2:おもりは重い方が揺れるか、軽い方が揺れるか?
《方法》
おもりの重さを変え(50円玉1枚、3枚=12g)、歩く速さを変えて(ゆっくり・普通・早足)歩いた。振り子の糸の長さは30㎝とした。 |
《結果》
おもりの重さと最大ふれ幅・往復回数の関係
①ゆっくり歩いた場合
②普通に歩いた場合
③早足で歩いた場合
《考察》
おもりは重くても軽くても、揺れ方は同じだった。ポニーテールが揺れる条件に、髪の量や重さは関係がない。
実験3:振り子が1往復する時間を調べる
〈1〉ふれ幅と往復時間の関係
《方法》
実験1、2により振り子(糸)の長さ30㎝、おもりの重さ4gの時のふれ幅の平均値は、歩き方が「ゆっくり」の場合は31.4㎝、「普通」は47.2㎝、「早足」は55㎝だった。それぞれの幅で10回往復する時間を計り、1回あたりの平均時間を求める(10往復以下の場合は計れた回数で行う)。それを10回行い1往復する平均時間を求める。
《結果》
1往復の平均時間は「ゆっくり」が1.07秒、「普通」も1.07秒、「早足」1.18秒と、ほとんど変わらなかった。
〈2〉おもりの重さと往復時間の関係
《方法》
振り子の長さ30㎝、ふれ幅47.2㎝の条件下で、おもりの重さだけを変えて(1枚=4g、3枚=12g)、往復時間を計る。
《結果》
往復平均時間は、おもり1枚の場合は1.07秒、3枚の場合は1.11秒と、ほぼ同じだった。
〈3〉振り子の長さと往復時間の関係
《方法》
ふれ幅47.2㎝、おもりの重さ4gの条件下で、振り子の長さだけを変えて(15㎝、30㎝、60㎝)、往復時間を計る。
《結果》
往復平均時間は、振り子の長さが15㎝の場合は0.79秒、30㎝の場合は1.07秒、60㎝の場合は1.54秒と、振り子が長いほど、1往復の時間も長くなる。
《考察》
振り子の往復時間を決めるのは「長さ」だけだ。振り子の長さが同じであれば、ふれ幅やおもりの重さが変わっても1往復する時間は変わらない。この性質を「振り子の等時性」という。ポニーテールがリズミカルに揺れる条件は長さ30㎝・周期は1.07秒/1往復で、重さは関係ない。
実験4:ポニーテールが揺れる体の動作を探る
人がどんな動作をした時にポニーテールは揺れはじめるのか、振り子のように揺れるにはどんなことが必要なのかを考える。
《方法》
糸の長さ30㎝、おもり50円玉1枚の共振器をかぶり、自転車(こぐ、後に乗せてもらう)・階段(昇り、降り)・台車に乗り移動・ブランコ・すべり台・カニ歩き・後ろ向き歩き・ジャンプ・おぶって歩いてもらう――の動きをして、振り子の揺れを観察した。
《結果》
何らかの動作をすれば、振り子は揺れる。揺れ方は前後が多いが、ポニーテールと同じく「左右」に揺れたのは「後ろ向き歩き」「おぶって歩いてもらう」だった。自転車はこいだ時も、後に乗せてもらった時も、どちらもゆっくり小さく、前後に揺れた。意外にも走るスピードが速くなっても、揺れ方は変わらなかった。
《考察》
ポニーテールが左右にリズミカルに揺れた時に共通しているのは「歩く」という動作だ。歩くリズムとポニーテールの揺れるリズムが同じになって、「共振」しているのではないか。
《目的》
共振の原理を利用して、洗濯物が乾かせるかを確かめる。電気やガスを使わずに乾かすことができれば、CO2を削減し、地球温暖化防止に役立つのではないか。 |
《方法》
ポニーテール共振器を改良した「物干し共振器」に、水でぬらした布(食器用ふきん)をたらして30分間歩く。ハンガーで干したものと、実験前後での重さを比較する。実験日・場所は晴れた8月12日昼、自宅リビングルームで。
《結果》
ぬれたふきん(75g)は「物干し共振器」で重さ54g(-21g)に、ハンガーでは66g(-9g)となり、共振器に効果があった。
振り子と体の動きをよく観察すると、振り子リズムのポイントは「足のウラ」でした。右足が地面に着く時、わずかに右肩が下がり、振り子も右側に最大にふれます。反対に左足が着地した時は、自然と左肩が下がり、振り子も左側に最大にふれます。歩くという運動は、このような動きのくり返しです。共振器をかぶって歩けば、自分の姿勢・歩くリズム・体のバランスなどが分かるかもしれません。共振器は環境問題だけでなく、健康チェックにも役立ちそうです。
審査評[審査員] 林 四郎
中村優里さんは、身近な生活の中で「なぜだろう。不思議だな」と感じたこと、特に、自分の髪型による髪の動きに着目した、とてもユニークな研究をまとめました。日ごろから日常のできごとを注意深く見ていく習慣が確実に身に付いていることが分かります。
この研究では、「ポニーテールがリズムよくプランプランと揺れている人、逆に、あまり揺れていない人がいる。どんな時によく揺れて、どんな時にあまり揺れないのか、その秘密を調べたい」という疑問を出発点に研究をスタートさせました。また、ポニーテールのリズミカルな動きから「ふりこ」を連想し事前に学習しています。さらに、中村さんは、5つの実験を行うために「ポニーテール共振器」や「振れ幅測定ボード」などを工夫しながら作り、この実験装置を使ってくわしくデータを出しています。そして、初めに考えた実験を進めていくうちに発見された新たな課題についても追究していく熱心さと、楽しみながら研究を進めていく頼もしさが伝わってくる素晴らしい作品に仕上げました。
指導について東京都 慶應義塾幼稚舎 柊原礼士
本校では夏休み前に「理科自由研究 レポートの書き方」という小冊子を5年児童全員に配布し、指導を行っています。内容は基本的なレポートの書き方の紹介や解説になっており、特に力を入れて教えている点はテーマの選び方です。気負わず、自分自身の経験の中で気付いたことを調べるように指導しています。そうすることによって、本に載っている難しい知識などをそのまま書くのではなく、自分で調べたり実験したりすることで、借り物ではない自分自身の考えを一行でも多く書けるようになることを期待しています。今回中村さんはその期待に見事に応え、「ポニーテール」というまさに自分ならではの経験を元に、ご家族の適切な助けを得つつもそれに頼り過ぎずに自力で地道に実験を重ねて、非常に充実した面白い結果を見出してくれました。今回の入賞は、何よりも鋭い着眼・発想力に加えて根気強く努力が出来る中村さんならではのものと思います。