庭のグレープフルーツの木にアゲハチョウが卵を産みに来るのを見て研究を始め、今年で5年目だ。アゲハチョウは《普通は1年に(秋までに)何度も卵、幼虫、蛹、成虫を繰り返す。蛹で冬を越す。幼虫は普通、5齢幼虫まであり、次に蛹となる。》と図鑑にもあるが、これまでの研究では、
1)光の当たらない暗い場所で育てた幼虫だけが、夏なのに蛹から羽化せず、蛹のまま冬越しした(こうした蛹を「休眠蛹」という)。
2)5回脱皮をした6齢幼虫もいた。これらについて私は昨年、①休眠蛹になるのは「光に敏感なアゲハチョウが、光が当たる時間を制限された場合」であり、②6齢幼虫になるのは「えさはたくさんあるが、食べるのに時間がかかる場合」だと結論を出した。この結論が正しいのか、正しくないのかを確認する。
図書館の本に「アゲハチョウの幼虫は、光を当てる時間を13時間30分以内にすれば休眠蛹となる。休眠蛹は、一度寒い冬を越さなければ目覚めない」とあった。その通りなら、私の研究で1日中箱の中で光を当てないで育てたアゲハチョウは休眠蛹となり、羽化しないはずだ。それなのに羽化したのはどうしてか。光に当たる時間が「13時間30分以内であれば、どんなに短い時間でも休眠蛹になる」のではなく、「休眠蛹になる限界の時間」があるのではないか。
(1)休眠蛹になる「時間の限界」を探る:光に当たる時間がある程度短くなると休眠蛹になるが、それには限界の時間があり、それを超えると、時間以外の何かによって休眠したりしなかったりするのではないか。
(2)6齢幼虫になる条件を探る:「えさはたくさんあるが食べにくい状態」として、えさの葉を小さく切って与えることにした。これまでの研究で、小さい葉は、アゲハチョウにとって逆に食べにくいという結果になったからだ。
(1)次の6通りの条件で、それぞれ2個ずつの卵を育てた。①飼育容器を玄関に置き、自然光を当てて育てる〈普-A、普-B〉②光を通さない箱に入れ、全く光を当てないで育てる〈0-A、0-B〉③箱に入れ、毎日2時間だけ光を当てて育てる〈2-A、2-B〉④箱に入れ、毎日5時間だけ光を当てて育てる〈5-A、5-B〉⑤箱に入れ、毎日10時間だけ光を当てて育てる〈10-A、10-B〉⑥小さく切った葉を与え、自然光を当てて育てる〈切-A、切-B〉
(2)各Aは幼虫の状態(何齢幼虫か)、体長、ふんの数、食べた葉の面積を記録し、各Bについては、幼虫の状態だけ記録する。〈切-A〉は食べた葉の面積を測定するのが難しかったため、記録しなかった。〈普-B〉は他の卵より大きかったので、成長の仕方に違いがあるかもしれないと思い、体長、ふんの数、食べた葉の面積についても記録した。
(3)①~⑥の12個の卵以外にも、20個の卵を育てることにした。他よりも少し大きな4個は①の普通の状態で育てた。16個は②と同じく、全く光を当てない状態で同じ飼育容器で育てた。
(4)①~⑥のAの幼虫と①のBの幼虫の計7匹について、成長の違いが分かるように表やグラフにした。
(1)休眠蛹になる「時間の限界」を探る
個別に育てた12匹のアゲハチョウのうち11匹が蛹になった。1匹は6齢幼虫の時に死んだ。蛹になった11匹のうち4匹が羽化し、7匹が休眠蛹になった。少し大きめの卵〈普-B〉はクロアゲハだった。
別に育てた大きめの4個の卵は、すべて蛹になり、4匹とも羽化した。2匹はクロアゲハで、2匹はナガサキアゲハだった。
全く光を当てないで別に育てた16匹は全て蛹になった。うち4匹が羽化し、12匹が休眠蛹になった。
(2)6齢幼虫になる条件を探る
個別に育てた12匹のうち〈切-A〉が7齢幼虫になった。〈切-B〉は途中で死んだが、6齢幼虫だった。
(1)休眠蛹になる「時間の限界」:光を当てる時間を制限(2時間、5時間、10時間)した幼虫はいずれも羽化せず、休眠蛹になった。しかし全く光を当てなかった18匹のうち、5匹が羽化し、13匹が羽化せずに休眠蛹になった。光が当たらない場合は夏か冬か分からないので、「光以外の他の条件によって、羽化するか休眠蛹になるかを決めているのではないか」。それは「アゲハチョウの気まぐれ」によるものだ。では、なぜ冬が近づく(秋になる)と羽化せず、休眠蛹になるのか。1つはえさの問題だ。えさの花の蜜が少なくなるので、えさを食べずにすむ蛹の状態で冬を越す。もう1つは温度の問題だ。えさの柑橘類の葉はあっても、変温動物なので気温が下がると、幼虫の体は動かない。そのために、蛹の状態で冬を越すのではないか。
(2)6齢幼虫になる条件:以前の研究から、「与えるえさの量を減らすと、体の大きさを小さくして、必要な栄養の量が少なくてすむようにしていること」が分かっている。しかし〈切-A〉〈切-B〉では、えさはたくさんあるが、小さくて動いて、食べにくい。そのため「食べるのに時間がかかる時には、体を小さくするのではなく、時間をかけて栄養を取るために6齢幼虫や7齢幼虫になることを選んだのではないか」。それまでして食べるのは、蛹の期間は何も食べないので、幼虫から蛹になるエネルギーと、蛹から羽化して成虫になるエネルギーの両方を、幼虫のうちに蓄えておかなければならないからだ。
(1)今回初めてクロアゲハとナガサキアゲハを育てた。というより、育てたらクロアゲハとナガサキアゲハだった。ナガサキアゲハは、30年ほど前には京都にいなかった。九州以南から、地球温暖化によって北の地方に生息地を広げているそうだ。
(2)アオムシコバチを飼育容器の中で見つけた。アゲハチョウなどの幼虫や蛹に卵を産みつけ、それらを食べて大きくなる寄生バチだ。こうした昆虫がアゲハチョウの数を調整し、微妙なバランスを取っている。
(1) 蛹の色:図鑑では①緑の葉が多い所で蛹になると緑色、周囲が茶色っぽいと茶色になる。②すべすべした所では緑色、ざらざらした所では茶色になる。③冬越しせずに羽化する蛹は緑色、冬越しする蛹は茶色になるというが、私の研究結果はどれにも当てはまらない。どのようにして蛹の色を決めているのか疑問だ。
(2)幼虫の色:昨年の研究では6齢幼虫になる場合は、5齢までは黒色(茶色)、6齢が緑色だった。図鑑には「5齢幼虫は緑色」というより「終齢幼虫は緑色」と書いてある方が多い。今年の研究では7齢幼虫の場合、5齢幼虫までは黒(茶色)で、6齢も7齢も緑色だ。
審査評[審査員] 大林延夫
家の庭にあるグレープフルーツにやって来る身近な蝶、アゲハチョウと付き合って5年、その都度抱いた様々な疑問に挑戦してきた。継続研究の素晴らしさと楽しさである。今年の主要なテーマは休眠の誘起条件と、幼虫が過齢となるメカニズム。既に知られている現象ではあっても、自分で確かめてみようという姿勢がうれしい。そして、実験を進めると新たな疑問が次々と出てくる。短日条件で幼虫を飼育すると休眠蛹になるのに、全暗条件で飼育したら結果がばらついてしまった。幼虫の色は、終齢で緑になると本には書いてあるが、過齢幼虫の色が今年は6齢と7齢がともに緑色だった。また、蛹の色も蛹化場所で色が変わるとされているのに、同じ条件で飼育しても茶色の蛹と緑色の蛹ができた。
日長を変える方法や、餌の与え方など、家での実験にも工夫を凝らして頑張っている様子がよく分かる。しかし、今後の課題を解明するためには、さらに厳密な実験条件の設定が必要となる。中学ではその点を踏まえ、より一層研究が発展する事を期待する。
指導について恩庄基貴
我が家には、アゲハチョウが毎年卵を産みにやってくるグレープフルーツの木があります。この木は、娘がまだ妻のお腹の中に居る時に妻が食べたグレープフルーツの種を植えて育てたものです。娘が2年生の時に、この大切な木の葉を食べるアゲハチョウの幼虫をみつけ、葉を全部食べ尽くしてしまわないかを心配し、幼虫はどれくらいの量の葉を食べるのかについて調べたいと始めたのが、最初の研究でした。アゲハチョウの研究をしていると、色々な疑問が出てくるようで、気が付くとアゲハチョウの研究をして5年が経ちました。疑問を解決するために、図鑑等で調べるのも良いとは思いますが、娘には、とにかく自分で考え、自分で試してみることを勧めました。人に教えられるのではなく、自ら気付いて欲しかったからです。娘には、これからも自ら考え、自ら試してみることによって色々なことに気付き、生命の不思議や尊さについて考えていってもらいたいと思います。