研究の動機
小学2年から空気の研究を続けてきた。物体の周りを流れる空気の速度が速いと、物体が引き寄せられることが分かった。空気の流れや圧力などを実際に利用したいと考えた。
研究の仮説
円柱や球などの曲面に空気を流すことで、周りの空気との圧力差を大きな力として得られるのではないか。物体の形状、空気の当て方を工夫することで、空気の流れを浮力として活用できるのではないか。
《実験の準備》空気圧の「水柱測定器」の作製
水が入った容器にゴム管を立て、一端を空気の流れに入れるとゴム管内の圧力が低下し、大気圧との差によってゴム管内に水が上がってくる。その水柱の高さから、空気圧の程度を読み取る測定器を作った。
【実験1-1】いろいろな物体の表面に沿った空気の流れを観察する。
《方法》
ブロワ(送風機)の先に吹き流しの「スズランテープ」を取り付け、物体の表面を流れる風(空気)の様子を観察する。球や立方体、円錐、石けん箱やゼリーカップなどいろいろな形のもので試した。
《結果と考察》
テープは、球や円柱などの滑らかな曲面にまとわり付いて流れた。それらの物体を風の流れに近づけると、急にフワッと持ち上げられた。テープが曲面の裏側に回ると、激しくはためいた。
【実験1-2】物体表面を流れる空気の圧力を水柱測定器で調べる。
《方法》
水柱測定器から延ばしたゴム管の先端(ノズル)を、物体に開けた穴を通して表面に出るように取り付けた。球(大・中・小)、円柱、円錐、立方体の表面で調べた。
《結果》
ノズルを直接流れの中に入れたときの5回平均の水柱目盛りは7.6。一番上がった(低圧力だった)のは円柱(直径5cm)の17.8だった。大球(同9cm)は12.0、中球(同7cm)は13.7、小球(同5cm)は14.5と、小さいほど表面の空気圧は下がる。
《考察》
球の半径が小さいほど曲がりが急になり、空気の流れも加速されて圧力が下がる。同じ半径でも球よりも円柱の空気圧が下がるのは、円柱の方が風の当たる曲面が広いからだ。
【実験2-1】円柱側面の空気圧の分布を調べる。
《方法》
立てたペットボトル(円柱)の側面に水柱測定器のゴム管ノズルを固定。ボトルを15度ずつ回転させて、ブロワで風を当てたときの水柱目盛りを記録する。回転の角度はブロワ正面(0度)をA点として、真上から見て時計回りにB・・・X点までとする。ボトルは大2ℓ、小500ml。風の強さ(風量)は強・中・弱で行う。
《結果》
ボトル大・小ともにA点では、ゴム管内の空気が逆流して水柱測定器の容器に泡があふれるなどして、計測できなかった。ボトル大では、ブロワの風はAからJ(135度)、それとは対照に、反対側はAからP(225度)まで届いた。とくにB(15度)~C(30度)とX(345度)~W(330度)では空気圧が低く、空気の流れが速かった。空気圧は風が強いほど、低くなった。裏側のK(150度)~O(210度)には風が届かなかった。ボトル小も同様な傾向だった。
【実験2-2】円柱周辺の空気圧の分布を調べる。
《方法》
方眼紙に1cm間隔、10目盛りのXY座標を描き、座標(5.5)にボトル(小)の中心点を合わせて置く。ブロワの風をY=5を中心として、ボトルの左側から当て、周辺のXY格子点での空気圧を水柱測定器で測る。風はボトルの両側対称に流れるので、空気圧はボトルの片側Y=5~10、X=0~10の範囲で測る。
《結果と考察》
水柱の測定値を程度ごとに色分けした分布図を作った。ボトル前のX=0~1、Y=5~6の領域に、ブロワの強い空気の流れがある。この流れはボトル正面を圧迫しながら、ボトルの側面を通る。流れが後方に少し回り込んだところ(X=7~10)には測定値(0~3)がばらばらに分布し、水柱では上下振動も見られた。ボトルの真後ろでは、空気の渦ができているのではないか。スズランテープの風に流れる写真と見比べても、水柱の上下振動は空気の流れの現象をよく表している。
【実験3-1】ブロワの風を円柱の正面ではなく、端の方にずらして当てたときの、円柱側面の空気圧の分布を調べる。
《方法》
ペットボトル小、風量中で実験2-1と同じ方法で測定する。ブロワの風はF点(角度75度)を中心に当てた。
《結果と考察》
E(60度)~Fで水柱の値が高く、急に流れが速くなった。G(90度)以降は、流れが側面に沿って急速に曲がり、速さが遅くなっていく。M(180度)~X(345度)では流れが全くなかった。
【実験3-2】ブロワの風を円柱の端に当てたときの、円柱周辺の空気圧の分布を調べる。
《方法》
実験2-2と同じ方法で行い、ブロワの風はY=8を中心に当てた。
《結果と考察》
X=0~7、Y=7~9の領域の流れが速い。流れは加速され、ボトルに近い所では、流れが回り込みながら減速している。少し離れた所では、遠心力の働きにより減速しないまま曲がって、その後、真っすぐ流れている。ブロワの先にスズランテープを取り付け、風の流れを見た。ボトル側面に当たった後の直線的な力強い流れ、ボトル後方に回り込む流れがあった。
【実験4】曲面に沿った空気の速い流れにより、浮力が生じることを実証する。
《方法》
息でふくらませた風船、輪のように数珠つなぎにした10個の風船、床に逆さに伏せた発泡スチロールのどんぶりに、ブロワの風を当てた。
《結果》
風船(1個)は、風の角度を変えても、空気の流れに引き寄せられるようにして浮いた。数珠つなぎの風船も、空気の流れに引き込まれるように回転しながら浮いた。伏せたどんぶりの真上から風を当てると、少し浮いたが、すぐにバランスを崩した。
《考察》
空気の速い流れには、引き寄せる浮力、周囲を引き込むような効果があることが分かった。
実験結果の考察
〈1〉空気の速い流れが曲がるときの、周囲を引き込む効果は、液体と同様に空気にも〝粘り〟があるからだ。流れが遅いときは粘りの影響は目立たないが、速いときにその影響が現れるのではないか。
〈2〉滑らかな曲面をもつ物体によって、空気の速い流れが曲がるのは、引き込み力によって物体を動かすことができないために、流れ自身がその反作用によって曲がってしまうからだ。
〈3〉空気の速い流れが曲がるときは、滑らかな曲面に近い側よりも遠い側の方が、回転半径が大きくなるため、より速く回転しなければならない。その分、遠心力が強く働き、圧力を下げる効果が増している。
まとめ
「空気」は大きなエネルギーを内包する、私たちにとって一番身近で、不可欠なものだ。私が研究で取り組んできた「空気」については、まだほんの一部を知り得たにすぎない。これから先、「空気」をどんなものに変化させ、役立たせるかを、研究テーマとしていきたい。
審査評[審査員] 小澤 紀美子
小学校2年生の時から「空気」の研究をはじめた作品です。昨年までの実験で真っすぐな速い空気の流れによって圧力が下がることを実証し、その成果をいかし、今回の作品でより興味深い結果を導き出しています。まず、「空気の流れが速いほど空気の圧力は減少する」という仮説を実証するための「見える化」を行っています。球や円柱の滑らかな局面に沿っての空気の流れを水柱測定器で測定しています。さらにペットボトルで実証し、それらの実験から速い空気の流れが曲面に沿って曲がるときに流れに吸い寄せられて「浮力」が起こることを実証しています。そうして床面に置いた1個の風船を浮上させ、さらに数珠つなぎにした風船の輪まで浮上させています。瀧口さんの研究の進め方の素晴らしさは、物体の周りを流れる空気の現象を「見える化」していることと、次の新たな発見→仮説に結び付けていく実験・実証・探究のプロセスで、そこから得たデータの丁寧な解析にあります。流体力学の秘密を身近なモノを活用して実験装置をつくり、実証していることは非常に高く評価できます。今後の研究の発展も期待しています。
指導について瀧口 太・枝里子
小学生の時から、空気の存在に興味を持ち、継続した研究を行ってきた。目に見えない空気の流れをドライアイスの煙を利用して可視化し、その中にさまざまな形状の物体を置き、流れの変化やその効果を観察した。さらに、空気の流れの中に空洞部分や渦ができることを観察して、静的な性質から、淀み、曲面に沿った流れ、流れの剥離といった複雑な現象に至るまでを、定性的に把握してきた。中学校では、定量的な測定と分析を試み、今年は、昨年得た知見を基にマノメータを製作して、曲面に沿った流れの全圧を測定し、曲面や周囲の流れの速さの分布が一見できるようグラフ化した。特に、コアンダ効果のメカニズムを考察し、浮力への応用も試みた。こうした研究を忍耐強く積み重ねることによって、空気の性質についての理解を深め、身近にある自然エネルギーを活用することへの興味を高めていった。この科学に向き合う姿勢を、今後も持ち続けてほしいと願っている。