これまでの研究と目的
これまで「空気」をテーマに研究してきた。2年生の時は風船やボールなどを使って実験し、空気に力があることを確かめた。3年生では空気の力が「見たい」と思い、タフトの糸などを使って、ドライヤーの空気で浮くピンポン球や、カップめんの容器の周りの流れを見る実験をした。空気は、ピンポン球やカップめんの容器などのなめらかな曲線にそって流れていることが分かった。4年生の時は、さらにピンポン球の周りの空気の流れを詳しく知るために、ドライアイスの煙を使って調べた。煙は空気の流れの速さによって、小さな渦や大きな渦になった。また、空気の流れが速くなるにつれて、小さな渦がたくさんできることが分かった。しかし、キャップの裏側にドライアイスの煙が見えない所があった。今年は、その部分の空気の流れはどうなっているのか、詳しく調べることにした。
空気の流れの研究
①ペットボトルにドライヤーなどの風を当てて、反対側の状態を調べる。
②吹き流し(タフト)の流れや線香の煙、ろうそくの炎を利用して風の流れを調べる。
【実験1-1】
断面が円形のペットボトルの裏側にできる風の流れを、タフトの糸で調べる。
※裏側の流れの「見えない」部分をX点とする。
《方法》
発泡スチロール板にペットボトル(重しとして水を入れる)を置き、その裏にタフトを付けた竹ぐしを刺す。ペットボトルの横から送風機で風を当て、竹ぐしのペットボトルからの距離を0㎝から1㎝ずつ離し、その時のタフトの流れる様子を観察する。
《方法》
発泡スチロール板にペットボトル(重しとして水を入れる)を置き、その裏にタフトを付けた竹ぐしを刺す。ペットボトルの横から送風機で風を当て、竹ぐしのペットボトルからの距離を0㎝から1㎝ずつ離し、その時のタフトの流れる様子を観察する。
《結果》
距離0㎝、1㎝、19㎝では流れがなかった。19㎝からは風にゆれなかった。
《考察》
ペットボトルの裏側0~1㎝がX点だ。ここには風が吹いていない。
【実験1-2】
X点の空気の流れを、線香の煙で調べる。
《方法》
発泡スチロール板に網目板を重ね合わせて、火のついた線香をさす。線香の前にペットボトルを置き、送風機で風を当てて、線香の煙の様子を観察する。
《結果》
煙が飛び散ってうまく観察できなかった。
【実験1-3】
線香の代わりに、ロウソクの炎を使う。さらに送風機の位置を左右、前後に動かしながら風を当てて様子をみる。
《結果》
ペットボトルに風を当てると、ロウソクの炎は前後左右にゆれ動いた。ペットボトルの真後ろ(X点)では、ロウソクの炎はゆれなかった。送風機を左右に動かすと、ロウソクの炎も左右にゆれた。
《考察》
X点では、風の流れがないことが分かった。送風機を右に動かすと、炎は左に動き、送風機を左に動かすと、炎は右に動いたことから、風はペットボトルの曲面(側面)に沿って流れていることが分かった。送風機を前に出し、ペットボトルに近づけると、ロウソクの炎は風と同じ方向にゆれたので、X点が変わったことが分かった。
【実験2-1】
送風機の風が、ペットボトルの両側のどこまで吹いているのかを調べる。
《方法》
9個のロウソク立てを横1列に3㎝間隔で並べ、それらの上にロウソクを立てる。真ん中のロウソクの前4㎝にペットボトルを置き、ロウソクに火をつけてから、ペットボトルに風を当てる。
《結果》
ペットボトルの真後ろにある3本のロウソクの炎が消えた。
《考察》
【実験1-1】のタフトの時とは違って、風のないX点はなかった。ペットボトルとロウソクが離れすぎていたためだ。
【実験2-2】
ペットボトルとロウソクの距離を2㎝にして追加実験した。
《結果》
同じ3本のロウソクの炎が消えた。
【実験2-3】
ペットボトルとロウソクの距離を1㎝にして再び実験した。
《結果》
ペットボトルの真後ろの1本と両端2本ずつ4本の、計5本のロウソクの炎が消えずに残った。真後ろのロウソクの両隣に2本ずつある計4本のロウソクの炎が消えた。
《考察》
ペットボトルの真後ろのロウソクの炎が消えなかったことから、風のないX地点があることが分かった。X点は真後ろのロウソクとペットボトルの距離、送風機とペットボトルの距離、ペットボトルの真正面から風を当てるなどの条件が組み合わさってできる。
【実験3】
大中小のペットボトルの後ろに8本のロウソクを1㎝間隔で縦1列に並べ、ロウソクの炎が消えないX点の範囲を調べる。
《結果》
小ボトルは真後ろの1番目の1本だけ消えなかった。中ボトルは1、2番目の2本が消えなかった。大ボトルは1~3番目の3本が消えなかった。
《考察》
ペットボトルが大きくなるに従い消えないロウソクが増えたことから、ペットボトルの曲面に沿って流れる空気の輪が大きくなり、X点の範囲も広がることが分かった。
次に、いろいろな形のものに風を当て、ロウソクの炎の様子を観察する。
【実験4-1】
断面が長方形のペットボトルの①大きい方の側面に風を当てた場合、②小さい方の側面に風を当てた場合のロウソクの炎の様子を調べる。
《方法》
9本の横1列に並べたロウソクの前にペットボトルを置き、風を当てる。
《結果》
①の場合は、中央(真後ろ)と両端2本ずつの、計5本のロウソクの炎が消えなかった。②の場合は、中央の両隣の2本が消えた。
《考察》
①の場合は、側面を流れた風が一部、ペットボトルの後方に回り炎を消した。②の場合は、ペットボトルの角が曲面であるため、より均一に風が回り込み、中央のロウソク部分にX点ができた。
【実験4-2】
牛乳パックで調べる。
《結果と考察》
中央のロウソクの片隣の2本だけが消えた。断面が四角形のものは、風が正面ではね返ったり、逃げたりするので、側面をなめらかに流れることはない。
【実験4-3】
三角柱の①角を風に向けた場合、②平面を風に向けた場合について、後ろのロウソクの様子を調べる。
《結果》
①では、両端から2番目の2本のロウソクの炎が消えた。②では、1本も消えなかった。
《考察》
①の場合は、風が両斜面に沿って流れ、後方に抜けて行ったので2本のロウソクの炎を消した。②の場合は、平面が風をはねかえしたり、両脇へ逃がしたりしたので、ロウソクの炎はゆらしたが、消すまでの強い流れにはならなかった。
【実験4-4】
半円柱の①曲面を風に向けた場合、②平面を風に向けた場合について調べる。
《結果》
①では、真後ろは消えず、両隣の2本ずつ計4本が消えた。②では、両端から2番目の計2本が消えた。
《考察》
①では、曲面に沿って風が流れたので、円形のペットボトルの時と同じような、風の吹かないX点ができた。②では、風が平面ではね返されたり、横に逃げたりして裏側の曲面に沿って流れて行かず、端から2番目しか消せない流れだけが残ったのだ。
【実験4-5】
2つの直方体を使って直線的な空気の流れを作り、ロウソクの炎の様子を調べる。
《結果》
2つの直方体を、①風に対して「逆ハの字」に置いた場合も、②「ハの字」においた場合も、直方体の間の後ろのロウソクの炎が消えた。
《考察》
2つの直方体がうまく風を集めて後方に流し、炎を消すことができた。①の場合に、両側のロウソクの炎が一瞬、中央の風の通りに引き寄せられるようにゆらいだのが不思議だ。もっと調べてみたい。
【実験5】
横1列のロウソクの前に2本のペットボトル(断面が円形)を横に並べ、風を当てたときの炎を調べる。
《結果》
2本のペットボトルの間の3本のロウソクの炎を残し、ほかの炎はすべて消えた。
《考察》
風はそれぞれのペットボトルの曲面を流れ、2本の間のすき間の後ろがX点となったので、3本のロウソクに風が届かず炎が消えなかった。その3つの炎が、なぜすき間の方になびいたのだろう。
【検証実験6-1】
ペットボトル(円形)、牛乳パックの側面を風がどう流れているのか調べる。
《方法》
風になびいている吹き流しのビニールテープに、ペットボトルと牛乳パックを近づける。
《結果》
①ペットボトルの場合、テープは曲面に沿って後方内側に曲がった。②牛乳パックの角を近づけた場合、外の方向に曲がった。③牛乳パックの平面を近づけた場合も、外の方向に曲がった。
《考察》
空気は面に沿って流れる。
【検証実験6-2】
2本のペットボトル(円形)の間を通る風の流れを調べる。
《方法》
風に流れる吹き流しのビニールテープを間にはさんで2本のペットボトルを置き、徐々に2本の距離を縮めていく。
《結果》
距離が縮まるにつれて、ビニールテープはペットボトルの高い位置で、激しくなびくようになった。
《考察》
2本の距離が縮まったことで、すき間の気圧が低くなり、まわりから空気が一気に押し寄せたことで、吹き流しの流れが速くなったと考えられる。
研究の感想
何度も実験に失敗したり、予想した結果が出なかったりしたけど、何とか最後までやりとげられた。これからも粘り強く、熱意を持って研究を続けたい。
審査評[審査員] 赤石 保
身の回りにあるけど見えない空気、この難しい空気を捉えようと2年生で取り組んだ研究が、毎年新しい興味と疑問を生んで、4年間も続けてきたこと、素晴らしいことだと思います。見えない空気の流れを見えるようにドライアイスや線香、ろうそくを使って調べています。その様子を読者にわかるように写真や図で上手にまとめています。特に、ろうそくを並べた前に、いろいろな形の箱を置いて、空気の流れを調べた実験では、その流れを予測して結果と比べて考察しています。自分の考えと自然の出来事とを比べて考えることの大切さを感じます。瀧口さんの感想にある通り、粘り強く熱意をもってチャレンジした研究です。単純なことから始まった研究が、年を追うごとに複雑で、より科学的な実験による研究になっていて高く評価されます。今後の研究に期待すると共に、将来人の役に立つ研究になることを願います。
指導について瀧口 太・枝里子
2年生の時に、目に見えない空気の存在に興味を持って以来、これまで4年にわたり、空気の存在を捉え、視覚化に工夫を凝らすことによって、空気の持つ不思議な特性を見つけてきました。静的な空気の観察から始まり、3年生では、下から吹き上げる空気の流れの中でピンポン玉が安定して止まったことに注目し、空気の流れの中に物体を置くことによって、空気の流れが変化することによる効果を確認しました。4年生では、ドライアイスの煙を用いて、流れの可視化に取り組み、流れの中に置いたピンポン玉の後方に、空洞部分や渦ができることを確認しました。今年は、流れの中に物体を置いた時、物体の真後ろにできる空洞部分に着目して、ロウソクの炎を用いて、空洞部周辺の流れを調べました。流れの視覚化を追究することによって、淀み、剥離、曲面に沿った流れといった複雑な現象についての理解を深めており、流れの利用、流れの制御についての関心を高めています。