第58回入賞作品 小学校の部
3等賞

地面にできる「皮」の研究

3等賞

愛知県刈谷市立住吉小学校 6年
鈴木 梛爽・滝 夏摘・田中 歩・福本 大河・間瀬 詩恵
  • 愛知県刈谷市立住吉小学校 6年
    鈴木 梛爽・滝 夏摘・田中 歩・福本 大河・間瀬 詩恵
  • 第58回入賞作品
    小学校の部
    3等賞

    3等賞

研究の動機

 雨上がりの乾いた地面が「皮」のようにめくれていた。不思議な自然現象だと思い「地面の皮」と名付けた。「地面の皮」は、家や学校の周囲の限られた場所でしか見られない。なぜ地面が「皮」のようにめくれるのか、研究することにした。

追究1:どのような場所に、どのような「地面の皮」ができるのか調べる

〈1〉どのような場所にできるのか

 校内を調べると、「地面の皮」は、水のたまった後で乾燥する所にできるようだ。小学校の学区内ではどうか。全校児童にアンケートをして調べたら、「地面の皮」は学区内のさまざまな場所でも見られる。実際にその場所に行って観察すると、 「地面の皮」は色の違いで大きく2種類に分けられる。一つは緑色をした「緑色の皮」。これは降った雨水があまり流れずにたまりやすく、いつも地面が湿っている所にできている。もう一つは土の色そのままの「土色の皮」だ。これは逆に、雨水が流れ、その流れが終わって水がたまる所にできやすい。

〈2〉「緑色の皮」「土色の皮」は何でできているのか

 「皮」の表面を顕微鏡で観察した。「緑色の皮」には緑色をした「藻」が多数確認できた。「土色の皮」は細かい粒の土(粘土)でできている。

追究2:「緑色の皮」ができるわけを調べる

【仮説1】藻が縮み、土の表面を縮ませるから「皮」ができる。

 ワカメなどの海藻は乾燥すると小さくなる。理科室前の「観察池」で採取したアオミドロを乾燥させて、元の長さからどれだけの長さに縮んだのか、ノギスで測定した。その結果、アオミドロは乾燥すると、約50%に縮むことが分かった。「緑色の皮」の藻を採取し、乾燥させて顕微鏡で観察した。乾燥した藻は細くなり、互いにくっつき固まっていた。藻の縮みが本当に地面をめくり上げるのか。それを確かめるために、コピー用紙に水で湿らせた「焼きのり」を貼り、乾燥後の様子を調べた。のりが乾燥して縮むと、確かに用紙は極端にのりの方に反り返った。しかし、なぜ地面の表面だけがめくれて「皮」になるのか。

【仮説2】「皮」の表面にだけ藻が生える。

 「皮」の断面をデジカメで撮影し、拡大して観察した。やはり「皮」の表面にだけ藻が生えていた。それはなぜか。よく観察して、「緑色の皮」にいろいろな厚さがあることを発見した。しかも、厚い「皮」は土の粒が大きく、薄い「皮」は粒が小さい。

【仮説3】土の粒が大きいほど、藻が下まで生えやすくなる。

 それを確かめる実験をした。①学校の花壇の土を「ふるい」で、粒の大きさが中くらいの粒中(0.149~0.177mm)、小さな粒小(0.149mm以下)にした。さらに粒の細かな土として市販の粘土(0.01mm以下、乾燥後に乳鉢で粉状にした)を用意した。この3種類の土をそれぞれ金属皿に入れて、上からピペットで色水をたらした。その結果、細かな粘土の粉にたらした色水はほとんど下にしみ込まず、その場で周囲の粉を取り込んで固まった。②その固まった粘土粉が「皮」のようなものと考え、さらに水滴をたらして観察した。水滴は固まりの中にはしみ込まず、表面で広がった。「緑色の皮」でも同様に、土の粒が細かいと、藻は表面にとどまってしまうのだ。さらに、藻が地面下のどこでとどまるかには、土の粒の大きさだけでなく、光も原因ではないかと考えた。土の粒が大きいほど、光は下まで届き、藻も下まで生えるのではないか。水槽の藻は日なたに置いた方がよく生える。

【仮説4】土の粒が大きいほど、光が下に届く。

 3種類(粒中、粒小、粘土粉)の土をシャーレの底面に厚さ1mmから5mmまで、1mmずつ変えて敷いた。上からLEDライトを当て、それぞれの土を透過した光の強さをルクス計で測った。その結果、粒中・粒小の土では、透過光は弱まりながらも厚さ5mmまで届いた。粘土粉は厚さ1mmで粒中・粒小よりもかなり弱く、2mm以降は極端に透過光が弱まった。

追究3:「土色の皮」ができるわけを調べる

 土砂がたまって地層ができるときは、粘土が一番上にたまる。その粘土が乾燥することで、藻と同じように縮み「土色の皮」ができるのではないか。

【仮説1】一番上にたまった粘土が縮むことが原因ではないか。

①3種類の土を十分に湿らせ、空気鉄砲の筒を使って円柱形にした。その後、乾燥させたときの〈縮み率=(乾燥後の長さ/湿っているときの長さ)×100(%)〉を調べた。粘土粉の場合は粒小の約2倍、粒中の約4倍も大きく縮むことが分かった。
②粘土粉が乾燥していくときの、粘土の粒の動きを顕微鏡で観察した。乾燥すると粘土の粒同士がくっつき合い、粘土は縮む。

 しかし粘土だけではなく、粒小や粒中の土も乾燥するとある程度は縮む。粘土の縮みだけで「土色の皮」ができるとは考えにくい。「土色の皮」ができている場所を観察すると、周りに粘土が多くあり、雨水で粘土が流れ込んで元の硬い粘土の上にたまり、乾くことを繰り返しているようだ。

【仮説2】固まった粘土の上にたまった粘土が乾燥すると「土色の皮」になるのではないか。

 固まった粘土の上に、粘土を水に溶いた粘土液をたらし、乾燥させると「土色の皮」ができた。

 しかし、固まった粘土に後の粘土はくっつかないのか。一度固まった粘土は崩れにくいと考え、乾燥して固くなった粘土片を試験管の水に入れて観察した。粒小の土片は水に入れた瞬間から崩れたのに、粘土片は5分たっても形を保っていた。やはり、後からたまった粘土が「皮」になる。でも、なぜ「土色の皮」は反るのか。

【仮説3】粘土の表面とその下で、乾燥による縮み方に差ができるため反るのではないか。

 傾斜をつけて置いた四角い容器の片側から粘土液を注ぎ、厚さ1~5mmにたまった粘土の厚さごとの乾燥時間を調べた。その結果、粘土は厚さによって乾燥時間が異なり、表面が乾燥していても、その下はまだ湿っている。先に乾燥した表面だけが大きく縮むことが、「土色の皮」が反る原因だ。「土色の皮」の表裏を観察すると、確かに裏側はまだ湿っていた。さらに気づいたのは「土色の皮」がいつもはっきりとめくれ、厚さも2~4mmと、ほとんど差がないという点だ。

追究4:なぜ「土色の皮」は、はっきりとはがれいつも厚さが一定なのかを調べる

 5枚のシャーレに、粘土液を厚さ1、2、3、4、5mmに入れて乾燥させた。厚さ2、3、4mmの場 合に「土色の皮」ができた。その原因を考えた。①厚さ1mm:薄すぎて乾燥や縮み方に差が出ないために「皮」ができない。
②厚さ5mm以上:表面と下で乾燥に差は出るが、厚すぎて変形しにくい。
③厚さ2~4mm:表面と下で乾燥、縮み方の差ができ、反り上がる力が生じる。「皮」ができるのは、それが「適度な厚さ」だからだ。......しかしなぜ、はっきりとはがれるのか。
そこで「土色の皮」の裏面を顕微鏡で観察し、無数の「穴」が開いているのを発見した。粘土が乾燥するときに、中に含まれていた空気が抜けた穴ではないか。粘土液の厚さを変えて乾燥させ、裏面にできた穴の数を調べた。粘土が厚くなるほど、穴の数は増えていた。たまった粘土はある程度厚くなると、表面が先に乾燥して、中に含まれていた空気が表面から抜け出せなくなり、裏面から抜ける。その空気が粘土の下面にわずかなすき間を作るため、「皮」がはっきりとはがれるのだ。

感想と課題

 いつも目にする地面の「皮」に、こんな秘密が隠されているとは思いもよらなかった。自然の不思議さや奥深さを強く感じた。身の回りの現象を「当たり前だ」と簡単に考えず、科学の目で自然の「真実」を明らかにしていこうと思う。

指導について

指導について刈谷市立住吉小学校 森 利一・石井 悠里絵

 私たちは、日ごろ見慣れている「当たり前の現象」の中に隠されている「科学」に、子供たちが注目することを願っています。今回は、地面にできる「皮」に子供たちが注目しました。注意して観察すれば、いろいろな場所で見られる「地面の皮」。しかしその「皮」の種類やでき方には、とても不思議なことが隠されていました。「皮」には2種類あること。また「皮」がきれいにはがれるためには、「空気」が関係していることなどを見つけることができました。本当に熱心に観察したと思います。今回、彼らの努力を認めていただき大変感謝しております。今後も、一人でも多くの子供たちに自然を追究する楽しさを感じさせたいと思います。ありがとうございました。

審査評

審査評[審査員] 小澤 紀美子

 本研究は雨上がりの乾いた地面に「地面の皮」を発見し、仮説を立てながらじっくりと追究している素晴らしい取り組みです。いつも目にしている土にも多くの不思議が潜んでおり、そのことを友人と共に「問い」を立て、しっかりと仮説を立てて検証しているプロセスは研究の目的の「科学的に明らかにする」取り組みとして高く評価されました。地面の皮には「緑色の皮」と「土色の皮」の2種類があり、それらの成り立ちを明快に解き明かしています。緑色の皮は表面にある「藻」が縮んで地面を縮ませてできますが、池の中のアオミドロを藻に見立てて縮み率を実証し、さらにコピー用紙に焼きのりを貼り付けて行った反り返りのモデル実験、異なる厚さがあることなどをユニークな方法で明らかにしています。「土色の皮」に関しても理科の地層の授業で学んだことを活かして「粘土」の存在に着目して実証実験を重ね、縮み方の違いを明らかにしている取り組みとともに、地面の皮がどんな場所にできているかを全校児童にも協力いただいている作品であり、高く賞賛できます。

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