研究の動機
今までは虫が好きではなく、自由研究のテーマからも虫を除外してきた。今回、虫を調べたきっかけは、小学校2年生の妹がダンゴムシを大好きだったことからだ。しょっちゅう捕まえてきては、ブロックの迷路へ入れたり、ひもの上に乗せたりして遊んでいた。その様子を見るうちに、小さなダンゴムシにもできることがあってすごいなと驚き、関心を持つようになった。
研究の目的
この研究の目的を、ふたつに分けて設定した。ひとつめは、ダンゴムシの特徴を確かめること。ダンゴムシの生態や、視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚、運動能力など、体のつくりを調べてみた。
もうひとつは、ダンゴムシの交替性転向反応について確かめること。交替性転向反応というのは「右に曲がった後は左に、左に曲がった後は右に曲がる」という動きのことで、多くの生物がこの習性を持っている。ダンゴムシの交替性転向反応は特に顕著なので、その特徴や、交替性転向反応をさせない方法を調べてみた。
観察や実験は基本的に雄25匹、雌25匹、合わせて50匹のダンゴムシを対象に行う。土やえさを入れた虫かごで飼育し、実験の際は1~50の番号を振ったフィルムケースに1匹ずつ入れて、それぞれ1回ずつ試してみる。もし1~50番のダンゴムシが途中で死んだ場合は、同じような大きさ、性別のものと入れ替えることにした。
特徴の研究
中学校内でダンゴムシの生態を調べる
まず久喜中学校内で、どんな場所にダンゴムシが多くいるかを調べることにした。食べ物があるところ、ダンゴムシにとって快適な時刻や温度、湿度の場所に多く生息すると予想できる。「体育館通路脇のコンクリートの部分」「校門前のロータリー」「部室の隣の山」など中学校内で14の場所を決め、それぞれの場所で5分間に何匹のダンゴムシを発見できるかを集計した。6月1日から2週間ごとに8月24日まで、朝8時、昼12時、夜20時の3回ずつ、それぞれの場所にいるダンゴムシを数えた。数えた場所の温度や湿度、見つけたダンゴムシがどんな状態だったかも生態にかかわるため、併せて記録した。
その集計結果から、ダンゴムシは日陰などの、気温が低くて湿度が高い場所を好むことがわかった。草、落ち葉、石の下などに多く生息する。気温が高く湿度が低い時(おもに昼間)には丸まった体育館周辺などでダンゴムシを観察りじっとしたりして、気温が低く湿度が高い時(おもに夜間)にえさを食べたり動いていたりする個体が多かった。
体育館周辺などでダンゴムシを観察
室内でダンゴムシの生態を調べる
次に、室内の虫かごで雄25匹、雌25匹のダンゴムシを飼育して、温度や湿度とダンゴムシの行動がどう関係しているかを調べてみた。7月27日~8月19日までの24日間、朝8時、昼12時、夜20時に室内の温度と湿度を測り、ダンゴムシがどういう状態だったかを記録した。
その結果、外での観察と同じように、ダンゴムシは夜に活動したり、えさを食べたりしていることがわかった。気温が高く湿度が低い時に丸まったりじっとしていたりするダンゴムシが多いのは、暑さや乾燥から身を守るため。湿度と活動とは特に関係が深く、湿度が上がるほど活動する個体数は増える。
また、湿度があっても気温が高すぎた時や、湿度が40%台まで下がった時に、ダンゴムシは死んでしまうこともわかった。24日間の観察の間、死んだダンゴムシは11匹、そのうち雄が7匹、雌が4匹だった。雌はお腹で赤ちゃんを育てる都合上、雄より暑さや乾燥に強いと考えられる。
ダンゴムシの体のつくり
ダンゴムシと他の節足動物との比較
ダンゴムシの視覚を調べる実験
黒、緑、青、黄、赤、白、オレンジ、ピンク、茶、黄緑、肌色、水色、紫、金、銀の15色の折り紙を下に敷き、ダンゴムシがどの色に多く集まるか調べた。また、空き容器に50匹のダンゴムシを入れて、容器の半分は日向、もう半分は日陰になるように置き、ダンゴムシがどちらに集まるかを記録した。さらに右上の写真のように、ダンゴムシの視覚の広さを調べてみた。中心に置いたダンゴムシにさまざまな角度から楊枝を近づけて、どの角度なら逃げるのかを観察した。
視覚を調べる実験結果
黒に集まったダンゴムシは32匹、青9匹、緑7匹、赤2匹と続いた。雄雌に関係なく、黒を好むものが多かった。日向と日陰の比較では、容器を置いて3分後には50匹すべてのダンゴムシが日陰に集まった。このことからダンゴムシは暗い色を好み、明るさと暗さには敏感に反応することがわかった。視界の広さの実験では、写真の60度から120度の間から楊枝が近づくと逃げることが多く、それほど視野は広くはないことがわかった。
ダンゴムシの味覚を調べる実験
砂糖、塩、しょうゆ、ソース、ケチャップ、はちみつ、梅干し、きゅうり、トマト、肉、段ボール、葉、花、落ち葉、土を用意し、ダンゴムシがどれを好んで食べるのかを調べた。また、7月27日~8月19日の24日間、虫かごのダンゴムシが朝、昼、夜の、いつえさを食べているのかを記録した。
味覚を調べる実験結果
雄雌とも落ち葉を食べる個体が多かった。次に葉、土、花の順だった。はちみつや肉、トマト、きゅうり、調味料など、いろいろなものに数は少ないけれど集まっていた。段ボールも食べているようで驚いた。梅干しだけには、寄っていくダンゴムシが1匹もいなかった。
1日のいつえさを食べるのかについては、夜に落ち葉を食べている個体が多かった。次いで朝、昼の順だった。ダンゴムシは夜行性で、夜に落ち葉を食べていることが、ここでも確認できた。
ダンゴムシはどんな食べ物に集まるのか
ダンゴムシの嗅覚を調べる実験
ダンゴムシは嫌いな臭いに敏感で、すぐ臭いから逃げるだろうと考えた。ダンゴムシが嫌いなアンモニア液を置き、そこから半径何cmまで近づくと逃げるのかを調べた(実験a)。また、臭いを感じるために触覚を使 っているかどうかを確かめるため、触覚を切ったダンゴムシ50匹と、触覚があるダンゴムシ50匹を対象に、アンモニア液をどれだけ近づけると逃げるのかを観察した(実験b)。
嗅覚を調べる実験結果
実験aでは、アンモニア液から半径0.6cmまで近づくと11匹のダンゴムシが反応して、その多くが触角を左右に動かしていた。アンモニア液に近づくにつれて、液から逃げるダンゴムシが増えたが、アンモニア液に足がついても全く関係なく通り過ぎる個体が4匹いた。半径0.3cmに近づくと、反応を示すダンゴムシが32匹と増えた。どのダンゴムシも触覚を左右に動かしていたので、触角で臭いを感じていると予想できる。ダンゴムシの触角の長さは0.3cmほどなので、実験結果と矛盾しない。
触覚と嗅覚の関係を確かめる実験bでは、触角がないダンゴムシはアンモニア液から半径0.2cmで1匹が反応し、半径0.1cmで4匹が反応した。アンモニア液が足についてから逃げた個体も17匹いたが、ほとんどがアンモニア液が足についても関係なく通り過ぎていた。触角があるダンゴムシは0.3cmで32匹が反応し、0.1cmで41匹が反応している。触角が嗅覚に大きな影響を与えていることが、この実験でわかった。
ダンゴムシの聴覚を調べる実験
ダンゴムシは人の大声程度の音に反応するはずだと予想して、聴覚の実験をした。ダンゴムシの前で音を出し、何dB(デシベル)に反応するかを調べた。
聴覚を調べる実験結果
低いdBに反応する個体、高いdBに反応する個体があったが、64dBの時にびくっと反応をするダンゴムシが多かった(8匹)。60dB台(人が大声で話す程度の音)に反応を示すダンゴムシが多く、音に対してそれほど敏感でないことがわかった。
ダンゴムシの触覚を調べる実験
ダンゴムシは、体のどの部分に触れられると丸くなるのかを調べた。頭、触角、目、胸、腹、足、尾のそれぞれに楊枝で刺激を与え、観察した。0度、20度、40度、60度、80度、100度の水にダンゴムシを入れて、水の温度を感じられるかも調べた。また、濡れたスポンジと乾いたスポンジをトレイの左右に置き、どちらに多く集まるかを集計して、水分を感じとることができるかどうかも確かめた。
触覚を調べる実験結果
触角を刺激されると反応するダンゴムシが最も多く(33匹)、次に尾14匹、目11匹の順だった。丸くなるまでに大きな反応を示したのも、触角が17匹と最も多かった。ダンゴムシにとって臭いを認識するアンテナのような働きをする触角は、大切な部分だとわかった。
温度の実験では、0度、20度、40度の水はダンゴムシにとって平気な様子で、変化はなかった。60度になると、水に入れると、びくっと反応する個体が増えた。80度になるとびくっと反応し、その後に丸くなる個体が半数近くいた。80度では、そのまま全く動かず死んでしまった個体8匹を確認できた。100度になると50匹の個体がすべて、入った途端に丸くなり、その後は全く動かず死んでしまった。
80度で見られたように、丸まるのは熱さから甲羅で身を守る行動だ。身を守っても8匹は80度に耐えられずに死んでしまった。それより熱い100度以上は、ダンゴムシにとってとても耐えられる温度ではなかった。
さらにスポンジの実験では、濡れたスポンジと乾いたスポンジを置いてから2分後には、39匹のダンゴムシが濡れたスポンジに移動していた。3分後には、50匹全部が濡れたスポンジに移動し、ダンゴムシは3分あれば濡れたスポンジを認識することが確かめられた。
ダンゴムシの運動能力を調べる実験
特徴の研究の最後に、ダンゴムシの運動能力について、さまざまな角度から調べてみた。まず、竹ひご、鉄の棒、プラスチックの棒、ものさし、蛍光灯、ストロー、たこ糸、モールを用意し、どんな物に登れるかを調べた。90度に立てた場合に、どこまで登るか、また0度、30度、60度、90度、120度、150度、180度とものさしの角度を変えて立てながら、どこまで登れるかを観察した。また、T字路を4つ入れた迷路にダンゴムシを入れて、どんな動きをするのかを調べた。
運動能力を調べる実験結果
竹ひご、ものさし、たこ糸、モールは、50匹すべてが登った。逆に鉄の棒、プラスチックの棒、蛍光灯、ストローは50匹すべてがくっつくこともできずに落ちた。ダンゴムシの足をよく見ると、ギザギザしている。ギザギザが引っかかる素材でないと登れないとわかった。
1mのものさしを90度に立てて、どこまで登れるか試した場合、32cmで落ちる個体もいれば、98cmまで登る個体もいた。66cmと71cmまで登ったダンゴムシが3匹ずついて最も多かった。ものさしに角度をつけた場合、90度までは50匹すべてが登ることができた。ただ、ものさしの角度が120度になると38匹、150度では22匹、180度では8匹しか登ることができなかった。ダンゴムシは逆さになると落ちないように足に力を入れてものさしにくっつき、足どりがゆっくりになっていった。
T字路にダンゴムシを入れる実験で最も多かったのは、右→左→右→左と右左交互に通路を進むダンゴムシだった。28匹いて全体の56%。次いで左→右→左→右と左右交互に進んだ13匹で、全体の26%だった。
右→左→右→左と進む個体は雄より雌が少し多く、左→右→左→右と進むのは雌より雄が多かった。この2パターンで通路を進んだダンゴムシは全体の82%で、圧倒的に多い。例えば、右→右→右→右、左→左→左→左のように通路を進むと元の場所に戻ってしまい、前へ進めない。多く見られる2パターンだと前へ進めるので、敵から逃げたり食べ物を見つけたりするための習性だと考えられる。
1回目の実験で2パターン以外の進み方をしたダンゴムシも実験を繰り返すと左右交互に進むようになり、3回の実験を合わせると96%の個体が2パターンの進み方を見せた。この進み方を、交替性転向反応という。
T 字路にダンゴムシを入れるとどう動く個体が多いのか(50 匹対象)
交替性転向反応の研究
交替性転向反応の特徴を調べる実験
交替性転向反応について詳しく調べるため、朝8時、昼12時、夜20時に迷路にダンゴムシを入れて、時間帯で動き方が変わるのかを調べた。さらに、ダンゴムシに同じ迷路を1~4回経験させ、経験することで動き方が変わるのかを確かめた。また、ダンゴムシの記憶力についても調べてみた。まず、1回迷路を経験したダンゴムシをすぐに同じ迷路に入れて観察し、次に2分後、4分後、6分後に迷路に入れ、どう動くかを確認した。それぞれの実験で、スタートからゴールまでのタイムも計測し、比較することにした。
特徴を調べる実験結果
朝は43匹が交替性転向反応を示し、昼は41匹が示した。夜は46匹と交替性転向反応を見せる個体が最も多く、ゴールまでのタイムが最も速かった。
経験の実験では、1回目より2回目、2回目より3回目のほうが交替性転向反応を見せるダンゴムシの割合が増え、タイムも上がっていった。3回目と4回目では交替性転向反応を示すダンゴムシの数は変わらなかったが、4回目のほうがタイムはよかった。この結果を曲線グラフにしてみると、人間の学習曲線とよく似ていることがわかった。
記憶力の実験では、すぐに迷路に戻したダンゴムシの88%が交替性転向反応を見せ、2分後は86%、4分後は82%、6分後は80%と交互に進む個体が減っていった。時間が経つほどタイムも遅くなっていった。
交替性転向反応をさせない方法の実験
迷路のなかの、交替性転向反応で進むべき道の反対側に、ダンゴムシが好きな黒い紙や、落ち葉、濡れたスポンジ、さらには別のダンゴムシを置いて、違った方向へ誘導してみた。反対に、交替性転向反応で進むべき道にダンゴムシが嫌いな光を当てたり、坂道にしたり、アンモニア液を置いたりして、どう進むのかを調べた。また、右にしか進めない迷路や、左にしか進めない迷路を1~4回経験させた後、同じ迷路にダンゴムシを入れると、交替性転向反応で進むかどうかも確かめた。
反応させない実験結果
ダンゴムシに交替性転向反応をさせないために最も有効だったのは、進むべき方向と反対側に別のダンゴムシを置く方法だった。2位以下に、ひとつの方向にしか進めない迷路を4回経験した後、3回経験した後、2回経験した後と続く。次いで、進むべき方向に光を当てる方法と、進むべき方向を下り坂にする方法が同率で効果を発揮した。
結論と感想
ダンゴムシは予想したとおり、黒のような暗い色を好み、明るさに弱く、視界はそれほど広くないことがわかった。梅干し以外は食べ、食欲は夜に最も高まる。嗅覚はそれほど敏感ではなく、触覚で臭いを感じていることが確認できた。60dBくらいの音によく反応するが、音に対してもそれほど敏感とはいえなかった。触覚を刺激すると丸くなることが多く、60度くらいの湯にびくっと反応した。濡れたスポンジと乾燥したスポンジの認識は、3分あればできることもわかった。経験と記憶力の実験結果をグラフにしてみると、人間と同じような曲線を描いた。
また、「右に曲がった後は左に、左に曲がった後は右に曲がる」というように動く交替性転向反応の特徴を調べる実験もさまざま行った。交替性転向反応が起こる確率については、選挙速報の出口調査などに用いる「t検定」で計算した。今回の研究をきっかけとして、推測統計という分野があることを知り、これからの研究に利用していきたいと思った。
[審査員] 木部 剛
妹さんの虫好きがきっかけでダンゴムシに興味をもち、実験のアイデアが湧き出た結果、ダンゴムシについての総合的な研究になりました。まず、ダンゴムシが身の回りのどのような場所でいつ見つかるのかを調べ、ダンゴムシ個体のもつ諸感覚や運動能力について研究を進めました。ここでは五感(視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚)に注目してさまざまな実験を行ったことで、ダンゴムシのもつ性質を広く捉えることができました。次のステップでは、ダンゴムシが示す交替性転向反応に目を向け、ダンゴムシの行動における学習の効果や、ダンゴムシのもつ諸感覚が交替性転向反応にどう影響するのかという興味からさまざまな実験を進めました。本研究は、さまざまな視点で実験を次々に発想し、予想や計画から結果の考察までを着実に実施したことが高く評価されました。本研究で得られた興味深い結果からテーマを絞り、より深める方向で研究が進展することを期待します。
久喜市立久喜中学校 梅津 英薫・樋口 三枝子
本研究は、ダンゴムシのいろいろな生態を探ったものです。猛暑の中、多数のダンゴムシを採集し、生育環境を整え、維持しながら多岐にわたる観察実験を行い、詳細かつ膨大なデータを収集・分析しており、その努力と探究心に驚かされました。この貴重なデータをより生かせるように、一部の実験について表計算ソフトによる統計分析の方法をアドバイスさせていただきました。小・中学生にとって統計の数学的理解は難しいかもしれませんが、表計算ソフトを統計処理の道具として使うのは十分可能だと考えました。湿度や温度、時刻や明暗など、いろいろな要素に着目してダンゴムシの活動との相関関係を調べグラフ化していくと、思わぬダンゴムシの生態が浮かび上がってきました。特に、湿度と捕食活動の相関関係が1となり、きれいな直線のグラフとなったことは予想外の驚きでした。研究のお手伝いをさせていただき、大変光栄です。今後も統計分析を生徒の学習活動へ役立てたいです。