ニホントカゲとニホンカナヘビを飼育観察して研究を続け8年目になる。研究の中で残っていた課題のひとつに、興味深い観察結果がある。トカゲの雌は巣を作り、その中で産卵し卵を守るが、トカゲの巣の中にカナヘビの卵を入れた時、トカゲは形も大きさも色も似通ったカナヘビの卵を完全に見分け、自分の卵だけを全て他の場所に移動させた。薄暗い巣の中で卵を完全に見分けることが出来たのは、視覚よりも嗅覚での認知が支配的であると考察したが、今回、詳しく調べる事にした。また、子どもを守る行動についても調べる事にした。
方法
卵をおなかに持った雌(個体A、B)をそれぞれ、別の飼育ケージに入れ、天敵・他の個体がいない環境の中で産卵させた。
実験1
卵を見分ける能力と卵を守る行動を調べた。
1)紙粘土で作った偽卵 2)紙粘土にカナヘビの糞で匂いをつけた偽卵を、それぞれトカゲの巣の中に入れて反応を観察した。
A)単独の状態 B)他の弱った雌のトカゲを入れた状態 C)他の元気な雌のトカゲを入れた状態で、それぞれ観察した。
実験2
親子のみがいる水槽に他の成体の雄および雌をそれぞれ1)と2)の条件で入れた時、子供(幼体)を守る行動の有無を調べた。
1)キッチンの水切りネットに入れたとき 2)透明プラスチックケースに入れたとき
実験3
A、Bからそれぞれ幼体を1頭取り出して、1)透明プラスチックのケースに入れてから①戻した時②入れ替えた時、2)入れ替えた時、トカゲの雌は自分の子供を見分けられるか観察した。
考察・分かったこと
1)偽卵を侵入者として判断していなかった。カナヘビの卵に対しては何らかの生体反応を感じとっていたと考えられる。
2)縄張りに進入してきた相手がトカゲでもカナヘビの時と同じ警戒行動をとった。巣の中にまで進入されると自分の卵を食べた。
3)卵が孵化した後も、子供とともに行動し子供を守る。
4)自分の子供を嗅覚と視覚の両方で判断している。縄張りの侵入者に対しては、視覚のみで判断している。
〈トカゲの雌が自分の子供を見分ける能力の確認実験(数字は出現数)〉 |