第60回入賞作品 小学校の部
文部科学大臣賞

カエデの種のすじを活かした扇風機の開発

文部科学大臣賞

石川県金沢市立西小学校 6年
岩上 花恋
  • 石川県金沢市立西小学校 6年
    岩上 花恋
  • 第60回入賞作品
    小学校の部
    文部科学大臣賞

    文部科学大臣賞

研究の動機

 これまで4年間、カエデの種について研究を続けてきた。カエデの種はプロペラのような形をしていて、よく見ると表面にすじ状の突起がついている。また、カエデの種は回転しながら落下し、風に乗って根を下ろすべき場所へと移動する。4年生の時の実験でカエデの種のすじは空気の流れを生み出し、回転を補助していることがわかった。そこで、カエデの種のすじを活かして扇風機の羽根を作れば、広範囲に風を届ける快適な扇風機になるではないかと考えて、開発することにした。
 カエデの種のすじに注目して扇風機を開発するので、羽根はカエデの種の形に似せ、すじがない羽根とすじがある羽根を比べる実験を行う。すじの有無で風が届く範囲や風速に違いがあるのか、風速機を使用して確かめる。また、すじの有無によって風の流れに違いがあるかを見るために、可視化実験も行う。今回の研究は、金沢大学の木綿隆弘先生のご協力をいただいた。

研究の方法

 この研究について、いくつかのルールを決めた。

1.
開発を目指す扇風機の定義を、広範囲に風が当たり、均一で安定した風速のものとする。
2.
エアコンを消した室内に扇風機を置き、下の図のように計測地点を設定する。扇風機の中心から左右それぞれに15cmずつ離れた地点を、右に離れた地点=+15cm、左に離れた地点=-15cmと表すことにした。扇風機の風速設定は「中」にする。
3.
予備実験から可視化実験までに使用した風速計は、金沢大学からお借りしたもので、10秒間の平均風速が正確にわかる。今回は1回のみ測定し、10秒間の平均風速を記録して比較する。



カエデの種はプロペラのように2つくっついているが落下する時に分かれる

4.
実験のために作成した羽根の材質は厚紙、すじは水引で付ける。羽根の形は過去4年間の研究で最もよく回転したカエデの種の形をコピーして使用した。すじの本数は過去の研究で最適だった20本から始める。表裏に20本ずつすじを付けた。羽根の枚数は3枚、120度の間隔で扇風機の中心軸にガムテープで貼り付ける。羽根の向きは、扇風機が回る方向が丸くなるようにする。

金沢大学での実験

予備実験

 まず、単純にすじの有無だけで風が変わるのかを確かめることにした。すじがない羽根と、すじがある羽根3枚を中心軸に取り付けて、それぞれ左下の各地点での風速を計測する。また、羽根の力だけを調べるために、羽根を付けずに中心軸だけを動かして各地点の風速を記録、羽根付きの風速から中心軸だけの風速を引いて、比較することにした。

予備実験の結果と考察

 すじのない羽根は中心・+15cm・-15cmともに、各地点での風速が不安定でばらつきがあった。すじがあるほうの羽根は中心と+15cm・-15cmで風速に差はあるが、+15cm・-15cmだけに着目すると、どちらも40cmまであまり風速が落ちなかった。つまり、すじがあるほうが風は広範囲に届いている。
 しかしすじがある羽根はない羽根より、中心地点の風速は距離が離れるにつれて落ちてしまう。これは、中心軸に羽根を取り付ける時に、角度をつけなかったためと考えられる。次は、風速が増す羽根の取り付け角度を探っていくことにした。

最適な羽根の取り付け角度を調べる

 取り付ける角度を決めるだけなので、すじの有無では比較せず、すじのない羽根を使って実験した。角度は30度、45度、60度の3つで比較することにする。それぞれの角度で折った紙を2枚組み合わせ、紙の間に羽根をはさんで取り付けた。風速を測定する位置は、予備実験と同じ。
 これまでの研究でカエデの種型のプロペラを作成し、プロペラの角度と揚力を調べたところ、45度が最も揚力が大きかった。その経験から45度が、最も風力を増すと予想した。

角度実験の結果と考察

 45度は風速がどこの地点でも、大きな値を示すことが多かった。45度は中心と+15cm・-15cmの記録にバラつきが少なかった。次に好成績だったのは30度。60度は最も風速が小さかったが、45度や30度と違い安定した風速を保っていた。
 予想どおり、45度の羽根が一番風速があり、一番風を広範囲に起こしているとわかった。後で調べてみると家の扇風機の羽根の角度も45度だった。羽根の形状が異なっても、扇風機にとって最適な取り付け角度は同じなのかもしれない。これからは45度の羽根を使っていく。

羽根の取り付け角度と風速の実験

最適なすじの本数を調べる

 これまでの研究では、竹トンボでもブーメランでも20本のすじを付けるのが最適だった。しかし、扇風機の羽根の場合、20本よりよい本数があるのではないかと考えた。そこで、羽根に付けるすじの本数を変えながら、扇風機にとって最適なすじの本数を調べる実験をしてみた。
 調べるすじの本数は、0本(すじなし)、5本、10本、20本とした。羽根の枚数は3枚で、取り付ける角度は45度、羽根に付けるすじは表裏それぞれに同数付けて、風速を測定する位置はこれまでと同じにした。


本数実験で使った0~20本のすじを付けた羽根

本数実験の結果と考察

 すじが少なく軽い5本の羽根で一番風速が増すのではと予想して、実験を始めた。すると、すじ20本は距離が離れると風速が落ち、+15cm・-15cmの結果にむらがある。すじ5本は均等に風を起こしているが、+15cm地点で20cmから40cmへ離れた時、急激に風速が約0.6落ちている。10本と0本(すじなし)は、どちらも風速を保っているが、0本(すじなし)は各地点に均等に風が届いていない。特に10cm地点での+15cmと-15cmの風速差が大きいという結果になった。10本のほうが全体的に風速の差が小さく、どの距離でも左右の差が少なく安定した風速だったが、10cm地点での中心部と+15cm・-15cmの風速に差があった。
 この結果から、すじの数は5本か10本がよさそうだと思える。どちらがよいのか比較をするために、表計算ソフトを使って風速分析をした。
 すると、5本は全体的に風速があるが、20cm地点での+15cmと-15cmの差が10本より大きかった。また、20cm地点で中心と+15cm・-15cmとの差が0.31もあることがわかった。10本のほうは、10cm地点での中心の風速が+15cm・-15cmに比べて遅かった。+15cmと-15cmとの差はあまりなく安定しているが、風速は5本より遅い。特に20cmを超えると風速が落ちていく。一長一短あって、5本と10本の間に2つのよいところを合わせた本数があるのかもしれない。
 すじが少ない5本や10本は広範囲に風を届けることがわかったが、なぜ20本にはよい結果が出なかったのだろう。例えば、段数が少ない階段と、段数が多い階段があるとする。そこに強い勢いで水が流れると、段数が少ない方は階段面に沿って水が流れるが、段数が多いと水は段を飛び越してしまう。扇風機の風は速いので、本数が多いと風はすじを飛び越えてしまい、少ないと面に沿いながら流れていくのではないか。
 プラスチックで段の多い階段と少ない階段を作り、水道水を流して実験してみた。すると、段数が少ないと階段に沿って水が流れ、段数が多いと水が飛び出してしまった。この現象が扇風機の羽根でも起こったといえる。


段の少ない階段と多い階段との水流実験

最適な羽根の枚数を調べる

 これまで羽根の枚数を3枚に設定してきた。しかし、市販の扇風機のほとんどが、4~5枚の羽根を付けている。そこで羽根の枚数を変えながら、どの枚数が適切なのかを調べる実験をした。羽根の枚数は3枚・4枚・5枚、風速を測る位置はこれまでと同じ、羽根の取り付け角度は45度、すじの本数は今回は10本にした。

枚数実験の結果と考察

 3~5枚の間、4枚が一番風を起こすのではないか。5枚だと重くなり、風速は落ちてしまうのではないかと予想して実験を行った。
 しかし、中心部・+15cm・-15cmのどの地点でも、圧倒的に羽根3枚が大きな値を出した。羽根が4枚、5枚と増えるにつれ、どんどん重くなるので、回転が遅くなったのではないかと考えた。羽根の枚数は、軽くて一番風速が大きい3枚に決めた。

風の流れを見る可視化実験

 続いて、すじがあることで風が広範囲に起きていることを確かめるため、可視化実験を行った。煙を出す機械とレーザーを使い、すじがない羽根とすじがある羽根では扇風機を回した時に煙の広がり方が違うのかを確かめる。羽根の枚数はすじがあるほうもないほうも3枚、羽根の取り付け角度は45度、あるほうの羽根のすじの本数は10本とした。

可視化実験の結果と考察

 扇風機を通常使う時のように横向きにして回すと、重力の影響を受けて煙が見えにくくなる。使用したレーザーは白に反射するもので、それも煙の流れを見えにくくさせていた。最終的に、扇風機を天井のほうに向けて回し、使用する羽根を黒く塗って実験した。
 すると、すじがない羽根で起こる風は左右の風速がバラバラで、中心に少しムラがあることがわかった。また、風もそんなに広がっていない。すじがある羽根はどこにもムラがなく、均一に風を出している。また、すじがない羽根よりも、風を広範囲に起こしていた。
 最適なすじの本数を調べる実験で、すじ10本の中心部の風速は弱いという結果になったが、可視化の様子を見ると左右中心ほぼ均一だとわかる。いままでの実験では風速を1回計測し、10秒間の平均値を記録することで結果を見てきたが、やはり複数回測定してその平均値を出したほうが正しい結果を得られたのかもしれない。
 ここまでの研究は、金沢大学でやらせていただいた。


すじがない羽根(左)と、すじがある羽根(右)との可視化実験結果、すじがないほうは中心軸のすぐ上の煙が薄く、ムラがあることがわかる

自宅での実験

最適なすじの本数を調べるパート2

 ここから先は自宅での研究実験となった。
 金沢大学で行ったすじの本数を調べる実験から、5~10本の間にもっと最適な本数があると考えて、金沢子ども科学財団から風速計(金沢大学で使用したものとは違うタイプ)を借りて実験することにした。風速を調べるすじの本数は5本、6本、7本、8本、9本、10本の6パターン。風の広がりを確かめるため、左右の測定範囲を右ページの図のように増やしてみた。金沢大学の風速機は0.00m/sの単位まで測定できたが、今回の風速機は0.0m/sまでしか測れない。60cm地点の値はすべて0m/sとなってしまうため、50cm地点で測定を行った。
 今回は複数回測定する必要性を感じたため、それぞれの地点で5回ずつ測り、平均を出すことにした。

本数を調べる実験パート2の結果と考察

 6本か7本が一番の安定値を出すと予想していた。
 結果、5本は風を広範囲に起こし、風速もあり、しかも安定した風速を保っている。6本は50cmまで離れると、風速0.0m/sの地点が多くなっている。また、-15cmよりも+15cmのほうが風速があった。7本は5本と同じように、風を広範囲に起こし、風速もあって、安定した風速を保っている。8本は50cmまで離れると、すべて0.0m/sになってしまい、風速はあまり速くない。9本も40cmまで離れると右側の風速が0.0m/sになり、風速は速くない。10本も40cmまで離れるとほぼ0.0m/sになり、風速は速くない。
 実験の結果、5本と7本のすじが入った羽根が優れていたので、パソコンを使って5本と7本の風速分布を作成して比較した。すると7本は40cmまで離れると風速が落ちているが、5本は40cm離れても均一に安定を保っている。5本は距離があっても安定した風速を保つことがわかったので、すじは5本にすることに決めた。

カエデの種型扇風機と普通の扇風機との比較

 最後に、ここまでの実験で完成したカエデの種型扇風機の羽根と、扇風機にもともと付いていた羽根を使って、その風力を比較する実験を行った。机の上の各地点にビニールひもを取り付けたわりばしを立てて扇風機を回し、それぞれの羽根の風力を比べた。扇風機にもともと付いていた羽根はプラスチック、作製したカエデの種型の羽根は厚紙なので、風力はもともとの羽根のほうがあると予想できる。ただ、風を起こす範囲は、すじの付いたカエデの種型のほうが広がるのではないかと考えた。
 実験は、その予想どおりの結果になった。

完成した扇風機

 ここまでの実験から、羽根に付けるすじの本数=5本、羽根の枚数=3枚、羽根を中心軸に取り付ける角度=45度というカエデの種型扇風機が完成した。特徴は、風を広範囲に起こし風速もあり、均一で安定した風を出すことだ。
 しかし扇風機が左回転のため、若干左のほうが風速がます傾向にある。左右ともに均一で安定した風速になるように改良したい。また今回、1回のみの測定で10秒間の平均風速値で判断してきたが、複数回測ったほうが結果に信頼性があったと反省した。今後はどんな実験も複数回測定することを忘れないようにしたい。

今後の課題

 カエデの種のすじは、落下し回転し始めるまで回転を補助する役割がある。扇風機に応用すると、羽根が回転しやすくなり、消費電力を抑えることができると思うので、省エネの観点からもさらに実験していきたい。
 今回作製したカエデの種型の扇風機は左の風速が高く出る傾向にあった。これは扇風機が左回りのためだと考えられる。扇風機を右回転にして確かめてみたい。
 普通の扇風機の羽根をモデル化し、カエデの種型の羽根と材質を同じにするなど、条件をそろえたうえでさらに詳しく比較したい。そうすることでカエデの種型の羽根のさらなる風力アップ、改良を進めていきたい。

指導について

金沢大学理工研究域機械工学系教授 木綿 隆弘

 素人は、速い風を遠くに送るのがよい扇風機だと思います。しかし、彼女の風を広げる扇風機を作りたいという逆転の発想に驚かされました。竹トンボやブーメランの翼に「すじ」を付けるとよく回転する結果に基づいて、「カエデの種型扇風機を作れば、風が広がる便利な扇風機!」と考えて、実験を始めました。「すじ」の本数や、翼の枚数・材質等の実験パラメータを自分で決めて、熱式風速計を手で移動させて速度分布を計測して、風が広がる・広がらない条件を示しました。レーザーシート光とフォグ(煙)により、扇風機から噴き出す流れのビデオ撮影に成功し、目で見えた方が直感的に流れの様子が理解でき、「カエデの種型扇風機」の風が広がることを証明しました。また、「すじ」を付けた翼を水中で移動させて観察して、羽根表面近くの流れ状態が変化することが原因である考察にも驚かされました。彼女の研究が認められ、素晴らしい賞をいただいたことに感謝します。

審査評

[審査員] 友国 雅章

 カエデのプロペラのような形をした種(正確には果実という)は、地上に落ちるとき空気抵抗によりくるくると回りながら遠くに運ばれます。岩上さんはこの風変わりな種に興味を持ち、4年間いろいろ研究をしてきました。そして、この羽根には「すじ」があって、落ちるときにそのすじが空気の流れを生み出していることに気がつきました。扇風機の羽根にすじをつけたら、より広範囲に安定した風を送れるのではないかというアイデアで始めたのがこの研究です。羽根の角度やすじの本数、羽根の枚数についていろいろ工夫しながら多くの実験を繰り返しました。その結果、すじが5本、羽根が3枚、取り付け角度が45度の扇風機が最も効率的だという結論を得ました。まずこのアイデアと実験に取り組む姿勢をほめたいと思います。丁寧でわかりやすいまとめ方や、今後に向けての反省についても評価できます。生物の構造や機能にヒントを得て、人の役に立つ物を作る研究をバイオミメティックスといいます。今世界中でその研究が行われており、いくつものアイデアが製品化されています。岩上さんの研究もまさにバイオミメティックスです。研究をさらに深めると将来の製品化につながるかもしれません。

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