研究を始めたわけ
米村でんじろう先生のサイエンスショー「おもしろ科学館」へ行き、ペーパーブーメランにくぎ付けになった。ステージから客席へ向けて投げられたブーメランは、くるくると頭上を超えて奥の客席まで数十m飛び、ステージのでんじろう先生のところへ見事に戻っていく。けっこうスピードもあった。助手のチャーリー西村さんやえびちゃんが、ペーパーブーメランの作り方や飛ばし方のコツ教えてくれた。「まずは悩まず、思いついたことをやってみてください。悩んでいる間に夏休みは終わってしまいますよ」という、でんじろう先生の言葉に背中を押され、ぼくもより長い距離を飛び、手元に戻ってくるブーメランを作ることにした。
実験の準備
基本の3枚羽根ブーメランと投げ方
ブーメランの作り方は、厚紙から長さ15cm×3cmの長方形の羽根3枚を切り出す。長方形の片方の端の中心に長さ1.5cmほどの切り込みを入れる。3枚の切り込みを合わせて同じ角度になるように整える。かみ合わせて重なった部分をホッチキスで3カ所ほど留める。
投げ方は①ブーメランを親指と人指し指ではさんで立てて持つ。②ブーメランを後ろに倒し、手首とひじを曲げてふりかぶる。③ブーメランを立てたまま、まっすぐ前に投げる。手首をすばやく振ってスナップをきかせるのがコツ。④戻ってきたブーメランを両手ではさんでキャッチする。うまく投げられるように、がんばって練習しよう。
まずは予備実験として、サイエンスショーのグッズ販売で買ったペーパーブーメランをモデルに、3枚羽根以外にも、2枚羽根、4枚羽根の厚紙ブーメランを作って飛ばしてみた。
予備実験とブーメランの測定法
予備実験を行うと、2枚羽根(重さ2g)のペーパーブーメランは回転がかからず手元に戻ってこなかった。3枚羽根(重さ3g)はリビングで試すと戻ってくる。羽根を広げる角度はそろえたほうがよいようだ。4枚羽根(重さ4g)は3枚より安定しない。羽根に切り込みを入れなかったため、かみ合わせ部分が不安定で、羽根がぶらぶらしていた。十字に組み合わせ、羽根の角度は90度にそろえることができた。
この時の材料は工作用紙で、何度も投げると羽根が折れたり曲がったりした。紙に硬さがなく、飛行中の空気抵抗に負けて、羽根がブランブランしたのかもしれない。100円ショップで見つけたフニャフニャしない板目表紙に材料を変え、実験を進めることにする。
そのブーメランがどれだけ飛んだかを測定する方法は、風の影響を受けない室内でブーメランを飛ばし、巻き尺を使って飛行距離を調べる。途中で落ちた時は、投げ始めの位置から到達した最も遠い地点までの距離を調べる。ブーメランが落ちる、または手元に戻るまでの時間を測って、飛行時間とする。
実験1〜5
実験1 ブーメランの羽根の長さは?
基本の3枚羽根ペーパーブーメランの羽根の長さを5〜17cmまで2cmずつ変えながら、飛行距離と飛行時間を比べた。羽根の幅は3cmで統一し、5回ずつ投げた平均の結果は表のとおり。
羽根の長さが短いと回転ががからず、空気の力を十分に受け取れなかった。長い羽根が飛ぶわけでもない。実験結果から羽根の長さは13cmに決定。短すぎず長すぎず、投げる時に手に当たらない程度の長さの羽根があれば、空気の力を羽根に伝えることができる。
実験2 ブーメランの羽根の横幅は?
基本の3枚羽根ペーパーブーメランの羽根の幅を1〜6cmまで1cmずつ変えながら、飛行距離と飛行時間を比べた。羽根の長さは13cmで統一し、5回ずつ投げた平均の結果は表のとおり。
ブーメランの幅は狭すぎても広すぎてもいけない。3cmがベスト。幅広になるとブーメラン全体が重くなって、飛行中に落下してしまう。重さもまた大切な要素だ。
実験3 ブーメランの羽根の枚数と角度は?
実験1〜2から羽根の長さ13cm、幅3cmのブーメランの羽根の枚数を2〜6枚まで変え、飛行距離と飛行時間を比べた。2〜4枚の羽根については、同じ枚数でも組み合わせ角度が異なるブーメランを比べ、違いが出るかも調べた。5回ずつ投げた平均の結果は表のとおり。
3枚羽根の120度が飛行距離も速度も安定しているのに比べ、2枚羽根は距離は伸びても予想以上に戻らない理由は何か。竹とんぼの羽根のような、ふくらみやねじれを取り入れてみたらどうなるだろう。
実験4 竹とんぼの羽根の工夫を取り入れたら?
羽根の長さ13cm、幅3cmのブーメランの3枚羽根にねじれ、そり、ふくらみを入れ、それぞれの飛行距離と飛行時間を比べた。ねじれは羽根の先を自分に向け右側が上がるように(3・5・1mmの高さを試した)ねじる。そりは3枚の羽根先を中心から上にそらす。ふくらみは羽根を円柱に押し付け(茶筒と油性ペンで試した)、ふくらませる。5回ずつ投げた平均の結果は表のとおり。
羽根にねじりをつけることでブーメランが手元に戻ってくるようになって、大成功だった。3mmの飛行距離がよかったので、ねじりは3mmで進めることにする。
実験5 羽根におもりをつけたら?
羽根の長さ13cm、幅3cm、3枚羽根に3mmのねじれを入れたブーメランを用意した。さらにおもりとして羽根の先にビニールテープを1〜4回巻いて重さを変えながら、それぞれ飛び方を比べてみた。5回ずつ投げた平均の結果は表のとおり。
3回巻きでついに、ベスト記録7.83mが出た。おもりをつけるベストポジションも確かめると、羽根先で間違いなかった。中心部を重くすると回転力が弱まる。おもりは外側につけるべきだった。
すべての結果、3枚羽根、羽根の長さ13cm、幅3cm、ねじり3mm+そり+まるみ、おもりのビニールテープを羽根先に3回巻いた、飛行距離7.83mの手元に戻るブーメランができた。
[審査員] 秋山 仁
紙飛行機、竹トンボ、ブーメラン等は、身の回りにある素材で手軽につくれる遊び道具として人気が高いです。特に、ブーメランは、そもそも“飛ぶ鳥を落とすための狩猟道具”に使われていたものであり、人気が高いです。
本研究では、厚紙1枚からつくれるペーパーブーメランの秘密を解明した作品です。具体的には、飛距離を延ばすために、羽の長さや横幅、枚数と角度、羽根のねじれや反り、重り等に着目し、実験を繰り返していました。その結果、飛行距離が8m近くになるブーメラン(長さ13cm、横幅3cmの長方形帯3枚を120°に配置し、それに適切なねじれや反り、丸味や重りを付けたもの)を作製することに成功していました。ブーメランは立てて投げなければ戻ってこないが、そのメカニズムも、揚力や空気抵抗、空気の流れ等に注目し解き明かしていました。
作者がこの研究をした後の感想として、「自分がミニ科学者になった気持ちになれてとても充実していた」と述べていますが、そのような体験を何度か経験すると本物の科学者になると思います。
富山大学教育学部附属小学校 保井 海太朗
澤田さんは、自分にとって身近な「ペーパーブーメラン」に関心をもち、よく飛び、自分のところにしっかりと戻ってくるブーメランの条件を洗い出して、粘り強く追究していきました。
例えば、ブーメランを何度も投げて記録を残し、蓄積したデータを基に、問題を科学的に解決しています。また、ブーメランはシンプルな作りですが、その仕組みは複雑なので、様々な条件を1つずつじっくりと調べています。さらに、ブーメランがよく飛ぶ条件をより深く理解しようと、自ら自転車に乗ってぐるぐると回転して遠心力を体感するなどしました。ブーメランは、体を動かすことが大好きな澤田さんにぴったりのテーマであり、納得のいくまで、とことん突き詰める姿勢が光っています。
低学年からの学習を通して、澤田さんの問題解決の力が高まっていることが改めて分かりました。今後も、追究する姿勢や粘り強さを、授業や科学の研究に生かしていくことを期待しています。