研究の動機
私は2018年から6年間、セミの研究をしてきた。2021、2022年には、セミの羽化と明るさの関係に注目し、セミがどのような明るさで羽化するかの実験を行った。その結果、セミの幼虫には明るいところに集まる走光性という習性があること、セミの羽化に適しているのは強い明かりと影がセットになったところだということが分かった。しかし、なぜセミの幼虫が明るい羽化台に集まるのかは分からなかった。そこで、今回はセミの幼虫がどの器官で光を感じているのかを実験で確かめる。特に、セミの幼虫の触角、単眼、複眼と走光性の関係を明らかにしたい。そのために、①触覚なし、②単眼なし、③複眼なし、④触角・単眼・複眼すべてなし、⑤何も隠していないそのままという5種類の幼虫と、(A)とても明るい、(B)明るい、(C)暗いの3種類の羽化台を用意し、どの幼虫がどの羽化台で羽化に成功するか、実験することにした。
結論と感想
セミの幼虫は、光を感知する器官である単眼が使えなくても羽化に成功する確率は高く、他の器官を使って明るさを感知した可能性があること、触角はなくても羽化に成功する可能性が高く、触角はセミの羽化に大きな役割は果たしていないこと、触角・複眼・単眼のすべてが使えなくなると羽化の成功率はかなり低くなり、複数の器官が使えないと羽化に必要な機能を補いきれなくなることが分かった。また、セミの幼虫は、明るい場所での方が羽化の成功率が高くなることも改めて確認できた。
実験結果は仮説とは異なるものが多く、セミの幼虫の器官がどのように機能しているのか、さらに興味がわいた。今後は、昆虫の環境世界を理解し、昆虫の体表にある感覚器の働きについても考えたい。