研究の動機
3年間カタツムリとナメクジを比較しながら、体のつくりや行動、ヌメヌメなどを調べてきた。大きな触(しょっ)角は目の役割、小さな触角は鼻と舌の役割だ。しかし大触角を伸ばして広げたり、カタツムリは折れたようにしたり、ナメクジは片方だけ出したりする。カタツムリ(以下〈カ〉)とナメクジ(以下〈ナ〉)の触角について、それぞれ10匹ずつを用いて調べた。
〈1〉触角の特徴は?
《方法》
虫めがねや顕微鏡で観察した。
《結果と考察》
触角の管の中を黒い液体がすごい勢いで流れていた。その液体が先端でたまる部分が目玉。触角が縮む時は、黒い液体が背中に流れ、外側の皮がしぼみながら引っ込んだ。小さな触角には黒い液体も目玉もない。
〈カ〉細くて長い。左右の長さは変えられないが、左右の向きは変えられる。進む時は上下左右に揺らす。寝る時は左右一緒に縮める。
〈ナ〉太くて短い。左右の長さも向きも自由に変えられる。進む時は動かさない。寝る時は片方だけしまう。安全だと両方をしまう。
〈2〉触角を開く角度は?
《方法》
触角の開閉の瞬間をカメラで撮り、拡大印刷して角度を分度器で測った。
《結果》
真上から見た場合:正面線に対して開く限界角度は左右それぞれ〈カ〉76~108°、〈ナ〉68~98°、閉じる限界角度は左右それぞれ〈カ〉3~29°、〈ナ〉11~28°。安全安心な所では〈カ〉すべてが左右それぞれ45°、合わせて90°ぐらいだった。〈ナ〉はすべてが左右それぞれ30°、合わせて60°ぐらいだった。
正面から見た場合:安全安心な所では〈カ〉〈ナ〉すべてが左右0°(水平)だった。
〈3〉触角を出し入れするスピードは?
《方法》
触角を軽くつつき、引っ込む時間、出て来る時間をストップウオッチで測った。
《結果》
引っ込む時間(平均)は〈カ〉1.67秒〈ナ〉0.46秒。〈ナ〉の触角は〈カ〉の3倍以上も速く縮む。出て来る時間は〈カ〉5.67秒〈ナ〉6.32秒だった。〈カ〉〈ナ〉ともに触角を伸ばすよりも縮めるほうが速い。
〈4〉カタツムリとナメクジが対面したら?
〈カ〉と〈カ〉の場合:触角が相手に触れたとたん、触角を上に開いてピンと伸ばした。触角の開きを狭くした方が相手の上に登った。体の大小は無関係。
〈ナ〉と〈ナ〉の場合:相手の約1㎝手前で1匹は触角を約120°に広げて下向きに、もう1匹は約60°に広げて上向きにした。角度の狭いほうが触角をさらにピンと立てて、一方のわきを通り過ぎた。
〈カ〉と〈ナ〉の場合:〈ナ〉は〈カ〉の約1㎝手前で触角を約60°に広げ、ピンと立てた。〈カ〉は触角が〈ナ〉に当たった瞬間に縮め、その後約60°に広げて立てた。どちらも触角はそのままに〈カ〉が〈ナ〉に乗る時も、〈ナ〉が〈カ〉に登る時もあった。触角を開く角度や上下の向きが「どうぞ」という譲り合い、あるいは威嚇(いかく)の合図か。
〈5〉突然目の前に壁が出現したら?
《方法》
進んでいる前に、発泡スチロール板を置いた。
《結果》
〈カ〉は一方の触角が壁に当たってから気づき、体を殻の中に入れた。〈ナ〉は触角が壁に当たる前に気づき、横に避けた。ともに〈4〉とは違う反応だ。相手が生き物、そうでない物を区別している。
〈6〉突然大きな音が鳴ったら?
《方法》
理科で使ったモーターの音を鳴らした。
《結果》
〈カ〉は体を殻に入れ、〈ナ〉は体と触角を縮ませた。ともにしばらくして触角を伸ばし、1本は音のする方向、もう1本は反対方向に向けた。
〈7〉いろいろな周波数の音波が鳴ったら?
《方法》
パソコンで周波数27.5Hzから2万5000Hzまでの11種類の音波を鳴らした。
《結果》
音波が鳴ると〈カ〉は触角をピンと上げて伸ばし、その後ユラユラ揺らし続けるものが多かった。〈ナ〉は触角を短くして体を縮め、動かないのがほとんどだった。
〈8〉突然強い光に当たったら?
《方法》
暗闇に置いて60WのLEDライトを当てた。
《結果》
〈カ〉触角を半分の長さに縮めた。1分後に触角を伸ばし、1本は光の方向、1本は反対の方向に向けた。〈ナ〉触角を短くし、5秒後に1本は光、1本は反対の方向に向けた。その後急いで反対の方向に逃げた。
〈9〉突然雨が降ったら?
《方法》
ジョウロの水、自然の雨をかけた。
《結果》
いずれの水でも〈カ〉〈ナ〉は触角を3分の1の長さに縮め(〈カ〉は殻の中で)じっとした。雨が〈カ〉では30秒以上、〈ナ〉では10秒以上やまないと、それぞれがあわてたように頭を伸ばして、雨宿りの場所を探し歩いた。小さい屋根を置いたら、すべてが雨宿りしてきた。
〈10〉冷たい物に触れたら?
《方法》
保冷剤(−6℃)を置いて囲んだ。
《結果》
〈カ〉は体をピンと伸ばし、触角を広げてユラユラさせながら登ったが、すぐに体も触角も縮め、下りてきて保冷剤のすき間から逃げた。〈ナ〉は触角を広げて登りかけたが、すぐに体を縮めてじっとした。こげ茶色の体色が5分後に頭のほうから変化し、10分後に全体が透明な赤茶色になった。キョロキョロしてすき間から逃げた。
〈11〉熱い物に触れたら?
《方法》
温熱カイロ(37℃)をラップで包み、そばに置いた。60℃以上だと死んでしまう。
《結果》
〈カ〉は触角を伸ばし約100°に広げて、ゆっくりカイロに登った。触角は広げたまま体を縮めてじっとしていた。10分後に下りた。〈ナ〉は触角を伸ばし約60°に広げてカイロに登った。体の下の透明な白いおなかがゼリーのように柔らかになり、体の色も透き通った赤茶色になった。体をクネクネさせ、進むスピードを速くして下りた。
〈12〉顕微鏡で見たら?
双眼実体顕微鏡(40倍)が一番観察しやすかった。他の顕微鏡では動いている触角は観察できない。〈カ〉〈ナ〉は触角の中を黒い液体が行ったり来たり、血液のように流れていた。
感想
調べたカタツムリとナメクジは延べ1020匹。夜に活動するので、眠くてヘトヘトだった。触角をユラユラ揺らしたり、急いで動き回ったりしているのは「喜んでいる」のではなく、危険を警戒したり、嫌がって逃げ回っているのだと分かった。やはり調べてみるものだ。
審査評[審査員] 友国 雅章
片岡君が小学校1年生の時から続けてきたカタツムリとナメクジの研究も今年で4年目になりました。これまでの観察で、カタツムリやナメクジの触角には目の働きがあることなどを見つけましたが、その動かし方をよく見ると、目の役割以外にも何かほかの働きがありそうだと気づいたのが今年の研究のきっかけです。
カタツムリとナメクジに突然大きい音を聴かせたり、突然強い光を当てたり、突然雨に当てたりなど、全部で12の異なった条件で何度も実験を繰り返し、それに用いたカタツムリとナメクジは延べ1020匹にもなりました。まず、その根気強さに脱帽です。それほど多くの実験を繰り返したので、非常に信頼度の高い結果が得られたと思います。私がとくに注目したのは、触角の中を流れているという「黒い液体」の観察です。このことが気になって少し調べてみましたが、専門家にもあまりよく知られていないようです。これからも観察を続けて、ぜひ「黒い液体」の正体を突き止めて下さい。
指導について片岡 美佐子
カタツムリがカラを脱いでる!(実はナメクジ)と喜んでいた幼児期から研究4年目、観察すればするほど知らなかったことに気付き、ワクワクしながら解明をしていくなかで新しい発見を重ね、さらに疑問もわいてきた。今回は目の役割の大触角。ユラユラゆらしたり、片方だけしまったり等、不思議な動かし方をしていることに気付き、それを解明しようと取り組んだ。まず昨年頂いた実体顕微鏡を駆使し、しっかり観察することから始めた。ただ「つの」を出し入れするだけではなかったことや、内部で流れる黒い液体や表皮の様子に驚きの連続だった。また様々な条件で触角の反応を調べ、習いたての分度器やストップウオッチ、カメラに初挑戦、それを図、表、グラフに表すことで、目の役割以外の役割やその特徴を見つけ出すことができた。相手は生き物で夜行性や水分不足、計測具不慣れ等を苦労と感じるのは大人だけ。本人は旺盛な好奇心で解明を楽しんでいた。