研究の背景
2017年に、農産物のなかで放射性セシウムの濃度が最も高い山菜やキノコを対象に、どの部位の濃度が高いのかを調べた。今回は「今後の福島のため」「今後国内外でこのような事故が起きた場合のため」に、植物と放射性物質の関係をさらに追究した。
研究のテーマと方法
2018年は、テーマ1を「山菜と放射性物質の関係」、テーマ2を「コケによる現在の汚染状況および過去と未来の推定値」とした。1の研究期間は2018年4月から8月、試料である山菜は福島県内で採集した。2の研究期間は2015年8月から2018年7月、試料であるコケは福島市松川町内、松川町を除く福島市内、福島市を除く福島県内、福島県外の4地域で採集した。
放射性物質測定までの前処理は、次のとおり。
山菜などの試料は必要に応じ、葉や茎など調べる部位に切り分ける。土の影響を除くため水洗いして水気を取り、細かく刻むなど測定しやすい状態にする。ここであらかじめ重さを量り、乾燥機で乾燥させる。乾燥させるのは、水分が放射性物質の測定を邪魔するからだ。乾燥させた後、残った固形分と乾燥させた水分の割合を求めるために再び重さを量る。その後、試料を測定用の容器に詰めてふたをし、容器の外側をきれいに水洗いして水分を拭き取る。それから、容器の重さと高さを計って比重を求める。試料の詰め方が測定結果に影響するため、比重を求めている。最後にテープで確実にふたを閉じて、ビニール袋に入れる。
土やコケなどの試料も山菜などの乾燥後と同じ下処理を行い、放射性物質の測定は全て専門の方に頼んだ。
乾燥状態の葉と茎の放射性セシウム(Cs)、放射性カリウム(K)の割合
研究テーマ1
「山菜と放射性物質の関係」については、4つのサブテーマを設けて研究を行った。
1.山菜の部位ごとの放射性セシウムと放射性カリウムの関係
放射性物質には原発事故で拡散した放射性セシウムのような人工放射性物質と、天然の自然放射性物質がある。天然の放射性カリウムは、植物に欠かせないカリウム1gに30.4Bq/kg(ベクレル毎キログラム)が含まれる。今回、放射性セシウムと放射性カリウムがそれぞれ、山菜の葉と茎にどう含まれるかを調べた。
試料の山菜はウド10、ウルイ3、フキ3、コシアブラ8、タラノメ6、ハリギリ4、コゴミ6、ワラビ11、山から自分で採集したり、家族や知人からいただいたり、販売所で買ったりした。
結果
どの試料でも、放射性セシウムは茎より葉で濃度が高く、放射性カリウムは葉より茎で濃度が高かった。その値には、例えばセシウムが葉で10高ければカリウムが茎で10高いといった対称性が見られた。葉と茎全体にほぼ1:1の割合で放射性セシウムと放射性カリウムが存在するという規則性が推測できる。そこで、2つの値に関係があるかを検証する「最小二乗法」という方法を使った。放射性セシウムと放射性カリウムの値を足して計算すると、セシウムだけの時より強い関係を示す結果が出た。葉と茎には、放射性セシウムと放射性カリウムの量つり合うような規則的な関係があることがわかった。
2.ワラビの成長過程においての放射性セシウムと放射性カリウムの関係
過去の研究から、山菜が成長するにつれ放射性物質の濃度に違いが出るように思った。そこで、5月から8月まで同じ場所で、成長過程が違うワラビを6回採集した。穂が下を向く若いワラビから一部が葉の状態に成長したワラビまで成長段階を5つに分け、6回の採集のたびに5段階すべてのワラビを入手した。それぞれの上部(穂先や葉)と下部(茎)の放射性セシウムと放射性カリウム濃度を測定し、関係を調べた。
結果
乾燥させた試料では、放射性セシウムは上部で濃度が高く、放射性カリウムは下部で高かった。それぞれの上部と下部の濃度差は、成長とともに広がっていった。乾燥させる前の生の試料でも調べたが、結果がやや異なった。上部のセシウム濃度と下部のカリウム濃度が、成長過程によって対称的な値になった。セシウムの下部とカリウムの上部もやや対称的だ。ここから放射性セシウムと放射性カリウムは、水分による比例関係があるのではないかと推定される。
またこの研究で、雨量が多いと放射性セシウム濃度が高まることもわかった。
3.コシアブラの汚染メカニズムについて
ほかの山菜と比べコシアブラは、現在も高濃度の放射性セシウムが検出される。可食部以外の部分や、根の土壌も測定して汚染のメカニズムを探った。
結果
土壌の深さ0~5㎝のところ(腐葉土層)が、最も高い濃度で放射性物質を含んでいた。側根の濃度が主根より高い値だったことから、コシアブラは腐葉土層から放射性セシウムを吸収していることが証明できる。また、幹や枝は高い位置のほうが高い濃度を示していた。
コシアブラ幼木の測定結果
4.山菜の放射性セシウム除去の検討
「湯に塩や重曹を加え山菜を15分煮沸するアク抜き」「山菜に灰をかけ湯を注いで一晩おくアク抜き」「1カ月ほどの塩漬け」の3つの一般的な方法に準じて、放射性セシウムが除去できるかを試した。
結果
重曹は77~92%以上、塩は93~96%除去することができた。除去率は塩漬けのほうが有効だ。煮沸する方法で重曹と塩の両方を使えば時間が短縮でき、重曹だけの時より効果的。灰を使うアク抜きでは、逆に濃度が高くなった。事故後汚染された木の焼却灰には注意が必要だ。
研究テーマ2
「コケは成長速度が非常に遅く、放射性核種を長く集めて濃縮すると考えられる」と文献にあった。そこでコケを指標に再度、全国の放射性セシウム汚染状況を見直してみた。松川町で87、福島市77、福島県55、福島県外95のコケ(種は定めず)を集め、現在だけでなく、半減期を考慮した計算で「事故当時」「30年後」「100年後」の放射性セシウム濃度を推測した。
結果
松川町と福島市内で得られたデータは事故当時、地域の東側がより汚染されたことを示した。また30年後、100年後でも福島市内に1,000Bq/kgを超える場所があることを示していた。福島県内は、原発から遠い会津方面でも現在1,000Bq/kgを超える場所があり、飯舘村付近は100年後も10,000Bq/kgを超える場所があると推定できる。県外では宮城県、岩手県、関東地方、長野県に、現在の福島県と同等またはそれ以上の濃度を示す場所がある。そのほか九州でもわずかだが測定され、日本全国が汚染されたことが実証された。
松川町で採集したコケ(右)と、その採集場所(左)
[審査員] 田中 史人
平成23年3月の福島第一原子力発電所の事故から8年が経とうとしています。事故発生当時に口にすることができなかった野菜などは少なくなる一方で、一部の山菜などからは依然として基準値を超える放射性セシウムが検出されています。小学校2年生から放射線の研究をはじめ、4回目の今回は山菜と放射性物質の関係として、部位ごとや成長過程での放射性セシウムと放射性カリウムの関係について調査し結果から分析しています。山菜の放射性セシウム除去の研究では、塩漬けによる方法だけでなく、重曹の使用や塩茹でなどいろいろな方法で研究を行い結果に結びつけています。
また、コケを活用した汚染状況の研究では、事故当時から現在の放射性セシウム濃度の結果から30年後、100年後の推定値を多くのサンプル資料から求めています。市内や町内を歩くだけでなく何度も山に足を運び、数多くの資料を採取し、予想していた以上の新しい発見もありました。集められたデータの量も多く、とてもていねいにまとめられています。今後も放射性物質について、福島県だけでなく全国規模で研究を進めていくことを期待します。
國井 伸明
2011年に発生した国内初の原発事故で、福島県内を中心に放射性物質が飛散されました。未だ身近に存在する放射性物質は一般人にとって未知なものであります。昨年、暗中模索のなか行った研究テーマ「放射性セシウムと植物およびキノコの関係について」で2等賞を頂き、表彰式の際に審査員の先生から継続してほしいというお声を頂戴しました。福島県在住だからこそできる研究であり、福島県から発信すべきであると再認識し、今年は「昨年の継続及び更なる追究」と「植物を指標とした環境汚染の実態」について取り組みました。指導においては①試料の収集(採取場所の確認・確かなデータを得るためにより多く収集する)、②過去の結果の検証(再現性)、③データのまとめ(統計的手法)、以上を重点に置き、結果から実用化に導く大切さも教えました。今までの研究の集大成の予定でしたが、新たな発見と課題も出ましたので、引き続き指導ができればと思っています。