家の水槽で金魚を飼育している。水を取り換えた後、金魚の口の開閉運動の速さや泳ぐ位置に違いが見られた。それは偶然なのか、それとも水交換の影響によるものなのか不思議に思い、研究することにした。
《実験1》
交換前と新たに作った水槽水の性質は、時間経過と共にどのように変化するのか?
〈方法〉
交換前、後の水の色、混濁、水温、pH、比重、カルシウム、マグネシウム、リン、尿素窒素、溶存酸素量をそれぞれ初日、7日目、14日目に測定する。
〈結果と考察〉
水の交換前と直後、7日目、14日目はいずれも、色は無色透明、比重は1.00だった。交換前は濁りとドブ川臭があったが、交換後なくなった。交換前の水はpH5.7と酸性だった。これは金魚の呼吸や細菌、バクテリアなどの呼吸によって二酸化炭素が多く水中に溶け込み、pHが下がったものと考えられる。水交換後は初日pH7.0、7日目pH7.1、14日目pH7.0と中性を示した。
カルシウム、マグネシウム、リンはいずれも水交換後に減った。細菌やバクテリアの働きにより、濃度が変わったのかもしれない。尿素窒素は水交換前は0.1㎎/、交換後は0.0㎎/だった。金魚の排泄物やえさの食べ残しなどにより、水交換前の方に値が若干出ているのだ。
溶存酸素量は水交換前は少ないと思ったが、安定していて、日数が経ってもほぼ一定の数値(約6.8㎎/)を示した。水交換後の方が5.0、5.9、6.1㎎/と少なかった。交換後の水は汲んだばかりの井戸水なので、酸素が少ない。しかし、日数が経つにつれ増えた。
《実験2》
交換前の水と交換後の水を、顕微鏡で観察する。
〈結果と考察〉
×100倍、×400倍で観察したが、交換前後とも、バクテリアや細菌などはいなかった。
《実験3》
水交換前の水槽に付着している藻を、顕微鏡で観察。
〈結果と考察〉
数種類の藻が入り混じっていた。藻以外に、ミジンコのような形の生物や、ミミズのような生物が動き回っていた。他に丸いブドウの房のような細菌もいた。水槽のフタが外気とふれるタイプなので、藻などは空気中の胞子として、あるいは金魚の体に付着して水槽内に入ってきたのだ。しかし動き回っている生物は、どこから来たのか不思議だ。
《実験4》
水温が変わるのはなぜか?
〈方法〉
井戸水を入れた水槽の1つには金魚のみを入れ、もう1つはポンプで水を循環させる。残りの水槽には何も入れず、井戸水だけとする。それぞれ一定時間ごとに水温、気温を計る。
〈結果と考察〉
水を循環させた水槽が、一番速く水温が上がった。水だけの水槽は上昇が緩やかだ。水が循環することで、空気中の熱を取り込みやすくなり、水温も速く上昇するのだ。金魚よりも水循環の方が上昇が速かったのは、ポンプの方が金魚よりもたくさんの水を循環させることができるからだと思う。
《実験5》
溶存酸素量が変わるのはなぜか?
〈方法〉
井戸水を入れた水槽3個のうち1個には金魚、もう1個には金魚と水草、残りは水のみとする。3日間6:00、12:00、18:00に測定。
〈結果と考察〉
① | 金魚のみの水槽が一番多く(7.0~7.8㎎/)、水のみが一番少ない(4.2~4.7㎎/)。金魚+水草は5.8~7.3㎎/だった。金魚が泳ぐことで水面が波立ち、空気中の酸素を取り込みやすいからではないか。(→確認実験5-1) |
② | 金魚+水草は朝が少ない。水草も呼吸し、光合成をしない夜は酸素を消費するからだ。光を当てなかったらずっと少ないままだろうか。(→確認実験5-2) |
③ | 金魚のみ、水のみは水温が低いときに一番多く、水温が高いときに一番少ない。溶存酸素量は水温と関係があるのだろうか。(→確認実験5-3) |
《確認実験5-1》
水槽の水面を波立たせたら、時間の経過とともに溶存酸素量が増えた(40分間で4.5→7.4㎎/)。本当に空気中から酸素を取り込んでいるのか、水面に油を敷いて空気と遮断し波立たせたら、溶存酸素量に変化は見られなかった(追究実験)。
《確認実験5-2》
金魚+水草の水槽を箱でおおい、光を当てないようにしたら、日が経つにつれて溶存酸素量は減った(3日間で5.8→4.9㎎/)。
《確認実験5-3》
水のみの水槽の温度を、氷や保冷剤、お湯で上げ下げしたら、水温が低くなるにつれて溶存酸素量は増えた。冬に多く、夏に少ないことになる。
pHの違いはなぜ起こるか?
〈方法〉
金魚+水草、金魚のみ、水のみの3個の水槽で変化を測定。
〈結果と考察〉
pHは日が経つにつれ、水草の入っている方が酸性に傾いた。金魚の排泄物が水草によって違う物質に変わったためではと考え、大きさの違う金魚を水槽に入れpHの変化を測定した(確認実験6-1)。大きい方が排泄量が多いためか、アンモニア濃度が高い。アンモニアによる硝酸塩が多いと酸性になりやすいため、より早く酸性に傾いた。
マグネシウムやカルシウムの違いは、なぜ起こるのか?
(1)金魚も人間と同じく、ストレスで体外にマグネシウムやカルシウムを出したのではと考え、1日おきに3回ラジカセで音楽を聴かせた。しかしマグネシウムやカルシウムの濃度に変化はなかった。金魚はストレスがあっても、音楽でリラックスする問題ではないようだ。やはり水質の改善か。
(2)藻に含まれているのではと考え、測定したところ、やはり藻にマグネシウムやカルシウムが含まれていた。それぞれの濃度は藻のない水の15倍、13倍もあった。
水温の違いによる呼吸数と様子の変化。
〈方法〉
氷や保冷剤、お湯を用い0~40℃の間で5℃違いで水温を調節した。
〈結果と考察〉
水温が低い状態では代謝速度が遅くなり、呼吸数も低下した。動きも鈍く、水槽の下の方でじっとしている。0~5℃では、ほとんど呼吸停止。熱すぎると過呼吸になる。動きも滑らかな最適水温は20~25℃だ。
溶存酸素量の違いによる呼吸数と様子の変化。
〈方法〉
アスピレーターで水中酸素を脱気し、溶存酸素を0にする。他にエアポンプや水面の波立たせで溶存酸素量を変えた水を用意する。
〈結果と考察〉
溶存酸素量0の時は酸欠状態で苦しいため、水面近くで盛んに口の開閉運動を行う。溶存酸素量が多くなるにつれて口の開閉が少なくなり、呼吸数も減る。
pHの違いによる呼吸数と様子の変化。
〈方法〉
アルカリ水(pH11)とアクア酸化水(pH2.5)を混ぜていろいろな濃度のpH水を作り、金魚を入れる。
〈結果と考察〉
pHがアルカリ性すぎても、酸性すぎても金魚にとっては好ましくない。呼吸するエラが直接水に触れるため、刺激が強すぎて苦しくなる。pH11、pH2の水から元の水(pH7)に戻したら、徐々に落ち着き、3分後には安定状態の呼吸数(約110回/分)になった(確認実験10-1)。
高カルシウム、高マグネシウムの水に金魚を入れたら、様子や呼吸数に変化はあるか?
〈方法〉
市販のミネラルウオーターのコントレックス(100中Mg7.45㎎、Ca46.8㎎、pH7.4)とエビアン(Mg8.0mg、Ca2.6mg、pH7.2)、井戸水に入れて観察する。
〈結果と考察〉
泳ぎ方や呼吸数に変化はなかった。
感想と今後の課題
水槽の環境は日々変化し、その中で金魚は悪戦苦闘しながら生活している。適当に水面近くで口の開閉運動をしているわけではなく、水質の変化から身を守るための行動、SOSであるようだ。今回の研究では、藻やコケがはえてくることに疑問が残った。金魚の住みやすい環境作りを目指しながら、解明していきたい。
審査評[審査員] 高家博成
水槽の水を取り換えたとき、キンギョの口の開閉運動やその他の行動に変化が見られることがあるが、その理由を解明しよう、として10項目について、ち密な実験を繰り返した研究作品です。
さて、結論を見ると、キンギョの行動に大きく変化を与えたのは丸山君も予想しているように、やはり水温、溶存酸素、pHなどの変化が大きいようです。
生物の比較実験をするときは、材料や条件をなるべく等しくしておく必要があります。キンギョの品種は写真からワキンのようですね。
指導について丸山ひとみ
飼育している金魚の水を取り換えた後、金魚の泳ぐ位置や泳ぎ方に変化があるという疑問を持ったことが研究のきっかけでした。私にとってみれば気のせいではないかと思うことでも、何か違うという観察する眼の鋭さには驚かされる毎日です。今回の研究「金魚の水槽の水を取り換える前と取り換えた後で水に違いがあるのだろうか」という素朴な疑問からスタートしました。いろいろな視点から水質を調べた結果、違いがあった項目に対して「どうして違いがおこるのか」「水質の違いによって金魚の泳ぎ方に影響があるのか」という新たな疑問になったようです。いろいろな仮説を立て研究をしていくと、その結果からさらに次々と疑問がうまれました。諒太のすごいなと思うところは、その疑問をそのままにせず、またそれを追究していくという探究心旺盛なことです。身近なものから素朴な疑問を抱き解決しようとする行動力は、研究の面白さや発見の喜びがあるからだと思います。今後も新たな発見をして驚かせて欲しい。