研究のきっかけと目的
家のベランダの段ボール箱に昨年、スズメが巣を作り、6羽が巣立った。その様子をすぐ近くで毎日観察できた。スズメは昨年3回、今年は5回の子育てをした。スズメの子育てのことをもっと知りたくて、研究した。
〈1〉ぼくの家のスズメの巣~どこに作ったか
〈2014年〉段ボールの空き箱(巣1)、段ボールの巣箱(巣2)、折り立てた段ボールのすき間(巣3) 〈2015年〉みかんの段ボール箱(巣4)、段ボールの巣箱(巣5)
〈2〉観察記録(2014年・2015年)
産卵期 (平均5日) |
抱卵期 (12日) |
子育て (13日) |
巣立ち後 (10日) |
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2014 年 |
巣1 | 4/20→(6卵)→4/26 | 開始4/27→ふ化5/7 | →巣立ち5/22 | 巣立ち6羽(100%) |
巣2 | 6/2→(5卵)→6/6 | 6/7→6/15 | →6/29 | 5羽(100%) | |
巣2 | 8/8→(4卵)→8/11 | 8/12→8/23 | →9/5 | 2羽(50%) | |
2015 年 |
巣4 | 4/19→(5卵)→4/23 | 4/24→5/4 | →5/16 | 5羽(100%) |
巣5 | 4/19→(6卵)→4/24 | 4/25→5/5 | →5/16 | 4羽(67%) | |
巣5 | 5/24→(5卵)→5/28 | 5/29→6/10 | →6/22 | 2羽(40%) | |
巣4 | 5/30→不明 | →6/16 | →6/30 | 不明 | |
巣5 | 7/5→(4卵)→7/8 | 7/9→7/27 | (親来ず死亡) | ー |
スズメの1回の子育てには平均して、産卵に5日(5卵:1日1個)、抱卵に12日、子育てに13日、巣立ち後の10日間を含めて全体で40日かかる。
〈3〉巣材調べ~使われている植物は?
巣2(全体の重さ106g、植物の数1751本)を分解して種類ごとに分けた。
◇巣の内側:イネ科5種、セリ科2種、キク科・ヤシ科・アオイ科・ギボウシゴケ科各1種。においのよい草(ヨモギ、パセリなど)、ふわふわした草(チガヤ、エノコログサなど)。ヨモギが一番多く持ち込まれていた。
◇巣の外側:イネ科13種、キク科3種、マメ科3種、ツゲ科2種、ケシ科・ウリ科・アカバナ科・ヤシ科・ブナ科・モチノキ科各1種。イネ科が多い。葉や小枝もあった。
〈4〉実験:青葉入れ~スズメが好きな青葉は?
巣作り中、7種類の青葉を干しざるに入れてそばに置いた。巣の中にはローズマリーが多くヨモギよりも人気だ。香りの強い植物には、防虫効果があるからか。サンショウは3日目をすぎても、ざるに残っていた。
〈5〉巣に使われた鳥の羽根
キジ科9種(キジやニワトリ、ウズラなど)、カモ科・ヒタキ科・ハト科各2種、サギ科・フクロウ科・カラス科・ヒヨドリ科・スズメ科各1種、不明2種。このうち山野の鳥は10種、水辺の鳥3種、飼育の鳥7種(ニワトリ6種・ウズラ1種)。ヒヨドリのフワフワした腹羽、ニワトリの羽根がよく使われていた。
〈6〉羽根はどこから運んで来たのか?
家の周りでニワトリやウズラを飼っている場所を探した。羽根の特徴が一致したことで、直線距離で640m離れた西条農業高校、371m離れた広島大学と分かった。スズメがエサを取る範囲は半径100mともいわれるが、それ以上に羽根探しに移動している。
〈7〉巣の中の昆虫
甲虫3種(オオスジコガネ、カタモンコガネ、コクヌストモドキ)、多足類・ガ・ノミ各1種。生きていたのはコクヌストモドキと「トリノミ」。兵庫県立大学の先生によると、トリノミは広島県内では2005年に1回報告されただけだった。ノミは、スズメが巣立った後、50匹以上が巣の入り口から出てきた。
〈8〉卵調べ
スズメの卵は長径18㎜、短径14㎜、重さ3gほど。ニワトリの卵(Mサイズ)の重さは61~63g。スズメの卵の表面には薄茶色の斑点が入っているが、巣2で4個の真っ白な卵を見つけた。スズメの白色の卵は観察例が少ないようだ。この卵から2羽のヒナが生まれた。
〈9〉卵の転がり実験
ふ化しなかった卵に朱肉をぬって紙の上で転がした。卵は波々(なみなみ)とした線を描きながら元の所に戻ってきた。この「なみなみ円形」の直径は約8㎝。ウズラの卵では直径15~17㎝、ニワトリの卵では直径45~49㎝もあった。
〈10〉エサ運び調査~親鳥は1日に何回運ぶか
2014年7月30、31日に朝8時(2日目は朝6時)から夕方7時まで調査した。エサをくわえて巣に来たときが「エサ運び」、エサをくわえずに来たときは「見はり」とした。「エサ運び」は1日に約50回、「見はり」はその2倍の約100回。両方あわせると多い時で1時間に25回も来ていた。
〈11〉スズメの数調査
設定したルート(長さ1.6㎞)を歩きながら、左右各25m幅の範囲にいるスズメを数える方法(ライン・センサス法)で調査した。
①山ぎわルート:5、8、9月は1㎢当たり約800羽、7月は1228羽と多かった。今年生まれたヒナが親と一緒に生活しているためか。
②田んぼルート:8、10月は1㎢当たり約2700羽、稲が実る9月は4862羽と多かった。③街中ルート:8月は1㎢当たり281羽。9月は2012羽と約7倍に増えて驚いた。
〈12〉ねぐら調査~何羽のスズメが集まるか
東広島市役所近くの大きな木(タイワンフウ)の下にスズメの羽根とフンが大量に落ちていた。この木がスズメたちのねぐらと分かり、9月26日の夕方5時から6時20分まで、1分ごとにスズメの数を数えた。木にやって来たのは合計2917羽、ほとんどが日没(午後6時3分)前の30分間に集まった。ピークは5時37分の360羽、次は5時54分の260羽。スズメたちは一度、約50m離れた建物の屋上に集まり、20~50羽ずつねぐらの木に入って行った。
〈13〉スズメの巣探し
巣材が見えたり、フンがたくさん地面に落ちていたり、親が出入りしてヒナの声もすることなどで見つけられる。家屋の軒下や柱の小さなすき間、電柱の電線そばのすき間など、人間の家の近くに巣を作っている。昔のかわら屋根には「雀口(すずめぐち)」と呼ばれるすき間があった。今はかわら家が減り、雀口も埋めてスズメが入れないようにしてあるという。
感想
研究ではスズメの大群を1分おきに数えるねぐら調査が大変だった。楽しかったのはセンサス調査で、いろいろな鳥の種類も覚えられた。スズメはとても身近な鳥だが、知らないことがたくさんあった。前よりももっと好きになった。
審査評[審査員] 髙橋 直
自宅ベランダに置いた空き段ボール箱にスズメが巣を作ったことをきっかけに始まった研究である。2年間にわたり計8回の子育てを観察してさまざまな調査を行った結果をまとめている。ヒナの成長観察、巣作りに使われた植物や鳥の羽根の分析、親鳥の帰巣頻度調査など多岐にわたり、ノミや甲虫など巣の中から見つけた昆虫についても分析している。さらに、野外に出て周辺地域のスズメの生息数を調査したり、ねぐらになっている木を探して、夕暮れとともに帰ってくるスズメの数を経時的に数えたりするなどの調査も行っている。
ヒナが育つ巣の内側部分に使われた植物と、外側に敷き詰められた植物とに分けて分析したり、使われた羽根からニワトリの品種を調べ、その品種を飼育している施設の位置から親鳥の行動範囲を推定したりするなど、着眼点も鋭いものがある。
ミクロからマクロまでカバーした研究で、3年生でこれだけこなしているのに感心させられる。今後が楽しみである。
指導について黒木 知美
家のベランダでスズメが巣づくりを始めたとき、まさか2年間で計8回も繁殖するとは思いもしなかった。息子は至近距離で見るヒナに喜び、小さな生命力に感嘆し、スズメの子育て研究を行った。餌運び調査では、早朝から夜まで布団に寝転んでカウントを続けた。センサス調査は、鳥が活動的になる夜明け頃から調査を開始するため、毎週早起きしなければならなかったが、息子はいつも楽しそうだった。巣材に使われた植物・鳥の羽根・昆虫の調査では、正確な種名を突き止めるまで自然史博物館、農業高校、大学研究室の各専門の先生方に大変お世話になった。種名が分かった鳥の羽根から、スズメの羽根探しの移動距離を明らかにすることができたことは新発見だった。観察例の少ない白い卵も観察し、ねぐら調査では、約3000羽のスズメに圧倒された。自然の中で豊かな体験をしたことが、彼自身の土壌となり、豊かな心と自然への探究心を育てる糧になればと願っている。