ミニトマトが大好きで、家でも植えてみた。生長を観察すると、茎の上と下、根元と先、実の大小など、たくさんの違いがあった。昨年は、葉っぱの関係を調べるために新しい苗を植えたが、時期が遅かったためか、枯れてしまった。2年目の今年も、リベンジをかけて実験をした。
(1)実の大きさ、重さ、糖度はバラバラだった。糖度が高い方が甘い。赤い実は水に沈んだ。
(2)下の方になった実より、上の方が大きくて甘い。上の方が葉っぱが多いからか。実が赤くなる前に、すでに甘い成分がたくわえられているのではないか。
(3)実が多いと栄養が分かれるので小さく、甘くないと予想したが、実の数を減らさなくても大きくて、甘いトマトができた。実の数が多いときなどは、「平均(へいきん)」を出して比べるとよい。
(4)空気をしゃ断するためにワセリンを青い実にぬると、真っ赤なトマトにならない。オレンジ色だが、甘くないわけではない。色と甘さは、あまり関係がない。トマトの実は、実の皮から空気が入って赤くなる。トマトの味は、茎から栄養が入って甘くなる。
葉を半分にして、生長の様子や実のなり方を調べる。
《葉の仕組み》
大きな葉が枝の先端に1枚と、その下(根元側)に両側1枚ずつの葉が3組(計6枚)あり、ほかに小さな葉が4~6枚付いている。
《実験の方法》
葉が6枚の苗を4株用意して、畑で育てる。葉が10枚になったときに、次のような工夫をする。その後の生長を、何もしない「そのまま」のミニトマトと比べる。観察期間4月7日~8月11日。
【工夫】
① | 枚数半分:葉のついた枝を、茎の根元から一つおきに切り取り、枚数を半分にする。新しい葉が2枚出たら、そのうちの1枚を切り取る。 |
② | たてに半分:葉のついた枝のうち、片側だけの葉をすべて切り取る。 |
③ | 前後に半分:葉のついた枝のうち、根元側の2組の葉を残し、先端の1枚とすぐ下の1組の大きな葉、および小さな葉を切り取る。 |
《結果から考えたこと》
(1)高さ:③の「前後に半分」と①の「枚数半分」が「そのまま」よりも高く、②の「たてに半分」は低くなった。①~③は同じ「半分」なのに、どうして差がついたのか。①③と②の違いは先端の葉だ。①③は先端の葉がない(少ない)ため、大急ぎで他の葉っぱを大きくし、背も高くなった。②は先端の葉が減っていないので、他の葉っぱが切られたことに気づかず、栄養も十分作ることをしなかったために、背が低くなった。ミニトマトは「先端の葉の枚数を、自分の葉っぱの枚数と思っている」ということだ。
(2)葉っぱの枚数:多かったのは③(最終27枚)、次に「そのまま」(24枚)で、①(15枚)と②(16枚)はほぼ同じだった。①の「枚数半分」は新しい葉を作っても、切られてしまうのでかわいそうだ。
(3)葉っぱの大きさ:枝にある1組(2枚)の葉の広がり幅は、③で最大36㎝、①では最大34㎝と、「そのまま」の最大13㎝の3倍近くもあった。②の葉は片側だけで広がりは11㎝、これが2枚あったとしても20㎝ぐらいにしかならない。②は見ただけでヒョロヒョロで、頼りなさそうだ。
(4)花(花房)の数:多いのは③、①、「そのまま」、②の順だった。この順番は(1)の「高さ」と同じだ。ということは、ミニトマトは、背が高くなるごとに花をつけていく。たくさんの実を収穫するためには、葉の枚数を減らすか、または葉を「前後に半分」に切るかして、背を高くすることが大切だ。
(5)実の数・大きさ・甘さ:実が赤くなって収穫できた数は多い順に③(62個)、①(41個)、「そのまま」(36個)、②(27個)だった。これも高さと同じ順番だ。大きさ(直径)はどれも、ほとんど同じ(2.3~2.5㎝)だった。甘さ(糖度)もあまり差がなかった(6.8~7.6)が、②の「たてに半分」が一番甘かった(糖度7.6)ので、びっくりした。なぜなら、②が一番弱々しかったからだ。
(6)1つの花房での実の大きさ・甘さ:ミニトマトは下の花房から実がなり、1つの花房の中では、幹に近い方から熟していくことが、昨年の研究で分かった。そこで1つの花房の中で、どの位置の実が大きくて、おいしいのかを調べた。「そのまま」では、実は幹に近い方が大きくて、先に行くほどだんだん小さくなる。その他の①②③では、大きさも糖度もバラバラで、よく分からない結果となった。普通と違う育ち方をするので、規則正しい実のなり方ができないのかもしれない。
《追加実験》
③の「前後に半分」は、4月19日に最初に葉を切ってから、グングン伸び始めた。別の「そのまま」のミニトマトを、途中(5月24日)から「前後に半分」にするとどうなるか。
《結果から考えたこと》
途中から「前後に半分」の高さ、葉の数は「そのまま」と同じくらいだった。実の数は14個で、「そのまま」(36個)よりも少ない。先端の葉が切られても、ある程度生長してからでは、分からないのだ。葉っぱの面積が少なくなれば、ちゃんと栄養を作れず、実の数も少なくなる。
「水を少ししかやらないと、トマトは甘くなる」と聞いた。《実験の方法》苗を普通に育て、葉が10枚になったら、水やりを半分(1日おき)にする。雨が降りそうな時は、プランターにビニール袋をかけ、雨がかからないようにする。
《結果から考えたこと》
7月21日に豪雨に見舞われた。8月2日に「水半分」の木の先っぽが枯れ、高さは105㎝から伸びなかった。「そのまま」は123㎝まで伸びた。葉の枚数は5月16日までは、ともに同じくらいだったが、その後「水半分」は落ちる葉が多く、全体の葉の数は増えなかった。しかし豪雨後は増えた。実の数は「水半分」が37個、「そのまま」が36個で、水の量とは関係がない。実の大きさは「水半分」が平均2.3㎝と、「そのまま」(2.5㎝)よりも小さい。糖度は、7月20日までの値をとると、「水半分」が7.8、「そのまま」が6.7と差が1.1もあった。豪雨後は、「水半分」の糖度は6.4に下がった。やはり、水を少ししか与えないと、トマトは甘くなるのだ。
審査評[審査員] 加藤惠己
好物のトマトをどうしたら美味しく実らせることができるかということに興味を持って、たくさんのことを調べました。頭の中は不思議が一杯という感じで、作品にも書かれている通り「おいしくて楽しい研究」だったことでしょう。
前年の研究で、株の上のほうになった実ほど大きくて甘いこと、上のほうには葉が多く、甘みは茎から入ってくるらしいことなどを見つけました。これを土台にして、今年は葉の多さと実の大きさや甘みなどとの関係を追究しました。その結果、葉を切り取っても残りの葉がとても大きくなって、切り取らないものよりも大きく多くの実ができることなどがわかりました。実験の結果から考えついた「ミニトマトは、葉っぱの先たんの葉の枚数を自分の葉っぱの枚数と思っている」はとても面白い発想だと思いました。小学校3年生でこれだけ分析的に研究したことを高く評価します。
指導について学研石が口科学実験教室 講師 河村京子
「理科自由研究」とは、一つの実験を行っている途中で疑問が生じ、その疑問を解決するために次の実験を考える。その繰り返しで成り立っていると思います。このミニトマトの研究も、昨年の実験途中に「葉っぱを半分にしてみたらどうだろう?」と考えて新たな実験を始めました。しかし、植物には成長できる時期があり、夏に植えたミニトマトは枯れてしまいました。そこで、秋から計画を練り直し、2年目の研究となりました。1年目の失敗があったからこそ、2年目の実験が実を結んだのだと思います。今年の研究でもいくつかの失敗、疑問が生まれました。それをもとに来年の研究の計画を立てています。子供は失敗をするたびに落胆しますが、そこから新たな研究の芽を一緒に見つけることが指導者の役割ではないかと思います。今回の受賞は、この2年間に重ねた失敗が無駄ではなかったことを証明し、子供に新たな研究への意欲を与えてくれました。