家にコウモリが飛んできたのをきっかけに、3年生の時から、私たちの十和地区を飛ぶコウモリについて調べてきた。昨年までに分かったことは
① | 種類はアブラコウモリ(イエコウモリ)。 |
② | ねぐらは小貝川の河川林。 |
③ | 行動範囲は2~3㎞。 |
④ | ねぐらから出てくる時期や冬眠に入る時期は、気温に関係する。 |
⑤ | エサはカメムシやツマグロヨコバイなど、田んぼの上を飛んでいる虫が多い。 |
今回はアブラコウモリの
①ねぐら②出現時期③行動について詳しく調べ、さらに地域の人たちから④アブラコウモリに関する情報を集める。
(1)アブラコウモリのねぐら
3月5日:箕輪地区の小貝川の河川林に調査に行った。木のくぼみや枝の分かれ目を探したが、見つからなかった。
7月9日:箕輪の河川林で先生が19時から30分間、4匹を観察し、うち2匹は対岸の水海道地区の方から来たという。私(渡辺)も家で18時半から1時間観察したが、5匹しか見られなかった。
7月10日:北袋地区の土手で、19時5分から15分間に90匹を確認した。河川林から出てくるのは見ることができなかった。
7月16日:北袋地区で19時5分から25分間観察し、54匹確認した。5分間ごとの出現数を見ると、はじめにたくさん現れて、後はだんだん減っている。
7月18日:北袋の土手に行った。19時ごろにたくさん現れ、その後だんだん減った。河川林からではなく、小貝川を越えて水海道側から飛んでくるのを見た。
7月22日:北袋の河川林に昼間見に行った。シュロの木やツタの絡まった木、大きな木のくぼみや枝にアブラコウモリがいるかと思い探した。バットディテクター(コウモリなどの超音波を人間の耳で聞こえるように変換する検知器)も使ったが、反応はなかった。
7月29日:北袋の土手で19時から30分間、観察した。河川林から出たアブラコウモリは30匹、それ以上に川向こうから来たのが43匹と多いのにビックリした。
7月31日:北袋の土手に行った。いつもの場所よりも北に200m移動し、河川林と対岸の水海道側が見える場所で観察した。18時55分から35分間の観察で、川向こうから来たアブラコウモリは112匹、河川林から出たのは83匹だった。
8月18日:北袋対岸の水海道山田町の土手に行った。18時45から10分間観察し、初めの5分間で39匹、次の5分間で11匹確認した。すべてが西方の水海道の住宅地から、小貝川を越え、十和地区の方へ飛んで行った。
8月27日:水海道山田町の土手に行った。18時20分から20分間で、200匹以上を観察した。しかし18時35分からの最後の5分間は、たった4匹だった。この日も、西方の住宅地から東方の十和地区に飛んで行くのがほとんどだった。
8月29日:水海道山田町に行く予定だったが、小貝川が大水で交通渋滞だったので、途中の大和橋から観察した。3分間で30匹を確認。いずれも水海道の方から小貝川を越え、東の箕輪地区の方へ飛んで行った。大和橋先の水海道淵頭町の国道バイパスでは、2分間で17匹がやはり東方へ飛んで行った。
9月1日:水海道山田町の文具店「たんざわ」に行き、近くの水海道宝町で捕まえたというアブラコウモリをもらった。その後、近所の天満町で観察した。18時10分から15分間に90匹を確認。いずれも住宅地の上から、東方へ向かった。
9月3日:「たんざわ」の前で、18時15分から15分間観察した。確認できたのは48匹、いずれも最初の10分間だけだ。日の入り時刻は18時3分(水戸市で)なので、アブラコウモリは日の入り後10分ぐらいからねぐらを飛び出し、10~15分間でほとんどが移動すると思われた。
9月6日:明け方にねぐらに戻るのを観察しに、先生が水海道山田町の土手に行った。午前4時から1時間で、確認したのは6匹。すべて東の十和地区から、西の水海道の住宅地の方へ戻って行ったという。
9月7日:この日も明け方に先生が、水海道山田町の土手に行った。バットディテクターを使って、午前4時40分から5時までの間に60匹ほど観察し、うち半分ほどは目でも確認。やはりほとんどが、川の方から住宅地の方へ戻って行ったという。
9月15日:水海道地区4個所で、二十数人から聞き取り調査をした。「隣家の戸袋から出て来た」「家にコウモリの死がいが落ちていた」などの話が聞けたが、場所によって、コウモリを見る度合いは違った。
9月18日:コウモリがよく見られる水海道天満町で、2回目の聞き取り調査。夕方だったので2人からしか話が聞けなかった。「2階のベランダに毎日のようにコウモリのふんがたくさん落ちている」という。観察したら17時55分からコウモリが出始め、家の周りや間をたくさん飛んでいたが、18時5分過ぎには見かけなくなった。それでも50匹ほど確認できた。
(2)アブラコウモリの出現時期
① | 見え始めた時期:私たち2人の初確認は4月16日、同19日(昨年は4月30日、5月16日)だった。4月中旬の平均気温約14℃、最低気温約10℃と、気温が上がる時期だ。 |
② | 見えなくなった時期:2人とも11月14日(昨年は11月6日、同10日)だった。11月中ごろの平均気温約13℃、最低気温約4℃と、気温が下がる時期だ。 |
③ | 飛び始める時刻:これまでの観察から、水海道地区では日の入り後10~20分ほどで飛び始め、十和地区では日の入り後10~30分で見え始める。 |
④ | ねぐらに戻る時刻:先生の確認では9月6日は午前5時1分(日の出は5時13分)、翌7日は午前4時53分(日の出は5時14分)だったので、日の出の10~20分前にはねぐらに戻る。 |
(3)アブラコウモリの行動
① | 移動距離:十和小学校の上を飛ぶアブラコウモリを車で追いかけた。日川、田村地区の田んぼまで飛んでいる。水海道からだと3km以上の距離になる。 |
② | エサをとる様子:学校のグラウンドの上で、18時20分ごろから飛び始めた。つねに2、3匹、多いときは6匹ぐらい一緒に3~5分間ぐるぐる回る。エサの虫をとっているのだろう。でも30分ぐらいすると、見えなくなった。 |
(4)アブラコウモリに関する情報
① | 5月初めに、谷和原中の教頭先生からいただいたコウモリ。同校舎に毎年入ってくるという。残念ながら死んでいた。体長42㎜、前腕32㎜、乾燥体重1.7g。体の大きさから大人のアブラコウモリだ。 |
② | 7月15日、学校隣りの飯村さんからいただいたアブラコウモリの子ども。車庫の下に落ちていたという。まだ生きていたが、かなり弱っている。全長32㎜、前腕20㎜、乾燥体重1g。次の日死んだ。 |
③ | 8月6日、6年男子が日川の公民館で見つけた、干からびたコウモリ2匹を持って来てくれた。まだ子どものアブラコウモリだった。 |
④ | 8月20日、先生が、谷和原市庁舎の外階段に落ちていた干からびたコウモリを、持って来て下さった。子どものアブラコウモリだった。 →今年はアブラコウモリの子どもが死んで、よく落ちている。暑い日が続いた時に見つかった。暑い日の夕方は、飛んでいる確認数も少ないことがあった。確かなデータはないが、アブラコウモリは暑さにあまり強くないのかもしれない。 |
⑤ | 9月1日、文具店「たんざわ」からいただいたアブラコウモリ。体長45㎜、前腕34㎜、体重5.1g。学校で計測中に逃げて、理科室内を飛び回ったのでビックリ。家で大きめの虫かごに入れて飼育したが、9月4日朝に死んでしまった。もう少し観察して、逃がしてあげたかった。体の表面を双眼実体顕微鏡で見たら、細い毛がたくさん生えていた。 |
今回の調査で、アブラコウモリが河川林ではなく、水海道地区の住宅地をねぐらにしていることが分かった。でも、十和地区まで来てエサをとるなら、十和地区に住んでもいいはず。十和地区にもねぐらがあるなら、ぜひ探したい。日の入り後の夜の行動にもたくさんの疑問がある。これからも調査を続け、新しい発見ができるといいな。
審査評[審査員] 加藤惠己
大人だったら日暮れ時に飛んでいるのをなにげなく見ているのがせいぜいだと思いますが、そんなコウモリを見て、いろいろな興味を持ったようですね。身近なところから生じたさまざまな疑問を明らかにしようと身をもって追究した点を評価します。
アブラコウモリは、イエコウモリという別名の通り、家屋のすき間などにすむ、日本ではもっとも身近なコウモリです。このコウモリがどんなところにすんでいるか、どのような時刻に、また、一年のうちどのような時期に活動しているか、さらに活動時期と気温との関係など、その生態を実地に調べ上げたのは、素晴らしいと思います。活動時期と温度との関係について、なぜ最低気温に注目したのかは説明されるべきでしょう。また、日平均気温でなく、すみかを出入りする時刻の気温とか、活動時間帯の平均気温などに注目して調べてみるのもよいでしょう。
指導についてつくばみらい市立十和小学校 古澤武司
3年間の継続研究の作品です。家の周りを飛ぶアブラコウモリに興味をもち、ほぼ毎日観察を行い、2人で課題をもちながら研究を進めました。
1年目は、コウモリの飛び方や飛び始める時間帯、地域での確認分布図やイメージ等について調べました。2年目は、コウモリの糞から餌である昆虫を推定したり飛び始める時期や冬眠に入る時期と気温との関係を調べたり、ねぐらについても調べました。3年目は、これまでの観察結果の精度を高め、ねぐらについてもほぼ解明することができました。
また、茨城県自然博物館の学芸員の方々や地元のJA職員、地域の方々から協力を得て、研究を進めることができました。
2人のこの研究は、地域の方々にもアブラコウモリの存在や稲作地帯での益獣としての役割を紹介することができ、大変素晴らしい作品でした。最後に、探究する楽しさや喜びを広めてくれた2人に感謝したいです。