授業中に筆箱を落とした人がいた。そのガシャンという音に反応して、教室中の人がその方向を見た。この経験から、耳にはどのくらい方向を知る力があるのか、調べようと思った。
予想
音に対して「右の方」などと、ある程度の方向は分かっても、細かくは分からない。
調べる方法
① | 音を聞く人が目隠しをして、椅子にすわる。 |
② | その周りの8方向に人が立ち、ばらばらな順番で音を出す。 |
③ | 聞く人が、音のする方向を指差す。 |
④ | 合っているかどうかを記録し、正答率を計算し、グラフにする。 |
グラフでは①-⑧が8方向に対応する。学級児童28人全員のデータを取った。全員が正しく方向を聞き取ると正答率は100%となり、八角形の頂点に点が打たれる。全員が失敗すると正答率は0%となり、八角形の中心に点が打たれる。
〈1〉場所による違い
① | 教室で手をたたく。 |
② | 体育館で手をたたく。 |
③ | 校庭で手をたたく。 |
〈結果〉
教室よりも体育館のほうが、成績が悪かった。教室ではすぐに、音の来た方向を指差すことができたが、体育館では音が響いて方向が分からず、迷って指し示せない人が多かった。校庭では音が響かないので、あまり迷うことなく音の方向を指すことができた。
〈2〉音の高さによる違い
次は「音の高さ」について。ヒトの聞き分けは、音の高さに関係があるのかどうかを調べた。
ピアノの鍵盤で、中央の範囲(周波数82.4Hzから1174.7Hz)がヒトの声の高さだという。その範囲外の低音として55Hzのラの音、高音として3520Hzのラの音に設定した。実際に8方向にピアノ8台は用意できないので、スピーカーを8台用意し、CDに録音した音を出した。ヒトの声は、8方向で「あー」とやると、友達の声で分かってしまうので、歌のCDを用いた。
④ | 教室で低音(55Hz)を聞く。 |
⑤ | 教室で高音(3520Hz)を聞く。 |
⑥ | 教室でヒトの声(歌のCD)を聞く。 |
〈結果〉
高音も低音も、聞き分けの成績は良くなかった。特に、後ろの方向が苦手だという結果が出た。ヒトの声では、迷うことなく、すぐに「こっち」と指し示すことができた。
〈3〉耳をふさいだ場合
次は「耳をふさぐこと」について。片耳、両耳に耳栓をして音を聞いた。また私たちの学級には、休日にお父さんたちとバイク乗りを楽しんでいる3人がいる。その人たちで、ヘルメットをかぶった状態での実験もした。
⑦ | 教室で右耳に耳栓をして聞く 。 |
⑧ | 教室で左耳に耳栓をして聞く。 |
⑨ | 教室で両耳に耳栓をして聞く。 |
⑩ | 教室でヘルメットをかぶり聞く。 |
〈結果〉
耳をふさぐと方向が分からなくなり、かなり悩んで「こっちかな」と指差すようになってしまった。だから、当てずっぽうで当てたというのも混ざっている。またヘルメットをかぶると、音の方向が分からなくなってしまう。
実験を進めていくと、変なことに気がついた。特定の女の子の成績がよくないということだ。いろいろと理由を考えたら、耳が髪の毛でかくれているからではないかと気づき、実験してみた。髪を下ろして耳をかくしている時と、髪を上げて耳を出している時とを比較すると、耳を出すことで13人中8人の成績が上がったのだ。とても驚いた。
〈4〉紙の音
〈結果〉
これも、とても成績がよく、鳴らした瞬間すぐに指差すことができた。
〈5〉上下方向からの音
ここまでの実験は、すべて聞く人の耳と同じ高さで行ってきた。しかし私たちは「上の方から聞こえた」とか「下の方」といった聞き分けもできるので、それについても実験をしてみた。〈方法〉この実験では、一番成績のよかった紙の音を用いることにした。聞く人を真ん中にすわらせ、耳と同じ高さの8方向、上斜め45°の8方向、下斜め45°の8方向からの、計24方向からの音を聞き分けできるかどうかという、難しい実験だ。
〈結果〉
私たちは上下左右、どの方向からの音も聞き分けられることが分かった。
(1) | 体育館のように響くところでは、方向が分かりづらい。 |
(2) | 高音や低音はとても聞き取りにくく、途中で頭がいたくなる人がいた。 |
(3) | 耳栓をすると方向がすごく分かりにくくなり、混乱した。片方をふさぐだけでも方向をかなり迷い、とまどう。 |
(4) | ヘルメットをかぶると、音の方向がほとんど分からなくなる。 |
(5) | 人の声と紙をクシャッとつぶす音は、迷うことなく正確に指し示すことができた。 |
(6) | 髪で耳をかくさず、出している方がよく聞こえる。 |
(7) | 人の耳は水平8方向だけでなく、上下方向も正確に聞き分けることができる。 |
人の耳は前後左右だけでなく、上下も聞き分けることのできる、すばらしい力がある。聞き分けには得意な音の高さがあることも分かった。人の声の高さがよく聞き分けできるのは、会話や連絡を取る上でとても大切だからだ。また、紙をクシャッとやる音は、枯葉を踏んだ時の音に似ているのに気がついた。この音によって、敵が近づく方向を知ることができるので、よく聞こえるのだと考えた。
最後に、生活の中で気をつけたいことがある。
1つ目は、耳の中をよく掃除すること。耳あかがつまって耳栓のようになると、方向が分からなくなる。 2つ目は、耳を髪でかくさないこと。特に、自転車に乗る時やスポーツをするときは、出した方が良い。災害の時や身に危険がせまっている時にも困る。
3つ目は、ヘルメットをかぶった時。音の方向が分からなくなるので注意が必要だ。
最後に自転車に乗っている時。耳にイヤホンを入れて音楽を聴きながら走っている人を見るが、私たちの実験結果から考えると、とても危険なことだと思った。
審査評[審査員] 秋山 仁
「八方位のある方向で音を発生させ、その音がどの方向で発生したかを中央に目隠しをしている人が当てる」という実験を、科学的に繰り返し行った結果の報告である。多様な音質、音を聞く空間、聞き取りの環境(髪の短長、ヘルメットや耳栓の有無など)、についても丁寧に調べている。また、音の発生位置と人の耳の位置が水平方向の時だけにとどまらず、空間的位置関係にあるとき(すなわち、高い所や低い所から出る音)についても、同様な考察を行っている。
ヒトの耳がどの程度正確に音の発生方位を認識できるかという、極めて自然な疑問を解明するために、卒業間近の6年生全員が共同して調査し、納得のいく結果を得たことはとても意義深い。6、70年後、同級会で集まったとき、みんなで頑張ったこの研究を思い出し、同じ実験をしてみたらどうでしょうか?
円グラフは中心方向へ相似縮小されるかも知れませんが、きっと同様な結果が得られると思います。
指導について大仙市立神宮寺小学校 田口瑞穂
子供たちは理科や研究が大好きで、今年は「全員で研究できる何か」にこだわり研究しました。調べたいことを出し合ったあと、実験中に統一すべき条件等を綿密に話し合いました。そして、正確なデータを取るために何度も実験を重ねました。28人分の実験を繰り返すのは根気の要る作業でしたが、静寂の中、みんなよくがんばりました。手をたたく音で進めている時は、指し示すのにも迷いがありましたが、人の声だと瞬時に「こっち」と分かることに驚いていました。この発見や驚きが、次の実験意欲にもつながりました。
実験の山場は8方向×3つの高さで調べる24方向の実験です。聞く人から等距離、つまり、聞く人を中心にして球面上に並ぶのは難しいことでしたが、三角定規と一定の長さのテープを使って正確な位置につけました。
学習で培った力を、実験や考察にたくさん生かせて、よい研究ができたと思います。子供たちも大いに満足し、自信を深めました。