第49回入賞作品 小学校の部
継続研究奨励賞

ぼくのトマト大作戦5 ―水耕栽培に挑戦―

継続研究奨励賞

岐阜県恵那市立大井第二小学校 5年
柳原 優博
  • 岐阜県恵那市立大井第二小学校 5年
    柳原 優博
  • 第49回入賞作品
    小学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の動機

 小さい頃から、トマトがあまり好きではなかった。トマトのことを知ろうと、1年生の時の観察にトマトを選んだ。いろいろなことが分かり、自分で育てたトマトがおいしかったので、好きになった。2年生の時の栽培研究で、トマトにはいろいろな形や色があり、甘さが違うことが分かった。「尻ぐされ病」も発生し、カルシウムが足りないこと、乾燥しすぎということが分かった。3年生の時には新しい土で育て、かん水もしっかりやったが、それでもカルシウム不足で「尻ぐされ病」が出た。肥料の研究が必要だと考えた。
  4年生の時は肥料の影響を調べるために、水耕栽培に初めて挑戦した。含まれるチッソ(N)・リン酸(P)・カリウム(K)の割合の違う3種類の肥料を用意し、「肥料の違いによるトマトの成長や収穫量の関係」を調べた。その結果、果実数と果実重が他よりも大きく、平均糖度の一番高いトマトを収穫できた「粉末ハイポネックス(6.5-6.0-19.0※)」が水耕栽培に合っている肥料と分かった。※数値は含まれるN・P・Kの割合(%)

研究の目的

 肥料の濃度と葉の量を変えることで、甘くて大きなトマトができるか挑戦する。

実験:肥料の濃度と葉の量が、トマトの成長や収穫量に及ぼす影響

1.実験区の設定

(1)使用したトマト:ホームセンターで購入したミニトマト(品種名・華キュート)
(2)実験区:「粉末ハイポネックス(6.5-6.0-19.0)」を500倍に薄めた養液、1000倍に薄めた養液、さらに葉の量を半分切り取ったもの、そのままのものといった、肥料と葉の量を変えた4つの実験区(A区:1000倍希釈・半分切除、B区:500倍希釈・半分切除、C区:1000倍希釈・そのまま、D区:500倍希釈・そのまま)を用意した。

2.調査方法

(1)調査項目:生育調査=草丈と葉数は毎週1回調査。つぼみと花、果実の数は1日おきに調査。養液調査=水の状態を知るためEC(電気伝導度)とpHを毎週1回調査。収穫果実調査=収穫した果実の重さ、大きさ(たて・高さ)、糖度を調査。
(2)調査方法:
〈生育調査〉
草丈=根元のスポンジの位置から、成長している先端までの長さ。メジャーで測定。曲がって成長するので、いつも支柱に誘引して真っすぐに育てた。
葉数=葉が開いた状態で数える。葉の面積の半分以上枯れていない場合に1枚とする。
つぼみの数=形が確認できた場合に1つとする。
花の数=花が開いて黄色が確認できた場合に1つとする。
果実の数=花が終わり、小さな果実が確認できた場合に数える。落下した果実、着色した果実も数える。

〈養液調査〉
EC=肥料の量の目安になる。各栽培ポットの水を取り、その中にEC計を入れて測定。
pH=ポットの水の酸性(アルカリ)度をpH計で測定。

〈収穫果実調査〉
果実重=果実(ヘタを含む)を1つずつハカリで測定。とれたヘタも一緒に測定する。
大きさ=ヘタの上方から見て果実の最も長い部分を「たて」、横に見てヘタから果実の先までを「高さ」としてノギスで測定。
糖度=たて切りした果実の先の部分をつぶし、出た果汁を屈折糖度計で測定する。

3.結果

(1)生育調査(5月11日~8月10日)

草丈:6月15日まではほとんど差がなく、その後は、葉を切ったA区、B区が他の2区より大きくなった。7月16日になると肥料濃度の薄かったA区とC区が成長しなくなったが、濃度の濃かったB区とD区はその後も成長を続けた。
葉数:6月29日まではほとんど差がなく、その後、C区だけが他の区より少なかった。他の3区には大きな差が見られなかった。
つぼみの数:最初にC区が他区より多かったが、6月22日からD区が多くなり、その後A区が多くなった。
花の数:C区だけが多くなった後に減少し、また多くなる形をした。他の3区は後半に多くなる形をした。
果実の数:6月28日頃まではほとんど差がなかった。その後、A区とC区が同じように、少し増加した。それに対し、B区とD区はさらに大きく増加した。D区は7月11日に120個となり、その後は減少。B区は7月23日に143個まで増加した。

(2)養液調査

EC:肥料を500倍に薄めたB、D区は、1000倍に薄めたA、C区よりEC値が高かった。葉を切らなかったC、D区は、葉を切ったA、B区よりEC値が大きく減少する。
pH:どの区も大きな差はなく、pH4~6の間で変化した。

(3)収穫果実調査

1)収穫果実数

収穫果実数:B区が76個と最も多く、次にD区の65個だった。肥料濃度の濃かったB、D区が多く、濃度の薄かったA、C区は少なかった。
時期別収穫果実数:7月22日までの収穫ではC区の果実数が多かったが、7月31日までの収穫数は、葉の切ってないC区とD区で多く、8月10日までの収穫数は、肥料濃度の濃いB区とD区が多かった。

2)収穫果実重

平均果実重:D区が最も重く約12g、他の区は約8gと小さかった。
サイズ別収穫果実数:D区で15g以上の大きな果実が20個、12.0~14.9gが17個と、半数以上が大きな12g以上の果実だった。


3)大きさ

平均たて径・平均高さ:どの区でも、たて径のほうが高さよりも大きかった。たて径、高さともにD区が約27㎜と、他の区(約24㎜)よりも大きかった。
大きさ(たて径)別果実数:D区では半数以上がたて径27㎜以上で、30㎜を超えるものも20個あった。

4)糖度

平均糖度:どの区も約9度で、大きな差はなかった。
糖度別収穫果実数:11.0度以上の果実が多かったのはD区。どの区もほとんどの果実が9度以上だったが、B区では8.9度以下の果実があった。

(4)最終調査

1)葉:色を比較すると、肥料濃度の濃いB、D区のものは緑色が濃かった。肥料濃度の薄いA、C区は緑色が薄い黄緑色だった。
2)根

乾燥重:調査が終了した時点で、根を取り出し、乾燥させて重さを量った。葉を切り取らなかったC、D区の根がよく張っていて、重さが10gを超えた。葉を切除したA、B区は約8gと少し差があった。
根の色:肥料濃度の濃いB、D区は、濃度の薄いA、C区に比べて色が白く、健康的だと思った。
まとめ

 肥料濃度が濃いとトマトの草丈や葉数、収穫果実数、果実重、大きさ、糖度が大きくなることが分かった。葉を切り取ることで、トマトの草丈や葉数は切らないときより成長するが、前半の収穫量が少なくなった。葉の増えた後半には収穫量は増えるが、糖度は低く、小さいものが増えた。このように、肥料を濃くすると葉が増えるので、甘くて大きなトマトができる。よい果実を作るには葉と、その管理が必要だ。

今後の課題

 肥料の濃さやEC、pHなどについてもう少し調べ学習をして、今年の糖度13.0度を超えるもっと甘いトマトをたくさん収穫したい。

指導について

指導について柳原博之

 小学校入学以来、5月から8月末までは、毎日、朝夕の水やり、トマトの様子を確認するなどトマト中心生活で、よく5年も続けて「トマト大作戦」ができたと感心している。
  この「トマト大作戦」では、「尻腐れ病」の発生をきっかけにカルシウムや乾燥が果実に影響を及ぼすことを調べ、水分や肥料に興味を持った。また、「土が無くてもトマトは育つのか?」という疑問から、農業高校の水耕トマトハウスへ見学に行き、実際に赤い実がなっているのを目のあたりにし、水耕栽培に挑戦する意欲が増すことになった。
  2007年の肥料の違いが生育や果実によい影響を与えたので、2008年にはその濃度の違いで調査することができた。そして、ノギスやECメーター等を利用してデータを数値化したことで変化がわかりやすく、「すごいことをやっている」と思わせることができ、パソコンを使ってグラフを作成した点も意欲向上につながったと考えてる。

審査評

審査評[審査員] 金子明石

 1年生から5年生までトマト栽培に挑戦し続けた粘り強さに感服しました。最初に出会った難関は尻ぐされ病のようでしたね。3年生の時に肥料の大切さに気づき、4年生と5年生の2年かけて見事な栽培実験をしましたね。3年生までの体験から水耕栽培で調査したのは正解でした。土よりも客観的調査がしやすく、毎日の水やりもしなくてすみます。グラフでの結果の示し方もていねいでわかりやすい。花や果実をつけるものにはK(カリウム)が重要であり、葉の量も大切であることを明確に示してくれました。
  最後にちょっぴり苦言をいうと各実験区に何本のトマトの苗を使ったのかわかりませんでした。また、4年生で使ったピッコラルージュという品種を5年生で華キュートにした理由も書いていませんでした。科学レポートでは、どんな材料をどれだけ使ってやったのかは大変重要なことなのです。今後の研究ではこのことを頭に入れ、更なる飛躍をしてください。

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