研究の動機
夏休みの初めに家族と遊びに行った軽井沢で、アマガエルと出会った。両親は反対したが自由研究をしたいと言い張り、自宅へつれ帰ることができた。20匹以上のカエルの世話は大変だったが、観察していると、人工餌にチャレンジするカエルとそうでないカエル、ケースの天井の隅っこに行きたがるカエル、水風呂につかるのが好きなカエルなど、個体差があることに気づいた。
今回の研究ではカエルの個体差、特に慎重派と冒険派の性格の違いに注目した。高いところからジャンプして飛び出す前、カエルにはしばらくじっとしている時間がある。この時間を「カンガエルタイム」と名づけた。気温や気圧、湿度など周囲の環境情報を集めて、飛び出すかどうかを考えている時間だと思う。カエルがジャンプするまでの時間を個体ごとに数値化し、その性格を判定しようと考えた。
アマガエルの基本情報
わが家のカエルたち
ニホンアマガエルはアマガエル科アマガエル目の両生類で、日本では最も広範囲に分布している。田んぼや湿地、木の上に生息(樹上性)し、繁殖期は4~7月。オス22~39㎜、メス26~45㎜、子ガエル12㎜ほどで、鼻先から耳(鼓膜)まで延びる黒い帯状の模様がトレードマークだ。皮膚には毒がある。低気圧が近づくと、オスはノドの下にある鳴嚢をふくらませて「ゲッゲッゲッゲ」と大きな声で鳴く。
わが家のカエルのうち大人のオスは、体長40mm「大ボス」(大きめコオロギやピンセットでつかんだミルワームの死がいなど何でも食べるが、人工餌は食べない)、体長29mm「中ボス」(すぐに隠れたがる)、体長29mm「小ボス」(怖がりで水風呂につかっていることが多い)の3匹だ。大人のメスは体長30mm「松」(落ち着いている)、体長25mm「竹」(鳴嚢を少しふくらませたのでオスの可能性もある。すぐにケースから出ようとする)、体長33mm「梅」(あまり動かず、じっとしている)の3匹だ。子ガエルは「A」から順にアルファベットの名前をつけ、「K」まで11匹を実験で使った。実験中の小ガエルは個別のケースで飼育した。
鳴嚢をふくらませるわが家の「大ボス」
カエルの個体差を調べる実験
カエルの慎重さを調べる実験(屋内編)
実験名を「筒から出てきてジャンプ選手権」とした。
真っ白で大きな紙と、不透明なプラスチックの丸い筒を用意し、カエルを白い紙の上に置く。カエルの上からかぶせるように筒を立てる。筒は不透明なので、隠れていたければカエルはそのまま隠れることができる。筒の外へ出たければ筒の上端まで上って顔を出し、勇気を出してジャンプするだろう。筒をかぶせてから上端に顔を出すまでの時間と、上端からジャンプする時間を各カエルごとに計測した。筒から顔を出さない場合や、筒の上からジャンプしない場合はタイムアウトの時間を決めて、その時間が経過したところで失格とした。
最初は子ガエル6匹A~Fで、日時を変えて5回の選手権を行った。すると、必ずジャンプするカエルがいる一方で、毎回失格になるカエルがいることがわかった。結果を分析するため、筒をかぶせてスタートしてからジャンプするまでにかかったトータルの秒数で、子ガエルごとに平均タイムを出した。顔出ししない場合(5分で失格)やジャンプしない場合(6分で失格)もそれぞれ800秒、500秒と記録を与えて平均を出した。次に子ガエル5匹G~Kで、今度は同じ日に6回の選手権を行い、同じ方法で測定結果の平均タイムを出した。こうして集めた子ガエル11匹の平均タイムを比べると、すぐにジャンプする冒険派と、なかなか動かない慎重派とにはっきり分かれ、子ガエルにも性格の違いがあるとわかった。
最後に大ボス以外の大人ガエル5匹で、日を変えながら3回の選手権を行った。大ボスの不参加は大きすぎて筒へ入らなかったことが原因だ。同種の方法で平均タイムを出したところ、平均時間が241秒の竹と275秒の小ボスは冒険派、ともに700秒だった中ボスと松、800秒だった梅は慎重派と、やはり性格が分かれていた。
ジャンプする前の「カンガエルタイム」
子ガエルG~Kの「筒から出てきてジャンプ選手権」(分秒)
カエルの慎重さを調べる実験(屋外編)
実験名を「校庭の中で自由に動き回れ選手権」とした。
屋内実験で判定した冒険派と慎重派のカエルを1匹ずつ計2匹、水を入れたプラスチック容器(口径11.5cm、高さ15cm)に入れる。プラスチック容器を聖徳小学校の校庭中央に置き、それぞれのカエルが容器からジャンプするまでと、ジャンプしてから校庭端まで移動するまでの時間を計測した。計測はカエルから見えないように注意しながら行い、移動した場合は移動距離も測定した(僕の歩数)。冒険派のカエル4匹、慎重派のカエル4匹、どちらか判別していないカエル2匹で実験したのだが、そのうち8匹の結果が下の表だ。
大人ガエルと子ガエル8匹の「校庭の中で自由に動き回れ選手権」の結果
実験結果からの考察
屋外での実験では予想に反し、天気の違いでカエルの移動する距離はあまり変わらなかった。カエルはなぜ炎天下でも動けるだろうか。カエルは飼育ケースの中で水風呂につかる時、いつも水風呂にお尻だけをつけている。その姿勢で水を直接、体内に取り込んでいるのではないかと考えた。調べると、カエルは尿を膀胱にためて水筒代わりにしているという説があるようだ。
また、屋内実験で判定した性格は、屋外実験でもほぼそのまま表れた。例外もあったが、特に屋内実験をくり返して性格を判定した子ガエルは、屋外でも冒険派は冒険派、慎重派は慎重派だった。
[審査員] 田村 正弘
20匹以上のアマガエルを飼育していく中で、チャレンジ精神旺盛なカエルと、新しい場所やえさには興味を示さないカエルがいることで「個体差」について興味をもったのですね。その分類例として「慎重派」と「冒険派」としたところが、作者の感性と対象となる生物への愛着を感じます。どのような行動分析により類別するのかを注目したところ、筒の中を通って高いところに上り、そこからジャンプして飛び出すまでの時間を測定しました。躊躇しているかのように見える時間を「カンガエルタイム」とした点が、小学5年生らしいユニークな発想ですね。カエルが飛び出そうかどうかを本当に考えている時間だったのかについては判断が難しい点ですが、不思議と納得できます。結果として、慎重派と冒険派がほぼ同数いたことには驚きました。また、この結果と、屋外で自由に動き回れるかどうかの実験結果が一致している点も興味深かったです。大人顔負けの高度な知識や技能を駆使した研究が多数ある中で、小学生らしい目線でアマガエルの生態に迫ろうとした等身大の研究であることに好感をもちました。
松山 拓郎
毎年異なる生き物を題材に自由研究をしてきました。今年はアマガエルを対象にすると決め、当初は皮膚の色が変化する要因を探りたいと本人は意気込んでいたのですが、観察を続けていると、色の変化の仕方や、好みの居場所、エサの食べ方などに個体差があることに気付き、その中でも本人が興味を持ったのがジャンプする前のじっとしている時間でした。
ちょうどオリンピックが開催中だったこともあり、カエルが筒から飛び出すまでの時間をストップウォッチで計測することが楽しかったようで、繰り返し実験に取り組んでました。指導する側としては、データをまとめる際に、計測した記録をどのように点数化すればいいかをアドバイスしました。また予想と反する実験結果もありましたが、全てを記録し、自分なりに考察するように指導しました。審査員の先生方に研究内容を評価いただいたことに、心から感謝申し上げます。