第59回入賞作品 中学校の部
継続研究奨励賞

飛べ! スーパー紙とんぼ 3
―飛行時間をもっと伸ばすには―

継続研究奨励賞

石川県金沢大学人間社会学域学校教育学類附属中学校 2年
今泉 心寧
  • 石川県金沢大学人間社会学域学校教育学類附属中学校 2年
    今泉 心寧
  • 第59回入賞作品
    中学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の動機

 この研究のきっかけは図書館の本で、一般の竹とんぼより滞空時間が長い「スーパー竹とんぼ」があると知ったことだ。自分でもより長く飛ぶ竹とんぼが作りたいと思った。ただ、竹とんぼは簡単には作れない。竹とんぼの飛び方や飛行原理を調べた上で、牛乳パックを素材に紙とんぼを作製し、ベストな羽根を見つける実験を始めた。2016年は2枚羽根をたくさん作り(2枚羽根だけで150枚作った)、羽根の長さや横幅、傾き、おもりのつけ方などを変えながら飛び方を調べた。2017年は3枚羽根で同じように実験したところ、飛行時間が2枚羽根より少し伸び、安定して飛ぶ羽根が増えた。2018年は羽根を4枚以上に増やしたり、羽根の素材や形状を変えたりして、より長く飛ぶ羽根を見つけたい。

研究の背景

 まず、過去の実験の結論を整理する。

結論1

 同じ素材で作る場合、3枚羽根は2枚羽根より重くなるが、空気を受けて流す力が強くなるため、飛行時間が伸びる。

結論2

 3枚羽根の長さは長すぎても短すぎても、うまく回転しない。空気を受けて下へ流すには、羽根の長さは5.5~7.5㎝がちょうどよい。その時、羽根の横幅を3.5~4.0㎝にするとバランスよく回転し、高く上がって飛行時間も伸びる。

結論3

 3枚羽根の端にクリップのおもりをつけると遠心力が働き、落ちる時も抗力で逆回転することなく飛行時間は伸びる。ただ羽根の横幅が広くなると、おもりの効果はなくなる。だからといっておもりを増やしても、羽根が重くなって回転速度が遅くなる。

結論4

 羽根は軽すぎても重すぎても飛行時間は伸びない。また、強度がないものは素材に向かない。
 3枚羽根の紙とんぼで最も飛行時間が長かったのは、「羽根の長さ5.5㎝、横幅3.0㎝」と「羽根の長さ6.0㎝、横幅4.0㎝」(どちらも羽根の形は三角形、傾きあり、クリップのおもりあり)の5.18秒だった。飛行時間の安定度を見ると「羽根の長さ7.5㎝、横幅3.5㎝」(羽根の形は三角形、傾きあり、クリップあり)が平均4.91秒を飛び、最も優れていた。自作の軸を自分の力で回して飛ばす場合、最も安定して長く飛ぶのは「羽根の長さ7.5㎝、横幅3.5㎝」の3枚羽根だった。


2016年に調べた2枚羽根紙とんぼ(左)と、2018年に「基本形」とした3枚羽根

3枚羽根紙とんぼの平均飛行時間ランキング(2017年)

羽根の形は三角形、傾きあり、クリップあり

順位 羽根の長さ 羽根の幅 重さ 飛行時間 飛行時の様子
1 7.5㎝ 3.5㎝ 2.67g 4.91秒 高く上がる、
落下時に途中で回転が止まる
2 7.0㎝ 3.5㎝ 2.62g 4.73秒 高く上がる、
らせん状に落ちてくる
3 5.5㎝ 3.0㎝ 2.06g 4.67秒 高く上がる、
落下時に回転している
4 6.0㎝ 4.0㎝ 2.45g 4.56秒 高く上がる、
落下時に途中で回転が止まる
5 6.0㎝ 2.5㎝ 2.06g 4.53秒 高く上がる、
落下時に途中で回転が止まる
6 5.5㎝ 2.5㎝ 1.98g 4.49秒 高く上がる、
落下時に回転している
6 5.5㎝ 3.5㎝ 2.26g 4.49秒 高く上がる、
落下時に回転している
6 7.0㎝ 2.5㎝ 2.25g 4.49秒 高く上がる、
落下時に途中から逆回転する

研究の内容

 2018年は「羽根の長さ7.5㎝、横幅3.5㎝」の3枚羽根を「基本形」と定め、実験を行うことにした。

実験1

 基本形に近い羽根の長さと横幅の「4・5・6・8枚羽根」を4~6枚作製し、それぞれ5回ずつ飛ばして平均飛行時間を比較した。

結果1

 羽根が増えることで重さが増し、それとともに飛行時間も短くなった。重さが4gを超えるとあまり高く上がらなくなり、前に飛ぶ傾向があった。3枚羽根を上回る結果は出なかった。

実験2

 3枚羽根の重さに近い4枚羽根を作製し、重さが変わらなければどうなるかを調べた。

結果2

 重さが同じなら、4枚羽根より3枚羽根のほうが飛行時間が長かった。安定して長く飛ばすには、その重さに適した羽根の枚数がある。

実験3

 この時点で最も安定している3枚羽根基本形の、形状や素材を変えるとどうなるかを調べた。風で運ばれる種子の表面はざらざらしていたり、葉脈のでこぼこがあったりする。基本形の羽根の表面に、紙やすりやラミネートフィルムを張って飛ばしてみた。

結果3

 牛乳パックだけで作った基本形より飛ぶものはなかった。空飛ぶ種子とは違って紙とんぼの場合、羽根の表面の素材が空気の流れを阻害しないほうが、飛行時間が伸びるようだ。

実験4

 とんぼの羽根に着目し、基本形3枚羽根の中を切り抜き、セロファンやラップを張って飛ばした。セロファンやラップを羽根の上から張ったもの、下から張ったものの両方で調べた。

結果4

 飛行時間に大差はなく、基本形より飛ぶものはない。セロファンやラップを下から張ったことで羽根の上に凹凸があるものは前に飛び、上に凹凸がないものは上に飛ぶという違いが見られた。均一な素材で作り、空気の流れを阻害しないことが、長く飛ぶ羽根には必要だと改めてわかった。

実験5

 基本形の羽根の長さは変えず、羽根の形状を変えてみた。とんぼの羽根から角張ったものを取り除き丸みを帯びた形にしたもの、遠心力を重視して外側が重くなる形のもの、植物の葉に似せて葉のような形のものを試した。

結果5

 さまざまな考察があったが、基本形のように風を受ける面の幅が均一なほうが、風の力が羽根全体に伝わりやすく、重心が羽根の中心にある。そのため、風を受けた時にぶれにくいと思われた。もう一度、基本形に戻って工夫を重ねることにした。

実験6

 基本形3枚羽根のおもりを細かく変えてみた。まず、羽根の外側に重さ0.27gのクリップのおもりを1個ずつ付けた基本形と、付けていない基本形を用意した。それぞれの羽根にシール1~7枚を張り重ねることでおもりの重さを少しずつ変え、飛び方を調べた。

結果6

 平均飛行時間が5秒を超えるのは、クリップがある基本形にシールを1~5枚の範囲で張ったものだった。羽根の重さは2.82~3.30gの範囲だ。クリップを2個付けても飛行時間が伸びることがあるが、羽根は上ではなく前に飛ぶ。前に飛ぶが、回転が止まることなくゆっくり落ちることで、飛行時間が長くなっている。羽根の重さが3.30gより軽いか重いかが、羽根が上がるか前に行くかの境目になっていた。
 以上の実験から、自作の軸を自分の力で回して飛ばす場合、最も安定してよく飛ぶ羽根がふたつ見つかった。基本形3枚羽根にクリップを1個ずつ付けた上でシールを4枚張ったものと、シールを5枚張ったものだった。シールを4枚張ると羽根の重さは3.18g、最長飛行時間が5.48秒、平均飛行時間が5.28秒。シールを5枚張ったほうは、重さ3.30g、最長飛行時間5.49秒、平均飛行時間5.24秒だった。

感想

 紙とんぼの飛行時間と重さとの関係性は、軽ければ長く飛びやすいといった単純なものではなく、羽根によってバランスが取りやすい重さがあるとわかった。羽根の表面に凹凸がないほうが空気の流れを阻害せず、飛行時間が伸びることもわかった。おもりの重さを調整して、羽根の重さを2.82~3.30gにした時に、紙とんぼが長く飛ぶことを発見できてうれしい。さらなる工夫を重ねたいと思った

指導について

金沢大学理工学域機械工学類4年 矢嶋 華子

 本研究は、昔の遊び道具であった「紙とんぼ」についての継続研究です。昨年は滞空時間の長い紙とんぼの羽根の枚数及び材質に着目しました。今回は、昨年の羽根の材質に加え、羽根の形状や表面の粗さ、質量と滞空時間の関係について調べました。目的や考察に関しては、生徒自身の考えを主体としてディスカッションを行いました。紙とんぼの羽根を何枚も作製する作業は非常に単調で時間のかかるものでしたが、黙々と作業に集中しており、生徒自身のこの研究に対する熱意が感じられました。また、紙とんぼを飛ばす環境をなかなか整えることができず苦労しましたが、金沢市キゴ山ふれあい研修センターを使わせていただき、実験を行うことができました。このような全国規模のコンクールでの受賞に関われたことを光栄に思います。今後も、日本の自然や文化に沿った社会性の高い自由研究を極めてもらいたいと考えています。ありがとうございました。

審査評

[審査員] 小澤 紀美子

 本研究は、スーパー竹とんぼのことを知って、2枚羽根の紙とんぼから実験から始めた研究で、3枚羽根から8枚羽根と枚数を増やし、さらに羽根の角度を変えながら試行錯誤を繰り返し、飛行時間を伸ばすための紙とんぼの継続研究の3年目の作品です。2枚羽根の研究から初めて、3枚羽根紙とんぼが最も長く安定して飛ぶ条件「羽根の長さ7.5㎝、横幅3.5㎝」を見いだし、そこから発展させています。羽根の枚数を増やすこと、すなわち「羽根の重さ」を変えてみて実験実証をおこない、4gを超えては高く上がらないことや羽根の枚数とバランスのとりやすい重さを探し、3枚羽根を基本形として形状や素材を変化させながら実験実証しています。多様な視点から仮説を立てながら粘り強くじっくりと取り組み、さらに素材に関しては、自然界の生き物、例えば、植物の種子や昆虫のトンボに学んで羽根の素材を変えて実験実証して追究している素晴らしい取り組みです。しっかりと仮説を立てて検証している科学的なプロセスは高く評価されました。

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