第46回入賞作品 中学校の部
秋山仁特別賞

あんかけはなぜ冷めにくいのか?

秋山仁特別賞

茨城県龍ケ崎市立長山中学校 理科研究生あんかけ班 1年
梶間 啓佑 他3名
  • 茨城県龍ケ崎市立長山中学校 理科研究生あんかけ班 1年
    梶間 啓佑 他3名
  • 第46回入賞作品
    中学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

なぜこの研究をはじめたか

「あんかけってアツアツだよね」「そうそう、昨日食べた酢豚も、冷めたから大丈夫だと思って口に入れたら、中はアツアツだった!」――そんな何気ない会話の中に、一つの素朴な疑問をもった。「なぜあんかけの食べ物は冷めないのか?」。先生に聞いてもよく分からなかった。そこで研究テーマに決めた。

酵素とは
液体が冷めていくメカニズムを明らかにする。
片栗粉がお湯に溶けるとき、どのような変化を示すのかを明らかにする。
あんかけが冷めにくい理由を明らかにする。
研究の仮説

液体が冷めていくメカニズムとして3つの仮説を立てた。

《仮説1》 液体の温度は、時間とともに同じ割合で下がっていく。
《仮説2》 液体の温度が下がるのは、水面から水が蒸発するときに熱を奪うのが原因。
《仮説3》 液体の温度が下がるのは、水面で冷えた液体と、容器内の底にある熱い液体が対流することで、全体的に冷えていくからだ。

これらを確かめるために、実験を行った。

実験1

まず、片栗粉を溶かしたお湯は、本当に冷めにくいのか、予備実験を行った。

実験1-1:

発泡スチロールの容器に片栗粉5g、10g、15gを入れ、それぞれにお湯200gを注ぎ、よくかき混ぜた。さらにお湯200gだけのものを用意し、これら4種類の液体の温度低下を1分ごとに記録した。その結果、「予想」に反し、これらの冷め方に大きな違いはなかった。うまくいかなかったのは、片栗粉がよく溶けなかったことなどが原因だ。

実験1-2:

順番を逆に、お湯に片栗粉を入れ、かき混ぜながら温度を測ることにした。しかし、やはり冷め方に変わりはない。手でかき混ぜたため、混ぜる速さが変わっていたこと。温度計を手で持ったため、測る位置が変わっていたことなどが問題点だ。

実験1-3:

液体をかき混ぜずに、温度計をそれぞれ液体の上部(水面付近)と下部(底付近)に固定した。4種類の液体の冷め方だけではなく温まり方もみるため、「湯せん」をして117分間温め、その後41分間冷ましての温度変化を記録した。

《結果と考察》

温まり方:お湯だけのものは、上部温度は57℃、下部温度は59℃まで上がった。片栗粉入りの上部温度もお湯だけと同程度に上がったが、下部温度は片栗粉が多いものほどさらに上昇し、片栗粉15g入りでは77℃まで上がった(このときの上部温度は53℃)。

冷め方:4種類の液体の上部、下部温度はいずれも同じようなパターンで温度が下がっていった。しかし、下がりきったときの下部温度は片栗粉が多いほど高く、「あんかけ」は容器の底付近で熱を蓄えていることが分かった。

実験2(仮説1~3を確かめるために)

実験2-1:

液体の温度がどのように下がるのか、お湯、食塩水、砂糖水の、気温と同じになるまでの温度変化を測り、比較した。その結果、いずれの液体の冷め方に違いはなかった。液体の温度が高いほど急激に温度が下がり、気温に近づくほどゆっくり温度が下がる「冷め方の規則性」があることが分かった。

実験2-2:

お湯が冷めていくときの温度変化と、蒸発する水蒸気の量の変化を電子天秤を使い測定した。その結果、蒸発する水蒸気の量は、お湯の温度が高いときほど多い。蒸発量が多いときは温度の下がり方が大きく、少ないときは温度の下がり方も小さい。このことから水面の蒸発によって温度が下げられていることが分かった。

実験2-3:

対流を確認するため、透明な容器のお湯にラメを混ぜ、液体の動きが見えるようにして観察、ビデオでも記録した。ラメはすぐ沈むので、砂糖を溶かしてラメが水中で静止するように濃度を調節した。お湯は湯せんしながら温め、その後放置した後で観察した。ラメは容器の中央付近で上昇し、水面にぶつかり周りに広がった後で下降していた。こうした対流によって、お湯の水面付近と底付近の温度差は少なくなり、全体的に冷えていくことが分かった。
  仮説1は結果が違ったが、2、3については証明できた。次に、あんかけが冷めにくい原因として2つの仮説を立てた。

《仮説4》あんかけは、粘り気があるために水が蒸気しにくく、冷めにくい。
《仮説5》あんかけは、粘り気があるために対流が起きにくく、冷めにくい。

実験3

実験3-1:

水(250ml)に片栗粉を溶かし、かき混ぜながら温めていって何度で粘り気が増えるか、手の感触で(定性的に)調べた。片栗粉が10gのときは約69℃、15gのときは約65℃、20gのときは約64℃と、濃度が高いほど低い温度で粘り気が増えることがわかった。

実験3-2:

粘り気が増える温度をより正確に(定量的に)調べるため、水に片栗粉(20g、25g)をかき混ぜながら溶かし、加熱する。液体の温度が55℃、60℃、65℃のときに漏斗に移し、下に10mlたまるのにかかる時間を測定した。その結果、65℃になると急激に粘り気が増えていることが分かった。

 

蒸発量と、液体上部の
温度変化の比較
定期的に測定したもの

実験4(仮説4、5を確かめるために)

実験4-1:

片栗粉を溶かしたお湯が冷めていくときの温度変化(上部、下部)と、蒸発する水蒸気の量の変化を測定した。その結果、お湯だけのときは、水の蒸発量は実験開始直後が一番高く、徐々に緩やかに減っていった。これにともない、温度も同じようなパターンで低くなった。これに対し、片栗粉を溶かしたお湯(あんかけ)の水蒸気量は少なく、実験開始時から終わりまで1g前後と変わらず、温度も一定の割合で低くなった。

実験4-2:

対流の様子をみるため、片栗粉を溶かしたお湯にラメを混ぜて観察し、ビデオに記録した。お湯だけのときに比べてラメの動きは少なく、どれも下方に移動していて、対流は起こらなかった。

実験のまとめ

液体が冷めるのは、水面から水が蒸発するときに熱を奪うことが原因。
お湯が全体的に冷めていくのは、対流が起こることが原因。
あんかけは、水の蒸発が妨げられるため温度の下がり方が小さく、冷めにくい。
あんかけは、粘り気があるために対流しにくくなり、水面付近と底付近の温度に差が出る。
あんかけは、65℃付近で粘り気が急激に増す。それ以上に加熱すると、対流が起きにくくなって内部に熱が蓄えられ、表面に比べて高温になる。これが「冷たいと思っても、中はアツアツ」の原因だ。

指導について

指導について龍ヶ崎市立長山中学校 若林克治

 あんかけはなぜ冷めにくいのだろう?という素朴な疑問から、4人の研究は始まりました。時には2時間以上にも及ぶ温度測定をするなど、様々な困難を乗り越えながら研究は進められました。その結果、お湯の場合は水面からの蒸発と、水中で起こる対流が温度を下げるメカニズムであることを突き止めました。その一方で、片栗粉は65℃以上になると急激に粘り気が増すことも分かりました。これらのことから、あんかけは、粘り気によって対流しにくいために、内部の熱が逃げにくくなることと、蒸発量が少ないために温度が下がりにくいことを明らかにしました。
 実験を次々に行い、丹念に考察しながら工夫することにより、4人のミニ科学者たちは夏休み前に抱いた疑問を解き明かすことができました。彼らは理科特有の謎解きのおもしろさを存分に味わったことだと思います。そして、私自身も改めて自由研究を指導する楽しさを実感することができました。

審査評

審査評[審査員] 秋山 仁

 「なぜ、あんかけの食べ物は冷めにくいのか」という日常生活の中の単純な疑問を、徹底的に分析し、とてもスッキリした結論を導いた作品である。  本研究では、液体の温度が下がるのは、蒸発熱が奪われることと、熱の対流の作用によることを、最初に突きとめている。その後、片栗粉を溶かしたあんかけが水の蒸発を防ぎ、粘り気が対流を押さえる効果があることを実験を重ね、確認している。
 研究の目的を明確化し、仮説を立て、科学的な方法で実験を重ね、結論を導き、これらのプロセスを分かりやすくレポートしている。このコンクールのお手本のような作品である。
 蛇足ながら、筆者は近くのそば屋から出前をとる時は、大てい、あんかけうどんを注文する。研究室への訪問者が次々とやってきて、いつ食にあり着けるか分からないことが多いからだ。そんなとき、あんかけうどんなら、冷めにくいことを経験的に知っていたからだ。あんかけはうどんやそばが伸びにくいという作用もありそうだが、次にこのことも科学的に調べていただきたい。

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