小学３年の冬（2006年12月）に、妹が通う日東保育園に１羽のツバメがいた。なぜ寒い時期に日本にいるのか不思議に思い研究を始めた。今年で４年目になる。

《目的》

これまでの結果を検証し、昨年スズメに巣を横取りされたツバメのペアがどのような行動を取るのか観察する。繁殖期間を「営巣まで」「ふ化まで」「巣立ちまで」の３段階に分けて、オス・メス両方の行動に注目する。特にスズメの行動がどのように影響しているのか、ツバメとスズメの関係もしっかり見ていく。

《方法》

観察期間：2010年１月11日～８月６日、観察対象：体の特徴から名付けたツバメのペア「ブラック君・ブラックちゃん」。このペアは造巣や抱卵、育雛の途中でスズメに襲われ、そのたびに代わりの巣を選び（巣③→巣④→巣⑭→巣⑥→巣⑧）、最後の巣⑧で巣立ちに成功した。

　巣③、巣④で６項目について調べた。

《結果》

（1）巣からみた親の行動：巣③では不在が66％、攻撃が23％、巣にとまったのが12％と、不在の割合が高かった。攻撃は「警戒」「いかく」「巡回」が見られたが、「追い払い」「体当たり」は見られなかった。巣④では、不在が40％、攻撃が36％、営巣が24％だった。攻撃は「プレッシャー」「警戒」「いかく」「追い払い」「追いかけ」「体当たり」「巡回」というように、「攻撃７パターン」すべてが見られた。

（2）オスの行動：巣③では、メスがほとんど不在だったので、（1）の親の行動とほぼ同じだった。巣④では、不在は11％、攻撃が68％、営巣が21％。不在の割合は低かった。

（3）メスの行動：巣③では巣にとまった３％以外は、97％が不在だった。巣④では、営巣28％、攻撃５％、不在が67％と、巣③に比べて、不在の割合は低かった。

（4）攻撃の行動の回数：巣③では１時間にオスが29回と、メスの２回の約15倍。巣④ではオスが69回、メスが18回と、オスはメスの約４倍で、巣③よりも攻撃の種類、回数ともに多かった。

（5）スズメがツバメの縄張りに侵入した回数：巣③では合計6回、巣④では26回と、巣④の方が多かった。

（6）営巣の成功と失敗：巣③、巣④ともにスズメに横取りされて失敗した。

《考察》

巣③では、オスにそこそこ頑張りはあったが、巣がスキだらけだったので、スズメにあっさりと巣を取られた。巣④ではオスは攻撃して巣を守ろうとしたが、スズメの攻撃数の方が上回り、スズメの侵入を防げなかった。

目的２：ふ化までの行動について調べる

巣⑭（⑭-1：５月７日観察、⑭-2：５月15日観察）と巣⑥、巣⑧で10項目（抱卵パターン、オス・メスの抱卵割合、巣からみた親の行動、オスの行動、メスの行動、攻撃行動の回数、スズメがツバメの縄張りに侵入した回数、抱卵中の不安行動、産卵数とふ化数、ふ化の成功と失敗）について調べた。

《結果と考察》

巣⑭のうち⑭-1では、縄張りに侵入したスズメの数が１時間に９羽と極端に多くはないが、スズメが巣⑭に気づき、ジワジワと侵入し始めた状況だ。巣の空きはわずか４％、オスの攻撃は合計で36％と、オスがよく頑張っている。抱卵も安定したパターンで、抱卵の割合も問題はない。「ふ化に成功する３つの条件」＝①オスが抱卵すること、②オスが攻撃（特に基本的４攻撃）ができること、③オスが不在時間を少なくすること＝を満たしているので、スズメに狙われ始めても、抱卵期を続行できたと言える。
　 しかし、見逃してはならないオスの行動があった。抱卵のために入巣している時に、首をひんぱんに振る行動が確認された。１分間で14回、抱卵中の７割が上、後ろ、右と、スズメが現れそうな方向を見るのだ。巣の外での警戒行動とは異なる、オスの不安な心理状態を表す行動（不安行動）だ。その一方、メスには不安行動がほとんどなかった。このオスは昨年、営巣５個のうち１個がスズメに取られたり、卵やヒナを落とされた経験をもつ。こうした経験の違いが、オスとメスの不安行動の差になったもので、⑭-1でオスは余裕がない状態だったと考えられる。
　 その８日後の⑭-2では抱卵期が続いていたが、より緊迫した状況だ。抱卵時間が短くなり、その分、交代も早く、リズムの安定さに欠けたパターンだ。巣の空き時間は０％、オスの行動も不在が６％と、自分の給餌以外は、抱卵とスズメへの攻撃に徹していた。特に「体当たり」攻撃が１時間に６回と多く、オスはスズメに対して必死に攻撃した。また抱卵中に突然飛び出し、高速で中庭をＵターンして戻って、また抱卵を続ける不安行動（高速戻り）も見られた。巣を狙うスズメが三方から集まって増え、ツバメの対処の限界を超えたためふ化に失敗したのだ。
　 巣⑥では３個産卵し、３個ともふ化した。３条件を満たしていないのに成功できたのは、スズメによる縄張りへの侵入が１時間に２回と、スズメがまだ巣を狙う状況ではなかったからだ。巣⑧でも４個産卵し、４個ともふ化に成功した。こちらはスズメの縄張りへの侵入や攻撃はなかった。すぐ近くに２個のスズメの巣（⑤⑨）があり、それぞれスズメのペアが繁殖活動をしている。そのため他のスズメたちはツバメの巣⑧にも近寄れず、攻撃もできなかったのだ。

目的３：巣立ちまでの行動について調べる

巣⑥、巣⑧で８項目（巣からみた親の行動、オスの行動、メスの行動、給餌回数、空き時間の合計と最長空き時間、スズメが縄張りに侵入した回数、ふ化数と巣立ち数、巣立ちの成功と失敗）について調べた。

《結果と考察》

巣⑥では３羽がふ化し、３羽ともスズメに落とされ、巣立ちに失敗した。巣⑧では４羽がふ化し、３羽が巣立ちに成功した。１羽はふ化して２日目に巣の下に落ちていた。他のヒナよりも体がとても小さく、スズメに落とされたのではない。これまでの研究で、「巣立ちに成功するための３条件」は①オスが攻撃できること、②巣の空きを30％以下にすること、③巣立ちに必要なエサを与えることだ。巣⑥では３条件を満たしていたが、スズメの縄張りに侵入した回数が１時間に34回と、ふ化の段階までの４回から大幅に増えて、ツバメは対処できず、巣立ちに失敗した。
巣⑧は５割以上が空で、オスの行動は８割近くが不在、メスも同様だった。巣立ちの３条件のうち「③巣立ちに必要なエサを与えること」しか満たしていなかった。繁殖に成功したのは、「スズメとの関係」だ。目的２の「結果と考察」でも述べたが、巣⑧のすぐ近くには繁殖中の２個のスズメの巣があった。この２組のスズメペアは、すでに巣も巣材もあるので、自分たちの巣作りのために、ツバメを攻撃する必要がなかった。また連続繁殖の実績もあるので、スズメたちの中でも特に力が強く、他のスズメも近づくことができなかった。このため巣⑧のツバメは、力の強いスズメの巣の存在によって、安全に確実に子育てができたのだ。

研究のまとめ、総合考察

（1）過去の研究結果の検証

「営巣」「ふ化」「巣立ち」の成功と失敗には、「スズメの攻撃の数」が大きく影響している。繁殖に必要な４条件（①オスが抱卵　②オスが攻撃　③巣の空き時間は30％以下　④ヒナへの必要な栄養）を満たしても、スズメの攻撃数が多いと、ツバメは対処能力を超え、繁殖に失敗する。巣を奪われた経験があるツバメには「不安行動」が出現する。スズメが多い場合に、ツバメが繁殖に成功するには力の強いスズメの巣の近くで営巣することだ。

（2）昨年繁殖に失敗したツバメのペア（ブラックペア）の行動

巣⑧が安全なことが分かっていて、最後にこの古巣を選んだのではないか。しかし、スズメに巣を奪われることを警戒して、最初から来れなかった。民家で巣を作るツバメとスズメは昔から巣の取り合いはあったし、スズメ社会の力関係のこともツバメはよく知っていたのではないか。この「異種間関係」に注目して、来年も研究していきたい。