中学1年の夏に田んぼで、グルグルと忙しく動き回るゲンゴロウを見つけた。何を食べているのか興味を持った。水中にはエサとなるどんな生物がいるのか、水を採取して調べた。観察を終了してから1カ月後(9月)に、庭にそのままおいていたケースやバケツの水、および改めて同じ場所で採取した自然の水のプランクトンを調べた。今回はその結果と、ゲンゴロウの行動についてまとめた。
(1)採取後1カ月の様子
採取して1カ月後の、水中にいる微生物を顕微鏡で観察した。水の採取場所は①田んぼの作付けをしていない場所、②田んぼの中、③田んぼ近くの川、④山水が流れ込む水盤、⑤④の水盤のさらに下流にある沼、の5カ所。これらをプラスチックのケースやバケツに入れ、自宅南側の庭の芝草の上に、そのまま放置していた。
《結果》
①②③の水では、採取後すぐの観察では植物プランクトン、特にミカヅキモが一番きれいに見られた。ところが1カ月後の観察では、ミカヅキモをはじめツヅミモやミドリムシ、元気なゾウリムシの姿もなかった。
①では、ミカヅキモ・ツヅミモ・クンショウモの緑色が抜けてしまい、形もすっかりくずれていた。
②では、暑い日が続いたためか、緑色のドロドロがあっという間に増えた。太くてしっかりしたアオミドロの仲間が見られた。
③では、うす汚れたスポンディロシウムの仲間の緑藻だけだった。1カ月前はきれいなアオミドロが見られた
④では、何も見つけられなかった。
⑤では、1カ月前は色が抜けて弱々しいアオミドロ系が多かったが、しっかりした緑藻になっていた。逆に、活発で元気のよかった繊毛虫やワムシ類などの動物プランクトンは、動きも遅く、小さく弱々しくなっていた。
(2)自然界の水の様子
①~⑤の水を採取し、顕微鏡で観察した。②の田んぼの水は抜かれていたため、近くの足跡にたまっている水を採取した。
《結果》
①では、何も見つけられなかった。1カ月前は、1つの植物プランクトンを6、7個の動物プランクトンが囲み、ねらっているという印象的な場所だった。
②では、アオミドロ系が太くてしっかりしていたが、汚れた模様になっていた。ミカヅキモ、ニッチア、ツヅミモは1つだけ見られた。緑藻よりも珪藻の方が多かった。1カ月前とは逆だ。ハネケイソウやクチビルケイソウ、ディアトマを見つけた。以前は見られなかったミジンコの仲間も多かった。卵をつけたミジンコ、ハシミジンコ、カイミジンコもいた。このほか、緑藻のドロドロの中からチビゲンゴロウ3匹を見つけた。
③では水量が増え、冷たかった。以前は多かったミカヅキモは見られなかったが、きれいなメロシラやシオグサを見つけた。ヒラタドロムシもいた。
④では、以前見られたアオミドロなど、緑藻はいなかった。1匹のカイミジンコを見つけた。白い足をゆっくり伸ばし、伸びきったところで自分の体を思いっきり移動させる。足が吸盤のようになっているようだ。
⑤では、以前とは違って、きれいなツヅミモやコウガイチリモなどが見られた。珪藻類の小さな子供たちがたくさんいて驚いた。オビケイソウもたくさん見ることができた。ツヅミモの仲間のコスマリウム、クンショウモもいた。卵をもったミジンコやケンミジンコも見つけた。土底から採った沼水には、ごみだらけのミジンコもいた。他の生き物の死がいや抜けがら、脱皮らしきものも見つけたが、顕微鏡できれいに撮ることは難しかった。
(1)沼の水、水道水で飼育して、行動の差を観察する。
《方法》
沼の水で飼育したのはクロゲンゴロウ6匹、マルガタゲンゴロウ2匹、シマゲンゴロウ1匹。水道水で飼育したのはクロゲンゴロウ6匹、マルガタゲンゴロウ2匹。ともにエサは与えず、7日間観察した。毎日の午前9時、正午、午後3時に水温、気温、天候を記録し、それぞれの飼育ケースの中での行動を観察した。
《結果》
沼の水のゲンゴロウの方が、動きは活発だった。エサになるプランクトンがあるための効果と考えられた。
(2)飼育環境を変えた時の、エサに対する行動を観察する。
《方法》
(1)で7日間エサを与えず飼育した沼の水グループと水道水グループのゲンゴロウのうち、沼の水で飼育したゲンゴロウ(8匹)を水道水の飼育ケースに変えた。2つのグループ間で、エサのニボシを与えた時の行動、3日間で食べた量などを比較した。エサのニボシは5匹(10g)ずつ与え、3日目終了時に食べ残しを取り出し、天日乾燥させて重さを測定した。
《結果と考察》
予想では、エサのプランクトンがたくさんいた沼の水ゲンゴロウの方が、7日間何も食べずにいた水道水ゲンゴロウよりも、ニボシへの食いつきが遅く、食べる量も少ないだろうと考えた。しかし結果は違った。沼の水グループの方が、エサに対して敏感な反応を示し、早くニボシに食いついた。水道水グループは、ニボシを入れたら急に騒がしくなったが、あちこち泳ぎ回っている時間が長く、すぐに食べることはしなかった。3日間を通して、沼の水グループの方が、ニボシに食いついていたゲンゴロウの数が多かった。食べた量は、沼の水グループが3.2g、水道水グループは2.4gだった。水道水グループは、エサのない環境に慣れ、反応することが鈍ってしまったのだろうか。観察する時間帯の回数を増やすなどすればよかったかもしれないが、今回の観察からははっきりと判断することはできなかった。
近くの貯水池で長年、ゲンゴロウ採取を続けている。春先や秋に多く採取でき、夏休みは毎日出かけても期待はずれに終わることがあった。貯水池の周囲には水田が広がっていて、夏場はそちらに移動して、生活しているのだと考えた。水田にはどんな微生物、プランクトンがいるのか、観察しようと思った。実際、昨年(08年)の夏休みにゲンゴロウを捕まえることができず、研究はプランクトンの観察が中心になった。秋になりようやく貯水池に戻ってきた、ゲンゴロウを捕獲し今回の実験ができたが、予想と違う結果もあって、今後の課題が増えてしまった。
研究のまとめ
今回(09年)も昨年と同じ5カ所の水を採取し、微生物を調べた。しかし、微生物がたくさんいるところは、1カ所もなかった。昨年と同様にチビゲンゴロウは見つけることができたが、緑色の緑藻類がずっと少なかった。貯水池では、一番観察を続けたかった大型のゲンゴロウを、ここ3年間ほど見つけられないでいる。のどかな緑あふれる環境場所が、少しでも変わらないように願いたい。
審査評[審査員] 金子明石
崇樹君!オリンパス特別賞の受賞おめでとうございます。小学生時代にゲンゴロウの観察を続けてきた崇樹君が一歩前進してゲンゴロウを支えている水中の微生物を対象に研究を拡大したことは自然の流れだと思う。作品はプランクトンなどの写真が豊富にあり、倍率も明示されています。調査地の写真も撮ってあり、きれいに仕上がっています。
2008年、2009年と同一場所で同一方法で調査したことは高く評価できます。両年で大きな違いがあり疑問をもったことは、自然界は流動的であることに触れたということです。深く論じるためには3年目も同じ方法で調査し、3年間の気象データとつき合わせることです。特に雨量、日照、気温の変動に注目してみるといいでしょう。自然界のしくみの一端を理解できるでしょう。
指導について福島大学附属中学校 児玉剛明
当たり前に見えていた田んぼの見える景色の中に「どうなっているのだろう?」という疑問を抱き、科学的な視点でとらえ、探究してきた研究物です。小学生時より水生生物に関心を持ち、昨年度はプランクトンに焦点を当て研究を進めました。その研究の過程において、ゲンゴロウも採取でき、いろいろな種類がいることを発見しました。ゲンゴロウの生活を支えるプランクトンですが、観察できた個体数の多さと画像の鮮明さは大変すばらしいものだと思います。視野の中を動き回る対象物に上手にフォーカスを合わせた顕微鏡写真は評価に値するものだと考えています。
この研究を通して、貴重な生命を守ろう、身近にある豊かな自然を守ろうという気持ちの高まりもあったように思います。さらに研究を継続し、深め、広げていくことによって身近な自然環境に目を向ける人たちが増えていくことを願っています。