第59回入賞作品 中学校の部
秋山仁特別賞

ペンの液割れの研究

秋山仁特別賞

愛知県刈谷市立刈谷東中学校 液割れ班 1年・2年・3年
泉 彩姫・坂口 陽詩・鈴木 幸陽藤﨑 美来奈鈴木 龍人小林 柚竹原かれん
  • 愛知県刈谷市立刈谷東中学校 液割れ班 1年・2年・3年
    泉 彩姫・坂口 陽詩・鈴木 幸陽藤﨑 美来奈鈴木 龍人小林 柚竹原かれん
  • 第59回入賞作品
    中学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

研究の動機

 学校で、ある先生が学級日誌にボールペンでコメントを書いている時、困った顔をされているのに遭遇した。突然ペンが書けなくなったからだ。リフィル(ボールペンのインクが入った細長い筒状のもの)を確かめると、インクは十分に残っている。ただ、リフィルのところどころに空気が入ってすき間ができていた。
 科学部では、リフィルに空気が入ってインクが途切れる現象を「液割れ」と名付けた。先生方から液割れを起こしたリフィルをサンプルとしていただいて、液割れはどんな時に起こり、起こさないようにするための改善策はあるのかを、研究することにした。


リフィルで起こっている液割れ

研究の準備

予備調査

 まず、どんな条件で液割れが起こるのか、先生方に聞き取り調査を行った。「液割れを見たことがあるか」「どんな条件で液割れが起きたか」を聞き取ったところ、液割れは頻繁に起こることがわかった。起きた条件の回答上位は「ペンを引き出しの中に放置した時」10人、「持ち歩いた後」6人、「ペン先を上にして放置した後」5人、「長時間文字を書いた後」4人などだ。
 予備調査と自分たちの経験から、「長時間書き続けた場合」に液割れが起こるという仮説を立て、再現実験を行うことにした。ノートにボールペンでひたすら線を書きながらリフィルを観察すると、2人の部員のペンに液割れが起きた。しかしよく見ると部員の液割れは、空気が入って独立したインク部分でインクが中心まで詰まっておらず、リフィルの内壁にインクが張りついているだけだった。サンプルの液割れは、独立部分もリフィルの中心までインクが詰まっている。部員の液割れを「液割れもどき」と呼ぶことにした。

電動式装置「書き続ける君二号機」を開発

 ノートを使った実験から、人の手で書き続けるのは効率が悪く、結果も安定しないことがわかった。そこで、自動で書き続ける装置を開発することにした。
 最初に作った「書き続ける君初号機」は、振り子の要領でおもりを付けたボールペンを揺らし、下に敷いた紙にペン先をこすらせて書き続けるものだ。しかし紙との摩擦が大きく、すぐに止まってしまう。
 最終的に、モーターを使った電動式装置「書き続ける君二号機」を採用することにした。「書き続ける君二号機」は上部と下部から成っていて、上部はモーターの力でペンを回転させ、下部は別のモーターでロール紙を動かす。上下を同時に動かすと、ボールペンが回転しながら下に敷かれた紙が巻き取られるため、同じ場所に書き続けて紙に穴があいたり、インクがいつ出なくなったのか不明になったりすることがない。上の電圧は3V、下は1.5Vで回転させた。

研究の実際

書き続ける実験

 「書き続ける君二号機」で5分間ペンを回転させ、その後の変化を観察する実験を5回行った。回転させて数時間放置した後に観察すると、液割れが起こったのは5本中3本、予想よりも少なかった。ただこの実験で、「液割れもどき」が「玉状の液割れ」に変化することを発見した。しかも、「玉状の液割れ」はボールペンをそのまま放置すると、インクが詰まった「真の液割れ」に変わることも観察できた。
 次に回転時間を10分間に延ばし、同じ実験をした。すると、1本で平均4.6個の液割れと平均1個の玉状液割れが起こり、5分間の時より明らかに増えた。やはり、書き続ける時間が液割れに影響しているようだ。
 また、この実験ではすべての液割れがペン尻から起きていた。研究のきっかけとなったサンプルは、ペン先で液割れが起きている。なぜ場所が違うのか、液割れのメカニズムをさらに追究することにした。

真空ポンプでペン先から空気を入れる実験

 予備調査の聞き取りの際、「ペン先から空気が入るのが(液割れの)原因ではないか」という意見があった。その意見を検証するために、真空ポンプを使ってペン先から空気を入れる実験をした。
 真空ポンプのホースの穴が大きかったので、消しゴムを使って空間を埋め、リフィルの後ろ側から空気を吸引する。吸引するとリフィル内部の気圧が変化し、ペン先から空気が入る。この実験を5回繰り返した。
 実験開始後すぐに、液割れが起きた。実験を繰り返すと、空気を吸引する時間が液割れが起こる場所に影響することがわかった。吸引が数秒だとペン尻から、1~2分だとペン尻とペン先の両方から、2分以上だとペン先から液割れは起きる。
 吸引が短いとペン先から入る空気が微量なため、インクがペン先側に押し戻されてしまい、ペン尻から液割れが起こる。吸引が1~2分間続くと、空気が入る力と押し戻される力が均衡するようになり、ペン先とペン尻の両側で液割れが起こる。ペン先から空気が入る時間が長くなると、空気が入る力がインクの押し戻される力を上回り、ペン先から液割れが起こる。
 以上のことから液割れという現象は、リフィルのどの部分で起こるにしても、ペン先から空気が入ることが原因だと考えられた。

書く角度を変える実験

 どんな状態の時にペン先から空気が入るのか、科学部では話し合いを行った。そしてインクが重力によって引っ張られる状態、つまり地面に対するペンの角度が影響してペン先から空気が入る、と仮説を立てた。

 仮説を検証するため、書く角度を変えられる装置を作った。装置を使って紙を置く台の角度を30、60、90、120、150、180度(ペンは台に対して垂直に近い角度で設置しているため、ペンの角度ではない)に変えて各5回ずつ、10分間書き続ける実験を行った。
 その結果、30~90度はすべてペン尻から液割れが起こった。120度では5回中1回、ペン先から液割れが起こった。150~180度はすべてペン先から液割れが起こった。また、実験開始から液割れが起こるまで、各角度の平均時間は90度が最も遅く9分だった。90度が最も液割れを起こしにくいことになるが、これはペンが地面に対して水平に近くなり、重力の影響を受けにくいからだと考えられる。


台の角度とインクが割れ始める時間

結論

液割れは次のような条件で起こることがわかった。

1.
ペンを使い続け、インクが急速に減る。
2.
ペン先側の気圧が下がる。
3.
ペンを動かす角度が影響し、インクが重力で引っ張られる。

以上の結果、液割れは「インクの使用」「気圧」「書く角度」が原因で発生する。

指導について

刈谷市立刈谷東中学校 名倉 秀樹

 普段の部活動において、生徒たちが身近なところからさまざまな疑問をもち寄り、自主的に研究を計画するようにしています。今回の研究でも、彼女らが学校生活の中で、「ペンにインクが残っているのに書けなくなる」という現象から疑問を感じ研究を始めました。生徒自身が「ペンが液割れする条件」を見つけるために、どのような実験をしたら起こる原因を解明できるのか考え、実験を行いました。生徒の自主性を大切にし、のびのびと研究できる場と環境を用意しました。研究を進める中で、再現性があるように実験を進めるようアドバイスをしました。また、1人1冊ノートを渡して、実験したすべてを記録すること、写真を必ず撮り記録して残すことを研究を通して意識させました。生徒たちの追究したいことができるようにサポートに徹しました。彼女らがどんどん考え、追究していった頑張りがとても大きいと思っています。

審査評

[審査員] 秋山 仁

 ボールペンのインクがまだあるのに、インクが出なくなり字が書けなくなったという経験をした人は多いでしょう。ボールペンのインクの入った管の部分を"リフィル"、リフィルのインクの間に空気が入ってしまう現象が"液割れ"です。科学部の7人組は液割れが発生する理由を科学的に突き止めるために、自動で字を書き続ける装置(書き続ける君)を製作し、液割れと書き続ける時間に相関があること、また、リフィル内部を真空状態にする実験によって、液割れの原因が気圧にも関係していることを明らかにしました。さらに、ボールペンを使用する角度を変えることができる装置を作り90度に近づけば近づくほど液割れが起き始める時間が長くなることを突き止めています。この研究は、身近な不思議に着目し、仮説を立て、実験装置を自前で開発・製作し、ボールペンの液割れの原因を解明した素晴らしい研究です。

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