第64回入賞作品 中学校の部
オリンパス特別賞

右心用補助人工心臓 RVAD

オリンパス特別賞

富山県富山大学教育学部附属中学校 2年
張 契洙
  • 富山県富山大学教育学部附属中学校 2年
    張 契洙
  • 第64回入賞作品
    中学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究の動機

 小学3年生のころ、1982年にアメリカで作られたJarvik7という完全人工心臓があることを知り、人工心臓を作ってみたいと思った。Jarvik7は完全人工心臓で、心臓を補助する補助人工心臓とは違う。重症心不全の場合、心臓移植までの待機期間中に延命のため補助人工心臓が使われる。試用期間は約5年で、その後は心臓移植を受けなければ生きることができない。もっと長く使える補助人工心臓の開発が必要だと考えて、研究を始めた。
 目標は、右心用補助人工心臓(Right Ventricular Assist Device)の開発だ。右心は左心に比べ疾患が少ない。左心用補助人工心臓がたくさんあるのに対し、右心用は開発されていない。左心は右心より約5倍圧力が高く、左心用補助人工心臓を取り付けると、左心がより血液を吸い上げて右心機能が損なわれる可能性もある。それに加え、少ないとはいえ右心の疾患も無視できないため、開発したいと考えている。
 また、現在主流の左心用補助人工心臓は無拍動型だ。心臓と同じような拍動で血液を流すのではなく、インペラ(羽根車)を高速回転させることなどで血液を流す、連続流型が主流になっている。連続流型では本来の心臓の拍動リズムにずれが生じるのではないかと考え、拍動型の右心用補助人工心臓を開発したいと考えた。

これまでの研究

 拍動型の補助人工心臓には、弁が必要だ。弁は開閉することで血液を逆流させないよう、決まった方向へ流すよう、うながす働きを持つ。心臓には、左心房と左心室の間にある僧帽弁、左心室の出口にある大動脈弁、右心房と右心室の間にある三尖弁、右心室の出口にある肺動脈弁と、4つの弁がある。開発を目指している拍動型右心用補助人工心臓は、遠心力を利用した遠心ポンプの入口と出口に逆流が少ない人工三尖弁を取り付けたもの。三尖弁というのは名前のとおり、前尖、中隔尖、後尖の3枚の弁で成り立っている。

 2021〜2022年度の研究では理想の人工三尖弁の形や素材を研究したが、心臓を傷つける可能性があったり、血栓(血液が固まって血管をふさぐ状態)ができやすくなったりする問題点が残った。2021年度は遠心ポンプの試作品も作ったが、うまく動かなかった。
 2022年度は、人体の血圧の損失がどの程度の大きさかを実験で確かめ、流体デバイスも作成した。流体デバイスとは、人体の圧力構造を小型化した模型のことだ。流体デバイスを使って実験を行うことで、動物実験を減らし、実験コストを抑えることが可能になる。

2023年度の人工弁実験

血栓ができにくい人工弁とは

 人工弁には現在、機械弁と生体弁がある。機械弁というのは、パイロライトカーボン(黒いプラスチックのような素材)で作られた平面の弁だ。生体弁は牛や豚の心臓で作られている。機械弁の金属部分には血栓ができやすく、使用するには生涯にわたり抗凝固薬の服用が必要で、数か月おきに血液検査を受けなければならない。生体弁は生涯にわたってではないが、手術後3か月は血栓ができる可能性があり、抗凝固剤の服用が必要だ。
 そこで、魚を人工弁の素材にすることを考えた。魚に多く含まれるEPAやDHAには抗炎症作用や心血管健康への影響などの効果がある。魚弁なら手術後も血栓ができず、抗凝固薬の必要がないのではないか。

魚弁の比較実験

 実験で魚の肉片で弁を作り、豚の血液のなかへ浸した場合、どんな状態になるかを確かめてみた。弁の素材とする魚はふくらぎ(はまち)、真鯛、ストラウスサーモンを用意し、ゴアテックスやシリコン、天然ゴムでも同様の弁を作って比較する。
 魚の肉片は大動脈弁の三葉弁の型で切り取り、消毒して縫合しやすくするため天日に干す。弁の枠は積層タイプの3Dプリンタを使い、伸縮するゴム素材で作った。干した魚などの弁の素材をそれぞれ、弁枠と縫合する。完成した弁を容器へ入れた豚の血液に浸けて蓋をする。1週間置いた後に取り出し、弁の様子を確認した。

比較実験の結果

 魚弁を比較した結果は下部の表のとおり。

 魚弁には血液に1週間置くことで裂けやすくなったもの、逆に裂けにくくなった素材があった。乾燥が進んで魚に含まれる脂肪の量が減っている素材ほど、裂けにくくなっていた。今後もさまざまな視点で実験を重ね、魚弁を開発したい。
 血栓ができやすい問題を解決しようと調べる過程で、血栓の溶解が可能な脂肪酸を見つけた。この成分を含む魚弁の開発は、予想を超える発見となった。

遠心ポンプの開発

 遠心ポンプは拍動型を目標としているが、まずは無拍動型遠心ポンプ作りから始めた。2022年度から、インペラとケーシング(羽根車を設置する容器)を3DCAD(コンピュータで設計やデザインを行うこと)のソフトfusion360を使って改良し、光造形3Dプリンタで造形した。組み立てた遠心ポンプは電圧2.5Vで4L/分の流量で、市販品と比べても見劣りしない。成人男性の全身に血液を送ることができる能力だったが、溶血(血液中の赤血球膜が破壊され、ヘモグロビン溶液が血漿へ溶け出した状態)が起こってしまった。
 溶血はインペラを回す軸の部分で起こるため、解決するには軸のないポンプを作る必要があった。オープンソースのマグネットポンプを模倣し、マグネットポンプを作った。インペラとモーターにそれぞれマグネットを配置し、インペラを宙に浮かせて回転させる仕組みだ。モーターとインペラの間の最適な距離や、アメリカ航空諮問委員会NACAの翼形データを用いた複数の形状のインペラ、最もパワーが出せるケーシングの形などを検証しながら、良好に動作するマグネットポンプ大を選んだ。そのポンプ大で豚の血を使った溶血実験をしたところ、電圧2.5Vで1L/分の流量を確保したが、インペラとモーター間の壁で擦れ続けることで、溶血が発生してしまった。今後も溶血を防ぐため、改良を重ねる予定だ。
 研究を進めるのに欠かせない流体デバイスや拍動シミュレーターも自作して開発を進め、成果を得ている。今後も精度を高めていきたい。


マグネットポンプの溶血実験(東京大学)

指導について

安久工機 田中 隆/杏林大学 磯山 隆

 張君から人工心臓の構造・駆動方法・拍動流循環回路等について質問されたときに、歴史・種類・構造とそれぞれの長所・短所等を説明し、関係する文献等も紹介しました。さらにその分野の専門研究者の話を聞きたいと相談されたときに紹介しました。いずれの場合も最終的な決定は本人の意思に任せました。また、1週間程度の作業工程を自分で計画し、来社して部品加工・装置製作・組立てまでまとめることが出来ていました。
(安久工機 田中 隆)

 専門学会の研究者でも難しいとされる右心用補助人工心臓を作りたいという志にまず感動しました。課題を一つ解決すると別の問題が発生するという繰り返しの中で張君が何を考えて次の一手を打とうとするのかを私もある意味楽しく観させていただきました。ゴールはまだまだ先と言えますが、きっと良い思考訓練になっていたはずで今後の研究にも活かされると確信します。
(杏林大学 磯山 隆)

審査評

[審査員] 田中 史人

 小学生のころ、完全人工心臓のJarvik7を見て、自分自身で作りたいと思い本研究が始まりました。現在、左心用人工心臓は多く流通していますが右心用補助人工心臓は流通していません。また数は少ないですが、右心に疾患がある患者さんもいます。これまでの実験では、人工三尖弁や大動脈弁を数多く試作し耐久実験を行ってきました。今回は、機械式人工弁を使用することで、金属部分にできやすい血栓を防ぐために使用する、抗凝固薬を使用しないために魚弁を活用した研究を行いました。人工の素材と魚の素材を比較していく過程で、血栓の溶解が可能な脂肪酸を見つけることができました。また、弁拍動シミュレーターの制作では駆動装置の制御についても研究を進めています。研究を進めていくにあたり、様々な分野の先生方からの支援や助言をもとに、試行錯誤しながら開発を進めていく姿勢にはとても好感が持てます。
 今後さらに補助人工心臓の研究を進め、疾患がある方々のお役に立てるよう実用化に向け努力を続けてほしい。

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