「ベイブレード」(おもちゃのコマ)にはりついていたアリが、コマの止まった後に、平気そうに歩き出した。自分たちは10回転ぐらいすると、目が回る。アリにも「めまい」があるのかもしれないと思い、実験で確かめる。
アリに「めまい」を起こさせる装置、本当に「めまい」をしたかどうかを評価するための装置を作った。
(1)「めまい」を作る
アリをカプセルに入れて、斜面で転がす。
《実験装置》
①アリの入るカプセル=直径5㎜のストローの中に、紙をらせん状に巻いた「こより」を入れる。それにアリを4、5匹入れ、両端を粘土でふさぐ。「こより」は、アリがきちんとストローとともに回り、さらに体を守るために入れた。〈アリを入れる方法〉採集したアリを注射器に入れ、これをストローとつなぐことで自分から入っていく。
②すべり台(斜面台)=カプセルの転がる条件(速さ、回転数)を同じにするため、角度20°の斜面台を作った。カプセルを転がす距離は、カプセルの直径(5㎜)×円周率(3.14)=15.7㎜が1回転であることから、10回転分の15.7㎝とした。スタートは、止めていた割りばしを上げることで行い、ゴール地点には、衝撃をやわらげるために綿をしいた。
《方法》
カプセルを10回転、100回転、200回転、300回転させて、アリに「めまい」を起こさせる。
(2)「めまい」の評価
アリでも「めまい」がすると、まっすぐ歩けなかったり、足をふみはずしたり、日ごろしない異常な行動をとると考えた。
《実験装置》
昨年の研究で、アリは触角を動かして温度を確かめながら、普通の温度(室温28℃)の「橋」は渡るが、「熱い(54℃)橋」「冷たい(15℃)橋」は渡らないことを学んだ。このことから今回は、水面の上に、3本の銅線の「橋」で支えたステージを作った。それぞれの「橋」はロウソクの火で熱したもの、氷で冷やしたもの、何もしない普通のものとした。
《方法》
(1)で斜面を転がしたカプセルから、すばやく「こより」を抜いて、アリをステージの上に乗せる。アリの動きの様子や、水への落下、選んだ「橋」のまちがい、普通の「橋」を渡った(成功した)アリの数を調べる。
《結果》
回転数 | 0回 | 10回 | 100回 | 200回 | 300回 |
アリの数 | 13 | 11 | 8 | 10 | 7 |
開店後のアリの動き | 速い | 速い | のろい | のろい、フラフラ | のろい、フラフラ |
「橋」のまちがい | 0 | 0 | 2 | 1 | 2 |
水に落下 | 8 | 8 | 0 | 5 | 2 |
成功数/全体数、成功率 | 4/5、80% | 3/3、100% | 6/8、75% | 2/10、20% | 1/6、16% |
《考えたこと》
①10回転のアリは、動きや「橋」のまちがい、水への落下において0回転のアリと大差がなく、普通の状態だ。(→「めまい」はしていない)
②100回転のアリは、少し動きがのろく見えた。「橋」のまちがいもあったが、ほとんどが普通の「橋」を渡ることはできた。(→少しおかしい)
③200、300回転では、明らかにふらつきがあり、「橋」をまちがえたり、足をふみはずして、水に落下するのもいた。触角をまったく使っていない状態で、「橋」を渡れるアリも少なく、成功率もすごく悪かった。(→「めまい」の状態)
「めまい」を起こしたアリを、休ませることで回復するかどうかを調べる。
《方法》
200回転させたアリ(6匹)を、30分後にステージに乗せ、普通の「橋」を渡ることができた数を調べる。
《結果》
6匹中5匹(83%)が成功した。
1匹のアリの観察では分からなかったが、何匹かで実験することで、アリが「めまい」を起こすことが分かった。ベイブレードにはりついていた1匹のアリも、平気そうに見えていたが、足元はふらついていたのかもしれない。
審査評[審査員] 佐倉 統
果たしてアリは、めまいを感じるのか?? 工夫を凝らした実験装置と評価方法を開発した、楽しい実験です。実験は回転の回数を制御する工夫が冴えています。アリが目を回しているかどうかは、一種の迷路を無事脱出できるかどうかで測定しています。「めまい」という主観的な状態を客観的に測る方法を、うまく考えて実現しています。昨年の自分の夏休み研究の成果を利用しているのも良いところ。結果、200回転、300回転させるとアリさんも目を回すことが分かったわけだけど、これはとても面白い現象です。ぼくたち人間が目を回すのは、耳の奥にある三半規管が原因ですが、アリに三半規管はありません。では、アリは、なぜ目を回すのか? そんなことも考えてみると、さらに研究が発展すると思います。時間が経つとアリのめまいもおさまってくることも、ちゃんと確認していて、すばらしいです。
指導について北村歳男
アリは「めまい」をするのか? 身近な観察からの発想を、どのようにすれば実験として具体的に表現できるのかを考えさせること。これが指導ポイントの一つであった。“もしめまいがあるならアリはどうなるか”という問いに、子供たちはフラツキがでれば橋から踏みはずしたり、普通ではしないような異常行動をとるだろうと予想を立てた。この予想に沿って実験の前準備として、「めまい」を作ることと評価することについて十分に多くの討論と時間をかけ、計画を立てさせた。対象がアリとはいえ、今回の実験が動物実験であったため、子供たちには動物に対して愛護的対応と感謝の気持ちを持たせることが第2のポイントであった。これには特に注意を払った。アリを集める際も、実験中もできる限りアリを触らないようにし、終了後庭に放した。自由な発想とそれを実験による具象化を楽しんでいるので更なる成長を期待したい。