研究の動機
小学3年生の理科でモンシロチョウを育てた。小さな卵からかえった幼虫がキャベツを食べて大きくなり、サナギになってチョウに羽化したのが不思議で楽しかった。自分でも興味をもって小学3年生の時からツマグロヒョウモンを育て、毎年いろいろな実験をしながら観察してきた。研究の集大成として今年は、夏と冬のサナギの謎に迫りたい。
これまでの研究の成果(分かったこと)
〈1〉ツマグロヒョウモンの研究1~サナギで分かるオスとメス(2009年・小学3年)
①幼虫は飼育ケースの天井にお尻をくっつけてサナギになる。②サナギのトゲの色で性別が高い確率で分かる。金色はメス、銀色はオス。③サナギの色が黒くなったら、翌日に羽化する。④サナギが黒くなると、羽の模様が透けて見えるのでオス・メスの区別ができる。
〈2〉ツマグロヒョウモンの研究2~時間を止めてねむるサナギのなぞ(2010年・小学4年)
①前蛹(ぜんよう)・サナギに箱をかぶせて遮光しても、羽化の日程は変わらない。②サナギを冷蔵庫の野菜室(12℃)に入れている間は、成長の時間が止まる。③サナギになった日が違っても、野菜室から出す日を同じにすれば、羽化するタイミング(日)を合わせられる。④前蛹を野菜室に入れ、数日後に出せばサナギになるが、そのまま入れておくと死んでしまう(1週間が限界)。
〈3〉ツマグロヒョウモンの研究3~止めた時間をもどす挑戦(2011年・小学5年)
①前蛹から蛹化した1日目のサナギを野菜室で保存すれば、羽化のタイミングを合わせることができる。②野菜室に入れていたサナギを外に出すと、止めた時間が戻ってチョウになる。③野菜室で眠らせ貯めおいたサナギの羽化のタイミングは合うが、1日のズレは生じる。④野菜室に入れている期間が長いと、脱皮不全のチョウになりやすい。⑤なりたてのサナギは軟らかく弱いため、野菜室に入れると脱皮不全のチョウが多く生まれる。少し後に入れるのがよい。⑥前蛹の状態は弱く、野菜室の中では長く生きられない。
〈4〉ツマグロヒョウモンの研究4~時間を戻してお見合い大作戦(2012年・小学6年)
①7日目の硬くなったサナギを野菜室に入れれば、脱皮不全にはならない。②バラバラの日にサナギになったものでも、蛹化7日目のサナギを野菜室に入れて眠らせておき、自然状態で一番成長の遅い幼虫がサナギになって7日目の朝に一斉に野菜室から外に出せば、羽化をそろえられる。③羽化の日に1日のズレは生じる。④羽化したチョウを広い部屋に放してお見合いをさせると、オスが好みの相手に求愛し交尾する。⑤交尾を終えたメスは、オスと離れてすぐに卵を産む。⑥メスは成虫になった後に1カ月以上生きる。
〈5〉ツマグロヒョウモンの研究5~成虫のふしぎ(2013年・中学1年)
①スミレの細い茎にサナギが付いていたのを思い出した。エサ入れのカップ内に竹串をさしたら、竹串でサナギになった。サナギになる場所を誘導できることが分かった。②常温で育てたサナギにも羽化に1日のズレがあった。野菜室による1日の羽化のズレは誤差の範囲だ。③オスは相手を変えて何度も交尾するが、メスは生涯に一度しか交尾しない。④交尾済みのメスは、オスが求愛しても羽を広げ、お尻を高く上げて交尾を拒否する。⑤狭い飼育ケースでは、自然状態ではありえないほどたくさんの卵を産む。⑥オスは短命だが、メスは長生きする。
〈6〉ツマグロヒョウモンの研究6~求愛のふしぎ(2014年・中学2年)
①竹串に自然にサナギが付き、飼育ケースのフタに張った不織布に付いたサナギも竹串に移してやることで、飼育ケースの数を減らし、より多くのサナギを育てることができた。
②オスは、メスのオレンジ色を認識して探すのではない。色画用紙でいろいろな色のメスのチョウ形を作り実験したら、白黒加工した時のオレンジ色に似ている色(水色やピンク色など)に興味を示し、近づくことが分かった。③顕微鏡で観察すると、サナギのお尻の先にはイソギンチャクのようにたくさんの突起物があり、不織布の糸に絡み付いていた。
今年の研究《ツマグロヒョウモンの研究7~黒いサナギのひみつ~》
夏とは違う季節にツマグロヒョウモンを飼育し、幼虫・前蛹・サナギ・羽化を観察する。
(1)秋・冬・春の飼育
秋の観察(2014年9月20日~10月24日)
浜松市のA氏宅で幼虫を採集し飼育した。9匹が9月23日から10月24日までにサナギになり、途中死亡の1匹を除く8匹が10月3日から11月10日までに羽化した。
〈結果〉
サナギの色は、10月15日までに蛹化した7匹が通常の茶色、10月18日と24日に蛹化した2匹が黒色。秋が深まる(気温が低下する)とサナギ期間が長くなり、9月23日蛹化のサナギ(前蛹期間半日)は11日間、10月18日と24日蛹化のサナギ(前蛹期間1日)は18日間。前蛹期間も伸びた。
②秋~冬の観察(10月28日~12月22日)
14匹中7匹は、前蛹になってからヒーターで飼育ケースを温めた(常温より5℃高い)。
〈結果〉
14匹が10月28日から12月19日までに前蛹となり(前蛹期間半日~11日)、12匹がサナギになった。サナギの色は茶色4匹、黒色8匹。このうち6匹(サナギ期間は10~29日間)が11月9日から翌年1月5日までに羽化した。
冬の観察(12月25日~2015年2月13日)
常温では幼虫の動きが鈍く、食欲もないので、すべての飼育ケースをヒーターで常温より5℃高く温めた。
〈結果〉
12匹が12月27日から2月13日までに蛹化した。サナギの色は1匹が濃い茶色で他は黒色。すべてが1月21日から3月2日までに羽化した。サナギ期間は18~30日、前蛹期間は1~3日だった。飼育ケースを温めたので、前蛹やサナギが死ななかった。
④春の観察(2月21日~4月2日)
2月15日にヒーター加温をやめた。
〈結果〉
8匹が2月24日から4月2日までに蛹化した。サナギの色は黒が4匹、茶色と濃い茶色が4匹。後半に濃い茶色が出現した。7匹が4月10日から27日までに羽化した。前蛹期間は1~3日。サナギ期間は2月25日蛹化の45日から4月2日蛹化の26日へと、春になるにつれてだんだん短くなった。
(2)夏の飼育(7月17日~8月1日)
常温飼育での観察
〈結果〉
6匹が7月18~20日に蛹化した。サナギの色はすべて茶色。サナギ期間は8~9日間。7月25~27日にすべてが羽化した。前蛹期間は半日だった。
②サナギの一斉羽化
7月24日に前蛹になった個体に羽化のタイミング(7月31日)を合わせるため、21匹のサナギを蛹化後7日目に野菜室(12℃)に入れ、30日朝にすべてを外に出した。
〈結果〉
12匹が7月31日に、9匹が翌8月1日に羽化した(1日のズレは誤差範囲)。野菜室での休眠日数を除いたサナギ期間は8~9日間。
(3)野菜室で「黒いサナギ」を作る実験(7月17日~9月3日)
前蛹になる前の終齢幼虫20匹を飼育ケースに入れて野菜室で育てた。冬(1月)の昼夜にみたてて、タイマーを使い熱帯魚用水槽ライトを毎日午前7時から午後5時まで(10時間)当てた。
野菜室の温度は野菜を入れていないので8~12℃と低めだ。飼育ケースに冷風が当たらないように送風口を段ボール紙でふさぎ、13~16℃を維持した。
〈結果〉
飼育ケース内で黒いサナギとなり8月27、28日に正常に羽化したのは5匹。黒いサナギになったが羽化に失敗が1匹、羽化に至らず死んだのが1匹。他は幼虫、前蛹のまま死亡した。サナギの色はすべて黒色。羽化した5匹の前蛹期間は2日半~3日。サナギ期間は15日間から19日間。
(4)色画用紙を使った求愛実験
部屋の網戸にいろいろな形に切った色画用紙を張り、オスが近寄る様子を観察した。
〈結果〉
オスは色や形よりも、メスの羽のように黒い縁(ふち)のある紙に興味を示した。
《考察》
ツマグロヒョウモンのサナギには夏型(茶色)と冬型(黒色)がある。日中の最高気温が20℃以下の季節になると黒いサナギが現れる。12℃以下では前蛹や黒いサナギになれても羽化できない。冬型成虫の羽の色は濃く、黒い縁取りやヒョウ柄の点々も太く、大きい。太陽の熱をより吸収し、寒い季節を乗り切るための工夫なのだ。
感想
少しずつ謎を解き、サナギの一斉羽化と採卵まで操作できるようになった。これからも実験を重ね、卵の冷凍、解凍の技術を成功させたい。
審査評[審査員] 田中 史人
本研究は、小学校3年生からの継続研究であり、今年で7年目のものです。
小学校からの研究の集大成として、今までの失敗を生かしながら今回も研究を進めてきました。ツマグロヒョウモンの幼虫のサナギについて、夏にサナギになる場合と秋・冬にサナギになる場合のサナギの色の違いに注目しています。今までの研究の積み重ねを活用して、幼虫の飼育にハムスターの飼育で使うヒーターを使用したり、夏のツマグロヒョウモンの幼虫を冷蔵庫の野菜室に入れたり、電気スタンドをタイマーで管理し光が当たる時間など工夫をすることで、秋冬と同じ条件の下で観察を進めています。
また求愛についても画用紙の色を変えたり、縁取りに工夫をするなど条件を変えた研究を通して、ツマグロヒョウモンが自然界で生きていくために必要なこと等についても考察することができています。
失敗から課題を見つけ論理的に研究を進め、結果から考察を導き出している素晴らしい作品です。
指導について浜松学院大学短期大学部 細田 昭博
小学生の時からツマグロヒョウモンの研究を続けており、今回も母親の協力のもと冷蔵庫を活用して実験を行っている。冷蔵庫にサナギを入れることで羽化日をそろえることができ、多くの成虫による求愛・交尾行動の観察を行うことができた。研究に使ったサナギを見て春夏型と秋冬型のサナギの色の違いに気付いた。そこで温度を変えた野菜室にサナギを入れることにより、夏に秋冬型のサナギを作ることを目指した。夏に冷蔵庫に入れて作った秋冬型のサナギから羽化した成虫が春夏型の成虫と違うことは翅(はね)の模様に注目するよう指導した。また、実験に必要な幼虫を多量に飼育するためにはエサ不足が課題であったが、巨大な葉をつけるスミレを手に入れたことによりエサ不足が解消し、今回の研究をすすめる上で大いに役立った。
未知くんは室内での飼育観察だけでなく、野外での昆虫採集や自然観察、また、いろいろな自然事象に興味関心を持っている。今後も見守っていきたい。