2年生の時、空気にはどんな力があるのか、流れる空気をはっぽう球(発泡スチロールの球)に当ててみたり、袋の中に空気を閉じこめてみたりして実験をした。そして目には見えないけれど、空気には物を動かしたり、押し戻したりする力があることが分かった。その実験の1つに、下から吹き上げるドライヤーの風の中にはっぽう球を置いたら、球は空気の流れの中で安定して止まることができた。なぜ落ちずにいられるのだろう。もっと研究したいと思った。
下からのドライヤーの空気の流れの中で、はっぽう球のように浮かぶ物がほかにあるのかどうか、どうして浮かぶのかなど、空気の流れについて調べる。
《実験1-1》大きなドライヤーの場合
〈方法〉
はっぽう球、ピンポン球、インスタントめんカップ、紙コップ、プラスチックコップ、ヨーグルトカップ、正二十面体、紙の三角すい、紙の正方形、長四角の箱、水泳用はっぽうスチロール、お弁当用おかず入れ、カンパンをそれぞれドライヤーの出口に置き、風を送った。
〈分かったこと〉
はっぽう球、ピンポン球、正二十面体、インスタントめんカップが浮いた。インスタントめんカップに似ている形の紙コップ、そのほかの物は浮かなかった。ピンポン球は、はっぽう球と同じ様に丸い形で、空気の流れにのりやすい曲線の形だから浮く。インスタントめんカップも、底の角が丸くなめらかな曲線の形だから浮いた。紙コップは底の角が直角で、空気の流れにのりにくい形だ。
《実験1-2》小さなドライヤーの場合
〈分かったこと〉
ピンポン球はよく浮かんだ。正二十面体も空気の当て方に気をつけたら、うまく浮かんだ。インスタントめんカップは、風が弱かったのでうまく浮かばなかった。やはり形が、空気がスムーズに流れやすい曲線の方が浮かびやすい。
実験1では、浮いたピンポン球がそのままクルクルと回転していた。ドライヤーの流れる空気と関係があるのか調べる。
《実験2-1-A》
ピンポン球に水性ペンで印をつけて、どんな動きをするのか調べる。
〈分かったこと〉
ピンポン球は、ドライヤーの流れる空気の中で安定すると、そのままクルクルと回転し始めた。
《実験2-1-B》
ピンポン球にセロテープやアルミホイル、サランラップをまいて重さを変え(4g、8g、16g)、動きに違いがあるのか調べる。
〈分かったこと〉
①セロテープ、アルミホイルをまいた、8gまでのピンポン球は浮かんだ。それよりも重いと浮かない。②サランラップをまいたピンポン球は、どれも浮かなかった。形がゴツゴツした感じで、空気の流れを止めたのかも知れない。③浮いたピンポン球でも、まかない時のようにクルクルとは回転せず、ユラユラとした感じ。安定して浮いているようには見えなかった。形は丸くても、空気の流れを少しでも止めるような所があると、安定しては浮かない。
《実験2-2》
浮いているピンポン球、インスタントめんカップの周りの空気の流れを、多数の絹糸を利用して作ったタフトを使い調べる。タフトは、ドライヤーの吹き出し口に合わせた大きさのうず巻き型にした。黒い糸の流れがよく見えるように、白いつい立を背景に置いた。
〈分かったこと〉
(1)ピンポン球の場合:①ピンポン球の周りに、糸が吸い着くように流れている。②ピンポン球は時々わきにそれそうになるが、また真ん中に吸い寄せられるように戻っていく。③ピンポン球はクルクル回りながら、安定して浮いている。周りの空気に支えられているように見える。④空気は必ず、ピンポン球の中心に向かって流れている。
(2)インスタントめんカップの場合:①下から真っすぐ伸びていた糸が、浮いたカップの底で広がっている。空気も底の曲線の所をスムーズに流れている。②カップはユラユラとゆれながらも、周りの空気に支えられながら安定して浮いていた。
〈疑問に思ったこと〉
浮いているピンポン球につい立を近づけた時、ピンポン球は急に高く上がった。つい立を離して元の位置に戻すと、ピンポン球も元の位置に戻った。これは、つい立との間に起こる空気の流れ、その周りにある空気の様子とも関係があるのではないか。もしかして、新しい空気の流れが起きているのではないだろうか。
《実験3》
ドライヤーの上で浮いているピンポン球に、紙のつつをそっとかぶせた。
〈分かったこと〉
紙のつつをかぶせると、急につつの中からピンポン球が飛び出し、高く飛んだ。つつの中の速い空気の流れに、ピンポン球が押し出され、飛び出したのだ。
《追加実験1》
両手で持った2枚の紙の間に息を強く吹くと、紙はどう動くか。
〈分かったこと〉
2枚の紙は、互いに引き寄せられてくっついた。息を吹くことで、紙の間に空気の速い流れができ、周りの空気に紙が押されてくっついたように見えるのだ。
《追加実験2》
じょうごを逆さまにしてピンポン球にかぶせ、息を穴から強く吹くと、ピンポン球はどうなるか。
〈分かったこと〉
息を吹き続けている間、ピンポン球はじょうご内側の穴にくっついたまま、落ちなかった。息の吹き出し口とピンポン球のすき間はせまい。せまい所を流れる空気は速く、少なくなるので、下からの空気の力に押し上げられて、落ちなかった。ドライヤーの実験の時のように、ピンポン球の周りの空気の流れがバランスよく、なめらかなので、ピンポン球は安定して浮くことができるのだ。
ドライヤーの風にインスタントめんカップが浮いている場合の、空気の流れや力は図のようになる。
A:ドライヤーからの「空気の小さなつぶ」は、インスタントめんカップの底に真っすぐ当たって、下から持ち上げる力を作る。
B:インスタントめんカップの底にそってスムーズに流れて行く「空気の小さなつぶ」は、逃げて行く力なので、カップに力を与えない。
C:インスタントめんカップに当たらない空気の流れでは、「空気の小さなつぶ」が勢いよく真っすぐ飛び出しているので、2枚の紙の追加実験1の時のように、中心に向かって引っ張られる力がカップを支えている。
D:A・B・Cの力がそれぞれに働いて、空気のカーテンのようにインスタントめんカップをなめらかな流れで包んでいる。
今年も空気についての研究をした。ドライヤーでは、うまくいかないだろうと思ったインスタントめんカップも浮いた。面白かったのは、息を吹いたのに2枚の紙や、逆さまにしたじょうごの穴にピンポン球がくっついたことだ。これも予想通りではなかったが、やっぱり実験は楽しいなぁと思った。
審査評[審査員] 船尾 聖
1等賞、おめでとうございます。2年生の時に、身近な空気について関心をもち、2年間にわたって研究を積み重ねてきた研究作品です。2年生の時行った研究から更に疑問をもち、調べたいことを明確にし、筋道を立てながら粘り強く取り組んだ点は、大いに評価できます。下から吹き上げるドライヤーの風を使って、ピンポン球やカップメンの容器を舞い上がらせ、落ちないわけを空気の流れから考察したり、いろいろな形のものを用意して、どんな形が浮くか調べて表にまとめたりしています。
更に、風の流れによる現象をじっくり観察したことはもちろんのこと、見えない空気の流れを見るための道具を開発して見ることができるようにしています。
そして、空気の流れをわかりやすい図にまとめ、自分の考えをしっかり書いたよい研究です。
指導について瀧口 太・枝里子
我が家では、姉が小学校に入学した6年前から夏の自由研究に取り組むことが恒例となっています。涼葉は就学前から姉の実験を手伝ってきたので、自由研究に対する興味や発想が自然に芽生えてきたのだと思います。
研究テーマは、子供たちの身近にある題材から探し、好奇心と探究心を引き出すような内容を考えます。普段は意識しないもの、目には見えないものを科学的に実感するという視点から、姉は「光」、涼葉は「空気」についての探究を継続的に行っています。「空気」の流れを視覚的に捉えるために、ピンポン球や自作したタフトなどを使い、工夫して実験を行いました。根気強く丹念に結果を導き出す研究を通じて、自己解決力を身につける事ができたらと思っています。この自由研究を通じて、子供たちが壁にぶつかって悩んだり、実験がうまくいって喜んだりする姿に、子供たちの確かな成長を見る事ができました。親としても一緒に活動できる喜びを感じています。