第57回入賞作品 中学校の部
秋山仁特別賞

自然放射線について 3

秋山仁特別賞

京都府京都教育大学附属京都小中学校 8年
森田 優奈
  • 京都府京都教育大学附属京都小中学校 8年
    森田 優奈
  • 第57回入賞作品
    中学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

研究の動機

 6年生のときに親子理科実験教室で「自然放射線」というものを学んだ。そのとき、宇宙線による自然放射線は、高い所に行くほどその量は多くなるのか、逆に低い所に行くほど少なくなるのか疑問をもち、研究を始めた。

(1)6年生の研究「自然放射線について」

 飛んで来る放射線の数を音で測る「YY式ガイガーカウンター」を自作し、自然放射線と高度の関係を調べた。標高約2000mの高い所は、ふもとや自宅に比べて自然放射線の量は明らかに多かった。

(2)7年生の研究 「自然放射線について2」

 高度による自然放射線の量の変化を数値化しようとした。放射線量を1時間あたりのμSv/時(マイクロ・シーベルト毎時)単位で測る、市販の半導体センサー式測定器を用いて数値で表すように努力したがうまくいかず、簡単でないことが分かった。今年の研究も、測定器や測定方法を見直し、数値化に挑戦する。

実験の準備:測定器の見直し
~ガイガーカウンターの選定と製作~

 今回は初心に帰り、自然放射線の個数を測るガイガーカウンター(GM〈ガイガー=ミュラー〉管)を採用する。

(1)これまでの測定器

①YY式ガイガーカウンター:仕組みは、ライターのガス(ブタンガス)を入れた筒の中心部に電極を取り付け、+と-の両極に高電圧をかける。高電圧は、静電気をためた「静電気コップ」を電源として使う。筒の中を放射線が通過すると、ガスが電離されて、両極の間で放電する。その時に、近くに置いたAMラジオからパチッという雑音として聞こえる。

〈欠点〉

・静電気コップに十分に静電気をたくわえないと、放射線を検出できなかった。
・しばらく置いておくと、放射線の検出量は少なくなった。
・測定のたびに、GM管にライターのガスを入れなければならなかった。
・ラジオの準備が必要だった。

②半導体センサー式測定器:測定値のばらつきに悩んだ。

(2)今回の測定器

 貯めたこづかいで買える範囲内として、電子工作キット「ガイガーカウンターモジュールGC10」(株式会社ネットIO開発)を購入、製作した。コンピューターとの接続も可能だ。

・放射線を雑音の数で計測するものとは違い、デジタル表示でカウントできる。
・装置をケースに入れることで、少々乱雑に扱っても平気で、山の上での測定では重宝する。

実験:自然放射線の測定

〈実験1〉北アルプス鹿島槍スキー場(標高1130m、長野県大町市)での測定

 ①2015年12月30、31日②2016年1月16、17日③1月31日④2月6、7日の計7回測定した。1回の測定に時間をかけ、回数も多くしたが、放射線のばらつきなのか、測定誤差なのか分からない。宇宙線の発生量は一定ではなく乱れている。

〈実験2〉

 連続測定が必要となるので、自動記録を取るために測定器をコンピューターにつなぐ。その集計用ソフトウエアを父に教えてもらい作成する。測定値の誤差を見極めるために、同じ測定器を2台用意する。6月30日、7月20、25日に京都市の自宅(標高55m)で測定し、2台を検証した。
 実測値に対する近似式をy=axと仮定したときのa値、相関性を示すR-2乗値(1に近いほど相関性は高い)。a値は1分間の放射線カウント数(CPM)でもある。

  1号機 2号機
  a R-2乗値 a R-2乗値
6月30日 20.11 0.9995 20.458 0.9998
7月20日 20.549 0.9999 20.451 0.9999
7月25日 20.785 0.9998 20.915 1
平均 20.5   20.6  

 近似式は実測値と良い相関関係をもっている。ばらつきも少ない。

〈実験3〉長野県駒ヶ根市の中央アルプス登山口「菅の台」(標高850m)、「千畳敷」(標高2612m)での測定

 それぞれ7月2日、23日、28日に測定した。その結果を〈実験1〉の鹿島槍スキー場(標高1130m)、〈実験2〉 の京都市(標高55m)での測定値と重ねて比較した。
・菅の台(標高850m)、鹿島槍スキー場(標高1130m)、千畳敷(標高2612m)の順に自然放射線が高くなっている。
・京都市(標高55m)と菅の台(標高850m)での自然放射線量は変わらない。より低い方が少ないと予想していたが、ほとんど同じだ。

〈実験4〉京都市(標高55m)、加茂川(標高55m)、彦根市(87m)での測定

 自然放射線は宇宙からだけでなく、建物や地中からの影響もある。京都市の自宅はコンクリート造りなので、周辺に建物のない加茂川、さらに京都市よりも、地学的に放射性物質を含む花こう岩が少ない彦根市で測定した。結果は、3地点での自然放射線量は変わりなかった。建物や地中からの放射線の影響は受けていない。

〈実験5〉フィルム保護袋の中での測定

 放射線によるカメラフィルムの感光を防ぐ保護袋の中に測定器を入れた場合、入れない場合での放射線量を調べる。結果はともに変わらなかった。

考察:自然放射線量が、京都市(標高55m)と菅の台(標高850m)で変わらないのはなぜか?

(1)文献のインターネット検索

 ガイガー管方式の線量計には、完全に遮蔽(しゃへい)した状態でも偽(ぎ)の検出をしてしまう。管の品種ごとに固有の数だ。すべてのレンジでオフセット値として加算される。線量が極端に低い領域だと、測定対象よりこの偽検出の割合が大きいため、真値より高く出る。ガイガーカウンターには自己ノイズがあり、低線量では高めに数値が出るという。

(2)「理論値」のインターネット検索

①宇宙からの日本平均の宇宙線量は0.3 mSv(年間)。これは300μSv/年=0.82μSv/日=0.03μSv/時。
②宇宙線は高所ほど強い。日本全体では高度1500m上昇するごとに被ばく線量率は約2倍になる。
③日本列島の海面での平均線量率は約29.7nSv/時(年間0.26mSv)。これは0.0297μSv/時=0.03μSv/時となり①と同じ。

(3)検索文献から理論式を導く

①海面での日本の平均線量は0.03μSv/時。
②宇宙線は1500mごとに約2倍となることから、放射線量は2(h/1500)倍になる(hは標高〈m〉)。
③①と②から、自然放射線量をyとして、
y(μSv/時)=0.03×2(h/1500)となる。
 また、株式会社ネットIO開発Specification of GC10 Date I/O Interfaceより
μSv/時 value=CPM/gsm
  gsm=conversion rate(default=150)
自然放射線量をyとして、
 y(CPM)=0.03×2(h/1500)×150となる。

(4)自然放射線量の理論値と今回の測定値

 自然放射線量の理論値に、今回の測定値(CPM)をプロットすると、右上図のようになる。「ガイガーカウンターには自己ノイズがあり、すべてのレンジでオフセット値として加算される」ので、オフセット値を+16とすると、非常に良い相関関係があることが分かる。よって
 y(CPM)=0.03×2(h/1500)×150+16

(5)標高が約900m未満では、それ以上に比べて自然放射線量の増加が少ない。測定の誤差を加味すると、京都市(標高55m)と菅の台(標高850m)で変わらないのも理解できる。

(6)昨年の半導体センサー測定値をプロットすると、相関関係があるとは言い難い。やはり、測定のばらつきが大きい。

感想

 ついに念願の「数値化」に成功した。最大の難所は「標高約900m未満では、測定値に思ったほど差が見られなかった」ことだ。疑問が解決されたのは「ガイガーカウンターには自己ノイズがあり、すべてのレンジでオフセット値として加算される」ということ。さまざまな疑問と闘いながら一つ一つ詰めていくことが重要だ。

指導について

指導について京都教育大学附属京都小中学校 野ヶ山 康弘

 本研究は自然放射線について自作した測定器を使って立体的に観測し、3年間かけて自然放射線の性質を研究した作品です。東日本大震災以来、放射線への関心が高まり、人工的な放射線に目が向きがちな中、太古から身近に存在する自然放射線に目を向け、その性質を追究した点に大きな意味があります。実験室の中だけでなく、フィールドワークを中心に自分の足でデータを集めた点に意識の高さを感じます。既製の放射線測定器を使用するのではなく、自ら測定器を作成することで放射線の特性を理解し、データを収集・分析した点も素晴らしい点です。このように自らが感じた自然の不思議を解決するべく、仮説と検証を繰り返し根気強く取り組むことができました。そして数年にわたり研究を積み重ねることができたのは、疑問を自らの力で解き明かそうとする彼女の強い気持ちとその気持ちを支える家族の協力があったからです。

審査評

審査評[審査員] 秋山 仁

 この研究は、NPO法人知的人材ネットワーク・あいんしゅたいんが主催した科学教室で「実験テーマ・えっ!私たちの身の周りにも放射線があるの?~YY式ガイガーカウンターを作って自然放射線を測ってみよう~」の授業に端を発して森田さんが3年間一連の自由研究を行った成果です。小学6年生の時は、自作のYY式ガイガーカウンターを用い、自然放射線と高度の関係を調べ、高い所は低い所に比べて自然放射線の量が多いことを確認するところまで成功しています。中1の時は、前年の研究“高度による自然放射線量の変化”の数値化を試みたのですが、あまりいい結果を得られなかったそうです。今回(中2)の研究は、中1の時の失敗を克服し、数値化に成功しています。また、標高が900m未満の場合には測定値に差が見られなかった理由を、誤差論や最小二乗法等の高度な数学を用いてデータを分析して考察している点は大いに評価できます。科学的真実を解き明かすときに、数学がとても有効な手段になるということを実感させてくれるテーマでもあったと思います。

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