研究の目的
前回までの自由研究で、生息地のクヌギ林まで行かなくても、家のカブトムシ小屋の前にトラップ(わな)を置いただけで、カブトムシたちをつかまえられることを明らかにした。「トラップに使うエサのにおい」と「カブトムシ小屋の腐葉土や仲間たちのにおい」がカブトムシたちを呼び寄せているのだと思う。トラップのエサは「カブトムシが好きなにおい実験」と「カブトムシが好きな味実験」を参考に選んでいて、実験がバッチリだったことも証明された。さらに家の近所のクヌギ林まで歩いて調べた結果、最も近い林でもカブトムシ小屋から半径500m以上離れていることがわかった。
カブトムシたちは、どこから家まで飛んで来るのか。あまり飛ぶ姿を見かけないが、本当に500m以上の長い距離を飛べるのか。今回の研究は、実験をすることでカブトムシの飛ぶ力を明らかにすることにした。
カブトムシの活動観察
小学1年生の夏休み、父と一緒に大きなカブトムシ小屋を作り、捕まえたカブトムシたちをのびのびと生活させ観察を始めた。今回の研究でも観察や実験のため、メスが産んだ卵から育てた飼育カブトムシ(オス10頭、メス1頭)、クヌギ林で野外採集したカブトムシ(オス4頭、メス7頭)、カブトムシ小屋前のトラップで採集したカブトムシ(オス25頭、メス34頭)を飼育した。
実験1の目的と方法
カブトムシは夜行性といわれるが、どんな1日を過ごしているのか。まず、カブトムシが飛びやすい時間を知る目的で、カブトムシの活動を詳しく調べることにした。
実験1では1日24時間の毎時間、カブトムシ小屋のマット上に出ているカブトムシの数をオス・メスごとに集計した。自然環境を考えて、「24時間エサがある状態の晴れの日」で2日、「24時間エサがある状態の雨の日」で1日、「24時間エサがない状態の晴れの日」で2日、「24時間エサがない状態の雨の日」で1日、合計6日間の活動の様子を集計した。
実験1の結果と考察
暗くなり始めると、小屋からは羽ばたき音が聞こえ始める。ブンブンと羽ばたき音が大きいと、小屋の扉を開けるのもドキドキした。しかしなぜか1時を過ぎると、小屋は静かになった。エサがない時のほうが、カブトムシが飛んでいる印象だ。
下の棒グラフに、オス・メスごとに活動割合を表示した。オスのグラフは延べ76頭、メスのグラフは延べ79頭の記録だ。オスのほうがかなり活動的だとわかる。この実験から、オス同士はエサがたくさんあっても、ひとつのエサを取り合ってけんかをすること。メスの取り合いでもケンカをすること。メスのエサを奪うオスはいないこと。ケンカに負けたオスは土の中に逃げていくこと、メス同士はけんかをしないことなどが観察できた。
20~0時までの活動量が多く、カブトムシたちが飛び回ることが多かったので、以後の実験はその時間に行うことにした。
カブトムシの1日24時間の活動割合
左がオスの活動割合、右がメスの活動割合、下の横並びの数字は時刻
昆虫たちの飛翔力を確かめる
実験2の方法と結果
カブトムシの飛ぶ力を知るには、カブトムシがどのように飛ぶかを知ることが必要だ。飛ぶことが上手そうな他の昆虫と比べながら、確かめた。カブトムシは夜になるとブンブン飛ぶので、飛んでいる体の角度や羽の動きをじっくりと観察し、トンボやチョウ、セミと比べた。
すると、カブトムシは硬い前ばねを広げて後ろばねだけを羽ばたかせて飛ぶことがわかった。飛ぶ角度は45度、羽ばたきの角度は大きく、羽ばたきの回数も多い。トンボは比較したなかで最も速く、上手に飛ぶ昆虫だった。2対4枚の羽がそれぞれ別に動き、羽ばたきの角度は小さく、滑空している時は羽ばたかない。チョウは大きな羽でゆっくり飛ぶ。ゆっくりだか休んでは飛ぶ、飛んでは休むをくり返しながら上手に飛ぶ。セミはあまり飛ぶのが上手な昆虫ではなかった。飛ぶのが上手な昆虫と比べると、やはりカブトムシはあまり飛ばない。
実験3の方法と結果
昆虫の飛ぶ力を比較するため、算数で習った円と長さを使って、飛んだ距離(km)と時間(h)から昆虫が飛ぶ時速(km/h)を計算することにした。インターネットで調べると、フライトミルという昆虫の飛翔能力を測定する装置があった。ただフライトミルはハエやカのような小さな昆虫用だ。そこで父と一緒に、カブトムシの時速も測れるように強度を上げたフライトミルを作った。完成したフライトミルは固定された竹とんぼの羽根のような回転体を持ち、片方の羽根の端にクリップを取り付け、グルーガンで昆虫を接着する(カブトムシは実験2で観察した45度の角度で接着)。羽根の反対側の端に昆虫と同じ重さの重りをつけ、磁石の反発力も使って昆虫が抵抗なく円運動で飛行できるようにした。昆虫がくるりと1回転すると1m進むように回転体の直径を決め、飛ぶ昆虫の時速を測定した。ところが最初に作った「カブトフライトミル」(1号機)はホタルやトンボ、セミのような軽い昆虫の飛行速度は測定できたが、カブトムシの重さに耐えられず、回転体が折れてしまった。
より抵抗力がなく回るものを考えた結果、ハンドスピナー(ボールベアリングを内蔵した玩具)を思いついた。改良した「スーパーカブトフライトミル」(2号機)の仕組みが下の図だ。
ふたつの装置で測定した昆虫の最高記録は下の表のとおり。
秘めた飛行能力を確かめる
実験4の方法と結果
実験3のカブトムシは500mは飛ばなかったが、カブトムシは1日に何度も何度も飛ぶ。1度に飛ばなくても、何度も飛んで長距離を進めばよいわけだ。そこで、本当の実力を調べることにした。実験3の経験から、オスは角を左右に振ると飛びやすいことがわかっている。オスの角をつまんで軽く振って羽ばたき始めたらタイマーで時間を計り、止まったらタイマーを止める。これをくり返して25分間で羽ばたいた時間を合計した。メスも胸部分に角の代わりに切った割りばしを取り付け、同じ実験を20分間行った。取り付けるのに使うグルーガンは、実験後に簡単にはがすことができる。
その結果、小さなオスが25分に合計706秒、小さなメスが20分間に合計618秒羽ばたいた。実験3で確かめたカブトムシの時速は秒速に直すと1.7mだ。秒速と羽ばたいた秒数を積算するとオスが1200.2m、メスが1050.6mとなり、オスもメスも500mをはるかに超える飛行能力を持つことが明らかになった。
[審査員] 田村 正弘
小学校1年生から2年間の研究成果として、自宅のトラップで採集できる術を得ました。しかし、カブトムシがすむクヌギ林までは直線で500mもあることから、どのようにして飛んでくるのか解明したくなり今年度の研究テーマが決まりました。はじめに「カブトムシは夜間に活発に活動すること」を確かめ、「カブトムシの飛び方と他の昆虫の飛び方の比較」をすることによって最大のテーマである「カブトムシは500m以上の飛翔能力があるのか」を探究することになりました。飛行距離の測定方法は高学年算数の内容を駆使するので小学校3年生には難しかったと思います。努力と試行錯誤の結果、自作で「フライトミル」を設計・作製し検証しました。比較として扱ったトンボなどの結果も興味深かったです。1回の飛行距離では500mには満たなかったのですが「必ず飛べるはず」という信念のもと、何回かに分けて飛べるという仮説を立て、30分以内で1000mも飛べることを証明しました。実験1から4までの展開に無理がなく理解しやすい作品になりました。
木下 大輔
大好きなカブトムシを捕まえて、よく観察することが目的で始まった自由研究。野外採集に出かけるときの息子のキラキラとした表情が印象的です。クヌギ林へ行かずに、わが家でカブトムシを捕まえられる大発見をしたことで、生態や能力に興味が広がりました。自分で計画を立て、自転車で野外採集へ行ったり、夜遅くまで観察や実験に取り組む姿には感心させられました。
今年はカブトムシの飛行能力を証明するために、試行錯誤し、根気よく実験を続けました。「結果を出すまで頑張る!」という息子は「やってみることの大切さ」「あきらめない気持ち」を、なかなか飛んでくれないカブトムシたちから学んだと思います。
これからもたくさんの体験の中で、不思議や疑問に出合い、思いがけない発見や、解明していくことの面白さを感じてほしいです。
今回このような素晴らしい評価をいただけましたこと、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。