レタスを買いに行った時、茎の赤いものと白いものがあるのに気付いた。どうしてなのかと不思議に思い、調べてみることにした。
① | 茎の赤くなる原因を探る。 |
② | 赤くなることによって、どんな働きがあるかを調べる。 |
③ | 赤くならないようにすることができるのか調べる。 |
《実験1》白い茎と赤い茎の切り口を調べる。
<方法>
①茎の切り口の様子を毎日観察する。②茎を切って、切り口の様子を観察する。
<予想>
①赤い茎の切り口は、金太郎あめみたいに、切っても切っても赤いままだ。②白い茎の切り口はいつまでも真っ白だ。
<結果>
①白い茎は、3日目からうっすらと赤くなり、5日目には赤味が強まった。6,7日目はさらに赤さが増した。②赤い茎は、3日目に少し赤味が強まった。5日目は、3日目とほとんど変わらなかった。③切り口は赤、白ともに白い。
<考察>
①茎の色の違いは、種類が違うレタスなのではなく、レタス自身の変色だ。②茎の赤いレタスは、収穫で切り取ってから日数がたったもので、白いものは新鮮なものだ。
<気付いたこと>
茎を切った時、切り口から白い液が出てきていた。何か秘密があるのではないか。
《実験2》実験1で出てきた「白い液」を調べる。
(1)酸やアルカリの液で「白い液」の色は変わるか。
<方法>
塩酸や酢酸の酸性の液、水酸化ナトリウムや石灰水のアルカリ性の液を「白い液」に入れる。
<予想>
紫キャベツから抽出した液は、酸やアルカリの液で色が変わるので、同じように「白い液」も赤くなったりするのではないか。
<結果>
「白い液」はpH7、味はにがい。酸やアルカリで変色しなかった。
(2)糖で色が変わるか。
<方法>
水100gに砂糖10gを入れ、10%砂糖水を作る。これを集めた「白い液」に入れる。
<予想>
花のスイフヨウは糖で色が変わるし、昨年の研究で分かったことだが、光合成でできたデンプンは茎を移動する時に糖になる。このことから、レタスの「白い液」も糖により赤く変わるのではないか。
<結果>
色は変わらなかった。
《実験3》レタスの茎が赤くなるのは、レタスの体液自体が変色しているのかもと考え、茎をすりつぶし、その抽出液を調べる。
〈方法〉
茎を乳鉢ですりつぶし、ろ過した汁に酸性の液やアルカリ性の液、10%砂糖水(pH6)を入れる。
〈予想〉
抽出液は赤色で、酸性の液でさらに濃い赤になり、アルカリの液では青色、砂糖水は弱酸性~中性なので紫色になるだろう。
〈結果〉
変わらなかった。
〈考察〉
茎の変色は切り口だけのようだ。リンゴのように、切り口が空気にふれると色が変わるのかもしれない。
《実験4》空気で色が変わるのか。
〈方法〉
試験管に茎の切れ端を入れ、酸素、二酸化炭素、窒素ガスを入れる。
〈予想〉
酸素と二酸化炭素は植物の生長に必要なので、茎の切り口の色は変わる。窒素では変わらない。
〈結果〉
二酸化炭素と窒素では変わらなかった。酸素では、1時間後にうっすらと赤くなり、3時間後にはさらに赤味が強まった。茎が赤くなるのは酸素が原因だ。
《実験5》茎の切り口が酸素で色が変わるなら、レタスの抽出液も酸素で変色するのではないか。
〈方法〉
実験3と同様にレタスの抽出液、比較のためにリンゴ汁(抽出液)も用意し、酸素を入れる。
〈予想〉
レタスの抽出液も赤くなる。リンゴも切って置いておくと褐色になるので、酸素を入れると褐色になるだろう。
〈結果〉
リンゴ汁はすぐに褐色になった。レタスの抽出液は1日たっても変わらなかった。
〈考察〉
レタスの茎が赤くなるのは、リンゴの変色とは違う。単に「酸素に触れるから」だけではないようだ。
《実験6》レタスの茎とリンゴの変色部分を顕微鏡で観察する。
〈結果〉
レタスの茎の細胞1つ1つが赤いのではなく、細胞から「赤い液」が染み出て、細胞と細胞のすき間が赤くなっている。リンゴは細胞全体が褐色だ。
《実験7》レタスの茎の細胞が「赤い液」を出す働きをしていることを確かめる。
〈方法〉
レタスの茎とリンゴを、それぞれ水の入ったビーカーに入れて15分間沸騰させ、取り出してから、時間の経過とともに色の変化を見る。
〈予想〉
レタスもリンゴも加熱され、細胞がこわれて死んでしまうので、何の色の変化もないだろう。
〈結果〉
レタスの茎の切り口は、30分後に葉緑素が抜けて緑色が退色。3日目あたりから、維管束 より内側の部分がくぼんだ。観察した5日目まで、赤く変色はしなかった。リンゴは10分後には褐色になり、20分後にはさらに褐色が増した。6時間後、りんかく部分が透明になった。
〈考察〉
レタスは細胞が死んでしまうと、「赤い液」は出さなくなる。細胞が酸素にふれることで「赤い液」を出し、茎を赤くするのだ。
【研究2】赤くなることによって、どんな働きがあるのか調べる。
《実験8》赤くなったレタスの切り口を顕微鏡で観察する。
〈方法〉
茎および維管束部分を縦切り、輪切りにする。
〈結果〉
「赤い液」は切り口から数mmのところで固まり、切り口にフタをするようになっていた。細胞から染み出た「赤い液」は維管束に流れているので、維管束は赤くなっていた。
《実験9》茎の赤いレタス、白いレタスが水を吸い上げるか調べる。
〈方法〉
茎を染色液(食紅の青)に浸す。時間の経過とともに観察し、切り口を顕微鏡で観察する。
〈予想〉
茎の白い方が新鮮なのですぐ吸い上げる。赤い方は吸い上げるのに時間がかかる。
〈結果〉
茎の白い方は4日後、維管束や葉の葉脈が青く染まっている。赤い方は4日後、維管束も葉も染まっていない。
〈考察〉
レタスの「赤い液」は塗料のように固まり、切り口や維管束をふさいでいる。そのため、茎の赤いレタスは、染色液を吸い上げない。「赤い液」は、人間でいうと、けがをした時の「かさぶた」と同じようなものだ。
《実験10》茎の赤いレタス、白いレタスではカビの発生に違いがあるか調べる。
〈方法〉
シャーレの寒天培地に、切り取った茎を置き、様子を毎日観察する。
〈予想〉
赤い茎は、白い茎より新鮮ではないので、すぐにカビが生えてくると思う。
〈結果〉
赤い茎:5日目まで何も生えなかった。6、7日目にほんの少し変化が見られた。9日目には茎の中心の赤くないところに、カビが生えてきた。白い茎:2日目でカビが周りにたくさん生え、5日目には茎全体にも生えてきた。7日目には種類の違う白カビ、9日目には青カビも現れ、寒天培地を埋めつくほどだ。茎も腐ってトロトロになった。
〈考察〉
赤い茎の周りにはカビがあまり生えないことから、「赤い液」にはカビを防ぐ働きがある。
《実験11》茎の切り口のpHの変化を調べる。
〈方法〉
白い茎の切り口に万能試験紙を当てて毎日調べる。
〈予想〉
白い茎は、実験1により、日がたつごとに赤くなる。赤くなった茎は、実験10により、カビの発生を抑えたことから、酸性なのではないか。茎を切り取った時に出てきた「白い液」はpH7の中性だったから、色が赤くなるにつれて酸性に変わるのではないか。
〈結果〉
茎を切ってすぐはpH8(アルカリ性)、3日後はpH4(酸性)、5日後はpH2(強酸性)へと、切り口が赤くなるにつれて強酸性へ変化した。
〈考察〉
「赤い液」は強い酸性だ。このためにカビが生えるのを防ぎ、レタスを守る働きを持つ。
【研究3】赤くならないようにすることができるのか調べる。
《実験12》赤くなった茎の切り口をレモン汁につけながら、様子を観察する。
〈予想〉
レモン汁は強い酸性なので、切り口はさらに赤味が増すのではないか。
〈結果〉
時間の経過とともに、切り口の赤味が薄くなり、12時間後にはほとんどなくなった。
〈考察〉
①赤い色が薄くなったのは、レモンの抗酸化作用によるもので、レタスの赤い部分から酸素が奪われたためだ。実験4により、レタスの白い茎は酸素で赤くなる。このことから、レタスの「赤い液」反応は、酸素が加わることによる白から赤への一方向の反応ではなく、酸素が奪われることで赤から白へと変わる、両方向の反応だ。②レモン汁につけて12時間後から、茎の切り口の外側がしわになり縮んだ。これはレモン汁の濃度がレタスの細胞内の濃度よりも濃いため、レタスの細胞の水を奪ってしまったからだ。浸すのは1時間くらいがちょうど良いようだ。
《実験13》赤くなるのを防ぐには。
〈方法〉
①白い茎の切り口を5%濃度の食塩水に1時間つける。②酢に1時間つける。③レモン汁に1時間ひたす。④食用油をぬる。⑤キッチンペーパーを水で湿らせておおい、乾かないようにラップをする。それぞれの場合について、切り口の様子を経過観察する。
〈予想〉
酢、レモン汁には抗酸化作用があるので、赤くはならない。食塩水は酸化色素の働きを抑えるので、赤くはならない。食用油をぬることで切り口に膜ができるので、空気とふれず赤くはならない。キッチンペーパーを濡らすことで、切り口は畑にいるようなみずみずしさを保てるので、赤くはならない。
〈結果と考察〉
① | 食塩水:レタスは0.85%の食塩水と同じ浸透圧だ。それ以下の食塩水や水道水などにつけた場合は、細胞膜の半透性によって細胞膜の外の水分が細胞内に入り込む。そのため細胞全体が張った状態になる。実験で用いた食塩水は濃度5%と濃いので、レタスの細胞から水分を奪ってしまった。そのためレタスがどんどん縮み、細胞も活動ができずに「赤い液」を出せなかったのだ。 |
② | 酢:赤くはならなかったが、切り口が縮んだ。酢にはレタスの細胞から水分を追い出す働きがある。そのためレタスの細胞は死んでしまったのだ。酢は強酸性で、食塩水よりも強すぎたのか、縮み方も大きく、葉も脱水された。 |
③ | レモン汁:1日目までは色が変わらなかったが、2日目から赤味をおびてきた。食塩水や酢の場合と違って脱水されず、細胞自体に変化がなかったために、日がたつにつれてレモン汁の効果がなくなり、赤味をおびたのだ。 |
それでは、レモン汁に毎日ひたしたらどうなるか。追加実験を行った
《追加実験》白い茎の切り口を毎日1時間、レモン汁にひたし経過観察する。
〈結果と考察〉
5日目まで切り口はとてもきれいで真っ白だ。1日目から維管束のところが盛り上がり、その後しわになって、脱水気味になった。レモン汁はレタスの細胞の水分よりも濃度が濃く、毎日つけていたことで、レタスは細胞から水分を奪われ、縮んでしまった。そのため「赤い液」が出なかった。レモン汁につける濃度や時間で、細胞の働きも変わってしまうのだ。
④ | 食用油:油をぬったことで切り口をおおい、空気にふれない状態にしたと思ったが、実際は油は酸化されやすく、逆に、切り口が酸素とふれやすい状態にしてしまった。そのため切り口は赤くなった。 |
⑤ | キッチンペーパー:いつも湿らせておいたので、レタスの茎の切り口は乾かず、湿ったままだった。そのためレタスの細胞は酸素とふれやすく、「切り口を『赤い液』でフタをしなければ」と細胞に命令を出し続けたので、いつまでも「赤い液」が出てきていた。それでは、切り口が乾いている状態ではどうだろう。追加実験を行った。 |
《追加実験》ドライヤーの温風を、切り口に1時間当てて乾かす。
〈予想〉
茎の切り口は水分を失うので表面がいくらか縮み、赤くはならない。
〈結果と考察〉
表面の細胞から水分が奪われて細胞に変化が起こり、切り口は「赤い液」でふさがれた時と同じような状態になった。そのため「赤い液」を出せなかったのだ。
<まとめ>
① | 切り口が湿っている時は「赤い液」が出てくる。 |
② | 細胞から水分が奪われすぎると、細胞が縮み、レタスもしわになって全体が脱水状態になる。そのため細胞も働きを失い、「赤い液」は出てこない。 |
③ | 表面が乾いているとフタをした状態となるので、あまり「赤い液」を出さない。 ⇒レモン汁や食塩水につける時は、レタス細胞の水分の濃さに近い濃度のものにひたし、時間もあまり長くつけない方がいい。その後は切り口の表面を湿らせておかず、水分を取るのがいい。 |
感想と今後の課題
レタスの茎が赤くなる原因は、細胞が酸素にふれることで「赤い液」を出すからだ。その「赤い液」は、ちょうど人の血液と同じように傷口にふたをし、カビなどから身を守る働きをしていることが分かり勉強になった。また、身近な植物がこんな面白いシステムで体を守っていたことに驚いた。これからも身の回りの植物の不思議な働きを調べていきたい。
審査評[審査員] 金子明石
諒太君、最高の賞を受賞されて、おめでとう。君のきめこまやかな実験観察の進め方とていねいなスケッチ、わかりやすい図表、何よりもその写真、スケッチの量の多さに感服しました。
スーパーで売られているレタスの茎の切り口に赤いものと白いものがあり、それを気にして始めた研究が植物の防御システムの一端にまで押し進めたことが高く評価されました。
予想して検証する科学的なアプローチは、的確に問題をしぼり出し、次々とステップジャンプしていきましたね。途中まとめを入れながら検討し、最後にもう一度全体を通して得られた知見を列記し ていることで誰が読んでもよく理解できるようになっています。顕微鏡をうまく利用して単なる観察でも済むところを組織や細胞レベルまでの状態を明らかにしていることや切り口の色の変化と共にpH が変化していくことをとらえています。5年生とは思えないほどの気配りです。今後も期待してます。
指導についてつくば市立桜南小学校 湯本晴美
毎年、さつまいも、ネギ、ホウセンカと、身近なものをテーマにして自由研究に取り組んできた丸山諒太さん。そして、今回もまた、レタスの茎が赤いものと白いものがあることに気づき、なぜ赤くな るのか不思議に思ったことから、この研究が始まりました。
その原因と働きを探るために、疑問点から仮説を立て検証していくと、また新たな疑問点が生まれる……の繰り返しでした。その結果、レタスの細胞が酸素に触れることで赤い液を出すことが分かり、その赤い液は、レタスの切り口をふさいだり、カビの発生を防いだりする働きがあることが分かりました。
こうしたレタスの自己防衛システムを解明できたのは、実物を詳細にスケッチし、数多くの地道な実験の成果だと思います。来年は、キュウリをテーマに研究したいと、新たな不思議を見つけたようで す。こうした追究心を大事に支援していきたいと思います。