研究の動機
中学1年の夏休みの課題に「一人一研究」があった。自宅の顕微鏡で花粉の観察をしたが、開始が遅かったので数多くの花の種類を調べることができなかった。その後も研究を続けることにした。
研究のねらい
(1)身近ないろいろな草花の花粉の形や色、大きさなどについて、顕微鏡を使って調べる。
(2)花粉をいろいろな濃度の砂糖水に入れて、どのように変化するかを調べる。
研究の方法
(1)顕微鏡観察
スライドガラスに水を1滴たらし、ピンセットでおしべの花粉をつける。すぐにカバーガラスをかぶせ、顕微鏡を覗きながら花粉をスケッチする。デジタル一眼カメラで顕微鏡写真も撮影する。
(2)発芽実験
濃度が2、4、6、8%の砂糖水と水だけのものを、それぞれスライドガラスに1滴ずつたらし、花粉をつけてカバーガラスをかぶせる。花粉の変化を、時間をおいて顕微鏡で観察する。スケッチと写真撮影も行う。
〈資機材の工夫〉
大量に使うスライドガラスはアクリル板、カバーガラスは食品パックなどのポリエチレン板などを自分で切って使った。デジカメを顕微鏡に取り付ける専用のアダプターがなかったので、天体望遠鏡用アダプターを顕微鏡に合うよう1週間がかりで削り、代用した。観察・実験の結果が整理しやすいように、花粉ごとの記録様式・用紙を統一した。
〈1〉花粉の顕微鏡観察の結果
身近な草木の花、同じ花でも色の違うものなど150種類以上を観察した。形の違いでは、球形(丸形)が全体の35%、球形(とげあり)が15%、卵形が27%、三角形が12%、四角・長方形が4%、五角・多角形が3%、その他(多数集合形など)が4%だった。
〈考察〉
花粉の形は丸に近いもの(球形と卵形)が約8割を占める。花粉の大半が虫媒花で、虫に付着して運ばれやすくする植物の大昔からの工夫と知恵だ。花粉には他に、とげのあることで虫に付きやすいもの、マツのように花粉に空気袋を付けて風に飛ばされやすくしたもの、シャクナゲやツツジのように花粉に糸が付いてい て、虫の体につくと芋づる式にたくさんの花粉が運ばれる仕組みのものもある。
〈2〉花粉の発芽実験の結果
58種類の花粉について実験した。花粉は砂糖水で約半数が発芽した。高い濃度あるいは低い濃度で発芽するものがあるなど、植物の種類によって花粉の発芽に適した糖分濃度があるようだ。全体的に、春から初夏にかけて咲く花のほうが、花粉の発芽がよかった。ツツジは1つの花粉から複数の花粉管が出てきたのでびっくりした。見た目は1つでも、3個くらいの花粉がついているのだと思う。
反省と今後の課題
花粉の観察では、さまざまな形や大きさがあることが分かり、特に小さな花粉の場合は、その数の多さに驚いた。発芽実験では、スライドガラスの水分の蒸発が激しく、管理が大変だった。濡れティッシュの上に置いてラップをかぶせるなどの工夫をした。今後は、砂地や水中に咲く花など、いろい ろな環境下で生きている植物の花粉をもっと調べたい。花粉の発芽についてもさらに、果糖やてんさい糖、はちみつなども使って調べたい。
審査評[審査員] 田中 史人
本研究は自宅にあった顕微鏡を使い行った研究です。調査した花粉の種類はとても多く、150種類以上の花粉を調べています。その結果から丸形や四角形、三角形、長方形、米粒形等、いろいろな形をした花粉があることを観察しています。観察結果も工夫して作った観察用紙を使い、とてもていねいにわかりやすくまとめられています。また、花粉を観察していく中で花粉管の成長に驚き実験をさらに進めています。花粉の発芽については、60種類ほどの花粉について水だけの場合と濃度等の条件を変えた砂糖水を使いそれぞれの花粉の発芽について詳しく調べています。本研究では、スライドガラスとカバーガラスを大量に使うことから、アクリル板や食品パックに使うポリエチレン等を使いプレパラートを自作しています。撮影に使用した、顕微鏡とカメラを接続するアダプターも天体望遠鏡用の物を自分で削り加工して再利用しており、随所で工夫して観察を進めていることがうかがえます。今後はさらに条件を変えて観察を進めていくことを期待します。
指導について福田 慶治
去年の中学1年生の夏休みの課題に理科の自由研究があり、以前、部活動の先輩が行っていた花粉の研究に興味を持ち、スタートしたものです。顕微鏡は新・旧2台のものを使用し、自宅の庭や道路、学校の花壇、野原や山林、池や小川の岸辺などに咲いていた草花の花粉を採取して観察しました。その結果、花粉の形には、丸い形のものや楕円形のもの、トゲや空気袋のようなものがついているもの、糸を引いているものなどさまざまな形や特徴があることを見つけました。花粉の発芽については、水と砂糖だけの簡単な実験にして、温度の変化による発芽の違いを調べました。発芽は時間のかかるものが多いため、水の蒸発を防ぐためにプレパラートの工夫をしました。顕微鏡の写真撮影については、望遠鏡の物を加工して顕微鏡にカメラが簡単に取り付けられるようにしました。約2年にわたりこつこつと継続研究を続けた結果が今回の成果となったと思います。