研究の動機
小学1年生のとき、自宅で飼っているモンシロチョウの幼虫がどんどん葉を食べていく様子に驚いた。その後、毎年研究している。
2016年度の研究
展葉してからの時間経過が異なるキャベツの葉(内側、外側)を幼虫に与え、幼虫が蛹になるまでの食欲、体長、蛹になる確率の変化を調べた。
〈食欲〉
内側の葉:葉脈なども関係なく食べた。外側の葉:食べる場所に偏りがあり、葉脈などを残した。
〈体長〉
内側、外側の葉で、幼虫にあまり差はなかった。幼虫の太さについては、外側の葉を食べた幼虫の方が比較的細かった。外側の葉を与えた幼虫は2~3齢幼虫で脱皮できず、大きくなれなかった。
〈蛹になる確率〉
内側の葉:ほぼ蛹になった。外側の葉:1頭しか蛹にならず、他は死んだ。食べる葉の、展葉してからの時間経過の違いが、幼虫の成長に大きく関わることが分かった。
研究の目的
モンシロチョウの幼虫に、展葉してから時間経過の違うキャベツの葉を与えて飼育し、どのくらい食べて、どのように成長するかを観察する。
実験および観察の方法
結球前のキャベツは、茎を伸ばしながら周囲に次々と葉を付けていく。一番内側の若い葉をa、2枚あけた外側の葉をb、さらに2枚あけたさらに外側の葉をc......として、内側から外側までの6枚の葉(a~f)を採取する。それぞれの葉を直径50mmの円形抜き型で切り取り、6枚を一緒にタッパーの底に敷く。そうした飼育用タッパーを4個用意し、それぞれにモンシロチョウの幼虫6頭を入れる。飼育は日光の当たらない室内で行い、1日1回(午後8時ごろに)、幼虫が食べた葉の状態を方眼紙や写真に記録し、タッパーごとに幼虫が食べた量(面積)を算出する。モンシロチョウの幼虫は、自分で成虫を採集し、自家製のキャベツの葉に産卵させて、ふ化したものを使う (計24頭)。キャベツの葉は、知人が種から無農薬で栽培したものをもらって使う。飼育・観察は7月23日から8月3日まで12日間行う。毎日の1時間ごとの室温、最高・最低の室温も記録し、有効積算温度を算出する。
〈結果〉
幼虫は、どのタッパー(No1~4)も観察開始後の1日目までは生きていたが、その後数頭ずつ徐々に死んでいき、タッパーNo1は4日目(7/27)まで、タッパーNo3は5日目(7/28)まで、タッパーNo4は9日目(8/1)まで、タッパーNo2は10日目(8/2)までにすべてが死んだ。
幼虫が長生きしたタッパーNo2、No4では、観察開始直後は比較的内側の葉を食べる幼虫が多かったが、3~5日目あたりから外側の葉を食べる幼虫が増えて行った。タッパーNo2ではbの葉が古くなってきたため、新しいbの葉に交換したらそれを食べた。
有効積算温度は8月3日までに175.7°Cとなった。例年なら有効積算温度が180~200°Cで幼虫が蛹化するが、今回は8月2日までに幼虫は全滅した。さらに前回までの観察では、有効積算温度が80°C前後で幼虫の体長が10mm程度になるが、今回は最大のものでも10mm以下と、成育が悪く、脱皮もできなかった。
考察
モンシロチョウの幼虫によって、キャベツの内側の葉(a・b・c)は最初に比較的多く食べられていたが、その後急に摂食されなくなった。しかし外側の葉(d・e・f)は最初から最後まで摂食され続けた。また、bの葉を新しいものに入れ換えたら、幼虫はとたんに食べ始めた。これらのことから、内側の葉は幼虫に摂食されることで、幼虫を忌避(きひ)する物質を放出し、幼虫を外側の葉に追いやり、脱皮できなくするなどして、幼虫を殺そうとするのではないか。
反省と課題
今回の実験では条件を統一するために、キャベツの葉を円形に切り抜いて幼虫に与えた。しかし、円形に切ったことで葉の鮮度が落ちるのが早かった。また、幼虫についても、体長が5~6mmになったものをタッパーの中心に置いて、周りに敷いたキャベツの葉まで歩かせるという、幼虫にとってはハードな実験を行ったので、途中で葉までたどり着けず、餓死してしまったとも考えられる。さらにタッパー1個に6頭の幼虫を入れて飼育したため、1頭ごとの体長の計測ができなかった。しかも早いうちに死ぬ幼虫が多く、比較的信頼できるデータを得られたものは2タッパーしかなかった。次回はこれらのことを踏まえて、しっかりと準備したい。
審査評[審査員] 邑田 仁
小学1年生から毎年継続してきたモンシロチョウの食性についての研究の第8部である。今年の研究は、昨年に予備的な結果が出た、キャベツの内側の葉と外側の葉についての食べ方の違いと、その結果幼虫がどのように成長するかの違いを、より厳密な条件設定によって比較するということに絞られている。その結果、最初は内側の葉を好んで食べるが、時間の経過とともに内側のものを食べることを止め、外側の葉を食べるようになること、外側の葉を食べていると脱皮できなくなって死んでしまうということを、それなりに明らかにすることができた。しかし、これらのことはインパクトの大きな発見であるだけに、より厳密な実験によりさらに確かめることが期待される。そのためにはまず、実験に使える幼虫と鮮度のよい無農薬のキャベツを十分に確保することが重要であろう。せっかくここまで到達した継続研究なので、満足できるまでやり遂げてほしいものである。
指導について常総学院中学校 櫻井 雅詞
8年目の継続研究で、これまでにモンシロチョウの成長条件に着目した研究を行ってきました。昨年度からは餌の嗜好性に着目しています。今回は、採集したキャベツの葉を内側から外側にかけA~Eとして餌に用い、幼虫の成長を観察しました。目的・実験方法の検討、考察の工夫に関しては、生徒自身の考えを主体として、ディスカッションを行いました。掲示物のまとめ方に関しては、考察を裏付けるための根拠に絞って、なるべく簡潔にするようにアドバイスを与え、また、差異が見やすいグラフの示し方を検討しました。毎年夏休みを費やして得た実験データがたくさんあり、それらは本人にとって全て大切なものであるため、提示するデータの選定に悩み、懸命に取り組んでいました。興味関心を持ち続けて、継続研究できる良いテーマに出会い、「継続研究奨励賞」をいただいたことは今後の励みになります。ありがとうございました