第62回入賞作品 中学校の部
3等賞

出雲地方の化石 パート5

3等賞

島根県島根大学教育学部附属義務教育学校 7年
片寄 太耀
  • 島根県島根大学教育学部附属義務教育学校 7年
    片寄 太耀
  • 第62回入賞作品
    中学校の部
    3等賞

    3等賞

研究の動機

 小学2年生の時、博物館で見た化石に目を奪われた。数千万年、数億年前の太古の生物の痕跡が目の前にあって、感動したからだ。小学3年生になると、家から近い崖にある1300万年前の地層から貝化石を見つけ、身近な場所でも化石を見つけられることを知った。化石のことをもっと知りたいと思い、化石の自由研究を始めた。
 3年生では出雲市内の3か所で採集した化石や岩石を分析し、それぞれ比較した。4年生では寒流と暖流に注目し、5〜6年生では現生種との比較を行った。今回は、島根県東部の産地で化石を採集し、化石が生きていた当時の地図を作ろうと研究を始めた。

研究の方法

 研究の方法はまず、島根県松江市と出雲市の8か所を化石の産地とした。8か所で写真を撮って地層や岩石を調べ、採集できた化石はクリーニングしてラベルを付け、標本箱に保存する。次に、研究対象になり得る状態のよい化石を選んだ。8か所のなかには現在化石が採集できない産地もあるため、以前採集した化石や自分で採集していない化石も対象にした。その化石の現生種や同じ化石の別の産地を調べて、生きていた頃の化石の生息場所の状況を推定した。推定した状況から、当時の出雲地域を含めた日本地図を考えた。
 8か所の化石の産地は、次のとおりだ。
❶松江市美保関町森山の採石場跡
❷松江市鹿島町古浦の古浦海岸
❸松江市玉湯町林の宍道湖ふれあいパーク近くの湖岸
❹出雲市多伎町小田のシーサイド運動公園近くの海岸
❺出雲市多伎町小田のしおさいロード近く
❻出雲市上塩冶町築山の一畑バス停留所付近の崖
❼出雲市平田町小伊津の小伊津海岸近くの崖
❽出雲市上塩冶町菅沢の斐伊川放水路工事現場

採集の結果

 8か所で採集した化石やその産地の情報をまとめた。

❶松江市美保関町森山の採石場跡

 かつて採石場だったこの産地の地層は、古浦層と呼ばれるもので年代は2000万年前、おもに凝灰質泥岩(泥に加えて火山灰が混ざった岩石)でできている。この産地で研究対象に選んだ化石は2021年8月に採集した「広葉樹の葉(ハンノキの仲間の可能性)」「カエデ属?の葉」「植物化石断片」「スッポンの甲羅の一部」(転がっていたので採集日は不明)。ここではこの他に、メタセコイアの化石などが多く見つかっている。

❷松江市鹿島町古浦の古浦海岸

 この産地も古浦層で、年代は2000万年前だ。海水浴場の南西600mほど、平らになった場所に化石がある。多くの岩を乗り越えながら進むと、巻き貝が密集している。乗り越える岩は大きく危険なので、ここでの採集はお薦めできない。研究対象にした化石は、2021年7月に採集した「コササヒメタニシ」と「ササノハガイ」だった。

❸松江市玉湯町林の宍道湖ふれあいパーク近くの湖岸

 この産地の地層は布志名層で、年代は1300万年前。布志名層は砂岩が上へ向けて細かく泥岩になった地層で、宍道湖南岸を走る国道9号線に沿って東西に細長く分布している。この層で見つかる動物化石は布志名動物群(浅海生軟体動物化石群)と呼ばれ、全国的に有名だ。この産地は宍道湖ふれあいパークから少し歩いた場所にあり、湖岸に落ちているノジュールという岩塊の礫から化石が見つかる。研究対象にした化石は2018年11月から2019年5月までに採集した「珪化木(木の化石)」「哺乳類(アシカの仲間)の骨」「鰭脚類(アシカなど海生哺乳類)の肋骨?」だった。この産地は現在、護岸整備のために一切、採集ができない。

❹出雲市多伎町小田のシーサイド運動公園近くの海岸

 この産地も布志名層で、年代は1300万年前。この産地の海岸にはさまざまな石があり、灰青色をしたノジュールのなかに化石が入っている。研究対象にしたのは、2018年4月から2020年10月までに採集した「ホタテ?」「ヨコヤマビノスガイ」「シオバラザルガイ」「フジナウバトリガイ」「哺乳類の骨(鰭脚類のなどの肋骨)」「クリコマウバガイ」など。

❺出雲市多伎町小田のしおさいロード近く

 この産地も布志名層で、年代は1300万年前。❹と同じ小田海岸だが、❹より西側にある。しおさいロードの下に広がる海岸で化石が見つかる。研究対象にしたのは、2018年6月から2021年7月に採集した「珪化木」「クリコマウバガイ」「クジラの化石」「フナクイムシの生痕化石」「哺乳類の化石」「アオザメの歯」だった。

❻出雲市上塩冶町築山の一畑バス停留所付近の崖

 この産地も布志名層で、年代は1300万年前。他の産地より岩石中に砂が多く崩れやすい。ノジュールが崖にたくさん見られる。研究対象にしたのは2019年5月に採集した「カキ」「ツノガイの仲間」「ムカシエンコウガニ」「珪化木」「ムカシウラシマガイ」「イズモノアシタ」だ。

❼出雲市平田町小伊津の小伊津海岸近くの崖

 この産地の地層は成相寺層で、年代は1600万年前。この産地の近くにある小伊津海岸では、海底に土砂が堆積してできた地層がはっきりと見られる。この産地は日本では珍しいクモヒトデの化石が見つかる。研究対象にしたのは2019年5月に採集した「クモヒトデ」「ペッカムニシキ」「タテイワツキヒ」「二枚貝」「植物の化石」だ。

❽出雲市上塩冶町菅沢の斐伊川放水路工事現場

 この産地の地層は布志名層で、年代は1300万年前。この産地は現在は化石の採集ができない。研究の対象にしたのは2000年6月から2001年7月に採集された「モニワホタテ」「ムカシエンコウガニ」「クジラの骨」だった。

研究の考察

古浦層・2000万年前の日本

 ❷の貝化石はどちらも湖の水深の浅い場所や湿地帯の砂泥の底に生息する。同じ貝化石が島根県の隠岐島や、兵庫県豊岡市でも見つかっている。また島根県美保関エリアと秋田県北秋田市で、やや冷たい気候に生息する植物の化石や湖沼に生息する植物が見つかっている。このことから、2000万年前の日本列島は大陸とつながっており、秋田県から島根県まで湖が広がり、湖の周りに広葉樹林が広がっていたとわかる。全体的に涼しかった。

成相寺層・1600万年前の日本

 ❼で見つかるクモヒトデやペッカムニシキ、タテイワツキヒは、暖流の深海に生息する。クモヒトデが愛知県南部や和歌山県那智勝浦町の同時代地層からも見つかり、ペッカムニシキは長野県上田市、タテイワツキヒは山形市の1500万年前の地層からも見つかっている。このことから日本列島は大陸から離れ、湖が日本海となって深海化し、暖流が流れていたことがわかる。上田市などでも深海の化石が見つかることから、日本列島は分裂し、現在のフォッサマグナは海だったことがわかる。

布志名層・1300万年前の日本

 布志名層ではおもに、寒流系の貝化石が見つかる。このことから、暖流が流れ込んでいた対馬海峡が狭まるか、閉じていたことがわかる。干潟や浅い場所に生息する貝化石が多いことから、深海化した日本海は浅い海に変わり、成相寺層の頃とは違って日本列島は分裂していなかったと推測できる。❻のイズモノアシタが岡山県でも見つかっていることから、この時代にはすでに瀬戸内海はあったこともわかった。


❻出雲市上塩冶町築山の一畑バス停留所近くの崖で採集したイズモノアシタの化石、干潟に生息している貝

指導について

島根県島根大学教育学部附属義務教育学校後期課程 大山 朋江

 片寄さんは、小学生の頃から化石に関心をもち、詳しい方に採集・同定に関する相談をしたり、採集に同行したりしながら研究してきました。大学の先生にも質問をしたり、論文を紹介していただいたりしてきました。このように、片寄さんは積極的に専門の方とも関わりをもち、科学的に研究を進めてきました。本研究でも、採集した化石と現生種との比較などを行い当時の地図をつくり、その考えを前述の先生方に伝えるなどし、考察に検討を加えてきました。私からは、なぜそのような地図になると判断したのか、その根拠でそのような地図になるといってよいのかといったことを掘り下げて聞くようにしました。根拠として十分ではないと思われる部分について、片寄さんは自分のデータや各博物館のデータベース、諸論文を見直しながら考察に修正を加え、本研究をまとめました。今後も、本研究について地学分野の方と議論し、考えを深める場を設ける予定にしています。

審査評

[審査員] 友国 雅章

 博物館で見た化石に興味を持って始めた片寄君の自由研究も5年目になる。今回は島根県東部の松江市と出雲市の8カ所で採集した化石を用いて、現生種との比較や、他の産地での産出状況との突き合わせなどにより、それらの化石が生きていた時代の地図を描いて、当時の自然状況を考えようという壮大な研究計画を立てた。現地調査により、植物化石はもとより、哺乳類、魚類、貝類、クモヒトデなど多くの化石が見つかった。それぞれの産地は2000万年前の古浦層、1600万年前の成相寺層、および1300万年前の布志名層の3つの地層に属しており、産出した化石の分析で当時の自然環境が復元できた。それを基にそれぞれの地質年代時の地図も描くことが出来た。これらは大きい成果だといえる。
 片寄君は化石の知識が豊富で、島根県以外の化石産地のこともよく知っている。今回の研究では、得られた化石の情報から、それらが生きていた時代の地形や自然環境を復元したという独創性が高く評価できる。

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