昨年の夏休みに「The独楽~“直観でバランスを取ること”について科学的な根拠を探求し、任意平面図形を回すための一考察~」に取り組んだ。コマの軸を作図で求める方法を推論し(「Ka」理論)、作図の原理を使って軸決定装置を考案したりした。そしてこれを中学2年までの数学で証明した。今年は平面を立体に拡張してみたいと思い、調べるうちに、偶然にも数学の定理を独力で発見してしまった。この定理を、三平方の定理ならぬ「四平方の定理」と名付けた。
(1)発見に至るまで
立体の基本図形として、立方体の一部を切り取ってできる合同な3枚の直角三角形と1枚の正三角形からなる三角錐を考えた。頂点Oを通るコマの軸は、底面△ABCに垂直になる。直方体から切り取った三角錐では、頂点から底面への垂線が軸にはならない。「Ka」理論から△ABCの重心が重要で、△ABCの面積について考える必要が生じた。
(2)OA、OB、OCの長さが与えられたとき、△ABCの面積を求める。
①OA、OB、OCを与える。
②三平方の定理から
(3)四平方の定理に向けて
(4)新発見「河合の定理」
《証明》
三角錐△ABCの△OAB、△OAC、△OBCは直角三角形。OA=a、OB=b、OC=cと表す。 三平方の定理により△ABCの各辺が計算できるので、AB=k、BC=l、CA=mとすると、次の式が成り立つ。
(証明終わり)
(5)四平方定理の意義について
三平方の定理は、3辺に接する3枚の正方形の面積についての美しい関係だ。辺の2乗は正方形の面積を表すから、定理を図形的に解釈したり、式の意味を味わうことができる。ところが「四平方の定理」では「三角形の面積の2乗」の意味がまったく不明だ。図形的に何を意味するのか。四平方の定理もとても美しい優美な定理だが、先行研究を調べても、すでに発見されていることは確認できなかった。数学者にとって取るに足りない程度の定理なのだろうか。
おわりに
新定理の発見とその証明の成功を体験した。自然科学を創造することがこんなに面白いものだったとは。数学や理科を学ぶ目標が見えてきた夏の体験だ。
審査評[審査員] 金子明石
優輝君、2等賞受賞おめでとう。ものすごい数の中から選ばれたのだからこれからも数学的頭脳を生かして優れた研究をして下さい。
祖父がドングリにツマヨウジをさして感覚的にバランスをとる名人だったということで優輝君も小さい時からコマに興味を持たれたようですね。バランスよく長くまわすには軸の位置をどう決めるかが重要なことは誰でも気づくことですが、具体的にどう決めていくかの方法が問題なのです。
優輝君は前回任意平面図形をまわす研究をして発表しました。今回はこれを発展させて立体をコマにする軸決定の研究に取り組みました。当初こまかに計算を繰り返していたが手間がかかるため規則性を見つけた後で父にヘロンの公式とよばれるものだと聞き、さらに頑張って、本人いわく四平方の定理(河合の定理)を発見するに至り、コマよりもこっちの方に重点を置いた研究として発表しました。優輝君の根気強さと数学的頭脳に驚嘆しました。
指導について鈴鹿市立神戸中学校 川北 学
彼の口癖は「研究にはオリジナリティーが必要」である。彼には誰もしたことがないことを究明したいという強いこだわりがある。
昨年の研究を発展させ、立体コマに挑戦するうち、直方体を切り取ってできる三角錐の切り口の面積を計算する難問に直面した。膨大な手計算、パソコンによる数値解析を経て、当初の研究目的(立体コマの解明)とは離れたが、数学の定理を発見し、証明に成功した。
一つのテーマを追い続けていくうちに、よい課題が見つかったこと、また問題が偶然にも美しい結果をもつ良問で、その上、解決できたことは幸運であった。
中学生に数学の新定理が発見できるとは、にわかに信じがたく、彼の研究を何度も点検するとともに、先行研究を検索したが、どうやら新発見らしい。新発見かどうかも大切だが、彼が具体的な事象から問題を見つけ、自力で証明に成功した事実に、科学へのひたむきな姿を感じ、敬意を表している。