第56回入賞作品 中学校の部
1等賞

かつお節が踊るメカニズム

1等賞

茨城県結城市立結城東中学校 3年
山中莉藍
  • 茨城県結城市立結城東中学校 3年
    山中莉藍
  • 第56回入賞作品
    中学校の部
    1等賞

    1等賞

研究の動機

 小学6年生の時に「かつお節はなぜ踊るのか」をテーマに研究した。論文を読み直すと、興味深くて面白そうな項目が並んでいる。より深く研究することにした。

【実験1】前の研究では、動物性素材は踊る現象が見られるが、植物性素材では発生しにくいと考えられた。より多くの乾燥素材で踊る現象の有無を調べる。

〈方法〉

 13種類の素材を薄く切り、湯わかしポットの湯気(80℃)を当てて「反り返り」や「ねじれ」などの動きの回数、様子を観察した。

〈結果〉

 かんぴょう、切り干し大根、ごぼう、にんじん=動きが全く見られず、すぐに湿ってふやけた。昆布=ゆっくり反り返る動きが見られた。踊るような動きではない。おぼろ昆布=動きが見られず、すぐに湿ってふやけた。しいたけ=湯気で湿ると、全体の形が徐々に大きくなった。動きはゆっくりで、踊るようではない。のり=湯気を当てた面が縮み、その後全体がふやけて、伸びていった。ゆば=反対側にゆっくり反り返った。ビーフジャーキー=動きはない。すぐに湿ってふやけた。煮干し=かつお節と同様に激しく踊る現象が見られた。回数も7~10回と非常に多かった。とば(サケを乾燥させたもの)=ゆっくり反った。するめ=ゆっくり反った。動きはゆるやかで踊るようではない。

〈考察〉

 湯気を当てると、植物性素材よりも動物性素材の方が動く現象が発生しやすい。

【実験2】乾燥した素材の細胞に水分を与え、細胞の復元の仕方の違いを確認する。

〈方法〉

 植物性・動物性素材をスライドガラスに固定し、温水(80℃)を1滴垂らして変化を観察する。

〈結果と考察〉

 かんぴょう、切り干し大根、ごぼう、にんじんなどの陸上性植物は、細胞の復元は見られるが、全体が大きく変形することはなかった。細胞壁の構成成分(セルロースやヘミセルロース、リグニンなど)が比較的丈夫なためだ。昆布、おぼろ昆布は水分を与えると個々の細胞は急激に膨張した。全体も大きく変形した。これら海藻の細胞壁は柔らかい成分(マンナンなど)で構成されており、他の陸上の植物性素材との動きの違いとなっている。のりは同じ海藻でも、細胞の変化はごくわずかで、全体の形状変化も小さかった。しいたけは個々の細胞が大きくなり、全体の形状もゆっくりと大きくなった。
 動物性素材のビーフジャーキーは細胞の変化は確認できなかった。全体の形はふやけて大きくなった。完全に乾燥していないためか。とばは個々の細胞が徐々に大きくなり、全体が膨らんだ。するめは細胞の変化ははっきり確認できなかったが、全体がふやけて大きくなった。煮干しは個々の細胞が急激に膨張し、組織全体が大きく変形した。細胞の様子は前回の研究で見られたかつお節やサバ節に酷似している。

【実験3】かつお節は低温の水分でも踊る現象が発生するのか検証する。

〈方法〉

 超音波加湿器に氷、水、温水を入れて霧の温度を10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃に設定。それぞれの温度でのかつお節の動きの回数や様子を調べた。

〈結果と考察〉

 反り返る現象は10℃の霧でも見られた。20℃以上になるとその動きがはっきりし、さらに温度が高くなるほど動きはすばやくなった。前回研究での40℃の湯気を使った実験でかつお節が踊らなかったのは、十分な水分が供給されなかったからだ。かつお節が踊る現象の有無は水分の供給量、変形の強さは温度の高低が原因だ。

【実験4】かつお節が踊る現象を多角的に検証する。

《検証1》かつお節は上昇気流で踊るのか?

〈方法〉

 沸騰したお湯の上昇気流を抑えるために、湯沸かし器の上に4枚重ねのタオルを置き、その上の金網にかつお節を載せて観察した。

〈結果〉

 激しく踊った。

《検証2》かつお節に当たる水分のムラにより、細胞が大きく復元する部分とそれほどでもない部分ができるために踊るのか?

〈方法〉

 超音波加湿器で発生させた色水の霧をスライドガラスに当て、乾燥してから観察するとやはり水分の分布にムラがある。同様に、霧を当てたかつお節を顕微鏡で観察した。

〈結果〉

 細胞が大きく復元している部分、変形していない部分が混在していた。

《検証3》細胞が変形した後も、踊る現象が連続するのはなぜか?

〈方法〉

 湯沸かし器の湯気をかつお節に当て、その後、冷蔵庫で3分間冷やして顕微鏡で観察した。

〈結果と考察〉

 高温の水で膨らんだ細胞は、冷却しても縮まなかった。かつお節の細胞の膨張変形が元に戻ることはない。湯気を長時間当てると、膨張しすぎて破裂した細胞もあった。

《検証4》時間の経過とともに、かつお節の細胞はどのように変形するのか?

〈方法〉

 かつお節の切片8枚を金網の上に載せて湯気を当て、5秒ごとに1枚ずつ取り外すことで、湯気を当てた時間が5~40秒の8サンプルを作り、顕微鏡で観察した。

〈結果〉

 時間とともに細胞の破裂は増加した。

《検証5》細胞の破裂が進み踊らなくなったかつお節を、乾燥させて湯気に当てたら、再び踊る現象が発生するか?

〈方法〉

 かつお節の大きめの切片5枚で試した。

〈結果〉

 再度湯気に当てても、踊る現象は見られなかった。薄い(約0.04㎜)かつお節は30秒ほどで動かなくなる。厚い(約0.1㎜)かつお節は10分以上動いていた。膨張して破裂する細胞が多いほど長い時間動くことができる。

まとめ

 かつお節の踊る現象は次のように発生する。

高温の水分に当たり、乾燥して縮んでいた細胞が大きく復元する。
全体の細胞が大きくなって、かつお節に大きな応力が発生し、反り返るなどの動きをする。
細胞が限界まで大きくなり破裂する。
発生していた応力がなくなり、全体のバランスが崩れて、かつお節が複雑に変形する。
水分のムラなどにより細胞の破裂が違う部位で起きると、再び応力のバランスが変化し、別の部位でかつお節が変形する。
この現象が続くことで、かつお節の踊る現象が連続する。

感想

 かつお節の細胞は高温の水で復元する。その力でかつお節は動き始め、極限まで膨張して破裂することによって踊る。「かつお節が踊る」という現象は、想像していたよりもずっと深くて驚きに満ちた神秘的な現象だった。

指導について

指導について茨城県結城市立結城東中学校 大山 浩司

 本研究は、本人が小学6年生の時に「かつお節はなぜ踊るのか」をテーマとして、自由研究を行ったものが基になっています。中学入学後、本研究に興味をもった方から電話を受け「全国的にも例が少ないので、内容を詳しく教えてほしい」との依頼がありました。2年程前の研究だったので、細かい質問には答えられなかったため、父親と相談して再研究をしたようです。
 学校の授業では扱う単元もないので、ほとんどの実験や観察を自宅で行ったようです。山中さんは日頃から、身の回りの科学的事象に対する洞察力が強く「なぜ、どうして」という探究心を持っています。今回の研究に関しても、まず過去の論文を読み返し、気温や湿度を変えながら細かく実験を重ねていきました。そして細胞レベルまで言及し、検証することができたようです。
今回、自身の予想をこえる結果が得られたことで、さらに自然科学への興味関心を高めてくれることを期待しています。

審査評

審査評[審査員] 田中 史人

 「かつお節が踊る」現象は、日常生活で私たちの誰もが経験したことがあるはずです。そのような身近な現象に疑問を持ち、その解明に向け取り組んだことについて評価します。
 実験に必要な機材や材料など、身近な物を多く用いて実験を行っています。実験に使った試料も、かつお節の他に13種類について実験しており、進め方も仮説をたて、仮説の検証・結果・考察(仮説の修正)の展開が論理的にまとめられています。
結果の顕微鏡写真も動画で撮影した内容がコマ送りで印刷されており、短い時間での水分の吸収による細胞の変化がとても分かりやすくまとめられていました。その結果から、細胞の膨張に気付き新たな検証へと発展させていくことができました。また、超音波加湿器を使い温度を変えた水分を試料に当てる方法や、高温の水蒸気を試料に当てる時間を変える方法など、条件設定にも様々な工夫がなされています。今後も身近な疑問の解決に向け研究に取り組んでくれることを期待します。

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