第58回入賞作品 小学校の部
文部科学大臣賞

イモリの研究6年目 イモリのほかく大作戦2
〜イモリに捧げる曲(ぼく)VSトルコ行進曲(モーツァルト)〜

文部科学大臣賞

石川県金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校 6年
部家 匠
  • 石川県金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校 6年
    部家 匠
  • 第58回入賞作品
    小学校の部
    文部科学大臣賞

    文部科学大臣賞

はじめに

 幼稚園のころにイモリを知り、好きになった。小学1年からイモリの特徴、歩く速さ、水にもぐれる時間、イモリが壁からすべり落ちずに耐えられる角度を研究し、昨年の5年のときは、イモリの好きな音や光などを調べた。昨年の実験では、イモリは水が流れる音や特定の周波数の音が好きだと分かったが、ちゃんと音に反応しているのかどうかは分からなかった。

今回の研究の目的

 いつもイモリを捕るのに苦労している。網で捕れる範囲まで、イモリが近づいてくれないからだ。そこで、イモリが好きな曲を聞かせたらイモリが集まり、たくさん捕れるのではないかと考えた。次の三つを目的に研究する。

(1)イモリの好きな音(周波数)を使ってピアノ曲を作る。
(2)作ったピアノ曲をイモリに聞かせて、たくさん捕れるか実証(実験)する。
(3)実証がうまくいったら、なぜイモリが集まって来たのか、実験装置を使ってさらに詳しく調べる。

〈1〉イモリの好きな曲

 昨年の実験で、イモリは周波数630~2000Hz(ヘルツ)の音が好きだと分かった。この周波数の範囲の音で曲「イモリに捧げる曲」を作った。イモリの好きな水が流れる音、小鳥のさえずりをイメージした曲にした。ちなみに、後の実験でも使う「トルコ行進曲」(モーツァルト)の周波数は123.47~1046.502Hzの範囲だ。

「イモリに捧げる曲 」作曲・演奏:部家 匠

 (注)曲を流すとイモリがたくさん集まってくる可能性があります

〈2〉小川での実証実験
〜ピアノ曲でイモリを捕まえることができるか?〜

 イモリがいる小川の中でピアノ曲を流し、イモリが集まって来るかを調べる。

〈方法〉

 ロングパイプ(長さ1.5m、塩ビ管)の一端にスピーカーを取り付け、「イモリに捧げる曲」「トルコ行進曲」と「ピアノソナタ第8番『悲愴』」(ベートーベン)を、水中に入れたパイプの先から10分間流す。

〈結果〉

 「イモリに捧げる曲」では、パイプの半径1m以内にイモリが集まり28匹を捕まえた。「トルコ行進曲」では、イモリは岩かげに隠れた。「悲愴」では、パイプの先端までは来なかったが、数匹集まった。なぜ「トルコ行進曲」には集まって来なかったのか。違いは何か?

〈3〉イモリがピアノ曲に反応するかどうかを正確に調べる

(1)スピーカーからの距離による音量の変化

〈方法〉

 床に騒音計を固定し、そこからスピーカーを0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0mと離して音量を測定する。距離1.5mのときの音量と、ロングパイプ(長さ1.5m)を通したときの音量を比較する。

〈結果〉

 0.1mから0.5mまでは、音量は84dBから66dBへと急激に小さくなった。それ以上の距離では変化しなかった。音は離れるとすぐに小さくなるが、ある距離からはそれほど小さくならない。これは、音が放射状に広がって伝わることを示している。また音は、ロングパイプを使うと、ほとんど小さくならない(平均86dB)。これはパイプの中で音が逃げないからだ。

(2)実験装置の作製

 パイプを使って3種類の実験装置(タイプA、B、C)を作る。穴の位置によって、一端に取り付けたスピーカーからの音量がどう変化するかを調べる。

◇タイプA

 4個の穴で、それぞれにふたを閉めた場合(ふたあり)と閉めない場合(ふたなし)について、スピーカー側から2番目と3番目の穴での音量の違いを調べる。水にいるイモリを想定し、パイプの中に水がある場合(水量2/5)、水がない場合についても調べる。

穴の位置 水なし 水量 2/5
実験 1 2 3 4 平均(dB) 平均(dB)
× × × 70.8 0.5 66.4 0.9
× × × 71.3 65.5
× × 70.4 2.5 67.8 0.7
× × 72.9 68.5
× 73.0 6.9 66.8 5.9
× 66.1 60.9
79.0 4.3 70.8 4.3
74.7 66.5
×ふたあり〇ふたなし●騒音計

 実験①②から、すべての穴のふたを閉めたとき、スピーカーに近い穴2と穴3では、差があまりなかった。水がある場合は音量が小さくなった。

 実験③④から、穴4のふたを開けた場合、音量は①②とあまり変わらなかったが、穴2と3の差は2.5dBと大きくなった。しかし水が入ったときの差は0.7dBと、あまり変わらなかった。穴4を開けることで、音が抜けていったと考えられる。さらに音を逃がすために、実験⑤⑥では穴1のふたを閉め、それ以外の穴のふたを開けた。音量の差は水なし、水量2/5ともに大きくなった。実験78で、スピーカーに一番近い穴1を開けると、実験⑤⑥に比べて穴2、3での音量はともに大きくなったが、その差は4.3dBと小さくなった。

ふたの開け閉めによって、スピーカーに近い左右(穴2と3)の音量の差が変わることが分かった。

 なお、穴1のふたを閉めると、パイプの中に入れたイモリが取り出しにくくなるので、今後の実験では穴1のふたを開けた状態で行うことにした。

◇タイプB

 ロングパイプをタイプAにつぎ足した。4個の穴のすべてのうち、穴2と穴3での音量を調べる。

〈結果〉

 すべての穴のふたを開けて実験したが、穴2と3で音量の差はなかった。ロングパイプでは音が一方向に逃げず、音がこもってしまったと考えられる。

◇タイプC

 タイプAに穴を一つ(穴4)を追加し、穴2、3、4での音量を調べる。パイプの中に水がある場合(水量2/5)、満水の場合、水がない場合の3条件で実験する。満水の場合を付け加えた理由は二つある。
①自然界では水深20~30cmでイモリの体は完全に水につかっている。
②パイプの中に空気があると、イモリはパイプの穴からでなくても呼吸ができてしまうからだ。

〈結果〉

穴の位置 水なし 水量 2/5 満水
実験 1 2 3 4 5 平均(dB) 平均(dB) 平均(dB)
78.6 9.2 72.2 6.2 52.9 0.7
69.4 66.0 52.2
71.7 68.6 52.8

 穴2、3の音量に大きな差(9.2dB)が出た。パイプの中が満水になると音量は小さくなる。

(3)イモリの好きな音、きらいな音

 タイプCの実験装置を使い、イモリがスピーカーから出る音に近づくか離れるかで、音の好き・きらいを調べる。

〈方法〉

 タイプCの真ん中に設けた投入口からイモリを1匹ずつ、計20匹入れて、音に近づいたイモリ、離れたイモリを数える。聞かせる音は「イモリに捧げる曲」「悲愴」「トルコ行進曲」と、蚊の羽音を模した「モスキート音」(1000Hz)、「水の流れる音」の5種類。音の大きさはスピーカーの最大音量1、その1/2音量、1/4音量とし、パイプの中が満水、水量2/5、水なしの場合について調べる。

〈結果〉

音の種類 音量 水量 好き きらい
無音 なし 12 8
イモリに捧げる曲 1 2/5 5 15
満水 13 7
悲愴 1 2/5 9 11
悲愴(好き 4匹) 3 1
トルコ行進曲 1 2/5 11 9
1/2 13 7
1/4 11 9
モスキート音 1 2/5 8 12
満水 16 4
水の流れる音 1 2/5 11 9
1/2 11 9

 「無音」で、「好き」の方向に動いたイモリは12匹、「きらい」は8匹。音のない状態では本来、好き・きらいが半々の10匹ずつと考えられるので、±2匹は誤差の範囲だ。そのような意味から、13匹以上の多くのイモリが「好き」を示したのは「イモリに捧げる曲」「トルコ行進曲」「モスキート音」の3つだが、同じ「イモリに捧げる曲」でも15匹が「きらい」を示すなど、明らかに「その音(曲)をイモリが好きだ」という結果は得られなかった。

〈考察〉

 小川での実証実験では、音(曲)によってイモリが集まって来たのに、今回の実験ではそうはならなかった。パイプの実験装置の中が暗いので、イモリは逃げるのに必死で、音楽どころではなかったのかも。もう少し広く、明るい場所で、イモリを慣らしてから実験すれば、実証実験での結果を再現できるかもしれない。

〈4〉人工池でのイモリの実験

(1)庭の水のない人工池(90cm四方)にイモリ(20匹)を入れ、一隅にスピーカーを置いて、音(イモリに捧げる曲)を10分間聞かせる

イモリの分布の変化から、好き・きらいを調べる。

〈方法〉

①スピーカー(長い筒)だけを置いた場合、②スピーカーの他に、ダミーとして短い筒を片隅に置いた場合、③スピーカー(長い筒)と石板を置いた場合、④スピーカー(短い筒)と石板を置いた場合、⑤無音で短い筒だけを置いた場合、⑥⑤の日なた、日かげにおけるイモリの分布を観察する。

〈結果〉

必ずしも音の出るスピーカーに集まらず、他の隅や短い筒、石板にも集まった。イモリは「イモリに捧げる曲」を好きではない。

(2)人工池での金網を使った実験

屋外の人工池では、日なたと日かげもイモリの分布に影響しているのかもしれない。イモリを金網で囲い、スピーカーのそばに置いたときの様子を調べ、音の好き・きらいを調べる。

〈方法〉

イモリ(20匹)を円筒形の金網に入れ、一隅のスピーカーのそばに置く。いずれも日かげに入る状態で5分間、「イモリに捧げる曲」を聞かせる。そのときの、金網の壁に登っているイモリ、脱出したイモリ、とどまったイモリの数を調べ、無音のときとで比べる。

〈結果〉

音の種類 壁に登っている 脱出した とどまった
イモリに捧げる曲 3 2 15
無音 3 5 12

ぼくのピアノ曲に聞きほれていたのか、脱出したイモリは少ないが、それほど大きな差はなく、好きかどうか判断できなかった。

(3)室内での「たらい」を使った実験

太陽光や風、音などによる影響のない室内で実験する。

〈方法〉

水を張ったたらいの四方4カ所にスピーカー1個とダミーの筒3個を立てて置く。イモリを水に放して、1~10分間音を流し、1分ごとの分布を記録する。音量(最大100)が3、6、12、25、50、100の場合、水深が7cm(イモリ20匹)、14cm(イモリ5匹)の場合について、スピーカーの置く位置を変えて調べる。

〈結果〉

いずれの場合もイモリは、特にスピーカーだけに集まることはなく、音に対する分布の変化は確認できなかった。

〈5〉ピアノ曲を聞かせていないイモリの実験

  これまでの実験で使ったイモリは、以前から「イモリに捧げる曲」を聞きなれていたので、実験で反応しなかったのかもしれない。自然界のイモリを捕まえて実験する。

(1)音量依存性についての実験

〈方法〉

タイプCの実験装置を使い、音量(最大100)が3、6、12、25、50、100の場合について、イモリの好き・きらいを調べる。新たに捕まえたイモリ、たらい実験で少しだけ曲を聞かせたイモリ各10匹を使う。

〈結果〉

初めて聞かせたイモリ 少しだけ聞かせたイモリ
音量( 最大 100 ) 好き きらい 好き きらい
3 6 4 5 5
6 6 4 5 5
12 9 1 6 4
25 10 0 8 2
50 7 3 7 3
100 7 3 5 5

 初めて曲を聞かせたイモリは、どの音量でも「好き」の方が多い。特に音量25では全てのイモリが「好き」だった。少しだけ聞かせたイモリも同様な傾向だった。

〈考察〉

 これまでの実験(装置タイプC、人工池、たらい)では、イモリの好き・きらいに明確な差がなかった。いずれのイモリも、ピアノ曲に聞きなれていたからだ。たらい実験では、イモリは音よりも、ダミーの筒に隠れることに必死だったのかもしれない。今回のタイプCの実験では左右どちらかにしか行けないので、明確な差ができた。小川で行ったフィールド実験の結果とも矛盾しない。

(2)曲依存性についての実験

 2種類のピアノ曲を連日交互に聞かせ、好き・きらいを調べる。

〈方法〉

 実験装置タイプCを使い、26日間交互に「イモリに捧げる曲」と「トルコ行進曲」を聞かせて好き・きらいを記録する。使ったイモリは「たらい実験」あり・なしの各10匹。さらに、ピアノ曲を聞きなれていた50匹。水量は満水、音量(最大100)は25とした。

〈結果〉

 「イモリに捧げる曲」を聞かせた計13回の実験では、曲をよく聞いていた「たらい実験あり」のイモリ、今回初めて聞いた「たらい実験なし」のイモリともに、毎回半数以上(5~8匹)が「好き」を示した「。トルコ行進曲」では、計13回の実験中、たらい実験あり・なしともに「好き」は毎回半数以下だった。たらい実験あり・なしの合計値でも、「好き」の数は「イモリに捧げる曲」の方が「トルコ行進曲」を上回った。

 たらい実験なしのイモリ(10匹)でも、「イモリに捧げる曲」が「好き」な数は、実験を重ねるごとに少なくなり、6回目ぐらいから「実験あり」のイモリと同数ほどになり、さらに、前から家にいて聞きなれていたイモリ(50匹)の10匹平均値(5.6匹)にも近づいた。自然界から捕って来たばかりのイモリでも、数回曲を聞くと慣れてしまう。「トルコ行進曲」でも同様な傾向だった。

(3)異なる曲調での実験(アレンジ効果)

 曲調の違いでイモリの音への好みが変化するか調べる。

〈方法1〉

 ぼくが編曲した「トルコ行進曲風『イモリに捧げる曲』」(はげしい曲/以下、トルコ風イモリ)、「イモリに捧げる曲風『トルコ行進曲』」(水の流れる音をイメージしたきらきらした曲/以下、イモリ風トルコ)を連日交互に10日間、イモリ10匹に実験装置タイプC(満水、音量25)で聞かせる。

〈結果と考察〉

 「トルコ風イモリ」が「好き」は毎回半数以上(6~8匹)、「イモリ風トルコ」は毎回半数以下(2~5匹)だった。「イモリ風トルコ」が「きらい」は毎回半数以上(5~8匹)と、「トルコ行進曲」と同じくらい「きらい」だった。水の流れる音をイメージしたら多く集まると思ったが、あまり好まれなかった。使っている曲の周波数と関係していると考えられる。

〈方法2〉

 「イモリに捧げる曲」を短調に変えて、イモリ10匹に計5回聞かせ、好き・きらいの変化を調べる。

〈結果と考察〉

 「好き」は毎回半数以下(2~5匹)だった。イモリは陽気で明るい曲調、周波数630~2000Hzの曲が好きだと分かった。

感想

 小川で「イモリに捧げる曲」を流し、イモリが効率よく捕れたのにびっくりした。タイプCの実験は、1匹ずつ610回以上行ったので、時間がかかり大変だった。曲のアレンジも難しかった。でも、イモリが大好きなので楽しかった。イモリにも人間と同じように、個性があることも再確認できた。

指導について

指導について金沢大学理工学域生物学コース4年 髙橋 和大

 本研究は、6年間アカハライモリに情熱を注いだ研究者の集大成となります。これまでイモリの特徴についてさまざまな視点から研究を行い、昨年たどり着いたのが“イモリ”と“音”の関係についてでした。イモリのことが好きでたまらない研究者は、自分の作った曲でイモリをたくさん捕まえたいというオリジナリティーあふれる素晴らしい着眼点から研究を始めました。フィールド調査を行い実際に作曲した曲でイモリがたくさん捕れたので、今度は室内実験でこの現象を検証してみようと取り組む姿は、さながら一人の生態学者でした。いくつかのハプニングに見舞われながらも、室内実験の中で新たな発見があるたびに目を輝かせて「もしかしたらこうかもしれない」と独自の考察を披露してくれたことが印象に残っています。これからもその広い視野を持って、科学に対する不思議を探究していくことを期待しています。

審査評

審査評[審査員] 友国 雅章

 部家君はイモリが大好きで、1年生のときからイモリを使ってさまざまな自由研究をしてきました。昨年の実験でイモリが水の流れる音や特定の周波数の音が好きなことは分かりましたが、それが本当にそのような音に反応したからかどうかはよく分かりません でした。それを多くの実験で確かめたのがこの研究です。音に対するイモリの反応を調べるため、自分で工夫した実験装置を使い、いろいろ条件を変えて何度も実験を繰り返した粘り強さにまず感心しました。なかでも、自分で作曲したピアノ曲「イモリに捧げる 曲」やモーツァルトの「トルコ行進曲」などを聞かせてイモリの反応を調べるというアイデアはとても素晴らしいと思いました。実験結果が仮説通りにならないこともありましたが、そのような結果を冷静に考察したことにも好感が持てます。動物の感覚を調べるのはそれほど簡単ではありません。一つの条件だけを変化させられるような実験装置を作るのが難しいからです。部家君も今回の研究結果に満足せず、さらに信頼性の高い結果を得られるような研究にチャレンジしてください。

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