はじめに
アサガオと光の関係を調べ始めて9年目に入った。小学校6年生の時からは、アサガオの花に影響の出にくい夜間照明について研究している。姉が行った自由研究で、アサガオが咲く時に花弁にでんぷんと糖の出入りがあることもわかった。2017年は、紫外線の有無で開花に違いが見られることに気がついた。
今回は、アサガオの花がどのようにして咲き、しぼむのかを、でんぷんと糖の出入りに注目して調べたいと考えた。また、アサガオが光をどのように感じているのか、紫外線の役割が何なのかも調べたい。
研究の準備
アサガオを育てる
5月の連休明けに種をまき、真東南を向いたベランダでアサガオを育てた。移動できるようにキャスターの上にを置き、春は午前9時から午後1時半ごろ、夏は午後2時ごろまで日を当てることができた。
2018年の天候は特殊だった。梅雨が6月中に明けたため、強い紫外線がそのまま降り注いだ。台風が来るたびに熱風が何日も続いた。アサガオは熱風が吹き続くたびに葉を傷め、なかなか花芽を作らなかった。白以外の色の花は8月になってやっと咲き始めた。そのころには白い花があまり咲かなくなってきて、思うように実験ができずに困った。5月から8月の4カ月間の日照時間は、小学校1年生の時の記録より100時間多かった。2018年のアサガオの葉は「日当たり良」であったことを示す黄緑色になった。
2018年8月25日のアサガオの様子
研究の実際
アサガオの花が咲くまで
アサガオの花は、一日咲けばしぼんでしまう。花を大きく開かせるのは曜という白いほし型の部分だ。
アサガオは光合成で作ったでんぷんを糖に分解して、師管から体の各部分へ送り届けている。糖はアサガオの呼吸のエネルギー源になったり、体を作るのに使われたりする。
つぼみと糖の観察実験
まず、つぼみがどのように大きくなっているかを調べてみた。花弁にあるでんぷんが糖に変わるまでを観察するため、7月14日から8月20日、21のつぼみで花弁のなかでのでんぷんと糖の増減をチェックした。8時10分、9時50分、23時15分、0時30分など時間を変えて、開花が近いつぼみの花弁をヨウ素液に浸け、でんぷんの有無を確かめる。糖の有無は花弁をエタノールに浸け、尿糖試験紙で確かめた。
結果
咲く前々日は花弁にでんぷんがあって糖はないことがわかる。咲く前日の朝から夜にかけて糖が増えていく。つぼみは咲く前日の朝からでんぷんを糖に変え、開花のために花弁を伸ばしていた。糖が増えるとでんぷんが減り、咲く当日の0時には花弁からでんぷんがなくなった。
開いた花と糖の観察実験
その後、開いた花には糖が満ちているが、翌日になると花に糖はなくなる。いつ糖がなくなるのか、今度は7月11日から8月27日まで、咲いたばかりの花や、しぼんだばかりの花、乾燥した花の花弁で調べた。
咲く前日21時30分のつぼみ(左)と、でんぷんがなくなったつぼみ(右)
結果
開花した花はしぼむまで糖を持ち続けていた。花がしぼみ、花弁が離れ落ちる準備が整うころ、花弁から糖はなくなる。
つぼみのでんぷんがなくなるのは開花当日の0時ごろだが、それからおよそ24時間後に花はしぼんで花弁の糖がなくなることがわかった。
また、切り取って水に差し込んで開花させたつぼみには、しぼんだ後も糖があることもわかった。花弁の糖はそのまま子房に送られると思っていたが、いったん師管に戻るのかもしれない。
花と紫外線の観察実験
アサガオの花は、紫外線で色づくのか。アサガオの花の色は、種の時に決まっている。何色になるかは、双葉の茎の根元の色でわかる。ただ、日当たりが違う場所で育ったアサガオは、同じ種類の花でも花弁の厚さや見た目が異なる。2017年の研究では、紫外線の有無でつぼみの開花率が変わることもわかっていた。そこで、花の色と紫外線の関係を調べた。
日の当たる場所にある1~2㎝の小さなつぼみに覆いをして開花するのを待ち、通常に開花した花との色の違いを観察した。5つのつぼみに紙やホイルペーパーで覆いをして調べたが、風で外れたり枯れたりして失敗もあった。
結果
覆いをしたつぼみは色の薄い花を咲かせ、アサガオの花が光で色づくことが確認できた。紫外線はアサガオの花にとって大切だ。日陰の花の色が薄くなるのは、栄養が足りないのではなく、日向に比べて紫外線が当たっていないからだと思う
顕微鏡写真、つぼみの花弁80 倍。左は紫外線なし、右は紫外線あり
夜間照明の色とアサガオの観察実験
人間には必要な夜間照明が、アサガオの体内時計を狂わせ、悪影響を与えることがわかっている。そこで、植物に影響の出にくい光の色を探してみた。探すための実験は、複数の方法で行った。例えば、夕方の18時20分ごろ、アサガオのつぼみを切り取り、夜間光を当て続けていつ開花するのかを調べるなど。光の強さは四半灯(25%)、光の色は「白」「緑」「青」「赤」「青と緑」を試し、それぞれの色で紫外線カットフィルムのある場合とない場合など、条件をさまざま変えた。
結果
紫外線をカットした緑色の光が、どの色の花でも最も開花率が高かった。緑色で紫外線をカットした光が夜間照明として適しているようだ。
感想
アサガオは、光を感じて体を作る。光がアサガオに何をさせているかもっと知りたい。アサガオの体の中を水分や、糖の液が動いている。花だけではなく、アサガオの体全体を調べてみたい。花弁の色の粒がどう並ぶのか、向きはどうなのか、ひとつひとつに理由があると思うので、花のことも引き続き調べたい。
2018年は静岡県から千葉県へ引っ越して環境が変わり、実験もこれまでとは違う内容になった。静岡で多くのことを学ぶ機会をいただき、感謝の念にたえない。今後は糖の流れに注目して、光とアサガオの関係を調べる研究を続けたいと思う。
[審査員] 邑田 仁
この研究は長年にわたる観察・実験の積み重ねにより、本人でなくてはわからないアサガオの特徴や個性をよく捉えていると感じます。また、膨大な観察結果の中には生物学的に重要な視点がいくつも見いだされます。しかしそれだけに、読んだ人に自分の考えを正しく理解してもらうためには、植物学的な目的・問題点と実用的な目的を分けて別々に考察する、個々の実験・観察結果がどの考察と結びついているかをさらにはっきりさせる、自分の研究結果であっても、過去の研究に基づいているなら、引用をつける、などの工夫をしたほうがよいと思います。写真はこの研究の観察・実験結果を示すために活用されており、特に顕微鏡写真は説得力のあるものになっています。こちらも、重要な写真については、どの部分が何を示しているかという説明をつけ、スケールバーを入れるなどの工夫をしたほうがよいと思います。問題点をよく整理することにより、研究がさらに発展することを期待します。
齋藤 三津子
アサガオの観察を9年間続けてきました。多くの方にお世話になり心よりお礼を申し上げます。おもちゃの顕微鏡から始まり、光学顕微鏡、電子顕微鏡へと「見える世界」が広がっていきました。新聞やテレビ、専門家のお話からヒントを得て実験を工夫しています。今年は、住環境の変化のため姉の研究を引き継ぎました。つぼみが大きくなる方法をヨウ素でんぷん反応で可視化したのですが、でんぷんと糖がいつなくなるのか詳しく分かっていませんでした。また、つぼみがどこで光を感じているのか疑問でした。たくさんデータを集めて一歩、前進したと思います。学習や生活の中で得た知識は、一つ一つが独立していてなかなか相互に結びつきません。この研究では、思いこみにより実験方法や結論をしばしば間違えました。何事も自分で確認し、先入観を持たずに考察することの大切さを学んだと思います。試行錯誤を繰り返し導き出した答えをさらに深めてほしいと願っています。