研究の動機
あるテレビ番組で料理研究家が「卵同士をぶつけると、必ず片方しか割れない」と話していた。試してみると、確かに片方しか割れない。「作用反作用の法則」で互いに同じ力が働くならば同時に割れるはずだ。2つの空き缶をぶつけてみると、2つともへこんだ。科学部の研究テーマとして追究する。
研究の目的:卵同士をぶつけると片方の卵しか割れない。そのメカニズムを探る。
【予備実験1】卵は片方しか割れないのか確認する。
〈方法〉
卵を1パック用意し、卵(の側面)同士をぶつけた。
〈結果〉
10回試し常に片方だけ割れた。両方割れることはなかった。
【予備実験2】ぶつける箇所を変える。
〈方法〉
卵のぶつける場所を頭、尻、側面に分け、組み合わせを変えて10回ずつぶつける。
〈結果〉
頭×頭=片方が割れた。尻×尻=片方が割れた。頭×側面=10回とも側面が割れた。尻×側面=尻が割れた4回、側面が割れた6回。頭×尻=10回とも尻が割れた。どの組み合わせでも、片方しか割れない。
また、卵の頭は割れることがない。ぶつける力が同じでも「頭の形がとがっている分、圧力が大きくなるためだ」と考えた。今後の実験では条件をそろえ、側面同士をぶつける。使う卵もスーパーの最も安い卵とする。
【追究1】古い卵の方が割れるのではないか。
《方法》
生産日の違う卵同士をぶつける。
〈結果〉
1週間ほど生産日が違う卵で試した。新×古=ともに5回ずつ割れた。
《まとめ》
卵の割れ方に古さは関係しない。
【追究2】利き手ではない方の卵が割れるのではないか。
《方法1》
右利きの人が、左右の手に卵を持ちぶつける。
〈結果〉
右手の卵が6回(左手は4回)割れた。
《方法2》
片方の卵は動かさずに止めて、利き手の卵だけを動かしぶつける。
〈結果〉
止めた方の卵は6回(動かした方は4回)割れた。
《まとめ》
卵の割れ方に、利き手は関係しない。卵をぶつける速度の違いも関係しない。
【追究3】卵のぶつけ方に違いがあるのではないか。
《方法1》
ぶつける場面を連続写真で確認する。
〈結果〉
左右の手での持ち方が違う。卵のぶつかる箇所が左右同じではなく、ずれている。
《方法2》
卵の持ち方、ぶつかる箇所を同じにする。実験スタンドの持ち手と力学台車を組み合わせ、卵を正確にぶつける装置を作った。
〈結果〉
左右の片方しか割れなかった。
《まとめ》
卵の割れ方に卵の持ち方、ぶつかる箇所のずれは関係しない。
【追究4】卵の中身が関係しているのではないか。
《方法1》
卵の尻に穴を開け、中身を取り出したもの同士をぶつける。
〈結果〉
片方だけ割れた。
《方法2》
ゆで卵にしてぶつける。
〈結果〉
片方だけ割れた。
《まとめ》
中身は関係しない。
【追究5】卵は軽い(小さい)方が割れやすいのではないか。
《方法1》
質量が同じもの同士をぶつける。
〈結果〉
片方だけ割れた。
《方法2》
質量が5g以上差のある卵をぶつける。
〈結果〉
質量が大きい方も小さい方も割れた。5g程度の差では小さいのか。
《方法3》
大きさが同じぐらいの生卵と空っぽの卵をぶつけた。
〈結果〉
質量の差が50g近くあっても、生卵も空卵も同じぐらいの確率(10回中5回)で割れた。
《まとめ》
卵の割れ方に、2つの卵の質量、サイズの差は関係しない。
これまで使ったのはニワトリの卵だった。
《方法4》
ウズラの卵同士をぶつけた。
〈結果〉
片方しか割れなかった。
《方法5》
ウズラの卵とニワトリの卵をぶつけた。
〈結果〉
10回ともウズラの卵が割れた。
【追究6】殻が薄い方が割れやすいのではないか。
《方法1》
ニワトリの卵の殻をやすりで削り薄くしたものと、普通のニワトリの卵をぶつけた。
〈結果〉
殻が薄い方が必ず割れた。
普通の(ニワトリの)卵の殻の厚みを電子ノギスで計測したら0.37㎜、0.39㎜、0.41㎜と、ほんの少し差があった。ウズラの卵の殻は0.24㎜とかなり薄い。
《方法2》
卵の殻の厚みと割れ方の関係を調べる。これまでと同じように2つの卵をぶつけ、割れた方の卵の殻の厚みを計測する。割れなかった方を再び次の卵にぶつける方法で、殻の計測と割れ方の観察を30回行った。
〈結果〉
殻の厚みが違ったのは24回。そのうち、薄い方が割れたのは18回(75%)、厚い方が割れたのは6回(25%)だった。厚みが同じだった6回は、すべて片方の卵だけが割れた。
《まとめ》
卵の殻の厚みには個体差がある。
殻の厚みの違いが卵の割れ方に関係しているのは確かだが、卵同士をぶつけた時に片方の卵しか割れないことの説明はできない。
そこで予備実験2の結果に注目した。「卵の頭がとがっているから、ぶつかる時の圧力が高い」と結論づけたが、本当にそうなのか。卵の頭、側面、尻に絵の具を塗り、平面紙に当てた時の接地面積を比べた。どの箇所の面積もほとんど同じだった。圧力が関係しているわけではない。
卵の頭、側面、尻の形状(曲面の大きさ)の違いに気づいた。頭は曲面が大きいので、殻が力に対抗しやすい。側面の曲面には、卵によって違いがありそうだ。
【追究7】卵の割れ方は、卵の曲面の大きさに関係があるのではないか。
《方法1》
卵の曲面を数値化する。卵を縦に(頭から尻に)真っ二つに切る直線と、その直線に側面の頂点から下ろした垂線の長さを測り、その比(垂線÷直線)を「曲面値」とした。卵の写真を基に、それぞれの側面の曲面値を求めた。
〈結果〉
卵10個の側面の曲面値は0.350~0.386だった。
《方法2》
曲面値ごとの強度を測る。卵の原寸大写真を基に、針金を側面の曲面に沿って曲げながら形取りする。針金の円弧の頂点に1個ずつおもり(20g)をぶら下げ、針金が折れ曲がるまでの重さを量った。
〈結果〉
各5回計量の平均の重さ(強度)は220~296g。曲面値が大きいほど強度も大きくなった。
《方法3》
曲面値と殻の厚み、卵の割れ方の関係を調べる。追究6の方法2と同様に、卵の曲面値、殻の厚みを測定しながら計30回、卵同士をぶつけた。
〈結果〉
殻の厚みが違ったのは22回。そのうち薄い方が割れたのは16回(73%)、厚い方が割れたのは6回(27%)だった。厚みが同じだった8回は、すべて片方の卵が割れた。殻が厚い方が割れた場合と厚みが同じだった場合の曲面値を確認すると、いずれも割れた卵の曲面値の方が小さかった。例外は1回、ともに厚みは同じ0.39㎜、曲面値が0.367と0.377の場合で、曲面値が大きな0.377の卵が割れた。
《まとめ》
卵の割れ方は殻の厚みと曲面値の違いによって決まり、殻が薄い方、曲面値が小さい方が割れやすい。
以前に2つの空き缶をぶつけたら2つともへこんだのは、殻(アルミ)が同じ厚みで、同じ曲面値だったからだ。
【追究8】同じ厚み、同じ曲面値のものとしてチョコ菓子「チョコエッグ」同士をぶつけたら、両方とも割れるのではないか。
《方法》
通販で買い求めて試した。
〈結果〉
15回のうち両方が割れたのは4回(27%)、11回(73%)は片方しか割れなかった。やはり、ぶつかる時のずれが原因か。
【追究9】卵の割れ方には、ぶつけた時のずれが関係しているのではないか。
《方法1》
卵をぶつけた時のずれを確認する。あらかじめ割りたい箇所に印をつけ、印同士が当たるようにぶつけた。10回試したが、なかなか狙い通りに当たらず、最大で10㎜程度のずれが発生した。
《方法2》
針金でチョコエッグの側面を形取り、おもりをぶら下げて負荷をかける位置を頂点から左右に5㎜間隔で5カ所に設けた。
〈結果〉
各点5回ずつ試した。針金が折れ曲がる時の平均の重さ(強度)は290.6~308.8g。負荷をかける位置をずらすと強度も変化した。頂点が308.8gで最も強かった。
チョコエッグ同士をぶつけた時、殻の厚み、曲面値が同じなのに片方しか割れなかったのは、側面の頂点からずれたからだ。1例だけ殻が薄く曲面値が小さい方が割れなかったのも、衝突時のずれが原因だ。
《まとめ》
卵の殻の強度は、ぶつける位置がずれることで変化する。
【研究の結論】
卵を割る時の殻の強度には「殻の厚み」「卵の曲面」「衝突時のずれ」の3要素がかかわる。3要素がすべて一致し、卵の殻の強度が全く同じになる可能性は非常に低い。そのため卵同士をぶつけると、強度の小さい方の卵が先に割れる。
今後の課題と展望
卵の強度差が関係ないくらいの力強さでぶつけたが、やはり卵は片方しか割れなかった。卵は力を少しずつ伝えるため、強度の小さい方が先に割れるのか、今後の課題だ。曲面強度の研究を進めれば、飛行機や新幹線などの先端の強度を高め、自動車の先端を弧の形にすることなどで、より安全な乗り物を世の中に広めることができるかもしれない。
審査評[審査員] 秋山 仁
この作品はテーマ選びに関し、目のつけどころがとても素晴らしい。「2つの卵をぶつけると片方の卵しか割れない」という何の変哲も無い事実に遭遇した時、「これは不思議だ!」と感じる人と何も感じない人がいると思います。彼ら6人はとても不思議だと感じた人々で、“不思議感知アンテナ”をつねに心に設置している中学生です。それが、この研究の発端になりました。そして、試行錯誤の末、殻の強度はぶつける位置によって変化するが、卵の殻が薄い方、殻の曲面値(垂線÷直線)が小さい方が割れやすいという結論を科学的に導いています。2つの殻の強度は普通は同じでないので、片方だけが割れるというメカニズムを見事に解き明かした秀作です。
指導について刈谷市立富士松中学校 永野 英樹
本研究は、研究班6人による膨大な試行回数から成り立っています。卵の割れ方の研究を行うと決めてから、卵を何十パックも購入し、いろいろな方法で割り続けました。思いつく限り、全ての可能性を確かめようと、生徒たちは様々な角度から研究の方法を考えて、実験を繰り返しました。
本研究の最大の発見は、同じパックに入っている卵1つ1つは一見同じようなものに見えても、その形状や殻の厚みに個体差があり、このほんのわずかな個体差が、卵の強度に大きく関係している、ということです。生徒たちは、最新の設備などない中学校の理科室で、この卵の殻の強度の違いを自由な発想と地道な努力で緻密に調べ上げました。
研究班には本研究にとどまらず、これからも身近にある「不思議」を感じ取り、追究に意欲的に取り組み、科学する心を伸ばしていってほしいと強く願います。