研究の動機
藍色が好きだ。友だち(平林さん)のお母さんが「藍を育てている」と聞き、本当に緑の葉で青く染まるのか、繊維素材によって染まり方がどう変わるのか、自分でも染めて確かめてみようと思い、研究することにした。
◇今回の藍染め研究で用いる布の素材
・動物性繊維:絹、羊毛
・植物性繊維:綿、麻
・化学合成繊維:ナイロン、ポリエステル
この6種類の素材のうち、動物性繊維の2種類はたんぱく質が主成分なので、染料とくっつきやすく、藍染めで染まりやすい。しかし植物繊維の2種類は主成分がセルロースなので、染まりにくい。そのためたんぱく質が成分の豆乳などにつけて動物性繊維の性質を持たせることにより、染まりやすくなるという。化学合成繊維の2種類は、染め物には使われないが、藍染めで染まるかどうか確かめてみるために今回、素材に加える。
実験A:藍の生葉染め
「藍」(タデ科の一年草、タデアイ)の葉をそのまま使って染める「生葉(なまば)染め」に挑戦する。
〈方法〉
①6種類の布をよく洗ってしぼる。②植物性繊維の綿・麻、化学合成繊維のナイロン・ポリエステルを豆乳につけて、たんぱく質処理をする。③6種類の布をよく干す。④タデアイを、友人のお母さんの畑で採集する。⑤タデアイの生葉、花、茎を分ける。⑥生葉を細かく刻み、ミキサーにかけて、染料液(生葉汁)を作る。⑦布を染めて、空気にさらす。⑧布を水洗いして干す。
〈結果〉
絹と羊毛はとてもよく染まった。植物性繊維の綿と麻、化学合成繊維のナイロンとポリエステルは、豆乳づけ(たんぱく質処理)をした方が染まった。処理をしない麻・ナイロン・ポリエステルは、全く染まらなかった。
〈考察〉
「生葉染め」で染まった布がかわいても、藍色はあまり発色しなかった。その原因を考えた。生葉染めで藍を染めるときは、短時間で染めないといけない。けれども、30分以上かけて染めたので、葉の成分が水に溶けなくなってしまったのだと思う。 そこで、溶けなくなった「青色」の成分をもう一度水に溶けるようにするために、微生物の力を借りて行う「生葉の建(たて)染め」をやってみることにした。
実験B:生葉の建染め
染料液(生葉汁)は実験Aで作ったものを使う。
〈方法〉
①家のまきストーブで作った木灰を、水に入れてしばらく置く。②木灰の上澄み液を生葉汁に入れて、アルカリ性にする。③木灰の上澄み液を入れ終わると、液中からブクブクと泡が出てくる。④1日2回静かにかき混ぜながら、20℃ぐらいの場所に置く。⑤時々お酒を入れて、液中で発酵をする微生物に食べさせる。⑥かき混ぜたときに、液中から青色の泡(「藍の花」)ができるようになったら、染められる。
〈結果〉
発酵は3日目まではうまくいっていたが、4日目にバケツ内の液面を白いカビがおおってしまった。それを取り除いたが、翌日もカビだらけだった。
うまくいけば、微生物が染料成分を水に溶けるようにしてくれて、「藍の花」が咲いて、染めることができるはずだった。ところが液中では、別の微生物(カビ)が育ってしまったようだ。
〈考察〉
失敗の原因を考えた。①温度:20℃よりも高かったかもしれない。②酸・塩基性:液の理想はpH12ほどだが、実際はpH10ぐらいだった。③微生物の食べ物(お酒):お酒を入れすぎたかもしれない。④かき混ぜ:1日2回できなかったときもあった。 微生物は目に見えないので、これら4点をうまく調節するのはとても難しいと分かった。
こうした発酵工程を市の「ふるさと文化伝承館」の人に教わり、もう一度挑戦することにした。
実験C:「すくも」からの建染め
乾燥させた藍の葉を砕き、水をかけて発酵させたものを「すくも」という。さらに、その「すくも」を固めたものを「藍玉(あいだま)」という。「ふるさと文化伝承館」が「すくも」に灰汁を加えて作った染料液を使わせてもらう。
〈方法〉
①布を水でぬらし、染料液に3分間つける。②水分をしぼって、空気に3分間さらす。③もう一度布を染料液に3分間つけて空気にさらし、水洗いをする。④染め上がったら、日かげで干す。
〈結果と考察〉
今回藍染めを試みた布は、素材そのままの絹と羊毛、豆乳づけ(たんぱく質処理)をした綿と麻、ナイロンとポリエステル。その結果は、いずれの布も驚くほどよく染まった。特にナイロンとポリエステルは予想以上だ。さらに絹の発色があざやかで、洗うと緑色が落ちて「青色」になった。
気づいたこと:①よく染まったナイロンとポリエステルの布目が細かいこと。同じ繊維でも布目が細かいほど染まりやすいのか。②繊維によって色相が違うこと。絹と羊毛は緑っぽい色、ポリエステルは青紫色、綿と麻は青色だった。③ある資料に、ポリエステルは「すくも」からの藍で染めても「染まらない」とあったが、豆乳づけをするときれいに染まった。これは大きな発見だ。
感想
「生葉染め」や「生葉の建染め」ではうまく青色にならなかったりかびたりしたが、「すくも」からの建染めで、緑色が水で落ちて青色が残ったときはとてもうれしかった。自然な青色を染められるのは藍だけなので、今回藍染めができたことは幸運だった。今度は自分で染料液を作って、青色を染められるようにしたい。
審査評[審査員] 秋山 仁
「青は藍より出でて藍より青し」の言葉に因んだエレガントな研究です。そもそもの疑問は「どうして藍で青く染まるのか?」ですが、その疑問を解き明かすために、生物学的、化学的な考察を行っています。6種類の布(絹、羊毛、綿、麻、ナイロン、ポリエステル)に対し、生葉染め、豆乳づけ、微生物の力を借りた生葉の建染めなど、いろいろな染め方を実際に試しています。その際、温度、酸/塩基性(pH)、混合比なども考察し、科学的に筋道を立てて推論していました。その結果、ナイロンやポリエステルもよく染まること、同じ繊維なら布目が細かいほど染まりやすいこと、繊維によって色相が異なること、ポリエステルも豆乳づけをするときれいに染まることなどをつきとめています。趣味と実益を兼ねたとても良い研究だと思いました。
指導について疋田 真祐
本研究は、「藍を用いた染色」という理科研究としては古典的な題材を基に、彼女が自分なりに試し、掘り下げ、見いだしたことを表現した作品です。生まれて初めて「夏休みの自由研究」に取り組んだこともあり、実験は失敗続き、原稿は何度も書き直しと悪戦苦闘の様子でした。しかし研究を通じて、藍の不思議から、地域の文化や歴史、化学の原理、色の正体、自分の衣服とさまざまなものが次第に結びついて見えてくるにつれ、このワクワクをみんなに伝えるためにどうすれば良いか真剣に考えるようになりました。そして低学年のとき新聞作りに熱中した経験も生かし、模造紙の上に鮮やかに表現してくれました。今回の受賞、とりわけ他ならぬ秋山仁先生に選んでいただいたことは、彼女の生涯の礎になるものと思います。研究のきっかけをくださった藍栽培の平林様、体験させていただいた南アルプス市ふるさと文化伝承館の皆様、優しく背中を押してくださった石川先生に心から感謝します。