研究のきっかけ
夕食に金時草の酢の物が出たとき、きれいなピンク色をしているのにびっくりした。あんこ屋をしているお父さんが「金時草をあんこにしようとしても、黒ずんでしまい、きれいな色がでないのだよ」と言った。ぼくが金時草のきれいな色のあんこやお菓子を作ってみようと思った。
◇金時草(キンジソウ):葉の表が緑色、裏が赤紫色をした、熱帯アジア原産のキク科多年草。日本には江戸時代に中国から伝わり、熊本市水前寺地区で「水前寺菜」として栽培。さらに各地に広がり加賀地方で「金時草」、沖縄県で「はんだま」、愛知県で「式部草」などと呼ばれる。
《1》金時草をゆでた時の変化を調べる
金時草の葉や汁の色は、ゆでる時間によって変わるのか調べる。
〈方法〉
①水100mlを沸騰させ、金時草5gを15秒、1分、5分、10分ゆでる。それぞれを皿に取り、葉やゆで汁の様子を観察する。リトマス試験紙で酸性・アルカリ性を調べる。②ゆでた後(30分、3時間、6時間、24時間)の葉の色の変化を観察する。
〈結果と考察〉
葉の変化:15秒ゆでただけで葉の裏の紫色はなくなり、緑色になった。さらにゆでると、葉の裏の色は黒っぽい緑色になった。ゆでることで葉の裏の細胞が壊れ、紫色の色素アントシアニンが流れ出たのだ。ゆで時間が1分をすぎると、葉の表面に少し「ぬめり」が出てきた。5分、10分になるとぬめりはさらに強くなりネバネバになった。
ゆで汁の変化:ゆでて1分までは見た目は透明、5分以上ゆでると2回は青色、1回は紫色になった。10分ゆでると、にごった緑色になった。同じ条件で実験したのに色が同じにならないのは不思議だ。リトマス試験紙では、いずれも赤色のリトマス試験紙が少し青色になった。金時草のゆで汁は弱アルカリ性だ。
ゆでた後の変化:金時草の葉に紫色が残っていても、湯から上げると、紫色はあっという間に黒っぽい緑色に変わった。空気に触れると色が悪くなるのかな。時間がたっても、黒っぽい緑色は元の葉の色に戻ることはなかった。
《2》ゆで汁の秘密を探る
実験《1》で、ゆで汁の色が同じにならなかったので、色の変化についてさらに調べる。
(1)ゆで時間とゆで汁の色の関係
〈方法〉
水100mlを沸騰させ、金時草5gを1分、2分、3分、4分、5分ゆでる。それぞれのゆで汁の色や葉の変化を観察する。水・金時草が200ml・10gの場合とで比べる。レモン汁を入れたときの色の変化も調べる
〈結果と考察〉
ゆで時間が1分、2分ではゆで汁に色は出なかったが、3分以上になると一気に色が変わった。→3分以上ゆでると、葉のアントシアニンがゆで汁に出てくるからだ。金時草を食べるときも、ゆで時間は2分以内にするのが、栄養分が失われなくてよいと思う。
3回の実験で1回だけゆで汁が緑色になったが、青色や紫色に変わらなかった。他の実験ではスーパーで買ってきた新鮮な金時草を使ったが、その実験では冷蔵庫に9日間入れてあったものを使った。金時草は古くなると、紫色のアントシアニンが少なくなるのかな。
水100ml・金時草5gの実験ではゆで汁は緑色から青色、藍色に変わった。水200ml・金時草10gに増量した場合のゆで汁は青紫色から赤紫色に変わった。水を多くしてゆでれば紫色に変わるのかな。
レモン汁を入れると、ゆで汁の濃い青色は濃いピンク色になった。ゆで汁が緑色のときは変わらなかった。水200ml・金時草10gに増量した場合にも濃い紫色のゆで汁ができたが、レモン汁で変化したピンク色は薄かった。レモン汁を入れるタイミングの問題かな。
(2)濃い色のゆで汁を作りたい
これまでの実験で、5分ゆでたときのゆで汁の色が一番濃かった。
〈方法〉
水100ml・金時草5gの条件で5分ゆでる実験を4回行う。
〈結果と考察〉
4回の実験でゆで汁の色は、薄い紫色、緑色、赤みのある紫色、濁った青色と毎回違った。レモン汁を入れると、紫色や青色のときはしっかりしたピンク色になるが、緑色のときは薄いピンク色だ。緑色のときはアントシアニンがゆで汁に溶け出していないのだ。
(3)古い金時草はアントシアニンが少ない?
〈方法〉
冷蔵庫で3週間保存した金時草5gを水(100ml、200ml)の沸騰水で3分、5分ゆで、ゆで汁の色を観察する。pH試験紙で酸・アルカリ度を調べる。
〈結果と考察〉
計5回の実験を行い、ゆで汁の色は青色、紫色、薄い緑色などと毎回違った。ゆで汁の色と金時草の鮮度、沸騰水の量は関係がない。pH試験紙による検査で、ゆで汁が青っぽい色のときはpH7、紫色のときはpH6ほどで中性だった。ゆで汁の色の違いはpHの違いと分かった。
(4)ゆで汁にレモン汁を入れたらどう変化?
〈方法〉
ゆで汁10mlにレモン汁2mlを入れて、色の変化を観察する。
〈結果と考察〉
ゆで汁の色が濃いほど、レモン汁を入れると濃いピンク色になった。その後2日たってもピンク色のままだった。ゆで汁はレモン汁を入れて酸性になると、ピンク色になることが分かった。ゆでてから時間をおいたゆで汁にレモン汁を入れても、きれいなピンク色にはならなかった。
《3》きれいなゆで汁を作ってみよう
最初からレモン汁などの酸性物質を入れた水で金時草をゆでる。
〈方法〉
水100ml(pH6、中性)にレモン汁10ml(pH3、酸性)、クエン酸2g(pH2~3、酸性)、ミョウバン2g(pH4、弱酸性)、重曹2g(pH9、アルカリ性)をそれぞれ入れて沸騰させ、金時草5gを3分、5分ゆでる。そのときのゆで汁の色の変化、1~3日たってからのゆで汁の色の変化を観察する。
〈結果と考察〉
レモン汁、クエン酸を入れたゆで汁はきれいなピンク色、ミョウバンは赤っぽいピンク色、重曹は黒っぽい緑色になった。金時草のゆで汁は、酸性になるとピンク色や赤色、アルカリ性になると濃い緑色になる。→アントシアニンは中性で紫色、酸性でピンク色や赤色、アルカリ性では青色と本に書いてあった。
酸性のゆで汁(レモン汁、クエン酸、ミョウバン)は時間がたっても色の変化はなかった。重曹のゆで汁は、時間がたつと、さらににごった色になった。
《4》ゆで汁を青色にするには?
重曹を入れたゆで汁はにごった緑色になった。強いアルカリ性によって葉の表側の細胞の葉緑体までが溶け出たためだ。弱アルカリ性の物質を入れて青色のゆで汁を作ってみる。
〈方法〉
①水200mlに重曹0.05gを溶かした沸騰水(pH7~8)で、金時草10gをゆでる。②身近な弱アルカリ性食品(牛乳、豆乳、コーヒー、卵白、卵殻)を入れた沸騰水でゆでる。
〈結果と考察〉
重曹では弱アルカリ性でもゆで汁は黄緑~緑色になり青色は出なかった。卵殻を入れたゆで汁で青色が出たが、1日たつと色はにごった。やはりアルカリ性で青色を出すのは難しい。
《5》金時草を乾燥させて紫色を残す
〈方法〉
天日干し・押し葉・電子レンジ・オーブンの4つの方法で金時草の葉を乾燥させる。
〈結果と考察〉
金時草を天日干しと押し葉で自然乾燥させると、葉にアントシアニンを残すことができたが色が悪く、食べ物に使うには向いていない。電子レンジ(1000W)で2分加熱するのが、あざやかな紫色が残せて6日後も変色しないなど、一番良いことが分かった。
《6》完成した金時草のゆで汁と粉で、お菓子を作ろう
金時草のきれいな紫色が、お菓子に加工しても変化せずに出るか確かめる。
〈方法〉
①金時草のゆで汁(水1000ml・レモン汁50mlで金時草50gを5分ゆでる)、②金時草の粉(電子レンジ1000Wで2分加熱した葉10枚をすり鉢で粉にする)を用意する。①と②を混ぜる・練り込むなどして「あんこ」「白玉だんご」「むしパン・パンケーキ」を作る。
〈結果と考察〉
①ゆで汁:あんこと白玉だんごで、きれいなピンク色が出た。むしパン・パンケーキでは出なかった。作りたいものによって、ゆで汁の濃さを変える必要がある。②粉:練り込んだ白玉に紫色を残すことができた。白玉にレモン汁をかけると、表面の粉が赤く染まった。見た目がきれいで、色の変化も楽しめる。粉なので料理に使いやすい。
感想
実験は大変だったが、最後にきれいで、おいしいお菓子ができてうれしかった。
審査評[審査員] 髙橋 直
夕食に出た金時草の酢の物がきれいなピンク色をしているという感動と、あんこ屋をしている父親の「金時草を使ってあんこを作っても黒ずんできれいな色が出ない」という言葉がきっかけになった研究である。母親からゆで汁にレモン汁を入れるとピンク色になるということを教わり、それを手がかりにして、いろいろ工夫を重ね、保存の利くピンク色のゆで汁を得ることに成功している。また、金時草の葉がきれいな青色であることに着目し、その青色を保存することにも挑戦し、電子レンジを使って乾燥させ、すぐに粉にするという方法を見つけている。小学3年生とは思えないほど、地道に手順をふんで研究を進めており、ついには、ピンク色のあんこや白玉だんごを作り出した腕前は見事というほかない。顕微鏡を使用して、ミクロな部分も観察しつつ考察している点も評価できる。これからも、見つけたテーマをじっくりと追究していってくれそうな気がする。将来を期待させる論文である。
指導について金沢大学自然科学研究科自然システム学専攻1年 山﨑 真奈美
本研究は身近な野菜であった加賀野菜の「金時草」の葉の色に興味を持ったところから始まりました。「金時草」という、地元では有名な野菜は葉の色が特徴的ですが、その色を残すのは非常に難しいとされます。そこで今回は、金時草の葉の色をゆで汁に残す方法と葉にそのまま残す方法の2方向から実験のアプローチを行うことにしました。しかし、難しいとされていたようにきれいな色を出すことはなかなかうまくいかず、試行錯誤を重ね、根気強く何度も何度も実験を行ってきました。各過程でどうしてそのようになったのか予想をし、実際に観察や考察を行うことを繰り返す4カ月でした。非常に苦労はしましたが、最終的には金時草の色を生かしたお菓子作りにまでたどり着けて良かったです。これからも身近なものに興味や関心を抱き、常に探究する心を持って実験や観察をして考えるということを楽しんでもらえたら良いなと思います。