第63回入賞作品 中学校の部
1等賞

キバネツノトンボの研究 3rd season -羽化について-

1等賞

茨城県小美玉市立小川南中学校 1年
茨城県小美玉市立小川南中学校 1年
内山 旬人
  • 茨城県小美玉市立小川南中学校 1年
    内山 旬人
  • 第63回入賞作品
    中学校の部
    1等賞

    1等賞

研究の動機

 キバネツノトンボは全国的には珍しい昆虫で、15都府県でレッドリスト(絶滅危惧種)に記載されている。小美玉市には場所によって豊かに生息し、入会している「小美玉生物の会」の調査会で毎年生存が確認され、観察されている。小学校5年になる春(2020年3月)、調査会の昆虫班メンバーを中心にキバネツノトンボの繭探しをする機会があった。その際、この昆虫の基礎的な生態や生活史がほとんど明らかになっていないことを知り、とても興味深く思った。生態がわからないなら自分で明らかにしてみようと考えて、この年からキバネツノトンボを研究対象にした。今回が3年目の研究になる。
 キバネツノトンボは、アミメカゲロウ目ウスバカゲロウ科ツノトンボ亜科の昆虫だ。トンボではなく、ウスバカゲロウ(アリジゴク)などの仲間。カゲロウ目とも別の昆虫で、不完全変態のトンボやカゲロウと違い、蛹を経て完全変態で成虫になる。体長22~25mmでメスのほうが大きめ。
 分布域は多くの文献で本州、九州とされているが、調べてみたところ九州には記録そのものが無いらしいことがわかった。茨城県でも生息地は局所的で、どこでも見られる昆虫ではない。絶滅が危惧される昆虫の生態を明らかにすることで、キバネツノトンボにとってどんな環境が必要か、考えていきたい。

2020〜2021年の研究成果

生息期間

 成虫が出現するのは4月下旬ごろで、6月下旬ごろまで生息する。オスの成虫が少し早めに出現、寿命はオスが1か月、メスが1か月半〜2か月ほどだ。

生活・活動

 春、成虫たちは、メリケンカルカヤが一面に立ち枯れた草原を好む。草地だけではだめで周囲に林、水場がある環境を求める。多数が盛んに飛び交うのは求愛期で、オスは低い高度で飛び、飛び立つメスを探索する。飛翔能力は高く、植物の細い茎などに横から摑まって留まる。飛ぶか摑むかの生活で、平面を歩くことはなさそうだ。明るい日中以外は飛ばず、活発な活動時間は短い。肉食で、飛んでいる他の小虫を空中で捕らえ、飛びながら食べる。獲物を脚で持ち、回して丸める様子が見られる。

交尾と産卵

 ペア成立は必ず空中でオスがメスに飛びかかって合体し、ともに地上の草などに下りて摑まり静止する。静止時間は3〜5分ほど。オスが姿を消すのとほぼ同時期にメスの産卵が始まる。立ち枯れた細い草の、人間のひざから80cmくらいの高さに、卵を塊で産むことが多い。1mmほどの俵形の卵を50〜70個、2列に産みつけていく。

孵化と初齢幼虫

 産卵から孵化までは2〜4週間、温度の高い環境ほど孵化が早まる。卵は孵化が近づくと黒っぽくなり、孵化の1〜2日前には凹みができる。孵化するのは基本的に日中、2列の卵塊の外側へ蓋が開くように卵殻が切れ、幼虫が出てくる。殻から出た幼虫たちは茎の上へと移動し、地面のほうを向いて密集する。そこから孵化後1〜3日の間に、生活の場である地面へ落ちる。体の準備が整うと、軽い刺激で少しでも遠くへ散らばるように落ちていく。

羽化発見への挑戦

 地面に散らばった幼虫たちがどこで育ち、蛹化、羽化して成虫になるのか、解明することは研究当初からの大きな目標だった。しかし初年度は幼虫や繭、羽化のシーンを一度も見つけられなかった。近縁種オオツノトンボの幼虫の目撃例から、幼虫は隣接する林へ移動して、落ち葉や枝が堆積した層で育つのではないかと考えた。
 2年目は林縁を中心に個体を探したが、やはり羽化するところを見ることはなかった。ただこの年の成虫活動シーズンの後、キバネツノトンボの羽化を見た方々から、羽化は午前8〜9時、草原の中心に生える草本の低い位置で見つかりやすい、と情報をいただいた。
 3年目はこの情報をもとに、2022年の4月下旬〜5月上旬まで羽化中の個体を見つけることに挑戦した。キバネツノトンボがウスバカゲロウと似た生態を持つとすると、羽化中や羽化直後の個体を発見できれば、そのすぐ近くに出てきたばかりの繭を見つけることができるかもしれない。機会があれば探してみたいと思った。

発見時の状況

羽化の途中、羽化直後の個体の発見

 情報をもとに探した結果、まだ翅を伸ばす前の個体を計3匹、発見することができた。状況は以下のとおりだ。

1匹目♂ 4月24日7時42分 晴れ 気温19〜20℃

天候
風はあったが気温や湿度は高く暖かい朝。昼前から雲が出て昼にはくもり、15時ごろから雨。

状況
6時30分ごろから探し始め、ようやく見つけたのがこの個体。すぐ近くで伸び切ったばかりの真っ白な翅の個体も発見した。2個体はほぼ同じ時間に羽化したと思われる。8時ごろがこの日の羽化の標準時だったと考えられる。

2匹目♂ 4月29日10時24分 くもり 気温16〜17℃

天候
朝からくもりで正午に近づくほど暗くなった。肌寒い。昼過ぎから雨がパラパラ降り始め、14時ごろから本降りになった。

状況
8時前から探し始めたが、飛んでいる個体は1匹しか見かけなかった。あきらめかけたころ、羽化したばかりのメスを発見。直後にそのすぐ近くで羽を伸ばす前のオスを見つけた。この2匹も同じ時間帯に羽化したようだ。さらに1m以内に羽化1日以内だと思われる羽化不全個体(飛べずにその場に留まっている個体)もいた。

3匹目♀ 5月1日10時09分 くもり 気温15〜16℃

天候
朝から重たい雲に覆われ昼には霧雨、15時過ぎから本降りの雨

状況
10時前から探索開始。4月29日に発見した羽化不全個体の様子を見に行った。するとそこで真っ白な翅の羽化したばかりのメスを見つけた。直後にそのすぐ近くで、まだ翅を伸ばす前のメスを発見した。その後、少し離れた場所でもう1匹オスの羽化不全個体を発見、午後には草の株元で2齢幼虫まで発見、この近くの地面では、かなりの密度で幼虫たちが生活していたと思われた。

 羽化直後の個体は、この他にも数多く発見した。
 翅を伸ばす前だった2匹目と3匹目の羽化を観察したところ、場所を決め定位した状態をスタートとし、翅や触覚を完全に伸ばし切るまで、2匹とも24分ほどだった。さらに上体を起こし翅を返して畳むまでそれぞれ45分、32分ほど。翅が色づき固まって飛べるようになるまでは、2匹とも1〜2時間かかっているように見えた。

羽化するキバネツボトンボ

羽化殻、繭殻(蛹から成虫への脱皮殻)の発見

 4月24日〜5月4日に10個の羽化殻と、10個の繭殻も発見した。羽化シーズンが終わった6月10日、繭殻のひとつを切り開いて、内側の内容物を実体顕微鏡で観察した。内部は絹のような糸で綴られた滑らかな壁で覆われ、脱皮殻が1体だけ入っていた。脱皮殻には大あごや集眼の特徴をはっきりと残していた。

研究の考察

 観察した羽化の時間帯は晴れた日で午前8時前後、くもりの日で午前10時前後だった。成虫のおもな移動手段が飛ぶことで、明るい日中が活動時間というこの虫にとって、晴れた日の午前7時30分〜8時30分に羽化し、明るいうちに飛べるようになるのが、最適な条件なのではないか。蛹化や羽化に適した場所は、草原の真ん中で開けて日当たりのよい場所だと思う。今シーズンは羽化不全個体を数多く見たが、背の低い不安定な草で定位し、翅や触覚が草や地面に触れたことが原因のようだ。細く硬さのあるメリケンカルカヤの立ち枯れの草原は、交尾や産卵だけでなく、羽化にも最適な環境なのだろう。
 羽化殻や繭殻の観察からわかったのは、羽化の際、蛹から成虫となるための脱皮が繭の中ではなく、外で行われていること。繭を作る昆虫の多くは、繭の中で幼虫から蛹に、蛹から成虫に脱皮して外へ出る。繭殻の中に幼虫の脱皮殻しかなく、羽化殻が脱出口に刺さったり、外に散らばったりしているキバネツノトンボは、蛹のまま繭に穴を開け(羽化前の動ける蛹をファレート成虫という)、体が外へ出てから脱皮していると推察できた。

指導について

内山 えりか

 今季は、昨年度レポートの中で今後の課題の筆頭に上げた、自然の中での羽化シーンの発見が、3年目にして叶いました。素朴な「観察」がベースであることに変わりはないですが、これまでの研究活動の中で見てきたこと、考えてきたこと、教わってきたこと、経験のすべてが組み合わさって前進してきたその先にて、ようやく辿りつけたものです。
 彼は、この昆虫の観察では、(質はともかく、数や時間といった)量ならきっと誰にも負けないと思います。今では、飛んでいる様子を見るだけで、オスかメスか、何をしているところか、羽化からどのくらいか、など、概ねわかるようです。間違いや失敗も含めた経験が、何ひとつ無駄にならず、新しい発見に繋がってきているのだろうと思っています。
 この昆虫の羽化に関する詳細なレポートは、おそらく国内初かと思います。ワクワクする様々なシーンに立ち会わせてもらってきていることに、とても感謝しています。

審査評

[審査員] 友国 雅章

 2020年、内山君が小学5年生の時に始めたキバネツノトンボの研究で、成虫の出現期、好適な生息環境、飛翔力と活発な時間帯、捕食行動、交尾行動、メスの産卵習性、幼虫の孵化とその後の行動など多くの観察例を積み重ねてきた。しかし、その生活史をすべて明らかにする上で重要な羽化の様子は観察できていない。そこで3年目の今シーズンは「羽化」にテーマを絞って観察したのがこの研究である。過去の経験から羽化の時期や場所を推測して探した結果3例の羽化とその後翅が伸びきるまでの行動の観察に成功し、更にその周辺で羽化殻や繭も発見した。今シーズンも様々な新発見があり、キバネツノトンボ生活史の全容解明にまた一歩前進できた。
 キバネツノトンボは全国的に見ても生息地が非常に限られており、どこにでもいる昆虫ではない。そのため、その生態については未解明な事柄が多く残されている。内山君の住む小美玉市には本種の生息地が点在し、個体数も比較的多い。そのような地の利を十分に生かして本種の全生活史の解明に迫りつつある。この論文の内容を高く評価するとともに、今後の更なる発展に期待したい。

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