第63回入賞作品 小学校の部
オリンパス特別賞

「水草から出る気体」根ほり葉ほり

オリンパス特別賞

東京都港区立青南小学校 4年
葉山 楓悟
  • 東京都港区立青南小学校 4年
    葉山 楓悟
  • 第63回入賞作品
    小学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究のきっかけ

 2021年に、陸上の植物の葉っぱから出る水(蒸散作用)について調べた。二酸化炭素や日光を使って葉緑体で光合成をすると、葉っぱは酸素を出す。その時、葉っぱの気孔から蒸散作用で水(水蒸気)を出している。せっかく根から吸い上げた水を出してしまうのには、わけがあった。水の分子はくさりのようにつながっていて、蒸散作用で送り出さないと、新しい水の分子を吸い上げられないからだ。植物は生きるため、水と一緒に土の中の養分を吸収する。さらに、日光が当たって上がりすぎた葉っぱの温度を「うち水」をして下げる必要もある。そういうことを、2021年の観察や実験で学んだ。
 今回は、周りを水で囲まれている水草が気になった。水草も葉緑体があるので、光合成をするはずだ。周りが水だから「うち水」の必要はなさそうだが、水草の葉っぱはどんなことをしているのか、調べたくなった。

調べたいこと1〜2

調べたいこと1〜2の内容

 水草は葉っぱから何を出しているのか。それは、水草の種類によって違うのか。水草も日光が当たれば光合成をして酸素を出すだろう。でも、周りが水の環境で、二酸化炭素をどう吸収しているのか。酸素や二酸化炭素が、どれだけ水に溶けやすいのかも調べたい。

実験1〜3

 まず学校の研究クラブで、種類の違う水草が出す気体の量を調べた。水草の上に試験管を設置して、それぞれが出す気体を集めて量を比べた。その結果、水草が出す気体の量は種類によって違い、今回の研究ではよく気体を出すオオカナダモを使うことにした。
 次にオオカナダモが出している気体は、酸素なのかどうかを確かめた。空のペッドボトルの一方にオオカナダモを入れ、空気が入らないように注意しながら水を注いでフタをする。もう一方には水だけを注意深く注ぎ入れ、フタをする。水草入り水草なしのペットボトルはどちらも、水温が30℃を超えないようにバケツの水で冷やしながら日光に当てた。日差しがない時は代わりにライトを当て、水草のボトル内に気泡ができるのを待つ。気体が十分溜まったらマッチの火を近づけてボッと音がするかどうかを確かめた。音がすれば、水草は酸素を出していることになる。
 溜まった気泡の扱いに何回か失敗した後、2022年8月15〜16日、水草を日光やライトに当てて溜まったボトル1本分気体を、漏斗を使って集めることに成功した。マッチの炎を近づけたら、じゃがいもの空気鉄炮のような小さな音で「ぽっ」といった。さらに、気泡が出ている別の水草ボトルを、日の当たらない場所に一晩置いてみると、翌朝、気泡の量が減っていた。減った気体を漏斗で集め、マッチの火を近づけると「ぽっ」といった。
 実験1〜3の結果、オオカナダモは日光が当たると光合成をして酸素を出すことがわかった。雨やくもり、水温が低いとあまり酸素を出さなかった。一晩置いたら気泡が減ったのは、水草が呼吸をして酸素を使ったからか、水から発生した気体がまた水に溶けたのか。水だけのペットボトルにも、気泡は発生した。もともと水に溶けていた気体が、温められて気化したからだと思う。オオカナダモが入ったボトルに溜まった気泡も100%酸素ではなく、水に溶けていた気体が含まれているはずだ。

実験4

 3本のペットボトルを水で満たし、酸素、二酸化炭素、窒素をそれぞれ同量注入する。3本のペットボトルを立て、水がどこまで入っているかマジックで印をつけて観察した。10時間後、二酸化炭素のボトルだけ激しく凹んだ。酸素と窒素は変化がない。二酸化炭素が水に溶けやすいことがわかった。
 水温で溶けやすさに差はあるか、今度は3本のペットボトルを保冷剤の入ったバケツに入れて観察した。7時間後、二酸化炭素は常温の時よりも水に溶け、酸素もほんの少し溶けていた。窒素は変化が確認できなかった。
 本で調べると、この3つの気体の中では二酸化炭素が最も水に溶けやすく、続いて酸素、窒素の順とあった。気体は温度が低いほど水に溶けやすいこともわかった。

調べたいこと3〜5

調べたいこと3〜5の内容

 オオカナダモが酸素を多く出す条件(日光の当たり方、光の色)を詳しく調べる。オオカナダモ以外の水草、バコパを使った実験もする。

実験5

 日光の当たり具合を変え、オオカナダモが出す酸素の量を比べてみた。ペットボトル5本を用意して、4本に同じ重さのオオカナダモを入れる。4本の水草入りボトルのうち3本を靴下で覆った。靴下の色は黒、灰、白の3色。5本のペットボトルに同じように日光やライトを当て、発生した気泡の量を比較した
 水温23℃の8月19日は翌20日の夕方にかけて26時間ほど観察し、気泡の量は靴下なし>白>水だけ>灰>黒だった。水温30℃の8月23日は12〜16時30分まで観察した結果、靴下なし>白>灰>黒>水だけだった。オオカナダモは日光がよく当たって明るく、水温が高いほうが活発に光合成をして、多くの酸素を出していた。

実験6〜7

 野菜工場の野菜には紫色(赤+青色)のライトを当てて成長を早めていると、研究クラブの先輩が教えてくれた。植物の光合成にはどの色が大切か、赤や青、緑のペットボトルで気泡の量を比べてみた。
 実験6には、フェルトペンで赤、青、緑に塗ったペットボトルを使った。それぞれにオオカナダモを入れ、8月20日と21日の2回、日光に当てて発生する気泡を観察した。ところが2回の結果に統一性がなかった。
 フェルトペンだと濃さが均等でないのかもしれないと思い、実験7ではペットボトルを同じ厚さのセロハンで覆うことにした。毎日の実験でオオカナダモが疲れていることも考えて、バコパを使ってみたが、どのペットボトルにも気泡が溜まらず失敗。バコパは全体を水に浸けると光合成ができないのかもしれない。それとも、入れる量が少なすぎたのか。
 反省を踏まえ水草をオオカナダモに戻し、9本のペットボトルに9gずつオオカナダモを入れ、そのうち5本をセロハンで覆った。残り3本はフェルトペンで赤、青、緑色を塗り、残り1本は水草を入れただけにした。
 8月24日の日中、同じように日光に当てて観察した。その結果が、下の表だ。


実験7の様子

 色別の実験結果にはばらつきがあったが、全体を通して光合成には赤が大切だと思った。極端だったのが、色セロハングループだった。水草だけやフェルトペングループより日光に当てる時間を延ばしたが、それでも明らかに気泡が少ない。光合成に必要な何か大切な光線をセロハンが遮り、正常に光合成が行われていないと感じた。

調べたいこと6〜7

 自作した分光器を使ってセロハンを通した日光を観察したが、大切な光線をセロハンが遮っているのかどうかわからなかった。最後に、光合成をする水草の葉っぱのつくりを顕微鏡で観察した。オオカナダモの葉っぱを2日間、何時間も確かめたが、気孔が見つからない。同時に観察したバジルやミントには気孔があった。水で囲まれた水草には気孔がなく、葉っぱの表面から直接気体の出し入れができることがわかった。

指導について

港区立青南小学校 教諭

 3年生の時に、野草の蒸散や呼吸に興味をもったことをきっかけに始めた研究です。根から離れた位置にある葉では、蒸散量が少ないのではないかと、葉の位置と葉から出る水の量の関係を調べました。そして2年目の今年は、葉が出す気体を調べようということで、気体が目に見える水草を選んで研究を進めました。始めは、葉の形と出てくる気体の量の違いを調べました。調べている時に水耕栽培では赤い光を使用していることを知り、植物に元気を与える色があるのではないかと、光の色を変えて出てくる気体の量の違いを調べました。ご家族の協力や先輩からのアドバイス、知識を生かして、楽しく研究を深めました。植物の姿をよく見て、それぞれに合った名前を付けるなど、日々の研究の積み重ねの中で、植物との時間を大切に、親しんできたことが受賞につながったと思います。次のテーマも見つかったようです。新たな植物の生きる力を発見してほしいと思います。

審査評

[審査員] 木部 剛

 昨年、陸生植物の蒸散について調べたことから新たに水草の葉に興味を持ち、今回の研究につながりました。いくつもの疑問がわき、それらを確かめる実験を計画しては実施するというスタイルです。この研究では途中多くの失敗が記録されています。操作での失敗や計画の問題などですが、失敗を素直に受け止め、何がいけなかったのかを考え次の実験に生かしていくという粘り強さがみられました。一連の実験から、水草であるオオカナダモは光が当たると酸素を出し、その酸素は水に溶けにくく、光合成には赤い光が有効であるという考察がなされました。このことは高校の教科書などには書かれていることですが、小学生が自分の興味から実験的に自分の力でその事実に近付いたという点が評価されました。この研究では、もう一つの課題として顕微鏡で葉の細胞と葉緑体を観察しています。オオカナダモは葉の細胞層が薄く、切片を作らなくても観察可能な植物材料ですが、別の水草「バコパ」は同じようには観察できませんでした。どのような工夫をすればオオカナダモのような顕微鏡像が得られるかを考えてみると良いでしょう。

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