研究のきっかけ
3歳の時から6年間、カブトムシを飼育して観察している。カブトムシは幼虫期に、大量のフンをする。最初のころはフンを小分けにするなど工夫して、家庭用ゴミに出していた。でもフンばかり出すのも心苦しく、両親はフンの処理に悩まされていた。そんな両親の悩みを解決したいと思い、フンを何かの役に立てられないかと、研究や実験を始めた。今回は4年目の研究になった。
これまでの研究
1年目の研究の目標は「カブちゃんのためになるもの」で、カブトムシの幼虫のフンを食べてくれる生き物を飼育した。2年目の目標は「ぼくのためになるもの」で、カブトムシの幼虫のフンで「炭」や「着火剤」などを作ってみた。3年目の目標は「人のためになるもの」で、「線香」や「うっそば」(フンを練り込んだうどん)を作った。フンの無菌化に成功して、食品化に一歩前進した。
カブトムシの幼虫のフン研究を始めてから、フンを土に混ぜて、家庭菜園の野菜や果物(全25種類)を育てるためにも使ってきた。収穫した野菜を食べるだけでなく、カブトムシの幼虫のフンそのものはどんな味がするのか、食べてみたいという気持ちが研究の最初からずっとあった。3年目の研究ではフンを無菌化し、フンを食べることに成功した。
4年目の実験
実験1
カブトムシの幼虫には以前、高野豆腐や納豆を食べさせたことがあった。家庭菜園で育った野菜をパウダー状にして、いつも使っているマット(土)に混ぜて食べさせたらどうなるか、調べたいと思った。フンは野菜と同じ色になるのか、においはするのか。フンに風味があれば食品化により役立つかもしれない。
混ぜる野菜パウダーには、ニンジン(赤)とコマツナ(緑)を選んだ。2022年8月から2023年5月まで、幼虫2匹ずつに3回、同じ分量を混ぜて実験した。
実験1の結果、コマツナパウダーを食べたカブトムシの幼虫のフンはいつものフンと同じで、色はつかないことが分かった。ニンジンパウダーを食べた幼虫のフンには、少しだけニンジンの皮が混じっていた。フンにニンジンの赤い色はつかなかったが、消化されなかったものはフンに残ることが分かった。
実験2
これまでの実験で、カブトムシの幼虫のフンを煮たり蒸したり焼いたりしたが、オーブンで焼くと焼きいものような甘くておいしそうなにおいがする。家庭菜園ではニンニクやショウガも作っているため、ニンニクとショウガのパウダーを実験1と同じように混ぜ、においが残るか確かめることにした。
実験2の結果、ショウガパウダーを食べたカブトムシの幼虫のフンは、少しショウガのにおいがした。ニンニクパウダーのほうは強烈なニンニクのにおいが残り、目をつむっていたらニンニクと間違うほどだった。フンの見た目はいつものフンと変わらなかった。
実験3
幼虫に高野豆腐や納豆を食べさせたのは、成長の違いを観察するためだった。その時も乾燥させたパウダーをマットに混ぜたが、カブトムシの幼虫は乾燥させたものなら何でも食べるのだろうか。嫌いで食べないものがあるのかもしれない。ニンニクをマットに混ぜた時、慣れるまでいったんマットに潜ってもすぐ出てくる様子が確認できた。幼虫の好き嫌いを知れたら面白いと思った。
ニンニクやショウガを食べられるなら、塩からいものはどうだろうと思い、今度はマットに砂糖と塩をそれぞれ混ぜてみた。2023年6月の5日間、70gの砂糖と塩を用意し、同じ70gのマットとそれぞれ混ぜて実験した。
実験3の結果、塩マットの幼虫は容器を変えても場所を変えてもすぐにマットから脱走し、塩を好まないことが分かった。フンの大きさも小さいのがはっきりし、幼虫は塩マットを拒否しているように見えた。
砂糖マットのカブトムシの幼虫はいつもと変わらずマットを食べ、フンの大きさや全体量を見ても塩マットの幼虫よりたくさん食べていた。幼虫は砂糖を好むことが分かった。
実験4
砂糖マットを食べたカブトムシの幼虫のフンを糖度計で測り、その糖度を調べた。通常のフンの糖度も測って比較した結果、通常のフンの糖度はゼロだったが、砂糖マットの幼虫のフンは少しだけ糖度があることがわかった。
4年間の研究の成果
2023年に飼育中のカブトムシは初代から数えて8世で、オスが16匹、メスは15匹だ。今回初めて、それぞれのフンの個数を数えてみると、オスが9万4176個、メスが6万3590 個で、オスのほうがフンの量が多いことが分かった。
この研究を始めたころは「フンなんて食べられると思ってんの」「変な家族やな」などと言われ、最近では「SDGsや昆虫食に乗っかってるんやろ」と言われることもある。もともと「カブトムシや人のために役立てたい」と始めた研究なので落ち込んだこともあったが、あきらめずに続け、いまではたくさんの人から協力してもらえるようになった。試食アンケートに答えてくれる人は前回より増え、250人を超えた。
これまで、フンから作ろうと思って失敗したものには「虫除け」「濾過装置」「花火」「着火剤」がある。
大成功はしなかったが、作る過程から学ぶべきことがあったものに「炭」「炭のコンロ」「フン入り昆虫ゼリー」「フンのあげドーナツ」がある。
学んで成功したのは「フン茶」「素揚げ」「線香」「うっそば・うどん」だ。プロに協力していただいて、もち米にフンを混ぜ、「うんめいあられ」というせんべいの開発にも成功した。
その結果、2020年度産のフンをゴミに出した回数はゼロ、すべてを研究や実験、役立つものに使い切った。
新しい一歩
フンから作った「炭」からは「除湿剤」や「カイロ」「ミニコンロ」を試作し、失敗ではないが成功ともいえない中途半端な状態で制作をやめていた。その「炭」で電気を通すことができないかと実験を始めていたのだが、これまではうまくいかず、くやしい思いをした。
しかし今回、「炭」で電気を通す実験をようやく成功させることができた。今後はさらに研究を続け、フンで電気やエネルギーを作れることを証明したい。
[審査員] 杉山 勇
カブトムシの飼育から、カブトムシの幼虫のフンに着目した4年間にわたる研究の成果です。カブトムシの飼育は、累代飼育の難しさもありますが、8世代もの長期飼育を行いながらの研究で、「カブちゃん」と名付けたところからも、カブトムシに愛情をもって接している思いを感じます。毎年の研究は、誰かの役に立つという一貫したテーマがあり、観察や実験だけに留まらない意欲を感じました。
4年目は、3年目までの取り組みを踏まえ、幼虫のフンの食品化をより具体的に進めました。幼虫の餌とフンの関係性を、色、におい、味の視点で調べています。特に、味(砂糖)に着目し、糖度計を使いながら定量的に調べ、結果をまとめました。食品化へは、研究に協力した人たちとともに実現しています。予想通りにならない結果研究を真摯に受け止め、根気よく研究に取り組みました。研究の取り組みや成果を、自らの成長とも関連付けられている点も素晴らしいです。幼虫のフンの活用の可能性を今後も追究する意欲があり、研究の発展に期待しています。
矢野 伸也・聡美
2歳10か月まで、まったく生き物や昆虫に触れなかった我が子。
イベントで持ち帰った2ペアのカブトムシを飼育したのがきっかけで命を繋ぐ楽しさ、難しさ、生死の感動と悲しみを身をもって体験して現在に至ります。飼育数が増えるにつれ、幼虫が排出する大量のフンに家族は悩まされ、本人は子供ながらに責任を感じつつも、フンが何かに役立てられないかと研究を始めてくれました。扱うものが「フン」だけに、また近年は「食べたい」と目標に掲げたので、周囲からの罵声、批判は避けられず肩身の狭い想いもたくさん経験しました。
しかし、本人の研究に対する熱意と信念、そして何よりも生き物や昆虫に対する真面目な愛情が評価していただいた結果だと思います。
本人の努力と頑張りなので、指導らしいことはしておりませんが、やりたいことを自由にさせてあげること、どんな時も信じて寄り添ってあげることは忘れませんでした。これからも、生き物や昆虫そして人のために、研究を続けてほしいです。また、これまで応援してくださった方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。