第50回入賞作品 中学校の部
継続研究奨励賞

飛行機の研究 フラップの「すき間」の重要な役割

継続研究奨励賞

国立千葉大学教育学部附属中学校 3年
 辻村 光樹
  • 国立千葉大学教育学部附属中学校 3年
     辻村 光樹
  • 第50回入賞作品
    中学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の動機

 飛行機の研究は6年目になる。これまで翼と揚力・抗力、プロペラと推進力などについて研究してきた。今回注目したのは、必要に応じて揚力を大きくする装置「フラップ」だ。フラップがなぜ細かく分かれているのか、フラップの間にすき間ができるのはなぜか、不思議だった。

研究の目的

 フラップのすき間が揚力・抗力に与える影響、具体的にはフラップのすき間を空気が通りやすいように、フラップを流線形にすべきか、フラップのすき間は大きい方がいいのか、フラップを下げる角度は大きい方がいいのか、適当な角度があるのか――の3つを柱に調べる。

実験の準備

《羽およびフラップ》

  発泡スチロールをニクロム線の発熱で切断するカッターを自作し、羽を作った。大きさは長さ、幅ともに22cm、先端部の厚みは4cmで、後方に薄くなる流線形をしている。フラップの長さは羽の長さの1/4(5.5cm)とし、羽を単純に垂直に切断したもの(フラップA)と、斜めに切断して流線形にしたもの(フラップB)を用意した。さらにフラップの羽本体との間隔、角度を変えることのできるフラップ固定器具を作った。

《揚力・抗力測定装置》

  昨年の研究で自作した。木の角材で組み立てたもので、これに羽を取り付け、扇風機の風を整風装置(風が真っすぐになるように板を格子状に組んだ自作の装置)を通して送る。羽の仰角(風に対する角度)を、木組みの角度を変えることで調節できる。羽の下から張った糸を吸盤で電子てんびんに取り付け、羽が風を受けた時の揚力(浮かび上がろうとする力)を測定する。羽の風による抗力(後方に引かれる力)は、糸を翼の先端から電子てんびんに張って測定する。

 

《「白い気体」噴出装置》

  気流の可視化のために、ドライアイスの白い気体を利用する。扇風機の風に乗せるとすぐ消えるので、噴出装置を作った。カプセルトイ(いわゆるガチャポン)の中にドライアイスとお湯を入れ、下向きに差し込んだストローから白い気体を噴出させる。白い気体(二酸化炭素)は空気より重く下向きに流れるので、実験では黒色の背景に羽(およびフラップ)をつり下げ、装置を持って白い気体を上から流し、観察した。

実験1:フラップの形による違い

《方法》

フラップA、Bについて羽本体との間隔2cm、角度0°、15°、30°、さらに羽の仰角0°、15°、30°での揚力、抗力を調べる。ドライアイスで気流を観察する。

《結果と考察》

フラップBの方が、大きな揚力を発生した。Bは流線形をしていて、羽の上面の空気が羽からはく離しないように、フラップのすき間に速い空気を流している。Aによるすき間の空気は、羽上面の気流を乱し、はく離を引き起こした。しかしBは角度30°、仰角30°の時に揚力はあまり発生しなかった。これは、Bも単独で揚力を発生しているが、羽本体とあわせたBの仰角が60°と大きくなりすぎ、揚力を生じなくなったからではないか。抗力についてはA、Bに差は出なかった。ともに仰角が大きくなると、抗力も大きくなる。

実験2:フラップの間隔による違い

《方法》

フラップBの羽本体との間隔を0cm(すき間なし)、1cm、2cm、3cm、4cmの5段階に変え、角度0°、15°、30°、さらに羽の仰角0°、15°、30°での揚力、抗力を調べる。ドライアイスで気流を観察する。

《結果と考察》

フラップ間隔が4cmの時、揚力が小さかった。間隔は広すぎない方がよい。フラップの角度と仰角が浅い(小さい)時は、羽上面での気流のはく離を防ぐために、フラップ間隔はある程度広い方がよい。逆に、フラップの角度と仰角が深い時は、フラップ間隔は狭くし、すき間を通る空気の量を制限する必要がある。また、フラップ間隔が大きいほど抗力も大きかった。羽が2枚状態となり、羽の面積が広がったためだ。

実験3:フラップの角度による違い

《方法》

フラップBの角度を0°、15°、30°、45°、60°と変えて、羽本体との間隔0cm、1cm、羽の仰角0°、15°、30°での揚力、抗力を調べる。ドライアイスで気流を観察する。

《結果と考察》

最も大きな揚力を発生させるフラップ角度は、仰角によって違う。仰角0°・角度45°、60°の時、仰角15°・角度15°~45°の時、仰角30°・角度0°~30°の時がそれぞれ揚力はピークだった。フラップ角度と仰角の関係によって、羽全体の仰角が違ってくるからだ。また、風力によって最も大きな揚力を発生させるフラップ角度があった。仰角30°・風力強の時の揚力は、フラップ角度が0°、15°でピーク、風力中・弱の時は角度0°~30°でピークだった。さらに仰角15°・フラップ間隔1cmの場合、風力強ではフラップ角度15°の時が揚力のピークで、風力中・弱では角度45°の時が揚力のピークだった。気流が速い(風力が強い)時は、フラップ角度が大きいほど、気流のはく離を起こしやすくなるからだ。抗力は、どの仰角、フラップ間隔でも、フラップ角度が大きいほど大きくなった。

実験4:フラップのすき間は、本当に必要か

《方法》

フラップB(間隔1cm、角度15°)と、フラップBのすき間に紙のカバーをかぶせた羽(カバー付きB)とで、仰角0°、15°、30°ごとの揚力、抗力の違いを調べる。ドライアイスで気流を観察する。

《結果と考察》

すき間のあるフラップBの方が、つねにカバー付きBよりも1.3~1.4倍の揚力を発生させた。抗力は、カバー付きBの方が大きかった。フラップのすき間は、本当に役割を果たしているのだ。すき間のある羽が大きな揚力を出すのは、羽上面の気流のはく離を防ぐとともに、フラップ自体が1枚の羽として揚力を作っているからだ。さらにすき間には、羽下面の気流を上面に流して、抗力を減らす働きもある。

研究の反省

 今回初めて気流の可視化に成功し、羽に沿って流れる様子も楽しかった。気流は羽によっては、はく離を起こし、抗力も発生させる。飛行機の奥深さを感じることができたし、開発者たちの苦労も少しは分かった。これからも研究を続けたい。

指導について

指導について千葉大学教育学部附属中学校 鈴木啓督

 この研究は、「飛行機」について、6年間継続して調べ続けたものである。6年間を通して、自ら課題を設定し、それを解き明かすための実験を計画した。この研究の特徴として、実験装置をすべて自作していることが挙げられる。実験装置は、自分が知りたい情報を正確に得られるように、工夫されている。今回の研究では自ら作成した「揚力・抗力測定装置」、「整風装置」、「白い気体噴出装置」を使った。本人のモットーは「ないものは自分でつくる」である。現代社会は、ものや情報があふれており、努力しなくてもすぐに手に入る。不思議に思ったことはインターネットですぐに調べられる。しかし、それでは本当に必要な情報を手に入れ、深い理解を得られない。この研究を通し、そんなことを考えさせられた。本人は、理科の学習だけでなく、学校生活全般について意欲的に取り組んでいる。この意欲こそが、すべての成功の鍵になるのではないかと感じた。

審査評

審査評[審査員] 加藤惠己

 飛行機が飛ぶしくみについて6年にわたって研究を続け、今回の受賞となりました。おめでとうございます。
本研究は、飛行機の翼に働く揚力・抗力と翼の仰角あるいは風力との関係を調べた前年の研究を発展させ、揚力をより大きくするには、フラップの形、翼との間隔や角度をどのようにすればよいかを中心に調べたものです。きちんと予測を立て、これを検証するため、うまく条件を制御して実験を行っています。実験結果の整理もよく、考察も非常に緻密です。発泡スチロールカッター、揚力・抗力測定装置、フラップ固定器具など、自分で様々な装置や器具を作製し、これらを活用して実験を行ったことは敬服に値します。こういう丁寧さ、粘り強さは、今後、自然科学に限らず、いろいろなことを調べたり、考えたりする時に大きな力になることと思います。大切に育てていって高く「飛んで」ください。

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