研究の動機
1年生の時から家でオジギソウを育て、朝の水やりのたびに葉に触り、葉が閉じる様子を楽しんでいる。ある日、触る場所によって葉の閉じ方に違いがあることを発見した。葉の先にちょんと触ると、まるでドミノ倒しのように葉が次々閉じていった。葉の中心を触ると、葉の全体がぱっと一瞬で閉じた。6年目にして初めてピンク色の花が咲き、胸が高鳴った。葉に触って閉じた後、しばらくすると葉が開いている。また葉は朝や昼は開いているのに、夜になると触らなくても閉じている。これらのことを本で調べると、植物の中の液体が動くことで、葉が閉じたり開いたりすると書かれていて、その運動を「膨圧運動」と呼ぶことが分かった。もっと詳しく知りたいと思い研究した。
《1》葉の閉じ方の実験
(1)どう閉じる?
葉のいろいろな場所を刺激し、葉が閉じる時間や様子を調べる。
〈方法〉
与える刺激は①接触(指で触る、スポイトで水を付ける)②振動(ストローなどで息を吹き付ける)③熱(線香を近づける)④冷気(ドライアイスを近づける)の4種類。刺激を与える場所は、羽状葉の先・羽状葉の中央・副葉沈・主葉沈の4カ所。それぞれの刺激を4カ所で3回ずつ与える。
〈結果と考察〉
・オジギソウは熱(線香)に対して一番反応した。羽状葉の先、羽状葉の中央、副葉沈を刺激すると4枚全ての羽状葉を閉じ、葉柄を下げた。4枚全ての羽状葉が閉じたのは、他に主葉沈を指で触ったときに1回あった。閉じる時間は平均22.33秒。オジギソウは危険を察知して素早く閉じたのだ。
・羽状葉が1枚だけ閉じたのは指・水・振動・低温による刺激で、閉じた時間は平均8.07秒。
・水の刺激で羽状葉は反応したが、副葉沈と主葉沈は反応しなかった。自然界では雨が降るので、いちいち水に反応しない。水に害がないことを知っているのだろう。
・ドライアイスを主葉沈に近づけると、一瞬(平均1.41秒)で葉柄が下がった。主葉沈は風に反応しない。
・4枚の羽状葉が閉じる場合、1枚目が閉じてから2枚目が閉じる時に、10秒ほどの時間差があった。植物の中の液体の動き、特に副葉沈に秘密がありそうだ。
(2)閉じる順番は?
同じ葉身の羽状葉に、刺激に反応する順番があるのか調べる。
〈方法〉
4枚の羽状葉をそれぞれ指で触り、2番目、3番目、4番目に閉じる羽状葉を記録する。羽状葉は端から順にA~Dとし、それぞれを1番目に5回ずつ行う。
〈結果と考察〉
・2番目に閉じる羽状葉は、1番目の隣であることが多い(確率90%)。
・3番目の羽状葉は、①1番目が端のA、Dの時は、2つ隣の葉が多い(60%)。②1番目がB、Cの時は、2番目に閉じた葉とは逆隣の葉が多い(90%)。
・4番目の羽状葉は、①1番目がA、Dの時は、もう一方の端の葉であることが多い(70%)。②1番目がB、Cの時は、2つ隣の葉が多い(90%)。以上のように、羽状葉の閉じる順番には規則性がある。
(3)裏側の反応は?
葉の表と裏では、刺激に対する反応が違うか調べる。
〈方法〉
(1)と同様の刺激を、羽状葉の裏側の先・中央、副葉沈・主葉沈の裏側にそれぞれ与える。
〈結果と考察〉
・4カ所とも熱(線香)に一番反応した。
・主葉沈は水と風に反応しない。
・羽状葉の表裏での反応の違い:指の接触には表側、水には裏側、振動には裏側、熱には表側がよかった。
《2》葉の開き方の実験
(1)何分で開く?
羽状葉が閉じている状態から開き切るまでの時間を計る。
〈方法〉
①葉柄が垂れ下がっている場合②葉柄は垂れていないが、葉身が閉じている場合③1つの羽状葉が閉じている場合④羽状葉の先から中央まで閉じている場合について、それぞれが完全に開き切るまでの時間を3回ずつ計測する。これらは室内(気温26.2℃、湿度64%)で行う。
〈結果と考察〉
いずれの場合も、閉じてから1分30秒ほどで開き始めた。開き切るまでの平均時間は①8分20秒②7分43秒③7分48秒④6分3秒、全体の平均時間は7分29秒。もっと長い時間をかけて開くと予想していた。閉じるのは数秒だが、開くまでは数分かかる。
(2)気温と湿度は関係ある?
熱(線香)や冷気(ドライアイス)によく反応するので、気温や湿度に敏感なのではないか。
〈方法〉
(1)の実験を屋外で行い、羽状葉が完全に開く平均時間と気温・湿度の関係を調べる。
〈結果と考察〉
屋外(気温34.6℃、湿度47%)での平均時間は①4分37秒②4分34秒③5分52秒④3分56秒、全体平均は4分45秒。いずれも(1)より短い。やはり葉が開く時間は温度・湿度に関係し、気温が高く湿度が低いと、葉は速く開く。
《3》体内時計の観察
(1)何時に眠る?
羽状葉が閉じる時刻を調べる。
〈方法〉
室内で鉢栽培のオジギソウを観察し、羽状葉が完全に閉じる時刻を3日間記録する。日の入り時刻(さいたま市)と比較する。
〈結果と考察〉
葉が閉じた時刻は8月21日17時30分(日の入り18時24分)、22日17時16分(18時23分)、23日17時22分(18時22分)。日の入りの約1時間前から、鉢栽培の一番高い位置にある羽状葉が閉じ始めた。さらに鉢の外側の羽状葉から閉じ始め、内側の葉が最後に閉じる。
(2)何時に起きる?
羽状葉が開く時刻を調べる。。
〈方法〉
8月19日(日の出時刻5時3分)に、室内のオジギソウの羽状葉が開く様子をデジカメで連続撮影し記録する。
〈結果〉
5時3分:オジギソウはまだ眠っている。(5時8分:室内のカーテンを開けた。外はまだ薄暗い。)5時21分:下方の羽状葉が動き始めた。5時35分:垂れていた葉柄が上がってきた。5時40分:根元内側の羽状葉が開いてきた。6時7分:外側の羽状葉が開いてきた。6時25分:根元の羽状葉はほぼ開いている。6時35分:中ほどの羽状葉が開いてきた。6時50分:上方の羽状葉が開き始めた。7時11分:ほぼ全体の羽状葉が開いてきた。7時30分:てっぺんまで全部の羽状葉が開いた。
〈考察〉
オジギソウの羽状葉は日が出てから開く。根に近い方、内側の羽状葉から開く。カーテンをしていると、いつまでも開かないようだ。羽状葉が開くには紫外線が必要なのか。
感想
早起きして、オジギソウの葉が開いたり閉じたりするのを観察するのが楽しかった。実験では、強風で羽状葉が揺れて閉じてしまったり、羽状葉の先だけを閉じさせることに何度も失敗したりした。それでも、葉の閉じ方にはいろいろなパターンがあり、閉じる順番に規則性があること、温度と湿度によって開き方に差があることなどを発見し、うれしかった。
審査評[審査員] 林田 篤志
1年生のときから自宅で育てているオジギソウを継続して観察してきました。あるとき、触る場所によって葉の閉じ方に違いがあることに気づき、その疑問の解明のため、葉の開閉に関与する膨圧運動について詳しく追究したのがこの研究です。葉の閉じ方、葉の開き方、体内時計と、大きく三つの事柄について調べました。刺激による葉の閉じ方の実験では、接触(指、水)や振動(風)、温度(線香、氷)について何回もデータを取り、結果を図や表、グラフを使って分かりやすくまとめている点が優れています。また、失敗しても諦めずに何度も繰り返し実験や観察に取り組んでいった姿勢が立派です。その結果、葉の閉じ方には一定のパターンがあり、葉の閉じる順番には規則性があることなどを明らかにしました。今後は、反省にあるように、条件制御について改善を図ることやさまざまな条件下での実験を行ったりすることで、さらに深化した研究になることを期待しています。
指導について蘒原 史江
オジギソウを育てて6年。突然花を咲かせたので驚いたのなんの。細い茎の先端に桃色のふわふわした丸い形。まるで、華奢な体にアフロヘアのいでたちである。なんとも愛らしい。初対面のとき、思いがけず有名人に出会ったかのような黄色い声援を娘と二人で送り続けた。きっとオジギソウも悪い気はしなかったのであろう。次々に花を咲かせた。この出来事で娘のオジギソウへの興味がぐっと加速した。まず図書館で11冊の本を借り、膨圧運動について学んだ。次に、本に書かれてある通りの反応なのか実験をした。すると、葉の閉じるスピードに違いがあること、閉じる方向や反応に規則性があること等を発見した。この事は本には書かれておらず、「大発見だ!」と娘は目を輝かせた。今秋、ふわふわのアフロは消えギザギザでトゲトゲの種が出現した。明るく陽気な子が一転、不良になってしまった。そんな心境だ。驚愕。オジギソウって面白い。