児童館で遊んでいると、紙コプターが飛んできた。クルクル回って長い時間飛んでいるものもあれば、すぐに落ちてしまうものもあった。どうやったら、よく飛ぶ紙コプターが作れるのか調べてみる。
紙コプターの実験で注意すること | |
① | 条件は1つだけ変えて、他の条件は変えない。 |
② | 風の影響を受けない、屋内で行う。 |
③ | 同じ方法で落下させ、同じタイミングでストップウオッチを押す。 |
実験1:羽の長さと飛行時間
紙コプターの羽の長さを5cm、6cm、7cm、8cm、9cm、10cmにして、高さ2.3mの位置から手を離して飛ばす。羽の幅(2cm)と軸の長さ(4cm)は一定。床に落下するまでの時間を5回計り、平均時間(秒)を出す。
《結果》
羽の長さ | 5cm | 6cm | 7cm | 8cm | 9cm | 10cm |
平均時間 | 1.97 | 2.28 | 2.26 | 2.03 | 1.97 | 1.83 |
《分かったこと》
① | 羽が短すぎても、長すぎてもうまく飛ばない。一番長く飛ぶ羽の長さは6cmだった。 |
② | 羽が短すぎると、羽の回転は速いが、飛ぶというより、回りながら落下する感じで、飛行時間も短かった。 |
③ | 適当な長さだと、きれいにクルクル回った。バランスの取れた飛び方で、宙に浮く感じ。ゆっくり落下して、飛行時間が長かった。 |
④ | 羽が長すぎると回らず、一瞬ストンと落ちて、それからゆっくり回った。回転しないで落下する時間があるので、飛行時間は短かった。 |
実験2:羽の幅と飛行時間
羽の幅を1cm、1.5cm、2cm、2.5cm、3cm、3.5cmにして飛ばす。羽の長さ(6cm)と軸の長さ(4cm)は一定。
《結果》
羽の幅 | 1cm | 1.5 cm | 2cm | 2.5cm | 3cm | 3.5 cm |
平均時間 | 1.56 | 2.43 | 2.39 | 2.24 | 1.87 | 1.71 |
《分かったこと》
① | 羽の幅が狭すぎても、広すぎてもうまく飛ばない。一番長く飛ぶのは幅1.5cmの時だった。 |
② | 幅が狭すぎると、軽すぎるためかバランスが取りづらく、フラフラと落下した。 |
③ | 幅が3cm以上は、回転しにくい。羽の重みで、回らない感じだ。 |
④ | 幅が1.5~2.5cmの時、飛行時間に差はなく、よく飛んだ。適当な幅だ。 |
実験3:羽のバランスと飛行時間
実験1、2から、よく飛ぶ羽の長さは6cm、幅は1.5cmだった。この比(長さ:幅=4:1)を同じにして、羽の大きさを変え、飛ばす。
《結果》
羽の長さ | 4cm | 6cm | 8cm | 10 cm | 12 cm | 14 cm | 16 cm |
羽の幅 | 1cm | 1.5 cm | 2cm | 2.5 cm | 3cm | 3.5 cm | 4cm |
平均時間 | 1.50 | 0.98 | 1.49 | 1.89 | 2.26 | 2.49 | 2.40 |
《分かったこと》
① | 羽の長さと幅の比が同じでも、飛行時間に違いがある。羽は大きすぎても、小さすぎてもうまく飛ばない。一番飛ぶのは、羽の長さ14㎝、幅3.5㎝だった。 |
② | 羽の長さ4㎝、幅1㎝では、羽は回ることなく、ストンと落ちた。羽はあまり小さいと、回転しないで落下するだけだ。 |
③ | 羽の長さ6㎝、幅1.5㎝の時、すごい速さで羽が回転して落下した。回転数が多く、落下速度も速かった。 |
実験4:軸の長さと飛行時間
軸の長さを1㎝、2㎝、3㎝、4㎝、5㎝、6㎝、7㎝に変えて、飛ばす。羽の長さ(6㎝)と幅(2㎝)は一定。
《結果》
軸の長さ | 1㎝ | 2㎝ | 3㎝ | 4㎝ | 5㎝ | 6㎝ | 7㎝ |
平均時間 | 1.49 | 1.73 | 1.83 | 2.03 | 2.04 | 2.09 | 1.97 |
《分かったこと》
① | 軸の長さは短すぎても、長すぎてもうまく飛ばない。一番長く飛ぶ時の軸の長さは6㎝だった。 |
② | 軸が極端に短い(1㎝)と、回転はするが、うまくバランスが取れずにフラフラする。軸を中心に回転するので、それが短すぎると、重みとなる部分がなく、バランスが悪いのだ。 |
③ | 軸の長さが3㎝以下だと、回転が少しゆっくりになるのは、なぜなのか。 |
④ | 4㎝以上の軸の長さだと回転が安定し、飛行時間にばらつきもなく、安定して飛ぶ。軸の長さは、ある程度あった方がよい。 |
実験5:羽の形と飛行時間
羽の枚数を2枚、3枚、4枚にして飛行時間を計る。2枚羽の先の形を、回転する軸に対称となるように斜めに切ったもの(山型)と、対称ではない形に切ったもの(波型)、折り曲げたものに変えて、飛行時間を比べる。
《結果》
羽の数 | 2枚羽 | 3枚羽 | 4枚羽 |
平均時間 | 2.20 | 1.12 | 1.20 |
羽先の形 | 波型 | 山型 | 折り曲げ |
平均時間 | 1.63 | 1.75 | 1.73 |
《分かったこと》
① | 羽の枚数が増えても、羽はよく回らない。3枚だと左右のバランスがくずれて、回転しない。4枚だと途中から少し回るが、バランスが悪くて、うまく飛ばない。 |
② | 羽の先が、回転軸に対して対称な山型の方が、対称ではない波型よりも少しだけ飛行時間が長くなった。いずれも同じ面積だけ切り取ったのだが、切り取り方によって飛行時間が変わることが分かった。 |
③ | 羽先を折り曲げると、飛行時間は短くなった。折り曲げることで抵抗ができ、飛行時間は長くなると思ったが、そうではなかった。 |
④ | 羽の形が一番単純な、2枚羽がよく飛んだ。 |
実験6:羽の角度を、軸に対して真っすぐ(180度)、V字(135度)、直角(90度)、逆V字(45度)にして、飛行時間を比べる。
《結果》
羽の角度 | 180度 (真っすぐ) |
135度 (V字) |
90度 (直角) |
45度 (逆V字) |
平均時間 | 1.93 | 2.33 | 1.64 | 1.36 |
《分かったこと》
① | 180度の状態で落下させると、2枚の羽が一番回転しやすい状態まで、自然に開いたのでびっくりした。 |
② | 90度だと、回転を始めるのに時間がかかった。少し落下してから回転したが、回転速度は遅かった。 |
③ | 羽が開いていないと、全然回転しない。45度の逆V字は、下から押し上げる力が働いて羽が開き、回転するかと思ったが、羽はそのままだった。 |
④ | V字の135度が一番適した角度で、それより開きすぎても、しぼみすぎてもうまく回らない。 |
実験7:素材と飛行時間
紙コプターを習字紙、チラシ、色紙、画用紙、ハガキ、厚紙で作り、飛行時間を比べる。
《結果》
素材 | 習字紙 | チラシ | 色紙 | 画用紙 | ハガキ | 厚紙 |
平均時間 | 2.82 | 3.10 | 3.01 | 2.25 | 1.57 | 1.07 |
《分かったこと》
① | 一番長く飛んだ素材はチラシだった。 |
② | 厚い素材では、高速で回転しながら早く落下する。回転で宙に浮く力より、本体の重みで落下する力が大きく働く。 |
③ | 薄い素材では、非常にゆっくり回転しながら、ゆっくり落下する。落下する力より、浮く力の方が大きく働く。どんなに薄くても、羽があると回転する力があるのだ。 |
④ | 実験1~6でも、チラシや色紙を使った方がもっと飛んだのでは。 |
実験8:落ち方、回り方の観察
① | 2枚羽の紙コプターの落下:すぐに回転しながら、軸から先に着地する。回転が速いと、回転の中心部が色濃く、円い。 |
② | 2枚羽を下にして落下:羽が上になるように反転し、それから回転する。 |
③ | 2枚羽をあまり広げないで落下:羽は自分で適当な角度に広がる。 |
④ | 長い2枚羽の落下:ストンと真っすぐに落ち、その後回転する。 |
室内で実験したが、落とす高さが足りなくて、飛行時間に大きな差が出にくかった。また落下のさせ方、ストップウオッチを押すタイミングの違いにより、結果にずれがあったかもしれない。もっと正確に実験や計測のできる方法を考えたい。
審査評[審査員] 秋山 仁
紙コプターとは紙で作ったT字型のヘリコプターのようなものである。
これを高い所から落とすと、くるくるまわりながら落ちてくる。仲村さんの研究報告を参考に、私も実際に最適そうな紙コプターを作って、大学の屋上から飛ばしてみた。子供の遊びと思っていたが、意外と面白く、かつ、奥が深く、ハマりそうになってしまった。奥が深いと述べた理由は、紙コプターをもっとずーっと簡易化したもの、すなわち1片の小さな紙切れを高い所から落として、どこに着地するかを予想するのはとても難しいからだ。というのは、ほんの少し風向きが変わっただけで、着地点は大幅に違ってしまう。この現象を数学では“カオス”と言って、この分野は未知の宝庫だ。さて、本研究だが、着想が子供らしく、しかも科学的にしっかり組み立てられているグッドな作品だ。特に、落下中、紙コプターの羽が自然に最適な角度に開くことや、羽を逆さまにして落下させると、本体が勝手にくるっと回転することなどに気づいたことは素晴らしい。
指導について仲村綾子
友達が作る紙コプターを見て、よく飛ぶものとそうでないものがあることに気づき、「誰よりも上手に紙コプターを飛ばしたい」と思ったのが研究のきっかけでした。
紙コプターの羽や軸の長さ、形や素材の違いに着目し、羽を大きくしてみたり、形を変えてみたりして「よく飛ぶための条件」を一つ一つ明確にしていきました。同時に、手作業で行う実験のため、データの積み重ねが必要となることを常に意識させました。
羽の回転、飛行状態をつぶさに観察し、手書きの絵を描くことで「飛ぶ」ためにはどうすればよいのかイメージできたようです。
真夏の沖縄、しかも室内を締め切った無風状態の中での実験。くじけそうになりながらも、あふれでる疑問を解決しようと何度も何度も紙コプターを飛ばし続ける姿は圧巻でした。五感をフルに活用して、自分なりの答えを導き出した時のあの笑顔をいつまでも忘れずにいて欲しいと切に願います。