研究のきっかけ
この研究を始めたのは、小学1年生の時だ。トンボの羽には翅脈というものが広がっている。羽の中に翅脈で縁取られた三角形や四角形など小さな多角形が数多く並んでいるのに気づき、不思議に思ったことから研究を始めた。小学1 〜3年生では、羽の多角形の分布傾向と、体の大きさや特徴に何か関係がないか、トンボの種類ごとに調べてみた。
小学4年生の時には多角形の分布傾向とトンボの飛ぶ速度に関係がないかと思い、ギンヤンマの飛ぶ速さを調べた。連続撮影した写真を使って速度を求めると、ギンヤンマの最高速度は時速50kmだということがわかった。小学5 〜6年生では羽の多角形のうち四角形の割合が高くなると飛ぶ速度が遅くなり、五角形の割合が高くなると速くなることもわかった。
ただ、トンボの羽の多角形をそれぞれ調べるには膨大な時間がかかってしまうため、これまでの研究では12匹しか扱えなかった。そのためデータが少なく、個体差があったかもしれない。たくさんのデータを集め、これまでより正確な結果を導くため、今回の研究ではコンピュータを利用した方法を開発することにした。
研究の目的と方法
研究の目的
トンボの羽の中にある多角形の数が、早く簡単にわかるコンピュータプログラムを作成すること。羽の写真上の三角形や四角形などが、自動でそれぞれの色に塗られて色分けされるようにし、それぞれの数も集計できるようにする。
研究の方法
①プログラムは本やインターネット上のウェブページを参考にしながら作成する。プログラミング言語は「Python」を使い、画像認識や画像処理に利用される「OpenCV」を使用した。
②作成したプログラムを実行して得られる結果と、過去に自分で多角形を塗り分け集計した結果とを比較する。
③正しい結果が出るように改善する。
作成したプログラム
作成したプログラムのソースコードは、下記のとおりだ。
プログラムの実行結果
完成したプログラムに、写真の羽の多角形を色分けさせてみた。しかし、翅脈の写りが細く薄かったことが原因で、図形をうまく認識できなかった。プログラムの数値を調整してもうまくいかなかったため、写真上の翅脈の線をペンでなぞって太く、濃くすることにした。プログラムの数値も少しずつ変えて調整した。そして、再びコンピュータでトンボの種類ごとに、写真の羽の多角形をそれぞれ色分けしたのが下の表だ。自分で色分けした写真と並べて、比較してみた。
自分で多角形を塗り分けた結果とコンピュータで塗り分けた結果は、ほとんど同じであることがわかった。
研究の結果と課題
自分で塗り分けた結果とコンピュータで塗り分けた結果は、多角形それぞれの割合もほぼ同じになった。コンピュータで正しく色を判別して、色を塗り分けることに成功したことになる。これまで羽の多角形をひとつずつ判別して集計するのに何日もかかっていたが、早く簡単に調べることができた。
課題は写真の翅脈をペンでなぞらなくても判別できるように、翅脈がはっきり映るように撮影することだ。生きて動くトンボではなく、死んでしまったトンボの羽を利用することも考えたい。今後は完成したプログラムを使ってより多くの種類のトンボを調べ、多角形の分布傾向に個体差があるのかどうかも研究したい。
[審査員] 田中 史人
トンボの羽を構成している様々な形について、小学校1年生の時からこつこつと研究を進めてきた成果が継続研究奨励賞を受賞しました。トンボを捕まえたときに、羽の中にある四角形や三角形などいろいろな形があることを不思議に思いその謎を解明しようと、本研究がスタートしました。トンボの種類や体の大きさ、飛ぶ速さなど、羽を構成している図形がどのように関係しているかていねいに調べ考察しています。羽を構成する四角形の割合が多いと飛ぶ速さが遅くなり、五角形の割合が多いと早く飛べることについても考察しています。1匹のトンボの羽の中にある図形の数を数えるには、とても多くの時間がかかってしまうため今回コンピュータを活用して多角形の数を数えるプログラムを作成しました。今後はプログラムを活用し、より多くの種類のトンボについて、個体差の有無なども視野に入れ調査を進めてください。時間をさらに有効に活用し次の研究にステップアップすることを期待します。
笹島 浩平
本研究は、小学1年生から7年間続けてきたトンボの羽の中にある図形に着目した研究です。小学1年生の時にアキアカネとシオカラトンボの調査を行い、これまで12種類のトンボを調査しました。トンボの羽4枚の図形総数は約5000であるため、毎年、数日かけて地道に作業をしていたのが印象的です。今年度は、その作業の自動化を目標にしました。本人は授業でScratchに触れていたものの、本格的なプログラム言語を学んだ事はなかったため、画像を扱えるプログラム言語であるPythonを教え、Webサイトを参考にしながらプログラムを作成するよう指導しました。完全自動化を目指していましたが、羽の脈の認識がどうやっても上手くいかないところを、羽の脈をペンでなぞってしまうというアナログな作業を加えたところが子どもらしい発想だと感じました。今後も柔軟な思考力を生かし、継続して研究に取り組んでほしいと思います。