第49回入賞作品 中学校の部
1等賞

塵も積もれば山となる
-半透明フィルムを透過する光の量を予言する理論式の構築を巡って-

1等賞

三重県鈴鹿市立神戸中学校 2年
 河合 千晶
  • 三重県鈴鹿市立神戸中学校 2年
     河合 千晶
  • 第49回入賞作品
    中学校の部
    1等賞

    1等賞

研究の動機

 市ではゴミの分別収集が行われている。「ゴミ袋の中身が見えないようにするには、ゴミ袋を何枚重ねればよいのか」。学校から照度計を借りて、光の透過量を調べてみた。

常識的な予測と検証実験

《予想1》

1枚のビニールの光の透過率をt(0<t<1)と表すと、n枚重ねたときには元の倍の光が透過する。
市指定の燃えるゴミ専用袋のビニール(緑色)1枚では約50%の光が透過した。2枚重ねると「半分の半分」つまり=25%になるに違いない。3枚重ねるとそのまた半分の=12.5%、4枚なら=6.25%と、だんだん中身が見えにくくなるはずだ。

【実験1】

直射日光の当たる場所で、緑色のビニールを1枚ずつ10枚まで重ね、それぞれ透過した光の量を照度計で読み取る。ビニールをピンク(プラスチックゴミ専用)、黄色(有害ゴミ専用)に変えて、同様にデータを取る。

《結果》

予測値は、nが大きくなるにつれて実測値からずれる。
ずれ方は、実測値>予測値だ。
ビニールは同じ色でも1枚あたりの透過率が異なったが、それでもは起きた。

《考察》

測定誤差ならば、予測値よりも小さな実測値も混ざるはず。予測値倍が正しいならば、緑色のビニールを10枚重ねたときは

となるから、透過量は約0.1%と計算できる。これはほとんど光が透過しないことを表す。しかし買ってきた袋は折りたたまれて10枚以上重なっていても、透けて見える。「予測値倍」は誤っているのではないか。

ていねいに再実験

【再実験】

使用した照度計はアナログメーターの針が常にフラフラと動いている。実験精度を上げるため、デジタル照度計のキットを買い、自分で組み立てた。このデジタル照度計を使い再度、緑色のビニールを1枚から10枚まで重ねたとき(これを1セットとする)のそれぞれの光の透過量を1ルクス(lux)単位で、計20セット測定した。

《結果》

すべての実測値が予測値を上回った。
各枚数の実測値の最大と最小の差は1-2%程度だった。

《結論》

光の透過率t(0<t<1)のビニールをn枚重ねたときは、「元の倍よりもたくさんの光」が透過する。

予測を上回る光はどこから来るのか

「光の反射」を思いついた。光がビニールに当たると一部は透過し、一部は反射する。2枚のビニールを透過した光というのは実は1枚目、2枚目を反射なしで透過した光のほかに、2枚目で反射して1枚目で再び反射して2枚目を透過する光、さらにこれが2枚目で再び反射して1枚目でまた反射して2枚目を透過する光…などを合わせた光の総和だ。

  1枚の光の透過率がtのビニールを2枚重ねたときの透過光V2は、最初に当てた光をV、1枚目での透過光をtV、反射光を(1-t)V=uVとすると、


n≧3への理論拡張と一般化

ビニールを3枚重ねたとき(n=3)を考える。



2枚目を通過した光をV2とすると、3枚目を透過した光の総和W1、および1枚目に内側からあたる光の総和X1は、図1から、


ここでX1によって2枚目から出てくる光の総和をY1とすると、図2から、

Y1をもとに3枚目から出てくる光の総和W2は、図3から、

  と表せる。同様に
と続く。

3枚目を透過した光の総和V3


これまでをまとめると、
となり、n枚のときの光の透過量は、
 と表せる。…【千晶理論】

n=4、n=5、n=6のときの計算値と実験値を比べたら、ほとんど一致した。しかしn=3では約2%理論値のほうが大きい。nが大きくなるほど、ずれも大きくなる。
そこでアインシュタインの「宇宙項」にならい、独自の「Chiaki項」を考えた。「Chiaki項」はビニールの厚みを表す量d(㎜)、硬さを表す量h、温度を表す量c(℃)に関係して決まる量だ。実際にゴミ袋よりも硬く、厚みのあるカラーファイルで光の透過実験をしたら、ファイルのほうが千晶理論とのずれは小さかった(2%以下)。実験後はゴミ袋のほうが暖かかった。「Chiaki項」の関係式などは今回特定できなかったが、この項は完全な千晶理論には必要だ。
【最終千晶理論】ビニール1枚の光の透過率をt(0<t<1)とし、n枚重ねたときの光の透過量Vnは、

と表すことができる。

指導について

指導について鈴鹿市立神戸中学校 金谷淳史

 まず、「指定のゴミ袋の中が見えてしまい、生活を見られているようで困る」という身近な問題をきっかけにして、「半透明フィルムを透過する光の量を予言する理論式の構築」を目指そうとする発想に驚いた。彼女は日頃から身近な疑問をメモしているそうで、その中からぶつけられる質問に時々ドキッとさせられることがある。生活の中の何気ない疑問に対しても探究していこうとする彼女の姿は目を見張るものがある。
  多くの専門書や文献を読んだり、50回もの反射について計算をしたり、実測値と予想とのズレを見事に修正し、理論式へと結びつけている点がこの研究の価値を一層高くしたと考える。
  彼女の研究を通して、真実を探究していくことへのまっすぐな態度や思ったことに対してすぐに行動する力の大切さを改めて認識した。

審査評

審査評[審査員] 金子明石

 この研究はとても重みのあるレベルの高い作品です。例示しながら理論づけていくやり方で自分の主張を理解してもらおうとする工夫にも頭が下がります。
  研究のきっかけはゴミ袋が半透明で見られたくないものまでわかってしまうし、何枚も重ねるとエコに反すると悩み、中身が見えなくなる最小限の重ねを調査してみたいということで始まったようです。ところが研究は思わぬ方向に発展しましたね。
  実際に測定してみると10枚重ねのデータは1枚の透過率から計算した理論値より10%前後光が多く通過している。誤差の範囲と考えずに、光が袋を通るときに反射して更に反射して次の袋に入る光に加算されて光が少しずつ増えていくせいだと推定した。より精密に計測するため装置を改良し、計算を小数100桁ぐらいまで出し、検証した結果、n枚重ねたときの通過する光を予測できる千晶理論なる式を導き出した。それにより10%の差を2%まで縮めている。更にこの差を補う項まで考えている。日本の科学を担う人に成長して欲しいと思います。

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