第60回入賞作品 中学校の部
2等賞

セミの羽化6
~本当に抜け殻のそばを選んで羽化しているのか~

2等賞

静岡県静岡市立南中学校 3年
白鳥 紗羅
  • 静岡県静岡市立南中学校 3年
    白鳥 紗羅
  • 第60回入賞作品
    中学校の部
    2等賞

    2等賞

はじめに

 小学4年生の時にセミの研究を始めて6年目になる。これまでの研究で、「セミの羽化角度について」「羽化時の明るさに対する反応」「羽化場所の条件について」など、さまざまな点からセミを調べてきた。中学最後の研究では過去の実験をまとめ、幼虫が木に登り始めて羽化するまですべての過程を明確に示すことを目標に、調べ足りない部分の研究をすることにした。
 毎年の野外調査で、セミの抜け殻が不自然に集まっているのをよく見かけた。羽化場所は他にもあるのに、わざわざ他の抜け殻に並んでいたり、おんぶしてぶら下がっていたりしている。

 これは、仲間が羽化に成功した安全な場所を選ぶからではないかと感じていた。そして過去2回の実験から、確かにセミには抜け殻の近くを羽化場所に選ぶ傾向があるとわかった。セミが抜け殻の近くを選ぶ理由は、次の3点が考えられる。

抜け殻が足場になり、より適した羽化場所になった
そこが単に一定の条件を満たす羽化に適した場所で、抜け殻は全く関係がない
抜け殻がある場所を好んで選んでいる

 このうち可能性が高いのは②と③だと考えられた。
 そこで今回の研究は、セミが抜け殻をどう認識しているかを中心に調べることにした。抜け殻の認識方法としては、におい(フェロモン)や、目視(幼虫が羽化する時、目で見て登る木を選んでいる様子が観察できる)が考えられるため、方法を特定する実験を行った。

実験の方法

 家のすぐ外の定位置に、クマゼミ用2台(I・IIとする)とアブラゼミ用2台(III・IVとする)の羽化台を設置した。羽化台には地面から垂直に幹を立て、約42cmの枝を約45度の角度で合計8本ずつ取り付けた(約90cmの高さの上段に4本、約35cmの高さの下段に4本)。


今回の研究で使った羽化台

 用意した枝はみな同じではなく、4種類を2本ずつ用意した。まず1種目の枝は、2019年に採集したばかりの同種の抜け殻(観察対象がクマゼミならクマゼミ、アブラゼミならアブラゼミ)を、枝先から4cm、11cm、根元から10cmの場所に無臭の輪ゴムでくくり付けたもの。2種目の枝は2018年に採集した同種の抜け殻を、20分以上煮沸して風で乾かし、においを抜いてから1種目同様にくくり付けたもの。3種目は、抜け殻に似せた縄を1種目同様にくくり付けたもの。縄はヤシ繊維で漂白剤に半日浸けて水洗いし、20分以上煮沸してから1日天日干しする。そうしてにおいを抜いた後、抜け殻の大きさに丸めて付けた。4種目は、抜け殻も縄も付けないもの。1種目と同じ場所に輪ゴムのみを付けた。4種類の枝は幹の上下段それぞれに、対極になるように配置した。
 さらに、照明条件で羽化場所が偏るのを防ぐため、羽化台は毎日時計回りに90度回し、枝2列が家側(北西)になるようにした。家の灯りは遮光カーテンで羽化台に漏れないようにしている。家の外には施設照明が2種類あり、羽化場所を決める時間帯に点灯している日(2種類同時に、または1種類のみ)と、消灯している日があった。点灯する日は各羽化台上段の4本の枝に直接、光が当たった。羽化台を90度ずつ動かして、360度4回転した。実験開始17日目以降は、照明条件と羽化台の方角の組み合わせで、観察回数が少ない組を補充するように調整し、実験に大きな偏りが出ないように注意した。
 観察する幼虫は、午後7時前後に近くの公園と神社で、羽化場所を決める前の個体を採集する。1個体ずつ箱に入れて持ち帰り、すぐに羽化台へ放す。クマゼミは7月19日~8月12日に42個体を採集、アブラゼミは7月24日~8月14日に36個体を採集して観察した。
 羽化台南東側(明るい面)の幹の根元に、1台につき一晩に1匹、幼虫を放した。どの日も明るい面の上下段どこかに4種の枝が必ず1本はあるようにして、幼虫が真上に登るだけで、すべての条件の枝の付け根を通過できる状況にした。翌朝、前日羽化した抜け殻の場所を記録し、その抜け殻を除去した。
 得られた羽化場所の集計を、さまざまな点から分析した。幼虫の雌雄については、過去の実験から行動に違いが見られないと考えられるので、今回の分析では区別しなかった。また、同時に幼虫の様子を観察し、気づいたことを書き留めた。


縄(模型)の横で羽化するクマゼミ

 

結論

 実験の結果、羽化台IVを除いて、抜け殻や縄の付いていない枝で羽化する個体が最も多かった。羽化台Iでは33%、IIで43%、IIIで28%の個体が何もない枝を選び、IVでも他種の枝と同程度の22%がない枝を選んでいた。とはいえ、抜け殻のない枝に集まるというほどの率ではなく、枝の種類による偏りはほとんど見られなかった。羽化場所選びの際、抜け殻の有無は、位置や明るさより優先順位が低いことがわかった。
 しかし、抜け殻のある枝を選んだ場合は、抜け殻近くで羽化する個体が多く見られた。本来一番人気の枝先と同程度か、それ以上いる。特に2019年の抜け殻を付けた枝では、どの羽化台も抜け殻につかまって羽化する個体が多かった。2019年の枝では羽化台Iの例を除き、枝先で羽化する個体が見られなかった。幼虫は、意図的に抜け殻の近くを選んでいると判断できる。ただ、縄の模型でも本物の抜け殻と似た反応を示していて、抜け殻の判断はにおいなど精度の高いものではなく、恐らくぼんやりとした目視によるだろうと考えられる。
 最後に、6年間の研究を踏まえて、どの本より詳しい「セミの羽化時の行動特性について」を下の表にまとめた。

セミの羽化時の行動特性(2019年版)

羽化前行動

 採集時の行動。5時間以上羽化しない個体がいることや、午前中に外を歩いていた個体が暗い場所の羽化台に放たれるとすぐ羽化することから、条件が整わない時は羽化を始められずにいると考えられる。

内容
1 穴から出て近くの木などを目指して一目散に歩く。この時大量のアリにたかられて木へたどり着けないことがある。近くに立っていると方向を変えて登ってくるので、高いものを目視で認識している。視野角は180度弱程度と推測できる。
2 前脚に折り畳みナイフ状にしまっている爪を出して、幹をまっすぐ登り、気に入る場所まで行く。羽化台では何度か歩いて吟味して羽化場所(体勢)を決める。

前兆運動

 場所を決めてから背中が割れる間にする。この段階の幼虫を採集したら帰宅中の箱内で背中が割れた。この段階から羽化が始まっていて、時間が経過すると何があっても羽化が進んでしまうと考えられる。

内容
3 中脚を横に広げて、脚を置く位置を決める。
4 前脚を顔の前で動かす。クマゼミは触覚をしごくように頭のすぐ近くで、アブラゼミは進む道を探すように前方に、繰り返し前脚をバタバタさせる(この過程ははっきり見られない場合もある)。
5 前脚を前方に揃えて枝につかまり、体をゆっくり前後に揺する。この過程の途中までなら、邪魔をされても移動できる。途中で移動した時に、頭が下になるなど異常角度で羽化することがあると考える。
6 揺すり続けると殻の中で腹部が離れて腹の先が小さく胸部のほうへ縮み、胸部の厚みが増す。

羽化

 図鑑などで羽化と紹介される過程。所要時間は小型のセミほど短い。背割れから羽が伸びるまでニイニイゼミ30分、アブラゼミ50分、クマゼミ55分程度。

内容
7 胸部が背面にふくらみ、背中が割れる。
8 割れ目から背中が出てさらにふくらみ、頭部が割れる。
9 頭部と胸部がふくらみ続けながら前へせり出し、目玉が出る。
10 前方にせり出し続け、脚が抜ける。脚はふにゃふにゃで軟らかい。
11 背側に反り、腹部の先を殻に残して体全体を出し、逆さの体勢になる。
12 脚が硬くなるまで逆さの姿勢で待つ(15〜30分)。
13 腹筋をするように起き上がり、前脚で殻につかまって尻を抜く(この時、殻とつながる紐状のものを切り離しているようだ)。
14 前脚のみでぶら下がり、小さく縮まっている羽を伸ばす。この時の羽は白色で体から少し離れて開いているように見える。
15 羽が本来の位置にきて、色が変わる。まだ飛べないが、驚くと30cmほどは飛ぶ。小型のセミのほうが飛べるようになるのが早い。
16 翌朝、明るくなるころに飛び立つ。
指導について

白鳥 公子

 幼少期からセミの羽化を見ていたことと、2歳年上の兄のセミの生態観察を手伝っていたことから、自然な流れでこの研究が始まりました。特に幼虫が見せるさまざまな行動に興味を持ち、一個体一個体をつぶさに観察してその行動の意味を考えるようになりました。連日の実験に、学校生活や部活動との両立を困難に感じた時もありました。しかし興味は尽きることなく、毎年テーマとする行動を解明するための羽化台をデザインして計画通りに実験することで、一年一年、一歩ずつ羽化時に見せる行動の謎に迫っていきました。中学校生活の最後に6年間の成果をまとめることで、幼虫が木に登り始めてから羽化が完了するまでの詳細な行動特性を示すことができました。この研究は、羽化台の製作や夜間の幼虫採集など、本人だけではできない部分も多く、家族の協力の下で行われました。今回の受賞は、家族にとりましても喜びです。ありがとうございました。

審査評

[審査員] 友国 雅章

 セミの羽化は夏休みの自由研究にはピッタリのテーマで、このコンクールにも毎年多くの作品の応募がある。テーマ自体は平凡だが、白鳥さんはそれを6年間続けてきた。まずその粘り強さに脱帽する。また自然状態での羽化を観察するだけでなく、よく工夫された「羽化台」を自作して、地上に現れた多くの幼虫を自宅の実験室に持ち帰って羽化台に放ち、羽化時の行動特性をセミの種類ごとに綿密に観察した。セミの抜け殻が1カ所に多く集まっているのはよく見かける現象だが、彼女の実験でそれが偶然の結果ではなく、幼虫自身がすでにある抜け殻の近くを意図的に選んで羽化しているという興味深い習性が分かった。さらにこのとき、幼虫が抜け殻の模型にも似たような反応を示すことから、場所選びは仲間の匂いなどによる精度の高いものではなく、おそらく目視によるものだろうと判断した。これもなかなか面白い。研究の結果がしっかりした文章で書かれ、写真やグラフを上手に配置してまとめられており、説得力があって好感の持てる優れた研究である。彼女の今後に期待したい。

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